2017-02-17 08:06 | カテゴリ:未分類

民家の庭先にショウブとハスを混食しているプラスチックバットがおいてあった。きっと避難している家主は水生植物の愛好家だったのだろう。これまでも溜め池などでは、岸から離れているハスなどの水生植物を採取するのが少しややこしかったので、このプラスチック箱の中から紫色の2本を茎の部分から上を失敬した。葉は全面的に水につかっていた(図1

       

新聞紙で乾燥するとさらに紫色が強くなった(図2)。研究室に持ち帰ってガイガーカウンターを当てると1600 cpmと、とてつもなく高い値を示した。以下の動画を見てください。
 https://vimeo.com/190422228 

         
  それをオートグラフに取ったのが図3(ポジテイブ画像)と図4(ネガテイブ画像)である。ハスの葉脈が子細にくっきりと浮かび上がっているのがわかる。
    
  この植物体を葉と茎にわけて放射能測定したものが表1である。茎と葉は共に、Cs-134 と Cs-137の合量で数十万ベクレルとべらぼうな値であることがわかる。


スライド4 
 図1.民家の庭に放置されたハスを育てているプラスチックバット
 
 
 
スライド1 
 
 図2. ハスをサンプリングして押し葉にしたらこんな紫色になった。

 
 
 
 
スライド2 
 
 
 
 
 図3.図2のオートラジオグラフ
スライド3 
 

 図4.図3のネガテイブ画像



 
表1.ハスの放射能
スライド2 
 

なぜこんなに高いのだろうか? 以下に若干考察してみた。

       

第一にこの地域に降り注いだ総放射線量がべらぼうに高かったであろう。今でも空間線量は8マイクロシーベルト付近である。しかしそれ以外に、第二に、原発事故以来このプラスチックの箱に降り注いだ放射能は箱の外には逃げないで箱のなかに留まったままであるはずだ。土壌は箱の底に数センチである。いつも土壌表面は水で空気から遮断されているので還元状態にある。たぶんそういう環境下ではセシウムは土壌への吸着が進みにくく、いわば箱の中で放射性セシウムは水の中でリサイクルし続けていると思われる。冬になって葉が枯れて腐ると、微生物菌体のコロイド状になり、そのコロイド状の有機性セシウムは、また次の春になると無機セシウムイオンとして遊離されてハスの根からばかりでなく葉からも再吸収されるわけである。

     

フキノトウなどでは、淡水状態で出てくるフキノトウと陸生のフキノトウでは前者の方が遙かにセシウム汚染が強いことがすでに明らかにされている。これは淡水状態では水につかっている地上部分からも容易に放射性セシウムが吸収されるからである。

      

水稲の場合も、水を張った出穂期に森林で汚染した沢水がかかると、容易に茎からセシウムを吸収して、お米の放射性セシウム含量がたかまるので、要注意なのである。小生自身が実験したわけではないが、カリウムを農水省が定める基準値量(25mgK2O/100g土壌)以上施肥していてもこの経茎吸収は押さえられないと思われる。

      

たかがハス、されどハス。 原発事故後ほぼ6年になるが、放射能汚染地での自然観察で学ぶことはまだまだ多いのである。

  
   
(森敏・加賀谷雅道)

     
 
 
 
 

2017-01-01 00:00 | カテゴリ:未分類

明けましておめでとうございます。 
     
  新春からえんぎでもないが、小生は最近もの忘れが非常に多くなってきた。顔は思い出してもその人の名前がどんどん頭から消えていく。高齢者が誰もが考えるように、特に脳の老化の進行を抑えたいと切実に思っている。親類にアルツハイマーで死亡した人物もいるので、なおさらである。単なるボケは一時的な記憶喪失であろうが、特にアルツは家族にばかりでなく、周囲の方々に、小生本人が自覚しないうちに、多大なる不快な思いをさせていることになるので、小生にとっては実に喫緊の課題である。

 

        と思って、最近送ってこられた日本農芸化学会の発刊する「化学と生物」をぱらぱらとめくっていたら、食品成分による脳老化改善・認知症予防の可能性 という総説が飛び込んできた。昔懐かしい生化学で習ったカルノシンやアンセリンなどという化合物の新しい機能として、認知症を遅らせる機能が発見されつつあるようで、実に慶賀の至りだと思う。

 

        以下ご参考までにあちこちから転載します。後期高齢者は必読かと。
   
1.
カルノシン と アンセリン の構造式 (:イミダゾールジペプチドと総称される)
     

カルノシン、アンセリンjpeg

 

2.

