2012-07-10 09:37 | カテゴリ:未分類

       「ヒ素をリンの代わりに取り込んで生きる菌が見つかった」というニュースを聞いて、当時小生は植物栄養研究者としてとても不信感を持った。超微量のリンを完全合成培地から除くことは至難の業であるし、菌体自身からの持ち込みを防ぐことも困難だからである。

   

こういう、人がやった奇妙な発見に対して、「そうではない」という反証実験をするのは、なかなか勇気と金と暇がいる。反証できても、あまり面白いことではないからである。
 

  ましてや自分の専門分野でもなければ誰も反証に手をつけないだろう。そうするとそれがそのまま科学的成果として定着してしまう恐れがある。
  

 

今回はその反証をやった研究者がいるらしい。結構なことだ。
 

 

サイエンス誌は時々このような間違ったトリッキーな成果を面白おかしく掲載する。アメリカの国策商業誌としては、正しくても正しくなくても、一時期にせよ世間をにぎわせればいいのである。この事件にはアメリカ航空宇宙局(NASA)が噛んでいることが象徴的である。  
 

  その結果雑誌の購読者数が増えればいいのである。電子ジャーナルとしてのアクセス数が増えればいいのである。つまりこの雑誌はあーでもないこーでもないといいながら飯を食うジャーナリズムの一種である。かつての「低温核融合」が典型例である。

  

  この雑誌にはいつも眉唾で接する必要がある。こんなことは研究者の間では常識であるが、日本の科学ジャーナリストではそうではないところが問題である。
 

    

米科学誌:NASA発表の「ヒ素で生きる細菌」は誤り

毎日新聞 20120709日 1957

 有害なヒ素を取り込んで生きる細菌を見つけたと米航空宇宙局(NASA)が2010年に発表した論文は、実験データの解釈にミスがあった可能性が強まり、米科学誌サイエンス電子版が9日、誤りを指摘する2本の論文を掲載した。

 細菌発見時の論文は同誌に掲載され、NASAが「常識はずれの生命」などと大々的に発表していた。同誌は9日「この細菌は、生命の定義を変えるような存在ではないというのが結論だ」とするコメントを発表した。

 細菌は、高濃度のヒ素を含むカリフォルニア州のモノ湖で発見され、生命活動に不可欠な元素のリンのかわりにヒ素を取り込んで成長できるとされた。(共同)

 

 

(森敏)
 

追記:朝日新聞が8月2日号で、「ヒ素で細菌は生長できるか」というタイトルで紙面の半面の記事を書いている。この一番最初のサイエンス論文の真偽を現地(モノ湖)を訪れ、論文の著者デアルローレンスバークリー国立研究所のウルフサイモン博士に取材している。NASAは取材に応じていない。
 

この論文がインチキであることを証明している著者ローズマリー・レッドフォード準教授は、ブログで「(論文の著者から審査員、NASAまで)多くのひとが間違いに関わったわけだが、不正行為ではなく、単なるヒューマンエラーであってほしい」と皮肉っているとのことである。
 

科学記事を書く記者が、こういう取材をすることはとても良いことだと思う。これからもNASA発の記事には眉唾で望んだほうがいいだろう。
 

(8月4日 森敏記)

秘密

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