2015-12-25 14:10 | カテゴリ:未分類

     今年はいろいろ不快な年であったが、年末にこれほど不快なニュースはない。「原発は科学では制御できない問題である」ことがはっきりしているにもかかわらず、出世志向のエリート裁判官たちには、放射能の恐ろしさが、からだの感覚や感情では、全くわかっていないということなのだろう。かれらは福島に一度でも訪れたことがあるのだろうか? 今後は裁判官の研修コースに「福島詣で」を必修とすべきだろう。この件もこの国の浅薄な受験エリートが国を危うくする典型だ。

 
      
   

高浜原発、再稼働容認 福井地裁、差し止め決定取り消し
 

朝日デジタル 201512242022

   

関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町、定期検査中)の再稼働をめぐり、福井地裁の林潤裁判長は24日、「安全性に欠けるとはいえない」と判断し、再稼働を即時差し止めた4月の仮処分決定を取り消した。差し止めを求めた住民側は名古屋高裁金沢支部に抗告する方針だが、関電の異議が認められ、差し止めの効力が失われたことで再稼働は現実的になった。

 高浜3、4号機は2月に原子力規制委員会から新規制基準を満たすと認められ、福井県西川一誠知事も今月22日に再稼働への同意を表明。今後の抗告審は長引くとみられ、関電は3号機を来年1月下旬、4号機は2月下旬にそれぞれ再稼働させる見通しだ。

 林裁判長はまず、4月の差し止め決定で樋口英明裁判長(当時)が「緩やかすぎる」と指摘し、安全性が確保されないとした新規制基準の妥当性を検討。最新の科学・技術的知識に基づく地震対策を定め、安全上重要な施設には特に高度な耐震性の確保も求めた内容には合理性があるとした。

 

さらに、電力各社が耐震設計で想定する最大の揺れ(基準地震動)についても、関電の示した数値は詳細な地盤調査などを経て算出され、施設の耐震性にも「相応の余裕」がもたせてあると評価。高浜原発から約100キロ圏内に住む人たち9人が、2005年以降だけで福島第一など全国4原発が基準地震動を超す地震に襲われていると危険性を訴えた主張を退けた。

 ただ、新規制基準の運用に際しては「安全神話に陥らず、常に高いレベルの安全性を目指す努力が求められる」と注文をつけた。

 また林裁判長は、関電大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働差し止めを求めた住民らの仮処分申請も却下。大飯は規制委が審査中で、再稼働が差し迫った状況にはないと判断した。大飯は昨年5月、樋口裁判長が運転差し止めの判決を出したが関電側が控訴して確定せず、再稼働を進められる状態にある。

 関電は、まず高浜3号機の原子炉に25~29日、核燃料を入れる予定だ。規制委の検査を通れば来年1月下旬に稼働させ、2月下旬に営業運転を始める。火力発電の燃料費が抑えられるとして、来春以降の電気料金の値下げを検討する。

 福島原発事故後にできた新規制基準で再稼働するのは、九州電力川内原発1、2号機に続き3例目になりそうだ。核燃料プルトニウムとウランの混合酸化物(MOX)で、事故後初のプルサーマル発電となる。関電は「安全性が確認された原発の一日も早い再稼働をめざす」という。(小川詩織、太田航)

  

 

  
(森敏)
2015-11-09 07:54 | カテゴリ:未分類

住民が帰還するに備えてあちこちで米の試験栽培が行われていることが報じられている。収穫のにぎやかなお祭り騒ぎの風景がいつも報じられているが、肝腎の放射能の測定結果がいつも報じられていないのではないだろうか? 現地の方、ご存知でしたら教えてください。単に規制値の100ベクレル以下であったというのではなく、何ベクレルあったのかが科学的には重要だ、ということを小生は口を酸っぱくして主張しているのだが。試験栽培だから細かい内容は公開する必要がないということなのだろうか?
     
