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2018-01-23 06:38 | カテゴリ:未分類

作家の 浅田次郎の短編随筆に「ドリーム・メーカー」(小学館文庫「パリわずらい 江戸わずらい」所収)というのがある。摩訶不思議なことが書いてあり、深く感じ入ったので、以下にそれを飛ばし飛ばし紹介すると、
  

    

人間甲羅を経ると他人がまねできぬ得意技を身につけるものである。::::実にくだらん、と思われるであろうが、まあ聞いてくれ。 夢を自在にみるのである。:::::長じて小説を書くようになってからは、夢に見たままをストーリーにすることしばしばである。こうなると夢といえどものっぴきならぬので、今も枕元に筆記用具が置いてある。::::::そうした具合に長らく夢と付き合っているうち、近頃では、この別世界を相当に支配できるようになった。

まず寝入りばなに、「本日のテーマ」を考える。ありありと思い描く。たとえば、

「四面楚歌の居城にて軍議中の戦国武将、浅田次郎左衛門

「フィレンツエの街角のカフェで妙齢の美女と恋を囁く、アーサー・ダ・ジローネ

「丸い色眼鏡と長パオ(衣編に包む)、上海フランス租界の夜の顔役、浅大人(チェンターレン)。その正体は日本の特殊工作員」

などなど、なるたけリアルに想像していると、そのまま夢の扉が開かれるのである。初期設定は私の意志だが、いったん眠ってしまえば、それからの展開はどうなるかわからない。しかし、加齢とともに一貫したストーリー性が強固になっていることは確かで、未熟な夢にはつきものの場面の急展開や、登場人物の入れ替わりはほとんどなくなった。つまり、夢というよりは疑似体験である:::::::::::::::::::::::::::::

かくして私は、はたから見ればまことにどうでもよいことなのだが、夢を自由自在に楽しめるようになった。

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ということである。浅田次郎氏よりも高齢である小生の抱く [夢の中] では、まだまだ場面や人物がコロコロ入れ替わってハチャメチャな未熟な段階(下意識と思われる脳内空間がn次元的に無茶苦茶に交錯している)なのだが、浅田次郎氏は夢を制御できているようだ。無意識に脳を鍛えてきたプロの作家ではこれが普通の下意識の状態なのだろうか。実に摩訶不思議な能力だと思う。それで飯のタネにしているのだからプロの夢見師と呼ぶべきかもしれない。
   
  精神科の医師はこんなことができるのだろうか? 「可能だ」というなら、ぜひその奥義を聞いてみたい気がする。年のせいか、とみに最近小生は「夢と現(うつつ)」の境界に大いに興味があるので。。。。。
        
(森敏) 
付記1. と思っていたら、つい最近、芥川賞作家であり、現在選考委員でもある、川上弘美さんの 『蛇を踏む』『消える』『惜夜記(あたらよき)』 なる短編集を読んだ。これは全く「生(なま)の形での下意識の露出」である。実は夏目漱石をはじめとして「夢」という異次元空間を商売のネタにしている作家はむかしからわんさといるんだ。夢を文章化するときには現(うつつ)に目覚めているはずだから、多少の創作があるのだろうが、川上さんのは読みすすむうちにちょっと嫌気がさしてきた。

付記2.一方で、川上弘美さんの『晴れたり曇ったり』(講談社文庫)は素晴らしい随筆集だと思った。お茶大理学部での多分、団・ジーン教授の下でのウニの研究をやらされて、おそらく自分には研究が合わないといやになって、その後作家の道を模索する。しかし、この随筆を読むと、基本的に「お料理 」の詳細な記述などは彼女は実にリケジョ的だ。最近のものには、離婚したり膵臓の腫瘍(自己免疫疾患らしい)についても、素直に記載されており、作家は身を削る仕事であることを感じさせる。先日多摩川に入水自殺した西部 邁氏も200冊も本を書いたということだが、評論家も身を削る仕事であり、最終章は自分と妻のことの開示であったようだ。物書きとは辛い職業ですね。


      
(森敏)

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