- 2019/01/29 : ねむの木の種子 の内部被ばく
- 2019/01/03 : ひねくれたシダ: 尋常でない内部被ばく
- 2018/12/13 : ボタンズルの外部被ばく
- 2018/10/26 : 2018年秋のジョロウグモの放射能
- 2018/10/17 : 帰還困難区域ではジョロウグモの高い放射能汚染が続いている
WINEPブログ
WINEPブログ内で「 汚染 」を含む記事
(5件づつ表示されます)
昨秋(2018年11月)、福島県双葉町で、空間線量が毎時15マイクロシーベルト下で、ねむの木の繊細な葉がはらはらと落葉し始めていた。枝には枯れかけた実が付いていた(図1)。それを切取ってきて、オートラジオグラフを撮リ(図2、図3)、そののち莢から種子を取り出して、放射能を測定した(表1)。
このオートラジオグラフ像(図2、図3)を見るときは、少し気を付けて見なければいけない。
表1によれば種子と莢の放射能は、ほぼ同じ濃度である。オートラジオグラフでは一見種子が濃厚に放射能汚染しているように見えるが、種子は莢の中にあるので、莢の厚さが裏表二層も加わったオートラジオグラフ像になっていることに注意しなければいけない。
いずれにしても次世代の種子そのものが福島第一原発暴発事故7年半たった時点でも、放射能汚染していることは間違いない(表1)。

図1.ねむの木の実

図2.図1のオートラジオグラフ 種子が濃く写っている。

図3.図2のネガテイブ画像
表1 ねむの木の実の放射能

(森敏)
明けましておめでとうございます。
今年も時々飽きもせず、福島の動植物の放射能汚染状況を、淡々と放射線像でご紹介いたします。
空間線量17µSv/hという双葉町の民家の前のコンクリートの割れ目に、生育不良気味の丈が45センチぐらいの淡い色のシダが生えていました。割れ目の土壌表面は、いまだに35µSv/hもありました。なんとなく葉っぱがゆがんで対称形でなかったので、放射線の影響を受け続けているのではないかと思われました(図1)。
オートラジオグラフを撮ると外部に付着する放射能汚染は全くなく、全身内部被ばくでした(図2、図3)。もちろんこのシダは発生以来150mSv以上の積算空間線量を外部からも受け続けていたはずです。これは生物で十分突然変異が起こりうる線量です。
確か5年前の2013年7月ごろから、飯館村の長泥地区には、ゲートが設けられて、関係者以外は入れなくなった。当時それを知らずに小生たちは比曽地区からゲートの直前まで行って、追い返されてU-ターンすることになった。
少し癪に障ったので、ゲート付近の外側の植生の外部被ばく放射能がどれだけ高いのかを確かめるために、ゲートの手前200メートルぐらいの道脇の植物を採取してみた。このつる性の植物は、そこいらの植生に絡みついていたのをはぎ取ってきたものである。当時そこの空間線量は10マイクロシーベルトを超えていた。
この植物のオートラジオグラフは早くから撮像していたのだが、植物名が長らく同定できていなかった。今回若林芳樹さん(株:アスコット)からお知らせ頂いて、ボタンズルということが分かった。
図1.草に絡まっていたボタンズル
あちこちの太い黒点と微細な黒点など、外部汚染が認められる。導管と師管が入り組んでいるツルの分岐部などは内部被ばくである(表1)。つぼみにみえる葉芽が全部薄く写っているがこれは全部内部被ばくである(図2)。
図2.図1のボタンズルのオートラジオグラフ
つまり、原発は2011年早春に爆発したのだが、2014年春の時点でも、まだこの植物が絡まる放射能汚染草や木からの間接的な放射能二次汚染が続いていたということである。右下の2枚の葉のちいさな点々など、総じて葉の放射能がけた違いに高いことがわかる。(表1)
表1.ボタンズルの放射能
(森敏)
前回のブログでは、過去の2011年から2017年までの、ジョロウグモの放射能を紹介した。
その時は、直近の10月に2回福島の浪江町と双葉町で採取した27匹のジョロウグモと偶然見つけた1匹のコガネグモを、まだ測定中であったので、今回はその測定結果を紹介する。
今回は福島調査の直前に襲った台風21号と24号のためか、クモの巣が破れて例年よりもクモは激減していた。
1匹ずつU8カップに捕獲したジョロウグモ
上図のようにGe半導体測定容器U8カップに1匹ずつ採取してきた(1匹ずつでないと必ずジョロウグモでは共食いの激しいあら争いが起こる!)ものを、大学で直ちにNaIでの測定用カップに1匹ずつ入れなおして、NaI法で測定した。一匹ずつGe半導体法で測定するには、とても時間がかかるからである。
したがって今年のデータは乾物重当たりの放射能値ではなく、生体重当たりの放射能値になっている。例年と比較するにはおよそ、この2-3倍を掛けるとよいはずである。
ほとんどのクモは雌クモで腹がパンパンで出産まじかであった。雄クモが4匹ばかり取れたのだが、これらは雌クモの20分の一ぐらいと非常に小さくて、個体あたりの総放射能が少ないのですべて検出限界値以下であったので下図からは省いている(あらためてGe法で測る予定である)。
除染を全くしていない空間線量が現在も非常に高いところ(浪江町3-5μSv/h、双葉町13-15、16-19、14μSv/h) でのクモのサンプルであるので、ジョロウグモもコガネクモも内部被ばくはいまだに強烈に高いことがわかる。
高い空間線量を示す放射能汚染地区では、現在では主として土壌の有機物層が放射性セシウム汚染しており、これらの可溶性放射能はバクテリア、カビ、などの栄養源となって濃縮しており、クモはこれらのカビ、バクテリア、その他の地虫を食べている。そのため、いまだに内部放射能被ばくが下がらないと思われる。

(森敏)
図5は以前にもWINEPブログで示したもので、すでに論文でも発表している。
川俣町や飯館村と浪江町のさまざまな地域の2-8匹の平均値である。
図6はここで初めて発表する2016年と2017年のもので、主として、浪江町と双葉町の避難困難区域のものである。
両地区のまだ除染が進んでいない場所のものである。
さすがに半減期の短いAg110mは図5では検出されなくなっているが、
いまだに半減期の短いCs-134は検出されており、
半減期の長いCs-137は依然として高濃度に検出されていることがわかる。
図3と図4は、図5に示す2016年のジョロウグモの一部のオートラジオグラフの像である。
ジョロウグモの卵をはらんでいる個体は、乾燥が不可能で、押すと中身が出てきてつぶれて、形状が壊れている。
そもそもクモの8本の足を平面に押すことが不可能であるので、足がばらばらに壊れているものが多い。
汚染の強弱があるが、すべてのジョロウグモが汚染していることがあきらかである。
すなわち、放射性セシウムは、除染しない限り生態系で循環している。

図1. 双葉町でのジョロウグモ

図2.オートラジオグラフ撮像用に乾燥して押しつぶしたジョロウグモ。

図3.図2のオートラジオグラフ。

図4.図3のネガテイブ画像

図5. ジョロウグモの放射性銀と放射性セシウムの放射能(ベクレル/乾物重 )

図6.ジョロウグモの放射性セシウムの放射能(ベクレル/乾物重)