 
「販売」目指し稲刈り 浪江・居住制限区域で「試験栽培」

20151014 1032

 東京電力福島第1原発事故に伴い、全町避難が続く浪江町の居住制限区域にある酒田地区で13日、「試験栽培」したコメの稲刈りが行われ、地元農家のほか、町や国の関係者らが黄金色に実った稲を刈り取った。

 同地区では昨年、4年ぶりにコメの試験栽培を実施したが、今年は全袋検査して販売するための「実証栽培」と、請戸川の河川水を利用した栽培で安全性などを確かめる「試験栽培」を行った。

 同地区は作付再開準備区域となっており、全量全袋検査を実施し、収穫したコメが食品の基準値(1キロ当たり100ベクレル)を下回れば出荷や試食が可能になる。今後の検査結果などを踏まえ、震災後初めての販売を目指す。

 稲刈りには馬場有町長など約30人が参加。参加者は鎌や機械を使って収穫作業に取り組んだ。コメを育てた同町の松本清人さんは「きちんと検査して、消費者に納得してもらうレベルになるかどうかが重要だ」と話した。(福島民友)

 

販売用コメ収穫 原発事故後初農業再生へ期待 浪江の酒田地区

 東京電力福島第一原発事故で居住制限区域となっている浪江町酒田地区で13日、原発事故後初めてとなる販売用のコメの収穫が行われた。
 酒田農事復興組合の松本清人さん(76)のほ場に馬場有町長らが訪れ、松本さんと共に稲刈りをした。馬場町長は黄金色に実った稲を見詰め、「農業の再生が町民帰還に向けての弾みになる」と言葉に力を込めた。
 収穫したコメは放射性物質検査で安全性を確認し、JAふたばを通じて政府備蓄米などとして出荷する
 同地区では平成26年に原発事故後初の稲刈りが行われ、収穫したコメの放射性セシウムは全て食品衛生法の基準値(1キロ当たり100ベクレル)を下回った。

2015/10/14 09:59 カテゴリー:福島民
  
   
付記:最近の福島民報、福島民友の両紙は、ともに原発や放射能汚染に関してして、「臭いものにふた」、「知らしむべからず」の報道姿勢になってきていると思う。原発事故で記者たちは科学的にも鍛えられたはずだから、科学的な追及が甘いはずがないので、編集部(デスク)が「科学的にぼやけた記事」にしてしまっているのだろう。記事全体が迫力がなく、つまらなくなってきた。だから現地をこの目で見なければ本当のことはわからないのだ

2015-11-06 10:06 | カテゴリ:未分類
 

以下のような不祥事があると、福島県産の多くの農作物が放射能をノーチェックで、市場に流れて、人々の口に入っていると思われることだろう。ダイズやアズキなどのマメ科の作物は、セシウムが種子に移行しやすいと言われています。現状ではその原因がまだ十分に解明されているとは言い難い。だから、お米の全袋検査以上にマメ類は厳密な放射能をチェックする管理体制が必要です。付記でマメ科の子実のセシウム汚染に関してコメントしておきました。

      
          
  

検査前のアズキ販売 福島県「食べても問題はない」

20151031 0908分 (福島民友)
 県は30日、棚倉町にあるJA東西しらかわの農産物直売所「みりょく満点物語棚倉店」で、出荷の可否を判断するための放射性物質検査が行われる前のアズキ計21袋(1袋300グラム)が販売され、流通したと発表した。検査前のアズキが市場に流通したのは初めて。県が自主回収を始めた。売れ残っていた袋は全て放射性セシウムが不検出だったことから、県は「食べても問題はない」としている。

 県によると、同町の旧棚倉町、近津村、高野村の3地区の農家3戸が9月26日から今月30日にかけてアズキ31袋を出荷、このうちの21袋が販売された。

 アズキは、旧市町村単位で県が毎年行う抽出調査で安全性が確認されたものだけが販売可能となるが、同直売所の職員は、店舗で自主検査をして問題がなければ出荷できると誤解していたという。

