2009-09-08 16:36 | カテゴリ:未分類

最先端研究開発支援プログラムの選考に漏れた人の意見(転載)

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     ▽ 巨額国家プロジェクトは専門家間の十分な議論が必要 ▽
 ~米国在住研究者からみた「最先端研究開発支援プログラム」の選考過程~
         ベイラー研究所フォートワースキャンパス・ディレクター
                   松本慎一
 
         2009年9月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行
                  
http://medg.jp
 
◆ 最先端研究開発支援プログラム

 2009年4月に、研究者を最優先した従来に全くない新しい制度として、「最先端研究開発支
 援プログラム」が発表された。このプログラムの特徴は、中心研究者を選定し、5年以内に、
 国民に成果を還元する点である。このプログラムの注目点は、中心研究者による成果達成と
 いう方法論である。昨今、基礎研究の成果を「実験室のベンチ」から「病院のベッド」へと繋げ
 る探索医療の重要性が唱えられ、精力的に探索医療の研究がおこなわれている。しかし、こ
 れらの成果は思うように上がっていない。成果があがらない原因のひとつに、情熱を持ち最
後まで研究をやり遂げる人材不足が挙げられる。最先端研究開発支援プログラムは、謳い文
 句どおり、人(研究者)を重視した新しい制度として、日本の研究制度のブレークスルーに成り
 得ると大いに期待した。
 
◆ 研究開発強化法の精神
 
 最先端研究開発支援プログラムは、自民党麻生政権下、景気対策の一環として立案された。
 国会審議では、民主党が経済政策を目的とせず、科学技術研究の振興を目的とすることを
 条件に賛成し成立した(*1)。民主党の鈴木寛政調副会長が、このプログラムに対し、「研究開
 発強化法の精神は、最重点分野でも特に弱いライフサイエンスの部分の底上げであり、経済
 界に引っ張られるのはおかしい」とコメントしているが、この言葉は多くの研究者の行き場のな
 い思いを代弁する形となっている。
 
 しかし、このプログラムの選考過程には、『国立大学医学部長会議や私立の大学病院幹部
 からも選考を見直すよう求める声(*2)』の如く様々な問題点が指摘されている。
  今回のプログラム選考過程は、米国の一般的なグラント申請(研究費審査)の過程と異なっ
 ており、本稿でその点を明らかにしたい。
 
◆ 最先端開発支援プログラムの選考過程を米国と比較
 
 最先端開発支援プログラムは、海外で活動する研究者に関しても、条件付きではあるが門
 戸が開かれていた。この人(研究者)を重視した制度を見逃す手立てはなく、米国で研究する
 わたしも応募を決意した。
 
 このプログラムの書類申請の締め切りは、2009年7月31日、発表は同年9月4日とされた。
 このプログラムへ申請した数は、565件であり、この565件の選考に費やす時間は実質1ヵ月し
 かない。今回のプログラムの選考は、書類審査とヒアリング審査(聞き取り審査)に基づいて行
 われた。選考を担当するワーキングループは、書類審査で応募課題を90件程度に絞り込み、
 その後、絞り込まれた研究課題を対象にヒアリング審査を実施した。ヒアリング審査に進んだ
 研究者に与えられた時間は、プレゼンテーション10分、質疑10分というものであった。ヒアリン
 グを行う審査官は、特にその分野の第一人者の集まりではない。ワーキングチームは、このヒ
 アリング審査を基に、さらに数を絞り、9月4日に総合科学技術会議で30件の採用課題が最
 終的に決定された。
 
 米国でも、数十億円規模のプロジェクトは、大型プロジェクトに分類される。大型プロジェクト
 にもなると、申請前にLetter of Intent(申請希望のための要請書)が必ず要求される。これは、
 研究費を提供する側の意図と研究者のプロジェクトが合致するか否かを確認するための手続
 きで、本申請よりも簡略化された書類を提出する。米国では、大型プロジェクトの書類作成は
 最低でも1ヶ月、通常数ヶ月を費やす仕事である。そのため、研究費を提供する側の意図と
 申請する研究者側のプロジェクトの意図が異なる場合、書類作成に費やした数カ月が徒労に
 終わる結果となる。これを回避するため、Letter of Intentの仕組みが整えられている。
 
