2008-08-17 06:53 | カテゴリ:未分類

困ったことだ

 

「声と足音が稲を育む」古代米生産者 武富勝彦(62)

というインタビュー記事が朝日新聞8月14日(夕刊)に載っている。その中で、小学校の5年生に「稲に声をかける」「足音を聞かせる」と、稲の分蘖(ぶんけつ)が増えて、通常最高30本が150本にもなった。

 

等という記事が載っている。

 

実はその日の夕方、知人からすぐに電話がかかってきて、「こういう記事が載っているが知ってるか?」ということであった。小生もこの朝日新聞の記事はチラリと読んでおり、朝日新聞はまたまた非科学的な記事を書いている、とあまり気にしていなかったのだが、知人の電話で、やはりこれは世の中に「注意しなければならない」と思ったことである。したがってこのブログで、上記の記事の非科学性を指摘しておきたい。

 

まず、“声”や“足音”でイネの分蘖数が増えるという学術論文を小生は知らない。新聞記事によれば武富勝彦氏の話として、これを片野學東海大教授が「声の肥料」「足音の肥料」などと言って奨励しているということであるが、学術的批判に耐える再現性のある実験的証拠をご自身が持っているのだろうか、極めて疑問である。

 

   一歩譲って、もしこの異常な分蘖現象が田んぼでの正しい観察の結果だとすれば2つのことが考えられる。

1)              この小学生が田植えの時に意図的にたくさんの苗(株)を植えたところが良く育ったので通常の5倍ぐらいの分蘖数のように見えた。そのひそかな工作を武富氏が知らなかったのかもしれない。(通常は多くの株を1ケ所に密植すると、一株当たりの分蘖数は極端に減少するものである)

2)              この小学生が植えた稲のどれかの株が何らかの意味で変異株であったので、異常な数の分蘖を形成した。(この場合、一穂あたりの粒数は極端に少ないはずである。また、自然変異の起こる確率は100万分の一位なので、一枚の田んぼのあちこちの「声をかけた株」や「足音を聞かせた株」が150本も分蘖していたとはとうてい考えにくい)

 

常識ではイネの場合は40本以上も分蘖すれば無効分蘖といって桿にはなっても一部は穂が形成されないので、あまり分蘖を多くする栽培方法は奨励されていない。疎植の“1本植え”などの農法ではたくさんの分蘖を作って扇のように開帳させることもあるが、それでもせいぜい一株あたり50本止まりである。分蘖が異常に増えれば収量が上がるというわけではない。

 

最近の研究で、分蘖を支配している遺伝子が日本の研究者によって発見され、アメリカの科学アカデミー誌に掲載されている。

LAX and SPA: Major regulators of shoot branching in rice

Keishi Komatsu, Masahiko Maekawa, Shin Ujiie, Yuzuki Satake, Ikuyo Furutani, Hironobu Okamoto,Ko Shimamoto, and Junko Kyozuka

PNAS 2003100 , 11765–11770

そして、この著者の大部分は皮肉なことに、片野學東海大教授の出自の東京大学の農学生命科学研究科の人達である。

 

    我々も、最近Ids6と言う遺伝子をイネに導入して過剰発現させると、イネの背丈が1割方低くなり(倭化)、分蘖数が3割方増えることを確認している。(未発表)

 

人の声や足音などをイネが聞き分けると言う考えは論外だが、一歩譲って、声や音の <空気や土壌を媒介した特殊な波長の振動> が植物のなんらかの遺伝子発現に環境要因としてかかわっているということを証明した研究はこれまで皆無である。(研究が皆無だからと言って、その可能性を全否定することは謙虚な科学の論理からはできないのであるが、そこにいつの時代も篤農家による“信念”がおもしろおかしくつけ込んでくるのである)。

 

しかし現役の研究者はあまり事実に基づかない不用意な社会的発言をしてほしくない。言葉は本人の知らないところで“信念”として一人歩きしかねないものであるから。

 

(森敏)

追記:毛沢東の「大躍進」の時代に。大賽に学べ」という運動があり、中国のある水田地帯を見学した東京大学の教官達が、見事にだまされた例がある。反収数トンという驚異的な収量だというのでその水田を見学して、感嘆して帰ってきたのだが。見学の直前に農民がいっぱい他の水田から苗をかき集めて密植して、ジュータンのような水田風景にして、ごまかした、ということであった。人のいい大学の先生たちはごまかされやすいのである。

 

秘密

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