 県は関係者に周知するとともに「再発防止に努める」としている。自主回収に関する問い合わせは同直売所(電話0247・33・1212)へ。
   
   
(森敏)
付記:先日(2015年9月9日)の京都大学での「第61回 日本土壌肥料学会大会」での発表では、放射性セシウムによるダイズの子実の汚染に関して5題の報告がありました。それらを簡単に要約すると、

      

1.         ダイズ栽培期間中に硫安で窒素追肥すると確実に子実の放射性セシウム含量が増加する。おそらく粘土鉱物にイオン吸着していた放射性セシウムイオンがアンモニウムイオンと交換して遊離して吸収されやすくなったものと思われます。
       

2.          低いカリウム土壌では子実や植物体のセシウム含量が増加した。土壌の交換性カリが30mg/100g土壌以上で子実のカリ含量が急激に低下した。これは、過去のWINEPブログでもしつこく解説してきたのですが、セシウムイオンとカリウムイオンが根で吸収されるときに、根の細胞膜輸送体で拮抗するため、カリウム施肥によって放射性セシウムの総吸収量が抑えられるためです。

               

3.カリウムの保持力の低い老朽化畑では基肥でカリウムを施用しても雨で流亡するのでダイズの子実のセシウム含量が高くなる。
    

4.         ダイズの地上部のK濃度が高まると登熟期のセシウム濃度が低下した。
        

5.         日本のダイズの栽培品種コアコレクション96品種を栽培したところ、子実中のセシウム含量は最大と最小の間で4.5倍あった。
              
以上の研究結果はおおむねイネでも解明されていることです。ダイズではきちんとこれまで確かめた人がいなかっただけでしょう。低セシウム品種を使い、養分保持力の高い土壌にして、高カリウム施用をし、アンモニア追肥をしない、という農法が奨励されるべきです。アズキも同じことです。 
           
(森敏)
    

2015-04-29 10:34 | カテゴリ:未分類
以下書いているうちについつい論文調になってしまいました。



表1.「世界の原子力発電開発の動向 2015年版」(原子力産業協会刊)。ホームページから転載
 

 
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経産省試算。原発のコスト優位性再確認 1キロワット時当たり10.1円

経済産業省は27日、電源別の経済性を計る発電コストについて新たな検証結果を明らかにし、原子力が2030年時点で1キロワット時当たり10.1円とすべての電源で最も低くなった。火力や再生可能エネルギーと比べたコスト面での優位性が改めて裏付けられた形だ。政府が試算を発表するのは11年12月以来。28日に政府案を示す30年時点の電源構成比に反映するため、再計算を進めていた。

 原子力は東日本大震災後に取り組んだ安全対策を追加コストで乗せたものの、安全対策で将来的に事故が起きるリスクが下がり、賠償などの想定費用が低下することも考慮。発電コストは前回試算(8.9円)から1.2円増加した。

 再生エネでは急速に普及が進む太陽光(メガソーラー)を前回試算(12.1~26.4円)から12.7~15.5円に変更した。太陽光パネルなどの価格低下を織り込んだ。

 一方、二酸化炭素(CO2)を排出する火力発電は、排出権の取引価格や燃料価格の変動を踏まえ、液化天然ガス(LNG)火力が2.5円増の13.4円、石炭火力が2.6円増の12.9円と前回試算より引き上げた。
   

以上は資料である。さて、ここからが本論である。

上掲の表1はいろんなことを考えさせてくれる重要な基本データであると思う。このそれぞれの国のデータを、その国の国土面積や、人口や、その他の数値で割り算してみると、何か新しいことが見えてくるのではないだろうか。

 

表1によると明らかに欧米諸国は原発建設を停止や廃炉の方向にあるが、中国・インドなど人口増大国は建設ラッシュである。核廃棄物処理や事故後の膨大な住民対策や廃炉処理費用など後世代に回された電力コストを計算に入れていないで、原発事故は起こらない、起こっても人の命や環境汚染など大したコストではないと考えているのかもしれない。石炭排気ガスに苦しむこれらの国では建前上は地球温暖化に原発は優しいエネルギー源であるというふれこみである。

