2011-09-30 07:12 | カテゴリ:未分類

  以下の文は、すこし専門的になりますが、放射能被災水田農家や農業技術関係者には、ぜひ我慢してお読み頂き、実践の参考にしていただければありがたいです。

       

  今回、二本松市で玄米での500ベクレル/kgの値が出たことに関しては、予想外の事態ですが、我々はこの事実を、冷静に分析しなければなりません。

       

  そこで過去の文献を調べてみると、放射性セシウムの施用位置と施用時期によって、最終的に玄米の放射性セシウム含量が、大きく変化するという、先駆的な文献があることがわかりました。これまでも紹介したことがある我が先輩の天正・葉・三井の論文です(付記1 参照)。以下の表は、その論文からセシウム関連部分のみを抜き出して小生が作図したものです。
   

       

水稲による134Csの吸収分布

134Cs

作物体

134Cs濃度

134Cs吸収量

施用法

部位

(対風乾物)

x10

分布比

 

 

cpm/g

指数

cpm/pot

(%)

全層基肥

上位葉

847

100

79

14

 

下位葉

1212

141

154

26

 

茎及葉鞘

1004

119

226

38

 

穂梗

1050

124

21

3.6

 

籾殻

723

85

60

10

 

玄米

186

22

50

8.3

合計

 

 

 

590

100

表層基肥

上位葉

535

100

45

14

 

下位葉

726

136

82

25

 

茎及葉鞘

639

119

130

40

 

穂梗

507

95

9

2.8

 

籾殻

411

77

32

9.6

 

玄米

112

21

30

9.2

合計

 

 

 

328

100

表層追肥

上位葉

1002

100

97

14

 

下位葉

790

79

104

14

 

茎及葉鞘

1227

123

304

43

 

穂梗

1279

128

27

3.6

 

籾殻

948

95

81

11

 

玄米

281

28

102

14

合計

 

 

 

715

100

  

    

  この論文の一番左の134Cs施用法という欄は、ポット栽培のイネに放射性セシウムの与え方を示したものです。この3種の実験方法で得られたデータを比較することは、今回の二本松市の水田現場で得られた予想外の事態を解釈する上で非常に重要なポイントです。論文の本文から引用すると、

       

 
134Cs
は high specific activity(3578 mc/g)のもので、その約100 ずつを約100 mL の水溶液とし、つぎの3通りの方法で、各ポットに施した。すなわち、移植前日に肥料施用と同時に施す区(全層基肥区)、移植前日に肥料施用後の表土に施す区(表層基肥区)、と幼穂形成期に湛水状態の土表に施す区(表層追肥区)の3種である。


     

  その結果 「玄米の134Cs濃度」を縦に見てください。表中に赤字で示すように、表層追肥区(281)> 全層基肥区(186)> 表層基肥区(112) の順に放射性セシウム濃度(Bq/kg) が高いことがわかります。

 

  また、これと同様、植物体による「134Cs吸収量」に関しては、表中青字で示すように表層追肥区(715)> 全層基肥区(590)> 表層基肥区(328) の順に放射性セシウムの総吸収量(cpm/pot) も高いことがわかります。
  
  それにつれて、表層追肥区(14%)、表層基肥区(9.2%)、全層基肥区(8.3%)の順に全植物体に対する玄米の放射性セシウム含有比が高くなっています。表中緑文字を見てください。

  
      

  これらの結果は、非常に貴重なものです。以下詳しく解説いたします。

        

1.放射性セシウムの全吸収量と玄米での放射能濃度が一番高かった表層追肥区」では、幼穂形成期に放射能を表層に施肥しています。この結果から考察するに、もし穂形成期以降に植物に吸われやすい水可溶性やイオン交換性の放射性セシオウムが含まれる湧水を農業の現場でかけ流した場合には、イネによって非常に吸収率が高くなるということを強く示唆しています。実は、この時期にはイネの直径の細い上根(うわね)が土壌の表層にマット状に発達しますので、根の吸収総面積が急激に増えます。それがポット試験での放射性セシウム量を他の処理区に比べて増加させた原因です。

 

2.一方、表層基肥区」にも土壌の表層には放射性セシウムが沈着しているのですが、基肥時期に入れているので、この幼穂形成期以降になると、セシウムはすでに土壌と固着して、植物に吸収されやすい形のセシウムの量がかなり減少していると考えられます。また、この区では幼穂形成期以前に下方に伸びた深い根は、幼穂形成期に土壌表層に与えた放射性セシウムとほとんど接触しないので、セシウム吸収していないと考えられます。それが、この区が他の2区に比べて放射性セシウムの総吸収量が低い理由です(青字)。しかし、上根の吸収力が強いので、玄米ができる登熟期に上根が吸ったセシウムは優先的に玄米に移行していると考えられます。これが全層基肥区よりも玄米中の放射性セシウム含量が高いゆえんと考えられます。

 

3.全層元肥区」が放射性セシウムの総吸収量や玄米濃度において他の2区とくらべて中間値を示しているのは、この区では放射性セシウムが土壌に均一に混ぜられているので、イネの根の発達につれて土壌の全分野からセシウム吸収はしているのですが、急速に放射性セシウムが土壌に固着していくので、イネに吸収されうる放射性セシウムが次第に減少していく。幼穂形成期以降の根からの吸収量が表層施肥区に比べて高くならない。したがって玄米に栄養分が転流すべきときに、セシウムの転流量が少ないのだと考えられます。  

 

  したがって、この実験から推定されることは以下のとおりです。
   

田んぼの土壌が放射性セシウムで汚染されている上に、絶えず水管理のために、湧き水を使って、田んぼをかけ流しする、という丁寧な技法を使ったばあい、非常に皮肉なことに、その都度、森林から溶け出した(新鮮な!)濃い濃度の可給態の放射性セシウムを、イネに供給し続けることになる(付記2参照)。幼穂形成期以降に吸収された放射性セシウムは玄米に非常に移行しやすい。

 

         

(森敏)

       

付記1:以下の文献です。

天正清・葉 可霖・三井進午:水稲及び陸稲による土壌よりの134Cs及びKの吸収と作物体内の分布 日本土壌肥料学雑誌30巻第6号253-258頁(1959)

     

付記2:下記の文科省のデータには、森林内の雨水と森林外の雨水のセシウム濃度が詳しく調べられています。これも以下に述べるように非常に貴重なデータです。

 

http://radioactivity.mext.go.jp/ja/distribution_map_around_FukushimaNPP/0002/5600_091412.pdf

     

この放射能汚染森林現場での研究結果によると、雨に含まれる放射性セシウム濃度は
   

林外雨: 0.76 Bq/kg

林内雨 

  広葉樹: 79.8 Bq/kg 

針葉樹 

   若齢杉: 174 Bq/L  樹幹流  73.5 Bq/kg

     壮齢杉: 245 Bq/L  樹幹流 108.2 Bq/kg

 

であり、したがって、林内雨が流れてくる湧水の濃度は雨水の100倍以上の濃度になっていることがわかります。こういう高濃度放射性セシウムの新鮮な水が、イネの幼穂形成期以降に水田に直接導入されると、イネの上根(うわね)は直ちに吸収して、穂に転流して、玄米中の放射性セシウム濃度を高めることになると考えられます。

 

農水省や試験場の技術者は、すでに気が付いていると思いますが、この文科省の林学関係者が丹念に研究したデータは、今回の湧水田で500Bq/kgの玄米が発生したゆえんを解釈する際に非常に重要な示唆を与えていると思います。

秘密

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