2008-12-01 11:38 | カテゴリ:未分類

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    写真1 リンゴ(ふじ)の縦断面

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写真2 リンゴ(ふじ)の横断面を上から順番に並べたもの

        (本文を御参照ください)

 

リンゴの“みつ”について

  

  40年まえの話であるが、山梨県でのブドウの調査に出かけるのに、夕方中央線に乗っていたら、我々の騒々しい車内談義を聞いていた、付近の乗客のおじさんが、

「あなた方は大学の人らしいけれど、1つ相談ごとがあるのですが聞いてくれませんか?」と話しかけられた。

「実は私は長野のリンゴ農家なんですが、リンゴにどうしても“みつ”が入って困っています。みつが入る理由がわかりません。どうしてみつがはいるのでしょうか? みつが入らないようにするにはどうすればいいのでしょうか?」

「みつが入ったら消費者としては、甘くておいしいので歓迎すべきだと思うのですが、何故みつがはいると困るのでしょうか?」

「実はみつがはいるリンゴは腐敗がすすみやすくて、流通業者には不評で、商品価値が落ちるのです。市場で買いたたかれます」

 

  ということであった。不意をつかれた質問であった上に、まったくリンゴの知識がなかったので、答えられなかったことを強く記憶している。

 

  ところがその後数年してまったく市場での風向きが変わって、現在ではリンゴにみつが入っている方が人気があるようである。脱エチレン剤や、炭酸ガス貯蔵などで流通時の熟度の進行を押さえる技術が開発されて、店頭で消費者が喜ぶみつの入った新鮮なリンゴが提供されるようになった。したがって農業の現場での採取時でもみつが入ったリンゴの商品価値が、市場でも高くなったようである。

 

  品種にもよるが、みつのあるなしの見分け方に、リンゴの尻〔花がついていた方〕の方まで赤みの色が充分に載っている方が、みつが入っているのだそうである。

 

  ところでリンゴの中でみつはどのように分布しているのであろうか? 普通誰しもリンゴは縦に切るだろう。まっぷたつに割った図が写真1である。 別のリンゴをリンゴの頭〔ヘタのついていた方〕から尻に向かって水平に5ミリ間隔で、輪切りにしてそれを平面にぜんぶ並べた図が写真2である。最上段の右上(ヘタの部分)から左に向かって、次の中段の右から左に向かって、つぎに最下段の右から左の尻の部分に向かって並べてある。

 

  これを見て別に驚きはないのだが、リンゴを横から見て中心部分より上の部分の面からみつが分布し始めていることがわかる。しかも果肉の中央部分から放射状に、同心円状に。つまり、リンゴの幹や葉からの転流糖であるソルビトール(sorbitol)がヘタからリンゴの果実に入ってくると、リンゴの太陽に当たっている確率の高いヘタの方(つまり背中の部分)から果肉に送り出されて集積し始めているように見えるのである。リンゴは上から半分の方が、それより下の部分よりも甘い、と思われる。

 

  さて、最初の話にもどるのだが、では何故リンゴにはみつが貯まるのだろうか。みつを貯める吸引力(シンクと呼んでいる)は何なんだろうか?という農家のおじさんの疑問に関して、小生は未だに答えを知らない。多分、果樹の専門家も未だに答えられないのではないか。

  

(森敏)

 

附記:リンゴ果実にみつが貯まる理由は、分子生物学的な言葉で語れば、リンゴの果肉の液胞の膜にあるソルビトール・トランスポーターの活性が上がるためであると考えられる。そのトランスポーターの遺伝子の発現を何らかの因子(植物ホルモンか?)が促進するため、総量として液胞膜上のトランスポーターの数が増える(すなわちトランスポーター活性が促進される)のではないだろうか? その結果リンゴの液胞の中に高濃度にソルビトールが集積していくのだろう。

秘密

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