WINEPブログ
飯舘村で雨の降る中での植物の採取は困難であったので、竹藪や杉林の中で、網を張っているジョロウグモ(Nephila clavata)を捕獲してきました。
クモは直接土を食べるかどうかわからないが、網にかかった蝶やアブやカナブンなどを食べて林の中の食物連鎖の上位に位し、放射性セシウムを濃縮しているだろうと考えたからです。
捕獲したジョロウグモを1匹ずつ測定用のポリビンに入れている様子。
ジョロウグモを4匹一緒にしてGe半導体で、放射性セシウム (Cs-137とCs-134) を分析しました(図1)。すると、Cs-137のエネルギーピークである661.7keVの隣の657.8keVの位置にほぼ等量の未知のエネルギーピークを見いだしました(図2)。
(図2) Cs-137のとなりにAg-110mのピークを検出。
これを同定するとAg-110m(銀の核異性体:半減期249.5日)の放出する4つのガンマ線の1つのピークであることがわかりました。他の3つのピークも検出されました(図3)。
(図3) 4つのAg-110mのガンマ線のピークを同定した。
したがって、ジョロウグモが東電福島原発由来の放射性降下物である超微量の放射性銀(Ag-110m)を濃縮していることがわかりました。クモの放射能の濃度は
Cs-134(2.9Bq/4匹 )+Cs-137(3.9Bq/4匹) = 3656Bq /kg生体重
に対して
Ag-110m (2.6Bq/4匹)=1397Bq /kg生体重
でした。
この林の汚染土壌のCs(137+134)とAg-110mの存在比は、約2500:1 でしたので、上記の数値を用いて計算すると、ジョロウグモは約1000倍にまで土壌の放射性銀を生体濃縮していたことになります。
昆虫が銀を高濃度濃縮するという知見はこれが世界で最初の発見です。また、すでに林内で放射能の生物濃縮が始まっているということが明らかです。
この研究の詳細は11月26日(土)日本土壌肥料学会関東支部会(松戸の千葉大園芸学部)で発表します。乞御来聴。
(森敏)
付記:計測に際しては、東京大学大学院農学生命科学研究科・田野井慶太朗助教のお世話になりました。
追記1:ここで用いた生体濃縮の定義は、セシウムに対する比率で計算したものです。詳しくは論じませんが、放射性セシウムの生体濃縮の定義によっては、ジョロウグモの銀の濃縮度は、これよりもけた違いに高くなる可能性があります。
追記2:この記事を書いた一日あとに、文科省は、Ag-110mの土壌汚染のデータを初めて公表しました。相変わらずの後出しじゃんけんですね。
追記3:読者の熱意により、この放射性銀のブログが、以下のホームページに英文に翻訳されました。興味のある方は覗いてみてください。
http://ex-skf.blogspot.com/2011/11/radiation-in-japan-spiders-in-iitate.html
追記4:読者からクモは節足動物ではあるが昆虫ではなく鋏角亜門に属するという、ご指摘がありました。ありがとうございました。(2011.12.15.記)
今まで、Ag-110mについては放出量が少ないために影響がないと言われ続けてきましたが、この発見は放射性核種により生物濃縮が多岐にわたる事例として貴重な発見だろうと思います。(厄介な問題ですが。)
ジョロウグモがAg-110mを高濃度に濃縮した原因について推論すると、
1、クモなどの節足動物、イカ・タコなどの軟体動物が、酸素を運搬するために「ヘモシアニン」を持っているということ。イカの肝臓でAg-110mが高濃度に濃縮される事が知られている事から、クモの体内でもヘモシアニンの銅が銀に置換されるような反応が起こった可能性が考えられます。
2、Agの植物への移行係数はCsより高く、0.1〜1程度が考えられるので、植物を食べる昆虫がAgを多く摂取していると推察されます。そのために、これらの昆虫を捕食するクモはより高濃度のAgを摂取し続けていると考えられるでしょう。それと上記1の作用が加われば、より高濃度に濃縮されるのではないでしょうか。
上記のように推察してみました。
銀の濃縮に関しては放医研のホームページにイカやタコなどの海産物の研究が紹介されています。銀の結合の相手方は多分ヘモシアニンと思われます。(ほかのタンパクが見つかれば面白いですが)
草(植物) -> 草食昆虫 ->クモ の食物連鎖を考える場合、植物による銀の濃縮係数がいくらなのかは、これまで全く気にかけておりませんでしたので、これは植物栄養学としても、おもしろいテーマです。
ご指摘ありがとうございました。
(森敏)
福島原発、日本の放射能汚染に関して、英語と日本語でブログを書いておりますが、先生のこのポスト、このまま英文にしてブログで紹介したいのですが、よろしいでしょうか?お知らせ願えれば幸いです。
ex-skf.blogspot.com (English)
ex-skf-jp.blogspot.com(日本語)
いずれ英語の論文を書いて、どこかに投稿するつもりですが、
そういうことよりも、
放射能汚染の問題は、
まず、世の中に発信することが重要だと考えて、、
論文よりも優先して、オリジナルな仕事でも、
ブログに発表しているつもりです。
今後も、ブログを引用紹介して頂ければ光栄です。
(森敏)
http://ex-skf.blogspot.com/2011/11/radiation-in-japan-spiders-in-iitate.html
それと、もうご覧になったかもしれませんが、東北大の研究で、警戒地域の牛の肝臓から高濃度で放射性銀(Ag-110m)が検出された、というニュースです。ご参考まで。
http://savechild.net/archives/11962.html
これからもよろしくお願いいたします。