2007-12-22 16:12 | カテゴリ:未分類

鉄イオンとタンニンとの反応について

 

「アンデスでは布を染めるのに泥を使います。その泥には可溶性の鉄分が必要です。布に書いた絵模様の線と鉄が反応して、黒く浮かび上がらせるために布を泥で洗う作業があります。泥と線の成分が反応して黒色となります。 

さて、唐辛子(とうがらし)、たまごの白身(しろみ)、バナナの皮のどれと泥は良く反応するのでしょうか?」 

答えは

「“バナナの皮の裏側をひとさしゆびの腹によくこすりつけて、泥にその指をつっこむと、鉄分の多い泥は指が黒くなるのです。これはバナナのタンニンと泥の鉄が反応して起こるからです”」

というものであった。以上はTBSテレビ夜9時の「世界・ふしぎ発見!」脅威のアンデス文明紀元説のクイズ番組で紹介されたものである。

 

この番組を見て、「これは面白い! いったいこの鉄は2価なのか3価なのか?」

直ちに筆者はその真偽を明かめるべくスーパーに走った。いまどきバナナは100円で3本ぐらい買えるところであるが、急いでいたので1本100円の高価なものを入手し、実験室に向かった。

 

ベンガラ(Fe2O3)と貝化石土壌と香川土壌(沖積)を用意して、これに水を加えてヘドロ状にした。次にバナナの皮をむいてその裏側を人差し指、中指、薬指に強くこすりつけた。この三本の指を、ベンガラ:人差し指、香川土壌:中指、貝化石土壌:薬指と対応させてヘドロに差し込んだ。10分ばかりおいて、指を蒸留水で洗浄した。結果は、心持ち中指が黒いかなという程度であった(のちの実験結果から、もうすこし長時間反応させるべきであったことがわかったのだが)。

 

そこで、もっとシャープな結果を知りたくて、今度はババナの中身を縦と横に切って、いきなり2価鉄化合物であるFeCl24H2Oの結晶をスポット状にふりかけてみた。横断面には3か所に、縦断面には片面に4か所に振りかけた。観察していると、10分後あたりから次第に結晶が潮解していく周辺部から濃青色のぽつぽつとした顆粒が現れ始めた。このぽつぽつを先端のするどいピンセットでこそぎとって、EADE社製のポータブル顕微鏡で80倍に拡大してみると一つの顆粒が0.1 mmぐらいの長さであるが、顆粒が3-4個連なっているものもあった。バナナの横断面では顆粒がながくつながってその連なりは通導組織に沿っているように見える。すなわち鉄イオンが流れて通導組織の内側のタンニンを染色しているようである 。24時間後には横断面は鉄でゆるい3角形に染まった。縦断面を10倍モードのルーペでよく観察すると少しずつ鉄イオンが肉質のほうに浸透拡散するにしたがって、内部にも果粒が形成されていくように見える。FeCl24H2Oのかわりに3価鉄キレート化合物であるEDTA-FeNaをバナナの表面に振りかけても顆粒は現れなかった。EDTAFe3+の結合が強すぎてFe3+が遊離してこないためタンニンと結合できないためと考えられた。

 

タンニン含量が高い果物といえばアンデスではバナナかもしれないが日本では柿が有名である。そこで翌日、近くの店で富有柿を買ってきた(これは6個350円で安かった)。これを真横に切り、その断面にFeCl24H2Oの結晶をスポット状にふりかけてみた。これもバナナの場合と同様に10分あたりから次第に潮解した液滴の周辺部分から顆粒が表れてきたが、バナナの場合の顆粒よりも心持ち黒みがかっているし、大きさが少しばらついているようである。Fe2+の結合の相手方であるバナナと柿のタンニンの分子量や立体構造の違いによるのであろうか。

 

  3価鉄化合物であるFeCl37H2Oを入手し、以上と全く同じ実験をした。反応が少し遅いが、FeCl24H2Oの場合と同様の発色状況を示した。

 

次に、現在葉面散布に使っている愛知製鋼(株)からの試供品C酸とA酸を試してみた。両者ともに2価鉄イオンのキレート化合物である。同じく真横に切った柿の断面に右半分に4か所A酸を、左半分4か所にC酸をスポット上に滴下して経時的に観察した。 

 

A酸は30分ごろからその滴下部位の柿の断面から顆粒が形成し始めた。これに対してC酸は全く反応しなかった。逆に滴下部分が白色に脱色していくように観察された。このときの柿の果汁を絞って測るとpH4.7であった。C酸はこのpHではFeイオンを遊離しないがA酸は容易にFe2+イオンを遊離してタンニンと結合したと考えられた。

 

結論として、タンニンは2価鉄イオン、3価鉄イオンの両方と結合することがわかった。しかし、この結合の相手方が同じタンニンなのかは不明である。アントシアニンやフラボノイドなどタンニン以外のポリフェノールが反応している可能性もある。

 

話を元に戻すと、「泥の中に布の染色に必要な可溶性鉄が多いか少ないか?」は、バナナか柿の断面を泥に浸けて一定時間後に洗浄して、このぽつぽつとした顆粒の濃度を比較すればよい、ということである。

 

以上の実験をマニュアル化して、中学生の理科の教材として、ホームページ

http://www.winep.jp

に掲載したので、興味のある方はぜひ見ていただきたい。(森淳・森敏)

秘密

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