動物筋肉に多く含まれているカルノシンやアンセリンは、20世紀前半に発見されたジペプチドであるが、その研究は動物組織における分布や代謝に関するものが多かった。近年、これらは、様々な生体調節機能を有することが明らかとなってきた。わが国では、これからの高齢社会に向けて、カルノシンとアンセリンは、ヒトの健康維持に寄与する天然の機能性素材の1つとして非常に注目されている。(カルノシン・アンセリン研究会)

 

 

3.カルノシン

ヒトなどの哺乳類では、筋肉神経組織に高濃度に存在している。アヒルなどの一部の動物において N-メチルカルノシン (アンセリン)あるいはバレニンが多く見られる。生体内において酸化的ラジカル種のラジカルスカベンジャーとして働き、酸化的ストレスから保護しているといわれている。(Wikipedia)

 

 

4.アンセリン

哺乳類[1]骨格筋、および鳥類で見られるジペプチドであるヒスチジン基のイミダゾール環の酸解離定数pKa)は7.04であり、これが生理的pH水素イオン指数)の緩衝効果をもたらす[2](Wikipedia)

     

5.

「鶏肉には、高機能成分であるイミダゾールジペプチドがとても多く含まれている。特に、鶏胸肉には含有量が多く、100gあたり1gを越えるイミダゾールジペプチドが含まれている。このイミダゾールジペプチドには、筋肉の疲労を和らげる効果があることが知られていたが、筆者らが行った研究から脳老化に対しても改善効果があることがわかった。鶏胸肉は、高タンパク質で低脂肪であることから、生活習慣病が気になる高齢者にも、適した食材であると思われる。日々の食生活の中で、ほどよい頻度で鶏胸肉を摂取して頂くことを通じて、脳老化の改善が可能になると考えており、このことを証明する研究に、今後取り組みたいと思う。」{食品成分による脳老化改善・認知症予防の可能性}「化学と生物」2016年12月号)久恒辰博・東大新領域創成研究科准教授 の総説

 

 

  以上のように脳の老化の改善に、鶏の胸肉 が奨励されている。鳥肉は、ぱさぱさしてあまり小生の好みではないのだが、早速付近の安売り店で1kg購入してきたら、「こんなどこの産地かわからないものは料理しません」と家人にはけちょんけちょんだった。小生が大学に在職中にはイスラム圏からの留学生を引き受けたが、彼らは宗教上の理由と鶏肉が安価であることから、ほとんど毎食鶏肉を食べていた。統計を見たことはないのだが、案外モスレム圏の人たちにはアルツハイマーは少ないのかもしれない。是非疫学調査をして仮説を実証してもらいたいものだ。
     
  確かに、最近頻繁に鶏の胸肉を試食してみると、手羽肉と比べて胸肉は独特の粘っこいテクスチャーで、牛肉や豚肉のように、一度にあまりたくさん食べられるものではないようだ。その独特の風味こそがカルノシンやアンセリンによるものかもしれないが。胸肉をおいしくいただく調理法をホームページで勉強しなくっちゃ。しばらくは我慢して、舌が慣れるように、今年は人体実験してみようと思っている。何しろ酉年だから。

   

    


(森敏)
 
付記: そんなことテレビでガンガン紹介しているよ、と言われそうですが、小生自身はこの久恒辰博准教授の総説を読んでもっともらしいと思ったので、遅ればせながら紹介しました。


 
2016-12-20 16:25 | カテゴリ:未分類

   放射能汚染地域では、避難して人が入らないので、森林では樹木に様々なツル性植物が自由自在に繁茂しています。このツル性植物は、何らかの遺伝子が欠損しているために単独では重力に抗して空に向かって屹立できないので幹木に着生して上に伸びていくものと思われます(図1、図2)。(おそらく野生のツル性植物は宇宙線やトランスポゾンによる自然突然変異で、ジベレリン生合成系の遺伝子の変異株だろうと思われます。)       

