2011-09-22 03:55 | カテゴリ:未分類

  もうすぐ台風が来るという曇り空のもと、福島の放射能強度汚染区域で、車をゆっくりと転がしていると、立派な首輪を付けたイヌが対向車線の路肩にへたりこんでいた。車を止めると、ぬっと首をもたげて立ち上がり、車線を横切ってほんとうによたよたと車に近づいてきた。元気がないのは腹が空いているのかと思って、窓からパン切れをなげてやったのだが、クンクンしげしげと見つめはするものの、食べようとはしなかった。
 
    見られるのがイヤなのかと思って、少し車を前に走らせて、ついでにもう一切れのパンを放り投げたのだが、追っかけてこなかった。しばらく車を止めて観察したが、イヌはときどきこちらを眺めるのだがパンを食べる様子がなかった。(しかし、帰りに同じ場所を通ったら、パンはなくなっていた。)

       
  車をころがしながら幹線道路から脇道にはいると、避難して無人らしくほとんどの民家が全部の窓をカーテンをして、入り口のドアを閉めている様子である。さらに脇道に入ったところ、いきなり民家の庭に乗り上げてしまった。庭には大きな犬小屋があり、そこからイヌがこちらを見ている。吠えるのかと思ったのだが、一声も吠えない。そのイヌがゆっくりと立ち上がって、犬小屋から出てきた。
 
    大型犬だが、がりがりにやせていて、それがなんと<がにまた>によたよたと歩んでくる。黙ってみていると、こちらの顔を見て、「何もしてくれない」、とあきらめたのか尻を向けて又犬小屋に帰りかけた。そこで「そーらたべろ!」とパンを半切れ放ってやったのだが、気が付かないのか、興味がないのか、振り向きもせず、そのまま小屋の中に入っていった。
 
    と思ったら、もう一匹、小型の黒ぶちの犬が同じ犬小屋から出てきた。大きい犬小屋だと思っていたらイヌが2匹もいたのだ。今度の犬はこちらを見ているが、車を遠巻きにとろとろと歩いて、決して一定の距離からは近づいてこない。このイヌも一声も吠えない。パン切れを放ってやったのだが、全く知らんぷりである。
 
  と、先ほどのイヌが小屋からまた顔を出した。そこで今度は車から出て行って、先ほどのパンを拾って、きちんと犬の鼻の前になげてやった。だが、座ったまま匂いは嗅ぐが、知らんぷりである。
 
   飼い主が時々えさをやりに来るのか、もう来ないのか、玄関にえさ用と思われる金ダライがあったのだが、中にはなにもなかった。犬たちは水をどこで飲んでいるのだろうかとすこし気になった。

       

放射能汚染調査中、これらのイヌ以外に、あと3匹の放浪するイヌに出会った。彼らはみんな首輪を付けていた。きっと飼い主を毎日待ちこがれているのだ。これらのイヌは食欲よりも第一に飼い主の愛情に飢えているのだ。彼らには訪問者が飼い主かどうかが最大の関心事なのだ。いつもせつなく待ち続けているのだ。主(あるじ)から以外の食事は、すぐには食べない矜持があるのだ。
  
   
(森敏)

       

秘密

トラックバックURL
→http://moribin.blog114.fc2.com/tb.php/1259-f7622e18