 

上に掲載した産経新聞の記事のように、日本でも経済産業省は事故対策費用を含めて原発の電力コストを冷静に(?)計算し始めた。計算の詳細な根拠がよくわからないが、ほかのもろもろの新聞報道では、日本での原発大事故の発生頻度を野田政権の時は40年に一度と考えていたが、安倍政権では80年に一度と考える(これを裏返せば、原発事故は100%おこりうるということを認めているということである)。その「期間延長」の理由は「日本では原子力規制員会による新規制基準が以前よりも厳しくなったので、格段に原発の安全性が高まった。従って原発事故発生の確率が下がったため」と述べている。なんとも表現のしようがないどんぶり勘定ではある。

 

そこで、この経産省による80年に一度原発大事故が起こるという仮定を採用して(つまり表1の日本では48基が稼働中と考えて)、世界での原発事故の発生頻度を計算すると(表1の一番下の欄に書かれている世界では431基が稼働中と考える)、

48基:431基=1/80:1/X

X=8.9

すなわち、世界では約8.9年に一度世界のどこかで原発大事故が起こるということになるだろう。これが表1の下の欄のように数年から10数後には世界の新原発が将来計画通りに建設されて607基が全部稼働することになると、単純計算でその後は約6.3年ごとに一度は世界のどこかで原発大事故が起こるということになる。 どうせ経産省による原発事故の発生頻度などどんぶりの仮定だから、これぐらいの大まかな外挿計算は許されるだろう。

 

 そのうえ、原発もドローンの様な航空機テロや、意図を持ったドイツ航空機事故のパイロット場合のように、原発の場合もオペレーターによる意図的なヒューマンエラー(誤操作)などが起こりうるだろう。こんなことなどは、日本の原子力規制委員会は全く考慮していないだろうから、実際の原発事故の発生確率はもっと高いかもしれない。スリーマイル原発事故もチェリノブイリ原発事故も本当は天災ではなくオペレーターによるヒューマンエラーによるものであったことを忘れてはならない。日本では天災ばかりが原発事故の要因として喧しいのであるが。
  
      このように、表1は今後もいろんな議論のたたき台になる重要なデータである。
           
(森敏)
追記:以下の産経の記事には田中委員長が原発上空の警備強化を文書で原発業者に要請したとあった。田中委員長の感度はいいのだが、業者に要請さえすれば規制委の役割を果たしたということにはならないだろう。審査基準として法制化しなければ全く意味がない。立法府による法文としての罰則規定がない「要請」は何の意味ももたないだろう(2015.5.1.)
      
   

原発上空の警備強化、規制委が要請 (2015.4.28.産経ニュース)

原子力規制委員会の田中俊一委員長は28日の定例記者会見で、首相官邸屋上で小型無人機「ドローン」が見つかった事件を受け、原発を持つ原子力事業者などに対し、原発上空の警備強化を要請したことを明らかにした。

 規制委によると、対象は原発のほか、使用済み核燃料再処理工場など核燃料サイクル関連施設や研究用原子炉など。官邸屋上でドローンが見つかった翌日の23日、文書で求めた。

 威力業務妨害容疑で逮捕された山本泰雄容疑者(40)のブログによると、昨年10月、「偵察」と称して九州電力川内原発(鹿児島県)を訪れ、ドローンを飛ばして撮影を試みていた。

 規制委事務局の原子力規制庁の担当者は「今回の事件で、類似のものが原発に飛来する事態が現実味を帯びてきた。警備員が巡回する時間帯など情報の断片を集め、悪用される恐れもある」と警備強化の必要性を説明した。


2014-07-08 06:52 | カテゴリ:未分類

以下は理研の「STAP細胞」問題に関して毎日新聞記者による理研の高橋政代プロジェクトリーダーに対するインタビューである。
 

高橋プロジェクトリーダーは基礎研究者が基礎の基礎である研究成果を今にも応用可能なごとく過大に世間に誇示することの危険性を強く危惧している。 ここで論じられているのはSTAP細胞が仮にあるとしても、それが医療という臨床現場への問題に結びつくまでには、まだまだはるかな距離があるということをわきまえて記者会見しなさいという指摘である。
 

