2015-04-11 06:50 | カテゴリ:未分類

以下は、かつての大学院生竹田弘毅君(現・中日新聞記者)による記事です。(中日新聞掲載記事を無断転載しました、中日新聞様、悪しからず)。
  
 
現場主義学んだ師との旅
 
 
新しい画像

放射性物質が蓄積した箇所が黒く浮き上がったネズミの写真

新しい画像 (1)  
放射性物質が蓄積した箇所が黒く浮き上がったモミジの写真
以上の2枚は「放射線像 放射能を可視化する」から
 
ウシガエルとコイ、野ネズミは、ぼやけているが、何となく分かる。アゲハチョウは薄いが、それとはっきり分かる。モミジ、フキは葉脈まで鮮明だ。

 モノクロ写真で浮かび上がるのは、動植物に蓄積した放射性物質を特殊な撮影技術でとらえた画像。福島県飯舘村、浪江町などで採取されたものだ。目に見えない原発事故の影響が一目で分かる。「人の前に動植物に必ず影響が出る。だから定期的に観察して見逃さないようにしないと」。農学者の思いが2月下旬、写真集「放射線像 放射能を可視化する」(皓星社刊)として実を結んだ。東京大名誉教授森敏さん(73)と気鋭のカメラマン加賀谷雅道さん(33)の合作だ。
 
動植物の観察を
 

 4年前の夏、私は農学生命科学研究科の大学院生だった。恩師の森先生が1人で福島県を訪ね、放射性物質の汚染を調べていると聞いた。「運転手でも何でもする。連れていってほしい」。そう願い出た。「若い人はねえ」。汚染地域に22歳の私を連れていくことを先生はためらった。「現場を知りたいんです」。そう食い下がった。

 私の故郷は富山県。カドミウム汚染によるイタイイタイ病で多くの被害者が出た。大学院でカドミウムの吸収を高める遺伝子組み換えイネの研究に没頭。福島第1原発事故後は放射性物質の浄化に使えるイネの遺伝子研究にも取り組んだ。現地調査は、今このときを逃したくない、という思いからだった。「確かに、現場を見ることは何より大事だ」。最後は先生が折れ、事故から半年後、月に1度のペースで先生との福島めぐりは始まった。

 放射線量が多く、国が避難を勧めた飯舘村。ある日、村の山あいにあるキャンプ場に着いた。池のほとりに俳句が刻まれた碑。近くのベンチには端っこに2体の木製人形が寄り添うように座る。子どもなら人形は背もたれになる。そんな造りだ。池を遠巻きにコテージが並ぶ。バーベキューの炉には炭が残り、前年まで家族連れらでにぎわったことが分かる。

 「ここは死の池だ」

 あるべきはずの人影がない。時計が止まったような風景にピーピーという線量計の音だけが鳴り響いた。「とても悲しいことですよ」。ぽつりと漏らす先生の表情は、寂しさと怒りが入り交じっているように見えた。科学者として、人々の暮らしの復興に少しでも貢献できないか。そんな思いがひしひしと伝わった。

 当初、私の同行に二の足を踏んだ先生だが、本音は違った。移動中の後部座席で何度も訴えた。「土壌や昆虫、植物、動物など多くの、いろんな分野の研究者が現場に来ないと」。それには「まず事実をつかまないと、対策の立てようがない」との考えからだ。

 ある日、山と田んぼに挟まれた田舎道を車で走っていると、親子連れで20匹ほどのサルの群れが行く手を占拠していた。のどかに毛繕いをするサルを見て「人の前に必ず影響が出る」と確信に満ちて話した先生の言葉を思い出す。
 

極端な線量の差
 

 現地でなければ分からないことは確かに多かった。役場や公民館、公園など所々に空間線量測定機が置かれ、24時間、線量を示すようになっていた。ところが測定機から数メートル離れ、手持ちの線量計で測ると、はるかに高い数値、逆に低い数値がよく出た。例えば児童が避難し、人けがない小学校。その近くで松の木の根元を測った。非常に低い値だった。でも木の反対側に回ると、事故時の風向きのせいか数十倍の値を示した。数十センチで極端に違う事実は東京にいては分からなかったと思う。

 人の生活に役立つ技術を生み出すのが、科学者の役割の一つだろう。事故が起きれば当然、原因の究明、技術の改善、さらには被害対策の研究が科学者にも求められる。

 全量検査する福島県産のコメは、2012年度産は71袋が基準値を超えたが、13年度産は28袋に減り、14年度産はゼロになった。多くの科学者が放射性セシウムの特性を研究、その成果が耕作法に生かされた結果だ。

 「こんなことになるなんて。だけど村や代々続く農地を諦めたくない」。先生との調査中に出会った農家の男性が浮かべた無念そうな表情は、今も脳裏に焼き付いている。被害者に寄り添う悲しみと怒りがあってこそ、被害対策の成果につながると森先生に教えられた気がする。
 

 私は科学者ではなく新聞記者になった。現場に迫って事実をつかみ、科学の進歩、問題を両面から伝えたい。「竹田君、常に一次情報に近づかないといけませんよ」。先生の言葉を肝に銘じて。(松阪支局・竹田 弘毅)

 


追記:「この記事の中の森先生かっこよすぎません?」というのが現役の大学院生が小生にぶつけてきた感想です。いつの世も学生は歯にもの着せません。小生も学生の時はよく教授に食って掛かりました。(森敏 2015.4.13.)

秘密

トラックバックURL
→http://moribin.blog114.fc2.com/tb.php/1941-7195a7b7