2008-06-20 11:02 | カテゴリ:未分類

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アケビからの連想

 

通勤経路の一軒家の板塀にはあけびが塀いっぱいに絡ませている。秋になると数少ないのだが紫色の実が成っている。つい一ヶ月前まではきれいな花(写真)が群をなして咲いていた。

 

大学に入った年(1960年)の秋に入学直後からの安保闘争に疲れて、クラスのルカーチ・ジェルジの『美学』の読書会グループの一員として小生も中津川渓谷にピクニックに出かけた。その時渓谷美を楽しみながら、道沿いにふと目にした紫色のおおきなふくろ状の果実がアケビだと初めて誰かが教えてくれた。開けてみるとほとんどが無数の種(たね)で美味ではあるが果肉として食べるところが少ない。関西で小生は小・中・高と10年間を六甲山を庭のように駆け回(めぐ)っていたが、当時このような実は全く見かけなかった。

 

このルカーチの『美学』は城塚登の訳であったと思うが小生にはとても難解で、何度も何度も繰り返し読んでも理解できないところが多かった。哲学書に挫折しかかった最初である(読書会は途中で自然消滅したので、結局独力では読み切れなかった。それにつけても日本のドイツ学派は何でそんなに原文をむつかしく訳すのだろうと今更ながら思う。)

 

しかし大学入学当初から、小生は、「科学者になるにはどういう能力が必要とされるのだろうか?」と素朴に疑問に思っていたので、この本の中でいまでも唯一覚えている言葉は『直感はいずれ論理的に解明されるものである』というようなことが書かれてあった事である。今は手元にその本がないので正確には言い表せないが。

 

仲間のうちでも5才上の一度社会人を経験してきた某君は、そんな難解な文章をいとも簡単に解釈してみせるのであった。彼我の違いがどこから来るのか、小生は劣等感の固まりになった事を覚えている。

 

その後、専門課程の農芸化学科の3,4年生の時には、勘とは? 直感とは? 独創性とは? という問題にのめり込んでいった。あらゆる書物を読みあさった。もちろん、当時流行した科学論や技術論も真剣に勉強した。しかし当時の、バックに政治的イデオロギーを含んだ日本の科学技術論争はなかなか悩ましい論議が展開されていて、うまく頭の中では整理できなかった。

 

それから48年経った今、当時の原光雄らの『技術とは労働手段の大系である』という学派と武谷三男らの『技術とは客観的法則性の意識的適用である』という学派のどちらが「技術」の概念として科学者や技術者に影響力を与えたかを考えれば、小生の感覚ではそれは後者であったと思う。しかとした証拠があるわけではないが。

 

一方、話を戻すが、大脳生理学が発達したといっても未だに『直感』は科学で解明されているとは云えないのではないか。

 

確かに数学者は取り組んでいる ≪難問≫ に対する答え、すなわち ≪解≫ が、ある日突然頭の中に “ひらめいて”、そのあとにその結論に至る論理の過程を延々と論証していくのに数十日や数百日や数年かかるというと言うことである。それはこれまでに多くの数学者によって構築されてきたいろいろな定理や公理を駆使して論証されていくのであろう。そういう意味では、ルカーチのいうように『直感はいずれ論理的に解明されるものである』のかもしれない。

 

しかし、我々実験科学者は、自然の階層構造の「法則性を発見する」ときには、直感により仮説を立ててそれを実験で証明する、と言うやり方で一歩一歩前に進む方法を採っている。であるから、我々の大脳の中でその『仮説』が直感によってどのように構築されていくのかが、自分自身で一番の知りたい点である。仮説を立てるときに頭の中でどのような情報操作が行われているのであろうか? この点について自分で自分の大脳を切開するには全く力が足りないが。

 

いずれにせよ、以上の仮説演繹法の手法で <通常科学> を丁寧に行っている中でこそ、<特殊>な事象 (自然現象の特異点と言っていいかもしれないが)が捕らえられるのである。そのような幸運の女神に微笑まれた彼/彼女は、彼らが究明しているその分野の自然の階層の法則性の認識に対してあたらしい <パラダイム変換> を起こすことになるのであろう。

 

これは例えていえば、”蜘蛛(くも)はひがなたゆみなく精緻な網を張っているからこそたまに巨大ギンヤンマを捕らえることが出来る”ということなのである。

 

(森敏)

追記:この文章の後半で出てくる、<自然の階層構造><仮説演繹法><通常科学><パラダイム変換>等という言葉は、科学技術論の常套語であるのでついついつ安易に使ってしまった。これを懇切丁寧にかみ砕いて説明するには、なかなか時間がかかりそう。これだから学者はだめなんだ、とまたまた非難されそう。すみません。

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少し成長したアケビの実(2008年7月1日) 

 

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板塀のアケビの垣根から原因不明で落下し始めた

アケビの実 ( 2008.7.22.)

 

 

 


 

 

秘密

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