WINEPブログ
「飯舘村のカエルの放射能汚染」
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2023-02-13 20:29 |
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第168回芥川賞受賞作である『荒地の家族』を一気読みした。
小生は東日本大震災の直接の被災者ではないが、震災後の10年間は福島の浪江町以東の全域を頻繁に放射能汚染調査に出かけたので、当時の海岸線の荒涼たる光景がいまも目に焼き付いて離れない。ここに住んでいた住民はその後いったいどう気持ちで過ごしてきたのだろうと、テレビで時々放映されるが、その本当の心境がいまだに想像できないでいる。
震災後、被災者の家族がどのような経緯でこの間12年間を過ごしてきたのかを、本格的に小説にしないだろうか、と念じていた。
今回この小説が芥川賞の受賞作であると知って、さっそく、最近は買わなくなっていた「文藝春秋」の3月号を近所の本屋で購入した。隣の文京区の図書館ではなんとなく気ぜわしくて本を借りてじっくりと長文の小説を読む気がしないので。
小説の書き出しの部分での人間関係の入り組んだ説明が煩雑だったが、だんだん慣れてきて、主人公の園芸業者の子細な園芸技術の記述が巧みで、引き込まれた。海や阿武隈川の自然の情景描写もなかなかうまいと思った。主人公の心理描写は極めて抑制的であるのがかえって、底知れぬ寂寥感を誘う。
被災者には多種多様な経験と思いが蓄積されているはずだが、些細な嫌なことは忘れて、それがだんだん空洞化して、親族や知人の死の記憶のみが核として残るのではないだろうか。
他の作家ももっともっとこの間の経験を、語って語ってぜひ歴史に名作を残しておいてほしいものだと思う。
第2次世界大戦の学徒出陣の従軍経験者は生きて帰ってきて実に多くの名文学作品を生んでいる。
一方、文学作品ではなく、日本では震災や原発被災が絵画として語り継がれるべき名画はまだ登場していないのではないだろうか。今日の「4K動画」の時代には、ただ「一幅の絵画」で世界を感動させることが不可能になっているのかもしれない。ピカソの「ゲルニカ」を超えるものはもう出ないだろうか。
ふと思ったのだが、AIに震災や原発被災の絵を書かせてみたらどんな絵を描くだろうか?。誰か描かせてみてくれませんかね? 新しい一見奇妙奇天烈な新鮮な人知が及ばない絵画の世界をAIが切り開いてくれるような予感がします。
【森敏】
付記:東京芸大の在学生の制作展示が芸大付属のギャラリーで開かれている。素人の勝手な不遜な感想だが、全部の作品がなかなか面白いのだが、無茶苦茶面白い発想のものは残念ながら無かった。秀才の作品にとどまっている。
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