WINEPブログ
福島で生態調査していると、ツバメが目に飛び込んできた。その飛跡を追うと、なんと、今は人が避難して閉じられている商店の、屋根の軒下にツバメの巣が2つあり、その一つに出入りしていた。(写真1)
写真1(ツバメが何かしている)
巣をよく見ると、まだ声がしないので、雛がいないか、まだ誕生していないかと思われた。雌が卵を暖めて、雄が餌をはこんでいるのかもしれない。飛んできたツバメが巣にはいると、なんだかあわただしい雰囲気である。同じツバメが頻繁に出入りしている模様である。
巣の内装はわからないが、外装の巣造りは終わっているものとみた。写真を拡大してみた。(写真2)
巣の材料は、わら、枯れ落ち葉、木の小枝、水田の土壌などである。よく考えてみると、これらのものはすべて地表付近のものであり、放射性降下物が濃厚に集積している部位の材料である。
この付近の田んぼの空間線量は4~5µSv/hであり、土壌表面は5~10µSv/hである。であるから、この土壌を使ったツバメの巣は相当な放射線量だと考えられる。ここで今、卵から雛(ひな)が誕生しつつあるのかもしれない。(写真3)
(写真3)田んぼのあぜ道の放射線量は4.66 µSv/h.
卵から雛がかえって、巣立ちするまでに、1-2ヶ月かかるとして、ツバメの幼鳥はどれくらい被曝するか計算してみた。
5(µSv/h)x24(時間)x30(日)~10(µSv/h)x24(時間)x60(日)
幼いツバメは巣にいる短期間の間に相当な被曝をすることが明らかである。
一般的にツバメは民家の軒下に巣を作る。今や除染活動の中で明らかになったことであるが、雨樋(あまどい)は放射能汚染落ち葉が集積していたり、屋根瓦の放射能を洗い出したものが吸着しており、民家では最も汚染度が高くなっているカ所である。軒下のツバメの巣はそこからの放射線をもろに浴びることになる。(福島市街の地下道をあがったところの屋根の雨樋は40µSv/hを示していた。)
去年と同様、今年のツバメも大災難である。
すでに、何人かの生態学者から紹介されているが、チェリノブイリ原発事故では、事故後のウクライナでは、のどの毛色がアルビノ(白化)の突然変異ツバメが全体の15%まで有意に増えていたと報告されている。これは驚くべきことだと思う(下の書物からの転載写真Fig.16の右のツバメ)
(森敏)
付記1:チェリノブイリ原発付近の重度汚染地域ではツバメの生残率がほぼゼロであった。また異常な精子(偏頭、双頭、2つのしっぽ)の率も有意に高かった、と以下のように記されている。
offspring survival rates (Møller et al., 2005).
Abnormal spermatozoa (head deviations,
追記2:読者から以下の意見が寄せられています。
「サーベイメーターの数値は通常1cm線量等量というものを表示しています。
これは人体の模型で1cmの深さの位置での線量です。
ヒトだと1Sv=1Gy(ガンマ線の場合)なのですが、ツバメの計算に用いてよいかはよく分かりません。(多分良いと思いますが。)
本来はGy/hで表示されるサーベイメーターを用いて計算するのが正しいかと思います。」
ここで(Gy/h)という単位を用いると、ややこしくなるので、今回のブログの文章はあえて、このままにしておきます。(2012.7.30. 森敏)
既にご承知かと思いますが、ツバメに関する調査をまとめておきます。
◎日本野鳥の会 「ツバメの営巣調査」
https://www.wbsj.org/nature/research/tsubame/survey2.html
詳細調査では、雛の数、部分白化、尾羽の異常だ調査項目に入っています。
◎山階鳥類研究所 「ツバメの巣の回ご協力のお願い」
http://www.yamashina.or.jp/hp/oshirase/tsubamesu.html
2012年3月終了。(昨年度の巣)
先生ご紹介のチェルノブイリの調査は、
http://cricket.biol.sc.edu/chernobyl/Chernobyl_Research_Initiative/Chernobyl_Abnormalities.html#2
確か以前紹介された方がおられたと思いますが、カラー写真で見られますね。(日本野鳥の会が調査のためにリンクしています。)
それと、以前先生が記事にされた外国の調査団(日本の研究者との共同調査)は、
◎バードリサーチ 2月号 に出ています。
http://www.bird-research.jp/1_newsletter/dl/BRNewsVol9No2.pdf
(いわゆる定点観測ですが、アバウトです。)
ここの5月号
7.◆活動報告 ◆ 福島第一原発周辺のツバメたち -無人の町でも営巣していました-
http://www.bird-research.jp/1_newsletter/pre/BRNews0905.htm
チェルノブイリで調査した、ムソー氏が入ってますね。
ところが、脇芽からのびたある蔓だけ、葉が柳のように切れ込みのないほそい葉になり、切り咲きの花が咲いています。昨日は、くるくるっと螺旋状に巻いた花が咲きました。朝顔というのは、こういう変異がよく起こるものなのでしょうか?
WINEPブログで紹介すれば、ブログを見ている方から何かヒントが得られるかも知れません。
winep@bird.ocn.ne.jp
に貼付でお送り頂ければ掲載してみますが。
小生の知見では、写真を見ていないので、想像で申していることになりますが、
花の花弁が柳状に切れ込む変異は高崎原子力研究所で、いろんな植物種子に重イオン照射した変異株に見られますね。
茨城県のガンマフィールド放射線育種によるといわれている、チューリップにもそういう変異品種がありますね。
疑問点は、ご質問のように
①その朝顔の種子が昨年(?)どこで栽培されて取得されたものであるか?
②栽培中にもしかしたら、東電福島原発からのフォールアウトを花芽形成の時に受けたのか?
③通常宇宙線などの影響ででよく起こる変異であるか?
等々ですが、症例がもっともっと出てこなければ原因についてはまだまだ何とも云えません。
朝顔に出やすい変異株の症状かどうか、残念ながら小生は詳しくはないです。
ですから、全国に呼びかけてみたらいかがでしょうか、と思う次第です。
明解なお答えにならずにすみません。
森敏