ひるがえって、われわれ植物科学の分野でも基礎の基礎の研究が直ちに農業の増収やバイオマスエネルギー問題や生態環境改善や人の健康に貢献するような言い方をする基礎研究者が日本ばかりでなく世界にもわんさといる。しかし日本では近年の植物の遺伝子レベルの基礎研究が実用化にまで至った研究は未だ皆無である。農業生物資源研究所の「スギ花粉症緩和米」の開発が先陣を切って大変な努力をしているが、いまだに実用化に至っていない。遺伝子組み換え隔離圃場での実験の困難なバリアをクリアして、次に動物実験による安全性の検定をクリアして、という長い長い工程があることを余りよく理解していない植物基礎科学の研究者が、基礎の基礎の研究成果を安易に応用に結び付けて誇示することはやめた方がいい。

 

(森敏)

  

(以下は非常にインパクトのある毎日新聞の記事です。無断引用しました。)



理研:iPS臨床・高橋氏との一問一答詳細

20140704

 理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB)の高橋政代プロジェクトリーダーとの主な一問一答は次の通り。
 

 −−1日付のツイッターで「理研の倫理観にもう耐えられない」とつぶやいた真意は? 「倫理観」とは何を指すのか?

 ◆理化学研究所が「何が良くて何が悪いのか」を態度で示せていない。理研がどう考えているのかが一貫して分からない状態ですよね。恐らく、外から見えているものと実際とがずれていると思う。それも恐らく「倫理観をきちんと示せていない」ことから、理研も誤解を受けていると思う。そういう意味でした。それを発信できていないと思う。CDBでお世話になり、この(iPS細胞の臨床研究の)プロジェクトを育ててくれた。私の場合は愛情があり、批判をしたくないから抑えていた部分なのですが、ツイッターで書いたように(iPS細胞を使った世界初の)臨床研究を落ち着いてできる環境ではなくなってきた。白黒はっきりというか、何が悪いかがまだ数カ月は出ないことがはっきりした。処分などが片がつかず落ち着かない。まだまだ事態の収束がずれこむことが分かったので、このまま臨床研究に突入するのは危ないと思ったわけです。

 −−何が悪いかはっきりしないまま、小保方晴子氏が検証実験に参加していることが問題なのか?

 ◆それもありますが、参加していることというよりも、片がつくのが遅れるということです。状況が改善されない、ということが分かったので、「私は違う考え方をもっている」ということ、「困っている」ということを声を上げないといけないと思ったわけです。今回のSTAP細胞問題に関しては、私は最初から「理研の対応はおかしい、遅い」と言っていました。その危機管理の対応が、病院の危機管理に慣れている者にとってはとても違いました。この対応の遅さでは、臨床研究の出来事に対する対応は無理だろうと思いました。もちろん臨床研究自体は先端医療センターで実施し、理研は「細胞作り」に責任を持っているのですが、理研は統括を担っていますから責任はとても重い。臨床現場で何かが起こったときの対応、これでは無理だなと思ったわけです。

 −−理研は新たな疑義の調査を始めると言っているが、これも遅いですか?

 ◆私は遅いと思います。なぜしないんだろう、皆が疑問に思っていた部分ではないのか、と。今言っても仕方がないので、今回声を上げたのは「臨床研究をできる環境ではない」ということから、「臨床研究はきちんとやりたいので、環境を整えてください」ということを伝えたかった。

 −−臨床研究に遅れは生じていますか?

