2014-06-19 21:29 | カテゴリ:未分類

  

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満開のしだれ桜の下の谷崎潤一郎のお墓。
 「寂」
の一文字だけの簡素さ。



    10年ぶりに銀閣寺を見学したあと、昨年のNHKテレビ「八重の桜」の記憶では、同志社の創始者である新島襄の墓がそこらへんにあるはずだと、根拠なく「哲学の道」を歩きはじめた。途中で山側の脇道にまがって法然寺の方に入っていくと、道路を掃除している人に会ったので「新島襄のお墓をご存知ですか?」と聞いたら、「もっと向こうの山の上の方じゃないか、ここには谷崎潤一郎の墓があるよ、あそこに見える桜の木の下だよ」と予想しなかった答えが返ってきた。なぜ谷崎のお墓がここにあるのか興味を持ったので、そのお墓の見学をすることにした。

 

登っていくと、真っ白なしだれ桜が満開で、その下には二つの簡素な山型のお墓があるのだが、いずれにも谷崎潤一郎とは書かれていなかった。向かって左側が「寂」の一字で、右側が「空」の一字であった。2人の外国人女性が京都案内図を見ながら登ってきて、やはり不思議そうにだれかのお墓を探しているようだったので、その地図を見せてもらったら、やはりこのお墓のどちらかが谷崎のお墓のようであった。そこでお墓の裏側に回ると「寂」のお墓に

戒名(読めない)のあと

昭和40年7月17日

谷崎潤一郎

行年80才

戒名(読めない)のあと

平成3年2月1日

松子

 行年 89才

と、並んで刻印されていた。

 

  この桜の下のお墓という状況は、まさに西行の

「願わくば花の下にて春死なんその望月の如月の頃」を体現しているので、小説家の墓にふさわしすぎると思ったことである。

 

残念ながら浅学の小生には「寂」の字の由来がわからなかった。谷崎の小説は『細雪』は途中で断念して『瘋癲老人日記』ぐらいしか読んでいない。二人の外国人女性と英語が通じにくいのでよく聞くと彼女たちはフランス人で谷崎の小説をフランス語で読んだのだそうである。谷崎の小説は世界中で翻訳されているとのことであった。彼女たちは谷崎のお墓が余りにも小さく簡素なのですこし不思議そうな顔をしていたが、桜の咲いたお墓を背景に二人が座ったツーショットを彼女たちのカメラで撮影してあげたらとてもうれしそうであった。「寂」や「空」を英語で文学的に説明するのに苦労したがなんとか通じた様であった。ここに谷崎のお墓「寂」があるのは、隣の「空」の字の多分谷崎の親族とおぼしき墓の人(渡辺某さん)と関係があるのかもしれない。

 
     谷崎のお墓から離れて山を下りかけたら、杖をついた、柔和そうなおじいさんがうろうろしていたので、新島襄のお墓の居場所を確かめたら、「新島さんはここにはおりはらへんねん。ここは京都大学の人が多いんや、川上さんや九鬼さんもいやはるで。法然さんは仏教で新島襄はクリスチャンやから、ここに埋葬するのは無理で、ここから離れた山の上の方しか同志社の連中には墓の土地が手に入らへんやったんやないか」ということであった。彼の話では、谷崎のお墓がここにあるのは、谷崎の妹か誰かが法然寺付近に住まわれていたので、ここに建てたのだろうということであった。真偽のほどはわからない。実は「細雪」の舞台にもなった兵庫県の芦屋は小生の第2の故郷なので、この芦屋にある阪神大震災のあと訪れて損壊が少なかった谷崎潤一郎記念館はじっくりと見学したことがある。

 

 

おじいさんが親しそうにいう「福井さん」とはノーベル化学賞の福井謙一のことで、川上さんとは経済学者川上肇のことで、九鬼さんとは「いきの構造」で著名な九鬼周三のことで、それぞれのお墓に案内してもらった。小生にとっては実に意外な出会いであった。福井先生の墓には『智自在』と彫りこまれていた。フロンテア電子理論などの発想となにか由緒がある言葉なのかもしれないが、浅学の小生にはわからなかった。永田親義さんか誰か、弟子の本にこの言葉の意味が解説されているのかもしれない。
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福井謙一のお墓。 「智自在」とある。
 
 
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九鬼周造のお墓
 

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川上肇夫妻のお墓
 
 

そのあと「哲学の道」を熊野神社まで歩くと、そこに新島八重と新島襄のお墓の案内の看板が立っていた。熊野神社で弁当を売っているおばさんの説明では、八重と襄のお墓はここから200メートルへだてた上り坂の山頂付近にあり、「私もまだ行ったことがないのでくわしいことはわかりませんが、イノシシが出る場合があるので一人歩きはお気を付けください、ということです」と説明された。弁当を買って熊野神社の境内で食べたのだが、歩き疲れていたので墓参りは断念した。また紅葉の秋に訪問したいと思う。 
  
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それにしても、お墓の鑑賞も、己の無学が顕著に自覚されて、なかなか自虐的で爽快な気分です。

 
(森敏)

 

 

 

秘密

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