2007-11-04 10:18 | カテゴリ:未分類

助教授になったときに、小生のところに大学院留学したい、ポスドクになりたいという手紙が少しずつ舞い込み始めた。残念ながら当時はポスドクのポストの資金はまだ持っていなかったので大学院生としての採用が主であった。主に、インド、バングラデッシュ、パキスタン、エジプト、ヨルダン、中国、ドイツからであった。まだメールが使えなかったときなので、最近の大学教員への諸外国からの留学希望メール攻勢に比べればわずかなものであっただろう。教授になってからはメールが非常に普及してきたので、メールに履歴書を添付して留学の申し込みが殺到してくるようになっていった。当時他学科の親しい先輩教授に「どういう基準で留学生を採用するべきか?」を聞くと、「採るなら成績がその大学の学年のトップの学生でなければならない」という言下のご託宣であった。小生は劣等生であったが、その教授ご本人はトップの成績であったという評判を聞いていたので、それも宜なるかなと思った。


しかし、留学生から送られて来る学業成績証明にはその学生がトップかどうかは書かれておらず、上位5%以内の成績とか何とかの記述が多かった。だいたいそれくらいの基準でその後の在任中は何人かの学生を受け入れたが、本人面接が出来ない段階での決断はなかなかやっかいなものがあった。申請書に添付された向こうの教授達の留学生に対する推薦状も少しは参考にした。結果として、現地の日本大使館推薦の人物は間違いなく優秀であった。私費留学生は、優秀で意欲があっても、日本での生活費のやりくりが苦しいので、アルバイトもしなければならず、日本語の授業も正規には受けられなかったり、留学生会館に入りにくく、下宿先に警戒されるし、必然的にハンデイキャップを負っており、成長が伸び悩んだケースが多かったように思う。こういう私費留学生を一人抱えると、教員は資金面と時間面で日本人学生の3倍のエネルギーを使うというのが教員仲間の隠れた定説であった。何らかのボランテイア精神を強いられることが多かった。 


教授になってからは、外国の知人のテニュア(終身的地位)昇進への推薦状、教授昇進への推薦状など何通も書かされた。また、外国のいくつかの大学の人事部から膨大な業績を付した人事評価書への記入を何回か求められたりした。この作業は結構骨が折れるものであった。送られてきた業績を丹念に検討して的確な評価書を書く必要があった。これには専門雑誌の投稿論文へのレビューよりもはるかに負担を感じたものである。よく知っている彼や彼女が小生の評価の一文で昇格できなければ国際学会で会ったときに恨まれるのではないかなどとよけいな心配もしながら。。。しかし幸い昇格しても彼・彼女らは建前上小生による評価の結果を知っているわけでもないので、そのあと国際学会で会っても研究上の議論はしてもこの件ではお互いに知らん顔であった。


 問題は国内の他大学の研究者も含めて学部学生や大学院学生やポスドクの、留学や就職の推薦状を小生が書かねばならない場合に関してである。まず彼・彼女らには自分自身で推薦状を書かせ、それに小生が手を入れることにした。普段自分を客観的に見ることがあまり無い彼らは初めて自分を冷静に分析することとなるのでこの作業は彼らにとっては結構苦痛のようであった。だいたい良い点は大いにほめたが、努力が必要な点も指摘した。採用する側からすれば、本人面接が第一義で教授の推薦状なんかはほんの参考にしかすぎないのであろうから、本当は意味のないことかもしれないのだが。


  最近、アメリカに行ったポスドクからメールが舞い込んできた。彼に関しては、さる私立大学の教授がポスドク期限が切れるのでアメリカに留学させたい部下がいるのだが、留学に際してぜひ推薦状を書いてもらいたい、ということであった。教授が、これまで出版されたそのポスドクがfirst author(筆頭著者)の論文とin press(印刷中)の論文を携えて、本人をつれてきた。1時間ばかり面接した。そのあとインターネットなどで2-3の留学先を探していたらしいが、さる外国の教授から「直接メールで彼にかんする推薦状をもらいたい」という急いだ要求が舞い込んできた。さすがにこれは本人に自薦書を書かせてそれを小生がデフォルメする時間が無かったので、すぐに推薦状を書いて送った。幸いすぐに採用が決まって1ヶ月もしないうちに彼は夫婦でアメリカに飛び立っていった。

   その彼が、半年経って初めてメールをよこしてきた。向こうでの研究が軌道にのって「科学研究費の班会議で偉い教授連中の前で初めて英語でスピーチをした。非常に緊張したがいい刺激になった」というメールであった。少し気弱で英会話もたどたどしい感じがした人物であったが、外国で成長しているのだなーとメールの文面を読みながらこちらがうれしくなってしまった。(森敏)


 

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