 ◆そういうことはないです。科学的、医学的にはものすごく順調です。臨床で何が決め手になるかというと信頼感なんです。「倫理がしっかりしている」という信頼感がないと、少しのことが大きな問題になってしまうのは臨床の現場でよくあることです。ですから、今理研への不信がある中で、同じことが起きても大きく悪いことであると捉えられてしまうだろうという心配がある。今まで私はiPSの臨床研究というものすごく新しいことをやるために慎重に進めてきましたし、本当に静かなところで大事に作った船をそっと置いて、波風立たないようにそれに神経を使ってきた。ところが、横で起こったことでものすごい荒波の中にさらされている。この状況で実施すると、波がかかってきて大事になってしまう。こういう状況を改善してほしい。そのためにSTAPの問題を早く収束させてほしいというのが願いで、ずっと早く対応してくださいとお願いしてきましたが、まだ(時間が)かかるということで、「ちょっとこれは」と思いました。

 −−STAP問題が収束しなければ臨床研究を始められないのですか?

 ◆そうではないです。できますが、ものすごく困難なかじ取りを強いられるわけです。困難なかじ取りにならなくてもいいように、いろいろな調整をしてきて、何年もかかって環境を整えてきたものを、いきなり壊されたということにいら立ちがあります。

 −−「複数の人から臨床研究を中止しては」という意見を聞いたというのは、具体的にどういうことでしょうか?

 ◆STAPの問題があるので、私たちの研究にも疑いの目が向けられています。本当にちゃんとしたデータなのかという疑いですね。その対応に追われたりもしています。いろいろなことがSTAPで止まってしまって手続きが進まない、などです。ツイッターで答えたのは、「こんな状況だったら中止されたらどうですか」というツイートがあったので、「それも含めて考えましょう」と答えたのですが、それが「中止」と伝わってしまいました。真意は、「慎重に検討しなければいけない状況である」という意味でした。

 −−患者さんからそのような声はありますか?

 ◆それはないです。患者さんとの信頼関係は壊れていません。ですからそれは大丈夫です。ただし、「こんな荒波でかじ取りさせないでくれ」と。「せっかく整えた静かな海をもう一回返してくれ」という思いです。「もう一回、環境を整えていただきたい」ということが一番お願いしたいことですね。

 −−繰り返しだが、一定のけじめや懲罰がなければ静かな海は返ってこないと考えているのか?

 ◆実際は、懲戒委員会が検討して結論を出さなければいけないということは分かりますが、理研がどこを問題だと考えているか、どちらの方向へ進もうとしているのかが伝わってこない。そして大事にすべきことがずれている。検証実験も(STAP細胞が)できることを期待しているのか。何のためにやるのかよく分からない。そういう説明が足りないような気がしますね。

 −−理研に対して、この問題に対するメッセージをもっと出してほしいと考えているのか?

 ◆はい。何が良くて何が悪いか、という判断がされないままきていると思います。もっと早くけじめをつけられたと思いますが、まとめると、けじめがつかないまま結論が延びていることによる環境です。さらに、ここまで遅らせてしまう対応は、もし臨床研究の際に何か起きた場合に対応できないであろう、という点から「臨床研究が困難ではないか」と感じました。私たちの責任が非常に重くなっている気がします。

 −−理研の外部識者による改革委員会が出した(CDB解体などの)提言への評価は? それに対する理研のアクションはどうでしょうか?

 ◆アクションはないです。それ(提言)をどう思っているのかというアクションがないのです。「CDB解体」という言葉は衝撃的ですね。CDBはすごくいい研究所だったんです。いい実績を上げていた。ただし、本気で臨床につながることをやっているという覚悟が少ないような気がしていましたので、今後はそこを改善してほしい。

 −−「解体」という言葉に内部の反応は?

 ◆私自身はそうでもないが、若いPI(研究室主宰者)たちは動揺しています。

 −−このような提言も予想していたのか?

 ◆そこまではありませんでしたが、「臨床のことをしっかりやってほしい」と思っていたので、変わるべきところはあるとは思っていました。「消滅させてはいけない研究所」だと私は思っています。それでもアクションが遅いですね。

 −−改革委の提言は理解できるか?

