2016-09-03 09:27 | カテゴリ:未分類

東京の猛暑と酸素が薄く思われる毎朝のけだるさに参ってしまった。やむなく保養地の個人経営のペンションなるものをネットで探して、泊まった。ペンションは築28年だというので、隣室の声が聞こえるぐらいの簡素なつくりの建物であったが、台風一過の周りの景色はゴッホの絵画「糸杉」の世界だった。空気がきれいで、恰幅の良いペンションのオーナー・シェフの夕食がとてもおいしかった。濃厚な食後のコーヒーを入れていただいてそれを飲みながら「ここら辺は閑静な田舎のようですが、最近なにか面白い話でもありませんか?」とオーナーの奥さんに話しかけると、少し考えて「最近少し困ったことがありました」ということで以下の話をしてくれた。

 

「先日、若い男女二人が車で乗り付けて予約なしで泊まりに来ました。うちは飛込みでも宿泊を受けつけるので、お部屋に通しました。お客さんがコンビニに買い物にお出かけになられたりするのでうちは夜中でも出入り自由にしています。ですから夜中の車のエンジンの音などこれまで気にしておりませんでした。ところが、翌日の朝のお食事時になっも起きてこられないので、お部屋のドアをたたいたのですが、応答がありません。ですので、やむなくドアノブをひねるとドアが開きました。驚いたことにお部屋にはどなたもおられず、もぬけの殻でした。お部屋のキーは置いてありました。結局無断宿泊されちゃいました。こんなことはこのペンション経営を始めて以来の初めての経験ですので、本当に頭に来ちゃいました。今の若い人の感覚が理解できません。とっても人間不信に落ちいっちゃいました。捕まえて何とか懲らしめてやりたいものです」

といっても、奥さんは別に警察に届け出られた様子でもないようでした。

 

 翌日その地元のタクシーの運転手にこの話をしたら、「そんな話は私も初耳です。それではまるで『食い逃げ』ですね。宿泊の時に前払い制ではなかったんですね」という応答であった。

 

 この男女は全国あちこちで「スマホ」を利用して、ラブホテル代わりに、このような非常に良心的だが、わきの甘いペンションを荒らしまわっているのかもしれない。

 

このペンションでは廊下の踊り場に手塚治虫の文庫本全巻など漫画本の書架が設置してあった。そのなかに『どついたれ』という、小生がまだ読んでいない手塚の分厚い漫画があった。戦後の大阪を中心とした混乱した「やくざの世界」に染まらずたくましく生きる戦災孤児の世界を描いているのだが、珍しくも「未完」で終わっていた。読み終わるのに2時間かかった。手塚にしては珍しいリアリズムの筋書きの展開なのだが、彼にとっては未体験の世界ゆえに想像力が枯渇して、話の展開にいき詰まったマンガであることがありありだった。なぜだか少しほっとした。


(森敏)

 

秘密

トラックバックURL
→http://moribin.blog114.fc2.com/tb.php/2090-24b9afb6