2009-04-22 19:40 | カテゴリ:未分類

ヒ素入りカレー事件の科学鑑定に思う

 

 

和歌山県のヒ素入りカレー事件では最高裁小法廷の判決は、

 

(1)カレー鍋のものと特徴が同じヒ素が被告宅などから発見された

(2)被告の頭髪からヒ素が検出され、取り扱っていたことが推測できる

(3)混入の機会があったのは被告だけで、鍋のふたを開ける姿が目撃された

 

ということが主要な判決理由になっている。このうち前2者は警察の鑑識課による鑑定を全面的に信頼したものになっており、裁判官の心証の大きな根拠になっているように思われる。

 

これまでの裁判で提出されたヒ素に関する鑑定書を読んだわけではないので、あくまでこれまで報道されている内容から考えて、科学者としてこの鑑定に関して、疑問点を列挙してみたい。鑑定書や法廷での議事録を読めば氷解するのかも知れないが、これまであまりマスコミでは報じられなかったことであるから、あえて私見を述べてみたい。

 

 

まず1昨日の産経新聞ニュースで当時の捜査一課長の感想が述べられている。以下の通りである。

 

毒物カレー事件 当時の捜査1課長「日本警察の威信かけた」

2009/04/20 20:34更新

 

 和歌山の毒物カレー事件で、捜査で陣頭指揮をとった当時の和歌山県警捜査1課長、野村剛士さん(65)は「日本警察の威信をかけた捜査だった」と振り返った。

  「カレーを食べた人が次々と病院に搬送されている」。事件の一報を聞いたとき、単なる食中毒ではなく事件の可能性もあると考え、100人体制での現場保存を指示。この初動捜査が、後に功を奏した。

  「ゴミ袋から見つけた紙コップから、後にヒ素が検出された。それどころか、あやうくカレー鍋も片づけられるところだった」

  2カ月後の真須美被告宅の捜索で押収したプラスチック容器からは、たった7粒だけヒ素粉末が発見された。これらのヒ素がSPring-8でカレーに混入されたヒ素と同一製品だと鑑定されたとき、「これで勝った」と思った。

 まるで戦争のような日々。その過程では“戦死者”もいた。この年の9月2日に47歳で亡くなった村井常弘警視。過労死だった。「彼を亡くしたことを指揮官として一生悔やむと思う」 

 平成14年12月の1審判決は刑事部長室で聞いた。「現役のうちに判決を聞くことができて感無量だった」。翌年2月、定年まで1年を残し退職。上告審判決を迎え、「大きな節目であることは確か。でも被害を受けられた方のことを思うと、事件は決して終わらないのだと思う」と話した。

 

この中で述べられていること、

 

「ゴミ袋から見つけた紙コップから、後にヒ素が検出された。それどころか、あやうくカレー鍋も片づけられるところだった」

 

2カ月後の真須美被告宅の捜索で押収したプラスチック容器からは、たった7粒だけヒ素粉末が発見された。

 

の2項目が今回の科学鑑定のキーとなったいわゆるブツ(物)である。(ここでは最高裁判決で述べられている林被告の頭髪にヒ素が含まれていたということに関して述べられていないのが不思議である)。これらの微量の粉末ヒ素の成分がSpring-8で分析されて、いずれも亜ヒ酸に混入した不純物の元素の混入パターンが一致しているので、「同じロットの亜ヒ酸であると考えられる」、というのが中井泉理科大教授の鑑定結果である。

 

小生の一番の疑問点は、中井教授がカレー事件の現場から、自分でサンプルを採取したのではなく、鑑識課が採取してきたものを、分析したに過ぎないのではないかということである。

 

もし鑑識課が林真須美容疑者の実兄 Bが任意提出した小型ドラム缶一缶の中から比較的大きなヒ素粉末を取り出して、カレーに混入したり、被告宅のプラスチック容器に7個だけ振ったり、ゴミ箱の紙コップにそっとなすりつけたり、林真須美容疑者の髪の毛にこすりつけたりしたと考えたら、Spring-8での分析の結果は中井鑑定と全く同じ答え(「すべて同じロット由来のものである」という結論)が導かれるだろう。

 

このカレー裁判の場ではこのような根元的な疑問の議論のやりとりが行われたのであろうか?

 

小生がこういう疑問を持つのは、かって公害問題で化学工場への立ち入り調査の時に、調査団が排水や、井戸水を採取(サンプリング)して、それをいったん工場内で保管してもらっているうちに、工場側から資料(サンプル)のすり替えがおこなわれたという事件が過去に何回かあったからである。また、過去のいくつかの免罪事件では気弱な(あるいは無知な)被告に検事が(こうしゃべったら保釈してやるから、とか何とか話を作り上げて)自供(自白)を強要して、そのストーリーに合わせて物(ブツ、例えば凶器である包丁)を川にわざと警察が捨てておいて、「捜査の結果ブツが自供どおおりの場所から出てきた」、というようなねつ造を警察が行ったことが何回かあったからである。

 

近代裁判には物証が最も重要であるが、鑑定人に持ち込まれるまでの証拠物件(ブツ)の採取(サンプリング)や保管状況が、第三者にも後々まで追跡可能(トレーサブル)で無ければ、鑑定結果は本当の物証にはなり得ないのである。

 

小生は日本の警察の鑑識の能力には日頃から敬意を表しているが、検察のやることにはいつも疑問付を付けて見ている。現代の日本の検察がそんなことをやるはずがないという考えはまだまだ甘い。

 

本文を作成するに当たっては、以下のサイト(甲南大学刑事訴訟法教室OnLine)を参考にした。

http://kccn.konan-u.ac.jp/law-school/online/study/sutudy_01/study_01_07.html

 

(森敏)

秘密

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