 ◆「消滅させよ」ということであれば納得できません。変わらないといけない部分があるということなら「アグリー(賛成)」です。

 −−もう少し応用を意識した研究に、組織として力を入れるべきだということですか?

 ◆力を入れてほしいと思います。

 −−さかのぼって、どの時点で理研の対応が遅いと感じられたか?

 ◆最初です。3月初めくらいでしょうか。これは病院でやっている危機管理と全然違う、遅いと思いました。もう少し「重大事だ」という認識を持たないといけない、という気がしました。

 −−重大という認識が理研にもCDBにも感じられなかった?

 ◆そうなんです。

 −−それが対応の遅れにつながった?

 ◆そう思います。病院の危機管理は、実際に起きたことや一般に思われているよりも、より深刻にものごとをとらえて対処するということを心掛けます。それを、私はやってきました。それが今回の理研は逆になっています。社会が思うよりも低く見積もり、世間が怒る、という悪循環で、事態がどんどん拡大していったと思います。

 −−最初に最悪のケースを想定するのが危機管理ということですか?

 ◆それが基本だと思います。

 −−一つの研究の問題が、CDB全体、日本全体の信用を失墜させていると思いますか?

 ◆そう思います、再生医療に関しても、STAPはとても再生医療につながるようなものではなかったわけです。(細胞が)あったとしてもです。まだまだ「再生医療」という言葉を口にしてはいけない段階だったのに、それにつなげて説明したことも問題だったと思います。

 −−まだ赤ちゃんのマウスの細胞からしか作れない、という説明だったからですか?

 ◆それもありますが、安全性もまだ分からない段階でした。だから医療のことは口にしてほしくなかった。(記者会見などで)患者さんのことに言及されたのは、本当に怒りを覚えました。

 −−再生医療に使えると期待させるような広報が問題だったのでしょうか?

 ◆はい。

 −−臨床研究のプロジェクトで高橋先生が最も気をつけてこられた点ですね。

 ◆そうです。患者さんに過大な期待をさせない、ということをずっとやってきましたから。STAP細胞の説明では、基礎研究と応用研究との距離感が分かっていないと感じました。あくまで「基礎の基礎」の「始まり」の段階だったものなのに、「応用研究」のような顔をしてしまった。

 −−発表時に小保方氏とシニアの研究者がそういう発信をしましたが。

 ◆基礎研究と臨床の距離を分かっていない人が発表すると、そうなるということですね。

 −−小保方氏や笹井芳樹副センター長の対応について、どう思いますか。

 ◆「真摯(しんし)」かもしれませんが、遅いと思います。私は調査結果全体を把握しているわけではありませんが、事実はどうあれ責任があるということを、もっと早く自分たちで表明すべきだったと思います。

 −−論文の撤回も含めて遅いということですか?

 ◆そうですよね。遅いですよね。それが環境の悪化を招いたと思います。

 −−臨床研究のスタッフに動揺はありましたか?

 ◆昨日ツイッターが、あそこまで報道されるとは思わなかったので、スタッフや他の方たちに迷惑をかけました。私たちのラボや臨床チームには動揺はありませんが、私たちのチーム以外の人に動揺を与えてしまって、それは大変申し訳なかったと思っています。

 −−臨床研究は、当初の予定通りですか。

 ◆そうですね。だから声を上げようと考えました。このままでは「荒れた海」なので、今から抑えなおしておかないと、と考えました。理研の信頼を早く回復してほしい。

 −−より少数例になる可能性はありますか?

 ◆いろいろな可能性があります。(再生医療などの)法律も変わりますし、いろいろな可能性が想定できます。臨床としては必ずやります。

 −−「遅れては困る」という患者さんはいますか?

 ◆一刻も早く治療してほしいという思いはあると思う。昨日私が駄目だったのは、「中止」という言葉を出したため、あたかも「臨床研究を中止する」というような報道になってしまった。「検討する」という言葉が「中止」と受け取られてしまったことが、動揺を広げてしまい、ご迷惑をおかけしたと思います。

 

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