              
  友人の園芸師に依れば「
このツルアジサイは、名前のようにツルになってのびるアジサイで、貧弱ですがガクアジサイに似た花を咲かせます。付着根という細い根で、高木の幹や岩などにくっついて上っていきますが、付着根は水を吸う働きは無く、吸水はふつうの植物と同じに、地中にのびた根が行います」と言うことです。(付記1)
   

   現地の藪の中で、松の幹木に張り付いて高く高く昇っているいくつかのツル性植物をみて、これが松の木の樹皮などの表層に高濃度で付着している放射能を吸収しているのかどうかを知りたいと思いました。そういえば、これまで小生は着生植物などにあまり着目していませんでした。(よく言われることですが風景は本人がその気にならなければ{見れども見えず}ですね)

     

   そこで、このツルアジサイを松の木から丁寧に引っぺがして、実験室に持って帰り、押し葉乾燥後、オートラジオグラフを撮像しました。
  


スライド1 
図1.ツルアジサイ。ツルのあちこちに細い着生根がでている。下から上に向かっている。
    
    
スライド2


 

 図2.図1のオートラジオグラフ

   
   

スライド3 
 
 図3.図1の同じツルのもっと上の部分。下部に新芽が見られる。右上の部分は樹皮ごとはがれたもので、そこに着生根が食い込んでいる。ツルは左下から時計回りに先端に向かっている。
 
   
    

スライド4 
  
    
    


図4.図3のオートラジオグラフ。新芽や着生根が放射能で内部被曝(すなわち内部標識)されていることがわかる。
 

スライド6 
 
 図5。樹皮に食いついたツルアジサイの細い着生根部分の拡大図
    
    
  
   

スライド7 

 図6.図5のオートラジオグラフ。図4のネガテイブ画像の右うえの部分の拡大図。着生根はあまり強くは感光していない。樹皮は外部被曝の証拠であるホットパーテイクルが付着してつぶつぶに光っている。

    
     
 
 
表1 ツルアジサイの組織部位別放射能: Bq(ベクレル)/kg乾物重
ツルアジサイの放射能jpeg 
   
 

表1や図2,図4で見るように、ツルアジサイではツル性茎の部分の放射能濃度が最も高く、これは全部内部被曝によるものです。また、主ツルや分枝ツルから少しばかりちょろちょろ出ている付着根は葉やツル性茎と比べて圧倒的に放射能が低い。これらのことは、ツルアジサイが着生した松の樹皮から水やセシウムを吸収しているのではなく、松の根元の土壌からたちあがっている主ツル性茎の根そのものから、放射性セシウムを吸収して地上部に移行していることを意味しています。あちこちの付着根はただ我が身を松の幹に支えてもらうための「取っ手」にすぎないことを意味しています。

      

表1に見るように、ツルの放射能濃度が斯くも高いのは、降雨の時の松の樹幹流から松の根元の土壌や落ち葉や腐植層に流下拡散する放射能を、ツルアジサイが吸水とともに効率よく吸収するためではないかと思われます。ツル性植物は一般に鳥の巣材にも使われます。このようにしてツル性植物は放射性セシウムの森林での循環にゆっくりと人知れず関わっていくのだと思われます。

      

 
     
       

(森敏)
  

 付記1.小生にはこの植物の同定ができなかったので野田坂緑研究所の朋友野田坂伸也所長に問い合わせたらこのような解説をいただいた。

 

2016-10-04 17:25 | カテゴリ:未分類

【大隅良典さんノーベル医学・生理学賞受賞】快挙に中韓ビックリ 韓国「オタク文化」例に「日本に学ばねば」 中国「どんな秘密があるのか…」大隅良典・東京工業大栄誉教授(71)がノーベル医学・生理学賞を受賞したニュースは、APやロイターなど海外の通信社も速報した。
   

