2008-08-20 06:08 | カテゴリ:未分類

「もうがんばるのは、やめた」

 

7月10日に逝去された物理学者戸塚洋二東大栄誉教授の最期の8日間の様子について、妻である戸塚裕子さんが、 『夫と最期の時を共にして』 という手記を書かれている(文藝春秋 9月号)。 その副題が 入院した夫はつぶやいた 「もうがんばるのは、やめた」 である。

 

末期ガン患者として、あらゆる抗ガン剤を試行して、ついにこれ以上の手段がないという所まで頑張ったが、刀折れ矢尽き果てた、壮絶な姿が伝わって来る手記である。

 

昭和17年生まれの世代は、戦後の高度成長を支えた、家庭をも顧みずにそれぞれの分野で「つっ走った」暴走世代だと思う。戸塚氏はその間 <あまりに健康すぎて> 自分の健康に“鈍感”だったのだろうと思う。

 

いや、東大教授には、概してそういう健康管理に無神経な人が多い。現役在職中に、研究ばかりでなく猛烈な公務に振り回されるので、健康診断にも行かないで、多少の体調不良には目をつむっているうちに、定年を迎えて、突然生活のリズムが変わる。その結果、退職後1-2年して、体調の変調を感じ、そこで、初めてまじめに健康診断を受ける気になったら、あに図らんや、ガンや高血圧や糖尿病がかなり進行していた、という例が多い。退職後2-3年のうちに約2割の先生が死亡すると言われている。

 

戸塚氏は、自分のガンが、もしかしたら近代医学が克服可能な対象であり得るかもしれないという、一抹の戦略目標を掲げて、最期の一年間を自分の体を実験台にして突っ走ったようだ。本当によく頑張ったと敬服する。強靱な精神力だったと驚嘆している。

  

それにしても、「もうがんばるのは、やめた」という最期の言葉は印象深い。

  

小生の親父も臨終が近い2-3日前には、高知弁で 「もうええがや!」(もういい!という意味)と病院でベッド脇にいた小生に向かってつぶやいた。それを聞いて「はっ!?」としたことを覚えている。「もうがんばれないんだ」という宣告だったのだ。

         

(森敏)

秘密

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