2010-01-14 13:05 | カテゴリ:未分類
毎日新聞からの転載記事です.
最後に西澤直子教授による解説文を載せました。
 
    
<鉄分豊富なイネ>貧血症回復に効果 東大などが開発

1月13日18時32分配信 毎日新聞

  

 白米の鉄含有量を従来の3倍に高めたイネを、東京大などが遺伝子組み換えで開発した。13日、発表した。貧血症のマウスがこのコメを食べると回復することを確認した。世界保健機関の報告では、世界人口のほぼ半分が鉄欠乏による貧血症とされる。実用化すれば、世界の貧血症の改善に貢献できる可能性がある。
 
 東大と石川県立大、韓国とデンマークの大学との共同研究。植物は土壌中から鉄を吸収し利用する。西澤直子・石川県立大教授(植物栄養学)らは、イネの内部で鉄と結びついて根から穂へと輸送するアミノ酸「ニコチアナミン」に着目。ニコチアナミンの合成能力を高める遺伝子をイネに組み込んで鉄の輸送能力を強化した。このイネでは、ニコチアナミンの合成量が従来の9.6倍に増え、玄米、白米とも鉄濃度は従来の約3倍になった。貧血症のマウスに、このイネの玄米を与え続けると、2週間後に血中のヘモグロビン濃度が正常値に戻った。
 
 ニコチアナミンはすべての植物に存在し、西澤教授は「同様の手法で他にも鉄分が豊富な作物を作ることは可能だろう」と話す。【須田桃子】
    

(森敏)
  
    
 付記:1.これらの研究成果は以下の論文に掲載されています。
         

Sichul Lee, Un Sil Jeon,1, Seung Jin Lee, Yoon-Keun Kim, Daniel Pergament Persson, Søren Husted, Jan K Schjørring, Yusuke Kakei, Hiroshi Masuda, Naoko K.Nishizawa, and Gynheung An (2009)

Iron fortification of rice seeds through activation of the nicotianamine synthase gene. Proceedings of the National Academy of Sciences 106; 22014-22019.

   
Masuda, H., Suzuki, M., Morikawa, K., Kobayashi, T., Nakanishi, H., Takahashi M., Higuchi K.,  Mori S., Nishizawa N-K. (2008)
Increase in Iron and Zinc Concentrations in Rice Grains Via the Introduction of Barley Genes Involved in Phytosiderophore Synthesis. Rice 1; 100-108.
    
付記2.以下は西澤直子教授による記者会見での解説文です。
     

東京大学と石川県立大学、貧血症改善に効果のある鉄含量が高いコメを開発

 
発表概要:

  

大学との共同研究により、イネ体内の鉄輸送に働くニコチアナミンの合成を強化することによって種子中の鉄含量が高いイネを作出し、この鉄分豊富なコメが貧血症改善に効果を示すことをマウスで実証しました。世界人口の半分にのぼる鉄欠乏性貧血症の克服に貢献することが期待されます。
  
発表内容:

    
 鉄はすべての生物にとって必須な栄養素であり、ヒトでは鉄が不足すると貧血症になります。WHO(世界保健機関)の報告では、世界人口の約半分が鉄欠乏による貧血症といわれ、特に途上国で深刻ですが、先進国においても頻度が高く、我が国もその例外ではありません。日本人女性の18.7%が鉄欠乏性貧血とされ、40代女性では26.3%に達しています。また成長による鉄需要が高まる小児期は鉄欠乏性貧血の高発時期であり、乳幼児の鉄欠乏は知能、運動能、行動に異常をきたすため、鉄欠乏の予防はヒトの健康にとって大変重要です。世界人口の半分はコメを主食としていますが、コメの鉄含有量は低く、また精米によってその多くが失われるため鉄欠乏症になります。したがって、コメの鉄分、特に白米の鉄分を高めることができれば貧血症の改善に大きく貢献することが期待されます。

   

 植物の可食部の鉄含有量を高めるためには、まず土壌中からの鉄の吸収を高めることが重要であると同時に、鉄の体内移行も促進しなければなりません。土壌中の鉄を吸収して利用するために、イネ、ムギ、トウモロコシなど主要な穀物が属するイネ科の植物は、キレート物質の「ムギネ酸類(注1)」を根から分泌して、土壌中の鉄を可溶化して吸収するキレート戦略をとっています。ニコチアナミンはムギネ酸類の生合成中間体ですが、ムギネ酸類と同様に鉄をキレートすることができ、植物体内の鉄輸送において重要な働きをします。

   

 ニコチアナミン合成酵素(注2)遺伝子を高発現させることによって、ニコチアナミンの合成能力を高めて鉄輸送能力を強化し、白米の鉄含有量が3倍に増加したイネを作出しました。これらのイネでは、ニコチアナミンだけではなくムギネ酸類の合成量も増加していましたので、鉄輸送の強化に加えて、土壌からの鉄の吸収も強化されていると考えられます。また、通常コメ中の鉄の多くは利用されにくい「フィチン酸鉄」として存在しますが、作出したイネでは増加した鉄が生体に利用されやすい「ニコチアナミン鉄」として存在することも明らかになり、食品として鉄の供給にさらに効果的であると考えられます。この鉄分豊富なコメが実際に貧血症の改善に効果を示すことを、マウスへの投与実験により証明しました。
   
これらの成果は、イネだけでなくコムギやトウモロコシなど他の主要な穀物にも応用でき、世界中の貧血症の改善に大きく貢献することが期待できます。また、ニコチアナミンはイネ科以外の植物も含めてすべての植物に存在しますから、鉄分が豊富な高い栄養価の食品(ダイズや野菜など)を作ることにも貢献できます。
   
 なお、本研究の一部は科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業(CREST)「植物の鉄栄養制御」、文部科学省特定領域研究「植物の養分吸収と循環系」の支援により行われたものです。
    

  
注1 ムギネ酸類:「ムギの根から分泌される酸」に由来する。故・岩手大学名誉教授高城成一博士によって発見された。イネ科植物が土壌中の難溶性の鉄を溶かして吸収するために根から分泌するキレート物質のことで、ファイトシデロフォアとも呼ばれる。近年土壌からの鉄吸収だけではなく、体内の金属元素輸送にも関わることが明らかにされている。
     
注2 ニコチアナミン合成酵素:3分子のS-アデノシルメチオニンからニコチアナミンを合成する酵素。ニコチアナミン合成酵素(NAS)の遺伝子は、1998年に東京大学のグループによって最初にオオムギから単離された。その後、イネ、トウモロコシ、トマト、シロイヌナズナなど多くの植物から単離されている。

      

 

秘密

トラックバックURL
→http://moribin.blog114.fc2.com/tb.php/725-6f75ef61