 韓国の聯合ニュースは、自然科学分野で日本人のノーベル賞受賞が相次ぐ背景として、「日本特有の匠(たくみ)の精神」や一つの分野に没頭する「オタク文化」の存在を挙げ、「政策や文化といったさまざまな側面の結晶だといえる」と分析した。韓国ではこの分野で受賞がないことから、「日本の政策に学ばねばならない」という韓国の研究者の意見も伝えた。

 中国では北京紙、新京報(電子版)が大隅氏の受賞を報じた上で、「ここ数年、日本の科学者によるノーベル賞受賞が続出している。どんな秘密があるのだろうか」とした。

 英BBCテレビ(同)は「大隅氏の業績はがんからパーキンソン病にいたるまで、何が病気を悪化させるかを説明する助けになった」と重要性を強調。米CNNテレビ(同)は、「オートファジーの存在は1960年代から認識されていたが、大隅氏が酵母を用いた先駆的な実験を行うまで、仕組みがほとんど解明されていなかった」と伝えた。

    

 
  きわめて専門的になりますが、以下に学士院賞受賞時と京都賞受賞時の大隅良典先生の研究内容と、国際賞受賞時の挨拶、をホームページから転記しておきました。
   

     

日本学士院賞審査要旨(2006)
  

理学博士大隅良典氏の「オートファジーの分子機構と生理機能の研究」に対する賞審査要旨
 

分子生物学では、セントラルドグマ確立以来、遺伝子発現すなわちタンパク質の「合成」のしくみの解明に多くの努力が割かれ、タンパク質の「分解」の問題は、受動的でそれほど大きな生物学的な意味を持たないのではないかと長らく考えられてきた。しかし近年、生命が持つ遺伝子の相当な部分がタンパク質やその複合体の分解に関わっており、分解も、合成に匹敵するほど大切であることが認識されつつある。生命が絶えざる合成と分解のバランスの上に成り立っていることから考えればむしろ当然のことであろう。五〇数年前に細胞内小器官「リソソーム」が発見されて以来、タンパク質の分解はこのコンパートメントの中で行われていると一般的に考えられてきた。しかし現在では、細胞内タンパク質分解は、ユビキチン/プロテアソーム系とリソソーム系の二つに大別することができ、両者が機能分担を行っていることが明確になっている。前者が厳密な識別に基づく選択性の高い分解であるのに対し、後者はむしろ非選択的でバルクな(大量な)分解を担っている。

リソソーム内に分解基質を送る過程は、自己を食すると言う意味の「オートファジー」とよばれる膜現象からなることが示されてきた。しかし様々な困難からその分子機構は全くの謎であった。大隅氏は、酵母細胞が栄養飢餓条件にさらされると、リソソームと相同な分解コンパートメントである「液胞」で大規模なタンパク質分解が誘導されることを顕微鏡観察によって発見した。そして、その後の電子顕微鏡による解析から、これが高等生物で知られていたオートファジーと同一の膜現象であることを証明した。次に、酵母の系の優位性を生かして遺伝学的な解析に取り組み、オートファジーに欠損を持つ多くの変異株を分離し、一四個の関連遺伝子(ATG遺伝子群)を同定することに成功した。その後に発見されたオートファ

ジーに必須の遺伝子が三個のみであることから、大隅氏らの当初の戦略が極めて優れていたことが窺える。大隅氏は、引き続き、ATG遺伝子群のクローニングに着手し、それらがコードするタンパク質(Atgタンパク質群)を同定したが、ほぼ全てが新しい分子で、それらの機能の推定は困難であった。しかし数年の間に大隅研究室ではこれらAtgタンパク質に関する重要な発見がなされた。(1)Atg12がユビキチン様タンパク質で、二つの酵素Atg7Atg10を介してAtg5と共有結合体を形成する。(2)Atg8もユビキチン様タンパク質で、Atg7により活性化された後、Atg3に転移し、膜リン脂質の一つホスファチジルエタノールアミンと結合する。(3)Atg1はタンパク質キナーゼ活性を有し、この活性がオートファジーに必須であること、(4)Atg14は、オートファジーに必要な特異的PI3キナーゼと複合体を形成すること、などである。また、栄養飢餓の関知にTorと呼ばれるキナーゼが関わることも明らかにした(mTORは動物栄養センシングに関連して注目されている)。オートファジーの最大の謎は細胞質の一部やオルガネラ

