WINEPブログ
退職名誉教授の多くが小生と同じく健康管理に気を付けておられた。そのことは、年齢による日々のどうしようもない体調の現象が、切実な現実問題であるからでもある。毎日の積極的な、歩き、整体師通い、ジム通い、などいろいろと工夫されていた。この「暑気払い」に出てこられていた退職教員たちは全体の5%にも満たないだろうから、むしろ出て来ておられない方々の健康が他人事ながら心配になった。小生もこれまで14年間でてこなかったので、何かといろいろ言われていたことだろうと思った。
退職して完全に雑用から解放された某先輩名誉教授が「ガロアの群論」の解法の研究をしていると聞いて、驚愕した。若い時から数学が強かった人は年をとってもなかなか頭が強靭なのだと思った。話が少しそれるが、太田朋子氏(国立遺伝顕名誉教授・東大農学部卒。81歳)が『分子進化のほぼ中立説』で、つい最近クラフォード賞(9000万円)を受賞されたのだが、その理論のご本人による説明が4ページにわたって学士会会報7月号にのっている。またネット動画で授賞式の講演が1時間にわたって放映されている。しかし彼女の説明には一切数式が使われていない。言葉でのみ説明が行われている。でも小生にはチンプンカンプンである。この理論の背景には深遠な数学が使われていることは素人の小生にも匂いを感じられた。実に数学のできる人は長生きするのだなと思う。(ガロアは若気の至りで20歳で決闘で死んだが)。
クラフォード賞で受賞講演する太田朋子国立遺伝研名誉教授(動画からのパクリ)
皮肉にもこの暑気払いの日の7月16日は安保法案(野党によれば[戦争法案])が強行採決により衆議院を通過した。この日は日本の憲政史上に汚点を残した「立憲政治の崩壊」の日と記されるだろう。安倍内閣は日本国が憲法という体系的な法律に基づく運営を行わない行政府や軍部の暴走を許す国になる道を拓いたかもしれない。並行して行政による一方的な現在進行形の <原発再稼働> の動きが、まさにその暴走の顕著な「表現型」である。
名誉教授の某先生は昨日の安保法案通過に反対するために一昨日は国会議事堂のデモに参加したとのことであった。「女性が多いのにびっくりした。しかし若者が少ないのにがっかりした」とのことであった。昨日の昼の衆議院での採決を自宅でテレビで見ながら小生も「ここまで長生きすべきでなかった」と感じた。デモなどに参加すればいっぺんに体調を崩すので行かなかったが、1960年の6月19日に岸内閣が強行採決した「日米安保条約」自然承認の日の国会議事堂前での徹夜の座り込みが走馬灯のように浮かんできた。白々と夜が明けて来たときの敗北感はいまでも忘れられない。当時、国会周辺に総勢5000人以上いたその東大生や教職員は、今皆さん小生と同じ心境だろうと思う。
(森敏)
追記: 学会や退職後の再就職で中国に出かける人も多くなった。彼らの中国に対する印象は、様々である。共通していることは「日本の10倍の人口であるので、急速に世界水準に学問レベルが挙がってきており、部分的にはすでに日本を凌駕している」というものである。台湾や香港のように、「100年後にはいずれ日本は中国の一省になるか、アメリカの一州になるかの決断を迫られるかも知れない」というのが実は小生の危惧する所なんだが。