- 2019/02/11 : スギの種子の放射能の再確認
- 2018/11/26 : 枯葉の腐葉土に絡みつく モミジ の実生の根
- 2018/10/26 : 2018年秋のジョロウグモの放射能
- 2018/10/17 : 帰還困難区域ではジョロウグモの高い放射能汚染が続いている
- 2018/09/30 : ゲンノショウコの放射能汚染
WINEPブログ
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昨年の今頃、上野の国立科学博物館の館内を散策していたら、スギの受粉について図1のような
非常にわかりやすい絵が展示されていた。
何かの折に役に立つかもしれないと思って
2017年秋に福島浪江町の山林からから採取してきて実験室に保存していた、
受粉して種子がはいっていたカラカラに乾いたスギの雌果 (図2) を、
たたいて種子を取り出して、殻(図3)と種子 (図4) と、とげとげの葉に
分けて放射能を測定してみた。
種子が一番放射能が高かった(表1)。
次世代である種子に確実に放射性セシウムが転流してきていることがわかる。

図1.スギの受粉の機構。 雄花から花粉が飛んで雌性花序の中の胚珠の先端の受粉滴にその花粉が付く

図2.受粉が終わった雌性花序(種子を含んでいる)

図3.スギの雌性花序の種子を落とした残りの殻を集めたもの

図4.スギの種子を集めたもの
表1.スギの雌果の放射能(ただし表中雌性花序は図3に示す殻だけのこと)

(森敏)
根にがっしりと絡みつく枯葉をていねいに摘み取って、モミジのほかの組織部位などと比較のために放射性セシウム濃度を測定した。
枯葉はモミジの葉の約20倍の濃度であった(表1)。
根から取り切れていないで絡みついている枯葉の断片が、異常に強く感光していることがわかる(図2、図3)。
モミジの実生はこのように落ち葉から直接可溶性セシウムを吸収しているものと思われる。


図2。モミジの実生のオートラジオグラフ。根にこびりつく枯葉の破片が強く感光している。

図3.図2のネガテイブ画像
表1. モミジの実生と枯れ落ち葉の放射能

(森敏)
前回のブログでは、過去の2011年から2017年までの、ジョロウグモの放射能を紹介した。
その時は、直近の10月に2回福島の浪江町と双葉町で採取した27匹のジョロウグモと偶然見つけた1匹のコガネグモを、まだ測定中であったので、今回はその測定結果を紹介する。
今回は福島調査の直前に襲った台風21号と24号のためか、クモの巣が破れて例年よりもクモは激減していた。
1匹ずつU8カップに捕獲したジョロウグモ
上図のようにGe半導体測定容器U8カップに1匹ずつ採取してきた(1匹ずつでないと必ずジョロウグモでは共食いの激しいあら争いが起こる!)ものを、大学で直ちにNaIでの測定用カップに1匹ずつ入れなおして、NaI法で測定した。一匹ずつGe半導体法で測定するには、とても時間がかかるからである。
したがって今年のデータは乾物重当たりの放射能値ではなく、生体重当たりの放射能値になっている。例年と比較するにはおよそ、この2-3倍を掛けるとよいはずである。
ほとんどのクモは雌クモで腹がパンパンで出産まじかであった。雄クモが4匹ばかり取れたのだが、これらは雌クモの20分の一ぐらいと非常に小さくて、個体あたりの総放射能が少ないのですべて検出限界値以下であったので下図からは省いている(あらためてGe法で測る予定である)。
除染を全くしていない空間線量が現在も非常に高いところ(浪江町3-5μSv/h、双葉町13-15、16-19、14μSv/h) でのクモのサンプルであるので、ジョロウグモもコガネクモも内部被ばくはいまだに強烈に高いことがわかる。
高い空間線量を示す放射能汚染地区では、現在では主として土壌の有機物層が放射性セシウム汚染しており、これらの可溶性放射能はバクテリア、カビ、などの栄養源となって濃縮しており、クモはこれらのカビ、バクテリア、その他の地虫を食べている。そのため、いまだに内部放射能被ばくが下がらないと思われる。

(森敏)
図5は以前にもWINEPブログで示したもので、すでに論文でも発表している。
川俣町や飯館村と浪江町のさまざまな地域の2-8匹の平均値である。
図6はここで初めて発表する2016年と2017年のもので、主として、浪江町と双葉町の避難困難区域のものである。
両地区のまだ除染が進んでいない場所のものである。
さすがに半減期の短いAg110mは図5では検出されなくなっているが、
いまだに半減期の短いCs-134は検出されており、
半減期の長いCs-137は依然として高濃度に検出されていることがわかる。
図3と図4は、図5に示す2016年のジョロウグモの一部のオートラジオグラフの像である。
ジョロウグモの卵をはらんでいる個体は、乾燥が不可能で、押すと中身が出てきてつぶれて、形状が壊れている。
そもそもクモの8本の足を平面に押すことが不可能であるので、足がばらばらに壊れているものが多い。
汚染の強弱があるが、すべてのジョロウグモが汚染していることがあきらかである。
すなわち、放射性セシウムは、除染しない限り生態系で循環している。

図1. 双葉町でのジョロウグモ

図2.オートラジオグラフ撮像用に乾燥して押しつぶしたジョロウグモ。

図3.図2のオートラジオグラフ。

図4.図3のネガテイブ画像

図5. ジョロウグモの放射性銀と放射性セシウムの放射能(ベクレル/乾物重 )

図6.ジョロウグモの放射性セシウムの放射能(ベクレル/乾物重)
同定できなかったので、いつものように、オートラジオグラフを撮像した後に、若林芳樹さん(株・アスコット社長)に写真を送って同定していただいたところ、漢方で有名な胃腸薬の原料であるゲンノショウコということであった。
ネット上でのwikipediaの解説では、ゲンノショウコは、縦長のさく果が裂開して、種を飛ばすと、果柄を立てたさまがみこしのように見える(図2)ことから、ミコシグサともよばれることもあるとか。
種子が取れなかったのだが、花器・つる・葉の放射性セシウムは驚異的に高かった(図3、図4、表1)。元素分析をしたわけではないが、ゲンノショウコは漢方薬としてカリウム含量が高く、それにつれて同族のセシウム含量も高いのかもしれない。天然の有機セシウム化合物みたいなものが見つかるかもしれない。
漢方薬業者は関東一円の放射能汚染地域の野草のゲンノショウコをやたらに漢方薬用に採取するのは、やめた方がいいだろう。小生のこれまでの放射測定経験からすると、漢方は乾燥したり煎じて使用するので、乾物重単位で放射能を表示すると、生重あたりの10倍以上の高い放射能濃度になるので、食品基準をクリアできないものがいまだに多く存在するのではないかと思う。
漢方の雑草の放射能の危険性に関しては下記のブログで早くから警告した。(クリックしてください)
なんと漢方生薬からも!
ドクダミの放射能汚染について

図1 根からほりあげたが途中から根が切れたゲンノショウコ

図2.図1の部分拡大図。ゲンノショウコの花器。炸果が開裂した様

図3. 図1のオートラジオグラフ

図4 図3のネガテイブ画像

図5.図2に対応する、図4(花器)の部分拡大ネガテイブ画像
表1.ゲンノショウコの放射能

(森敏)