をまず膜が取り囲んで隔離する膜現象にある。上記の反応系は全てこの過程(オートファゴソーム形成)に関わっている。オートファジーは真核細胞の基本的な機能の一つであり、発見されたATG遺伝子群は酵

母からヒト、高等植物にまで広く保存されていることが明らかとなった。これらの機能解明は、オートファジーの機構解明に留まらず、細胞内の膜動態の分子機構を理解する上でも重要な知見を与えると

期待されている。オートファジーには未だ多くの謎が隠されているが、大隅氏らによるATG遺伝子群の同定を契機として、多くの生物種でオートファジーが確認され、また、タンパク質分解の破綻が様々な病気や老化などにも関わっていることが明らかになってきた。現代の人間社会には資源のリサイクルシステムの構築が求められているが、細胞は自らのタンパク質を分解して必要なタンパク質を合成するという見事

なリサイクルシステムを獲得したものと考えられる。オートファジーの重要性は、今後も、細胞内有害物質の除去機構、細菌感染、抗原提示、老化など様々な形で明らかにされるであろう。このように本研究分野の活性がいっそう高まる中、大隅氏は一貫してオートファジーの分子機構の解明に正面から取り組んでおり、他の追随を全く許さない研究を続けている。また、大隅氏は、Gordon Research Conferenceなど主要な国際会議から基調講演に招かれ、本分野における国際的なリーダーシップを発揮しており、平成一七年には藤原賞を受賞している。

   

  
 

 

京都賞の受賞理由
     

細胞の環境適応システム、オートファジーの分子機構と生理的意義の解明への多大な貢献
     

大隅良典博士は、細胞が栄養環境などに適応して自らタンパク質分解を行うオートファジー(自食作用)に関して、酵母を用いた細胞遺伝学的な研究を進め、世界をリードする成果をあげた。オートファジーは、1960年初頭に、動物細胞内の食胞として知られているリソソーム中に細胞質成分であるミトコンドリアや小胞体が一重膜で囲まれて存在していることから提唱された概念で、細胞内成分や細胞内小器官がリソソームに取り込まれて分解を受ける過程を意味する。その後、多種類の細胞やいくつかの臓器でこの現象が報告されてきたが、オートファジーの分子メカニズムや生理的意義は不明なままであった。大隅博士は、出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeで空胞の機能を研究していたが、1992年、タンパク質分解酵素B欠損株を低栄養培地に曝すことにより空胞中に一重膜で囲まれた細胞内小器官成分が出現すること、即ち、酵母でオートファジーが誘導できることを発見した。同博士は、ついで上記現象を利用して、タンパク質分解抑制と栄養飢餓によってもオートファジーが誘導されない多数の変異株を同定した。博士の酵母におけるオートファジーと変異株の発見は、オートファジーの分子機構解析に道を拓いたものである。これが基盤となり、これまでオートファジーに関係する数十の分子が同定され、これらの機能解析により、飢餓などの刺激に応じて、どのようにして細胞内成分や細胞内小器官を囲む新規の膜構造が形成され、これがリソソームに融合するかの道筋が明らかになりつつある。

酵母におけるオートファジー関連分子の発見は、哺乳類を含む動物細胞でのオートファジー関連分子の同定につながり、これらを利用して、動物におけるオートファジーの多様な生理的意義が多くの研究者により明らかにされた。すなわち、オートファジーが出生に伴う飢餓状態への適応に不可欠であること、オートファジーが神経での異常タンパク質の蓄積を防ぎ神経細胞死を防止するために必要であること、心臓の収縮力を維持するためにオートファジーを伴う代謝回転が不可欠であることなどがある。

大隅博士の貢献は、生体の重要な素過程の細胞自食作用であるオートファジーに関してその分子メカニズムと生理的意義の解明に道を拓いたものとして高く評価されるものである。

以上の理由によって、大隅良典博士に基礎科学部門における第28(2012)京都賞を贈呈する。

    
 
 

 国際生物学会賞での挨拶(2015)
 