 今回、このプログラムに申請した研究者の書類作成に費やした時間や労力が、けして簡単
 なものではなかったことは予測できる。大型プロジェクトだけに、申請する研究者の思い入れ
 が強いことは、565件の申請数から伺える。しかし、1ヵ月余りの期間で565件もの書類がどの
 ように審査されたのか疑問が残る。ヒアリング審査が数十分しか与えられなかったことは、研
 究者にとって十分に審査がおこなわれたという印象は薄く、不満な結果を残すこととなった。
 今後、大型プロジェクトを選考する際には、Letter of Intentの提出を求め、採択される可能性
 が高いプロジェクトにのみ、全ての書類を提出させるべきである。これにより、多くの研究者
 の書類作成に費やすことが徒労に終わる結果を回避できる。同時に、選考する側にとって
 も、同様に無駄を省き、且つ、必要な研究プロジェクトを十分に選考する環境が実現できる。
 
 米国では、大型のプロジェクトが申請された場合、その分野で世界的に高い評価を受けて
 いる専門家を含む評価チームを結成する。わたしが、2000年シアトルで膵島移植のセンターグ
 ラントの申請に関わった際、その評価チームは、カナダの研究者を含む一流の研究者と予算
 を評価するチームの2チームで構成さていた。評価チームは2日間シアトルに滞在し、1日は
 朝から夜まで、申請者によるプレゼンテーションと質疑に費やされた。あとの1日は評価チー
 ムが研究施設を視察し評価が行われた。大型プロジェクトは、そのプロジェクトの中に複数の
 研究が含まれることが通常である。複数の研究の一つ一つを丁寧に専門家たちが評価してい
 くのである。研究者は、その評価を受け、その評価に対し、再度意見を述べる機会が与えられ
 ることは通常である。このように、選考過程において、研究に対する考えやあり方を意見交換
 していくのである。
 
 わたしは、このセンターグラントにて、数多くのヒトおよびサルの膵島分離の研究を行ない、
 実際の臨床膵島移植を行った。現在、この研究の成果の一つである膵島分離前の膵臓保存
 である二層法膵臓保存は、世界標準となっている。そして、この世界標準が、現在の膵島移
 植の研究を支えていることは間違いない。つまり、大型プロジェクトは、医療の未来に重要な
 成果を生み出す機会となっている。それ故に、多額の研究費を投資する大型プロジェクトは、
 申請時そして選考過程で、未来を見据えた研究内容を評価し採決するべきである。
 
 研究内容を評価するためには、その分野に精通した評価委員が構成委員の中に含まれる
 べきである。最先端研究開発支援プログラムの選考委員会は、多くが工業系の関係者で構成
 されており、ライフサイエンス関係者は少ない。これは、ライフサイエンスが次世代の主力産業
 になると認識していないことを象徴している。鈴木氏のコメントにあった「特に弱いライフサイエ
 ンスの強化」という視点が欠けたのは、当然の結果である。この結果は、選考委員会のメン
 バー構成が、極めて重要であることを示唆した。
 ◆ 日本におけるライフサイエンス分野の問題
  日本が、科学技術大国を目指すには、新しい産業分野の開発は不可欠である。次世代の産
 業となる分野が、ライフサイエンスである。しかし、日本は、このライフサイエンスの分野の競
 争力が低い。これは、新しい医療を海外から輸入する体質があるためである。日本は、次世
 代産業であるライフサイエンスの分野で、「実験室のベンチ」から患者がいる「ベッドサイド」へ、
 「ベッドサイド」から産業へと、ロードマップが描ける研究の支援に力を入れるべきだろう。諸外
 国より安全性に極めて敏感である日本で、ライフサイエンスを産業に成長させるためには、
まず、すでに安全性がある程度担保されている「ベッドサイド」における研究からテーマを選考
 することが適している。今回の選考で、臨床研究から発展した研究テーマが、ほとんど採択さ
 れなかったことは、日本のライフサイエンスに関する戦略の貧弱さを反映している。
  ライフサイエンスの強化は、科学技術大国を目指す日本にとって急務である。今回の最先
 端研究開発支援プログラムは、ライフサイエンスの分野で研究する研究者にとって、またその
 成果を待つ日本国民にとって、希望のプログラムとなったことは間違いない。しかし、そのプロ
 グラムの選考過程は改善の余地がある。
 ◆ おわりに
  9月4日、30件の研究が採択されたが、政権交代を背景にこの採択も凍結される可能性を
 示唆している。米国にいるわたしにも、この情報はいち早く届けられた。最先端研究開発支援
 プログラムが、当初の目的を遂行し、そして十分に選考され採択されることを期待したい。
 
参考)
 *1.   http://lohasmedical.jp/news/2009/08/21143342.php
 *2.   http://lohasmedical.jp/news/2009/09/02195857.php

> 今回の記事は転送歓迎します。その際にはMRICの記事である旨ご紹介いた
> だけましたら幸いです。
>
>                 MRIC by 医療ガバナンス学会
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