(一部略)

私はこれまで機会あるごとに述べて参りましたが、私自身、様々な偶然と出会いに助けられて、研究者としての細い細い道を今日まで歩んで参りました。東京大学教養学部の今堀和友先生の下で学び、京都大学、東京大学農学部、ロックフェラー大学留学を経て、東京大学理学部安楽泰宏教授のもとで研究をする機会を得ました。その後、東京大学教養学部、基礎生物学研究所にお世話になり、現在も、東京工業大学で大変恵まれた環境を頂いて研究を続けています。今日科学研究は激烈な競争があるというのも事実ですが、私は元来競争が苦手で、人のやらないことをやりたいという思いで研究を進めて参りました。

   
私は細胞内のタンパク質の分解の機構に興味を持ち、1988年以来28年間に亘ってオートファジーと呼ばれる細胞内の分解機構の研究を進めて参りました。生命体は絶えまない合成と分解の平衡によって維持されています。合成に比べて分解の研究は興味を持たれず、なかなか進みませんでした。

   
私は一貫して小さな酵母という細胞を用いて、オートファジーの謎の解明を目指し、関わる遺伝子群とその機能を解析して参りました。オートファジーに関わる遺伝子の同定を契機として、今日オートファジーの研究は劇的な広がりを見せ、高等動植物の様々な高次機能に関わっていること、そして、様々な病態にも関係していることが次々と明らかになって参りました。すなわち、分解は合成に劣らず生命活動には重要であるということが次第に認識されて参りました。しかし、まだオートファジーの研究には沢山の基本的な課題が残されています。私は残された研究時間で今一度原点にたちかえって、「オートファジーは何か」ということに向かいたいと思っています。また、近い将来オートファジーのさらなる機構の解明が進み、細胞の一層の理解のもとに、病気の克服や健康の増進などの研究がさらに進むことを心から願っています。

   
いうまでもなく現代生物学は一人で進められるものではありません。私のこれまでの仕事も、30年近くに亘る沢山の素晴らしい研究仲間のたゆまぬ努力の賜物でもあります。また素晴らしい共同研究者にも恵まれました。心から彼らに感謝の意を表するとともに、彼らとともにこの栄誉を分かち合いたいと思っております。
   
これまで私を支えてくれた今は亡き両親、妻萬里子と家族にも心から感謝をしたいと思います。

最後にこれから生物学を志す若い世代に向けて、
   
私達の周りには、まだ沢山の未知の課題が隠されています。素直に自分の眼で現象をみつめ、自分の抱いた疑問を大切にして、流行や様々な外圧に押し流されることなく、自分を信じて生命の論理を明らかにする道を進んで欲しいと申しあげたいと思います。
   
私も微力ながら残された時間を、効率や性急に成果が求められる今日の研究者を巡る状況が少しでも改善し、生き物や自然を愛し、人を愛し、豊かな気持ちで研究ができる環境というものの実現に助力したいと思います。
本日はどうも有り難うございました。

       
      


       
  大隅先生ご自身が選んでいる主要な業績は以下のとおりです。
  

01. Takeshige, K., Baba, M., Tsuboi, S., Noda, T., and Ohsumi, Y. (1992)

Autophagy in yeast demonstrated with proteinase-deficient mutant and its

conditions for induction. J. Cell Biol., 119, 301-311.

02. Tsukada, M., and Ohsumi, Y. (1993) Isolation and characterization of

autophagy-deficient mutants in Saccharomyces cerevisiae. FEBS Lett.,

333, 169-174.

03. Baba, M., Takeshige, K., Baba, N., and Ohsumi, Y. (1994) Ultrastructural

analysis of the autophagic process in yeast: Detection of autophagosomes

and their characterization. J. Cell Biol., 124, 903-913.

04. Matsuura, A., Tsukada, M., Wada, Y., and Ohsumi, Y. (1997) Apg1p, a

novel protein kinase required for the autophagic process in Saccharomyces

cerevisiae. Gene, 192, 245-250.

05. Baba, M., Ohsumi, M., Scott, S. V., Klionsky, D. J., and Ohsumi, Y. (1997)

Two distinct pathways for targeting proteins from the cytoplasm to the

vacuole/lysosome. J. Cell Biol., 139, 1687-1695.

06. Mizushima, N., Noda, T., Yoshimori, T., Tanaka, T., Ishii, T., George, M.

D., Klionsky, D. J., Ohsumi, M., and Ohsumi, Y. (1998) A protein

conjugation system essential for autophagy. Nature, 395, 395-398.

07. Mizushima, N., Noda, T., and Ohsumi, Y. (1999) Apg16p is required for

the function of the Apg12p-Apg5p conjugate in the yeast autophagic

pathway. EMBO J., 18, 3888-3896.

08. Kirisako, T., Baba, M., Ishihara, N., Miyazawa, K., Ohsumi, M., Noda, T.,

and Ohsumi, Y. (1999) Formation process of autophagosome is traced

with Apg8/Aut7p in yeast. J. Cell Biol., 147, 435-446.

09. Kirisako, T., Ichimura, Y., Okada, H., Kabeya, Y., Mizushima, N.,

Yoshimori, T., Ohsumi, M., Noda, T., and Ohsumi, Y. (2000) The

reversible modification regulates the membrane-binding state of

Apg8/Aut7 essential for autophagy and the cytoplasm to vacuole targeting

pathway. J. Cell Biol., 151, 263-275,

10. Kabeya, Y., Mizushima, N., Ueno, T., Yamamoto, A., Kirisako, T., Noda,

T., Kominami, E., Ohsumi, Y., and Yoshimori, T. (2000) LC3, a

mammalian homologue of yeast Apg8p is processed and localized in

autophagosome membranes. EMBO. J., 19, 5720-5728.

11. Ichimura, Y., Kirisako, T., Takao, T., Satomi, Y., Shimonishi, Y., Ishihara,

N., Mizushima, N., Tanida, I., Kominami, E., Ohsumi, M., Noda, T.,

Ohsumi, Y. (2000) A ubiquitin-like system mediates protein lipidation.

Nature, 408, 488-492

12. Mizushima, N., Yamamoto, A., Hatano, M., Kobayashi, Y., Kabeya, Y.,

Suzuki, K., Tokuhisa, T., Ohsumi, Y., and Yoshimori, T. (2001) Dissection

of autophagosome formation using Apg5-deficient mouse embryonic stem

cells. J. Cell Biol., 152, 657-668.

13. Suzuki, K., Kirisako, T., Kamada, Y., Mizushima, N., Noda, T., and

Ohsumi, Y. (2001) The pre-autophagosomal structure organized by

concerted functions of APG genes is essential for autophagosome

formation. EMBO J., 20, 5971-5981.

14. Suzuki, K., Kamada, Y., and Ohsumi, Y. (2002) Studies of cargo delivery

to the vacuole mediated by autophagosomes in Saccharomyces cerevisiae.

Develop. Cell, 3, 815-824.

15. Mizushima, N., Yamamoto, A., Matsui, M., Yoshimori, T., and Ohsumi, Y.

(2004) In vivo analysis of autophagy in response to nutrient starvation

using transgenic mice expressing a fluorescent autophagosome marker.

Mol. Biol. Cell., 15, 1101-1111.

16. Ichimura, Y., Imamura, Y., Emoto, K., Umeda, M., Noda, T., and Ohsumi,

Y. (2004) In vivo and in vitro reconstitution of Atg8 conjugation essential

for autophagy. J. Biol. Chem., 279, 40584-40592.

17. Yoshimoto, K., Hanaoka, H., Sato. S., Kato, T., Tabata, S., Noda, T., and

Ohsumi, Y. (2004) Processing of ATG8s, ubiquitin-like proteins, and their

deconjugation by ATG4s are essential for plant autophagy. Plant Cell, 16,

2967-2983.

18. Kuma, A., Hatano, M., Matsui, M., Yamamoto, A., Nakaya, H., Yoshimori,

T., Ohsumi, Y., Tokuhisa, T., and Mizushima, N. (2004) The role of

autophagy during the early neonatal starvation period. Nature, 432, 1032-

1036.

19. Atg8, a Ubiquitin-like Protein Required for Autophagosome Formation, Mediates Membrane Tethering and Hemifusion (Nakatogawa, H., Ichimura, Y. and Ohsumi, Y.), Cell 130: 165-178, 2007

 

   

     
    
(森敏)

2016-07-11 06:00 | カテゴリ:未分類

   20年以上前のことだが、知人の弟さんが「結婚式の前に背中のホクロを取る手術をしたら、かえって癌化を促進してしまって、結婚式の前に亡くなってしまった」という話は、未だに頭に染みついている。それ以来「メラノーマ(悪性黒色腫)は全身転移が早い」と信じて日頃から警戒している。最近はメラノーマに特化した効果的な抗ガン剤もあると聞いているが。

 

半年前に、ひだり手の親指と人差し指の根元に赤い5ミリ大の皮下のシミを発見して仰天した。だんだん大きくなるような気がして、打ち傷の記憶もないので、「すわ、メラノーマか?」と近くの皮膚科の医院に飛び込んだ。医者は手をチラリと診て、「打ち傷の内出血ですね、そのうちなくなりますよ」とにやりと笑った。こちらは胸のつかえが取れて、つい「やったー!」と拳(こぶし)をあげてしまった。

 

最近一週間前から、右内股に小さなホクロが出現しているのに気が付いていた。気になって本読みに集中できなくなったので、さきほど、思い立って、件の皮膚科に駆け込んだ。今回も老練柔和な医者はチラリと患部を見て「年齢による加齢斑ですね、これも、これも、これも。。。」とその付近の薄い色のホクロを指摘した。「私にもありますよ」とご自分の手を見せてくれた。「今後もご心配の時はいつでもお越しください」と実に丁寧であった。この間の診療時間は5分もしなくて、診療費はわずかに280円であった。

 

それで、すっと気が晴れて、昼食を抜いていたのに気が付いて、急に腹が減ってきた。近くの「赤色ローソン」でハムサンドとホットのモカ・オーレを注文して店内の窓際の机(イートインというらしい)で食べることにした。気を付けていたつもりだったが、このカフェオーレをストローで吸おうとしたら、舌に熱くて、思わず手元が痙攣して、カップごと手前に倒してしまった。テーブルと小生自身のジーパンと床がたちまちコーヒー色に染まってしまった。

 

異変を感じたのか店員が飛んできて、その惨状を見て、いそいでテイッシュペーパーの束を持ってきてくれて、カフェオーレの「お代わり」を作ってくれた。客が込んでいてレジ打ちに忙しいのに、さすが赤色ローソンだと、そのサービス精神に痛く感謝した。テイッシュペーパーでテーブルと床はきれいに拭き取ったが、ジーパンからは水分と茶色は脱ぐいきれなかった。ちょうど内股の加齢斑にふれるところがぐっしょりにぬれてしまった。がに股で歩いて帰宅した。小生の体のこの部位は鬼門なのかもしれない、まだ安心はできない、と妙に気がかりなままである。

(森敏)
付記:今朝の参議院選挙速報:
1)一人区で接戦の末とはいえ、特に東北で4野党協力が成功している。
2)低投票率では組織票が強いということは、公明、共産の伸びで今回も明確に証明されている。
追記:実は小生が異常に両手の皮膚ガンを気にかけている理由は、若いときにRI実験室にこもってP-32, K-42, Fe-59などのベーター線放出核種を、植物の生理学実験でふつうの実験者以上に桁違いの量を使用し両手に被曝したからである。このことは、以前のどこかの「WINEPブログ」で述べたことがある。


  
追記:その後、エピジェネテイックスの解説書を読んでいたら、ガンのところでまたまた不安になってきて、10日後にまた同じ病院を訪れた。医者は怪訝な顔をしていた。「これが心配でまた来ました」と股のほくろを見せて、「もしこれがメラノーマだったら何ヶ月後に転移してーーーー」と話しかけようとすると。「メラノーマじゃありませんって!!」と強く言葉を遮られた。語気に気をされてさすがの小生もすごすごと引き下がった。これからは自分の股ぐらはみないことにしよう。

      

(森敏)

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