2011-08-12 14:28 | カテゴリ:未分類

 

  唐突な要望かもしれないが、日本の農学研究者の最低1000人ぐらいは福島周辺の農地生態系の放射能除染問題にかかわってほしい。

 

  東電福島原発での土壌の除染問題では、現在水田の除染に関しては農水省や福島農試がいくつかのプロジェクトを走らせているので、稲の収穫期を迎えて、秋ごろには何らかのまとまった成果が出てくるだろう。今後はその成果の上に立って、次の戦術を立案することになるのだろう。このために今季に8月までに使い切るべき研究費として急いで投入された除染のための特別推進研究はわずか4.9億円である。こんな少額の予算で何ができるだろうか!

 

  しかもいまのところ水田以外の畑、果樹、林地の除染に関しては、どこにも明確な動きが見えない(動きがあるのかもしれないが少なくとも発信していない)。いくつかのボランテイア団体や企業が除染法のハードウエア開発に現地に入りこんで取り組んでいるようだが、まだ成果のほどが一切表面には見えてこない。

 

  しかし、顕著な成果がただちに出てこないのはあたりまえのことだと思う。既存の<解>があれば、チェルノブイリ以降25年たったいまでは、すでにチェリノブイリには住民が戻って、営農活動ができているはずだからである。それほど放射能汚染土壌の除染は最困難な研究対象なのである。

  しかも日本にはきわめて特殊事情がある。世界の放射能汚染研究は畑や森林であり、福島の農地作物の主要面積を占める水田土壌はアジア固有の生態系である。しかも、福島の土壌は、日本固有の黒ボク土(Andosol)である。水稲もアジア固有の作物である。したがって、水稲を植えるべき黒ボク土水田土壌での放射能除染研究は世界的にも全く例がない。つまり未知の分野に近いのである。

    

  先日8月7-9日の3日間、日本土壌肥料学会が筑波大学の国際会議場で開催され,猛暑のなか500余の発表演題があり1000人以上の参加があった。(ちなみに持参した放射線線量計では駅から会場までのケヤキ並木の下では0.12-0.25μシーベルト/hrを示していた)

 

  500点余の演題のすべてがポスター発表で行われたのだが、セシウムやストロンチウムの研究は北大の1点のみで、これは原発事故が起こる前からの地道に研究がスタートしていたもので発表が間に合ったものである。土壌・肥料・植物栄養学分野でも来年は少し発表件数が増えると思われる。特に期待されるのは土壌学分野での研究である。土壌汚染問題で土壌学研究者がこの問題に取り組まなくてどうするのだと思う。

 

  今回のポスター発表では全部合わせると(きちんと集約したわけではないが)約50点ばかりが水田などのカドミウム汚染対策に関する研究であった。この分野の研究は直近の5年間で急速に先端的な基礎研究成果が出始めたものである。
   
  その理由は農水省や文科省がCodex委員会のコメ(白米)のカドミウム規制値0.4ppmに危機意識を感じて、白米のカドミウム低減の手法の開発に毎年数億円規模のプロジェクト研究費を投入したからである。その結果、詳細は述べないが、植物分野では完全に近いぐらい遺伝子レベルのカドミウム代謝が解明され、品種の開発の原理が得られ、低カドミウム米などの実用品種も開発されつつある。カドミウムの土壌中の存在状態の詳細な研究も進められている。

 

そこで提案である。

 

  今回日本土壌肥料学会に参加した個々の若手研究者の中には、正義感に燃えて、あるいは基礎研究としての強い興味から、土壌のセシウム除染の研究をやりたいという声がひしひしと伝わってきた。すでに個人的に、現地入りしている研究者もいる。東京大学農学部のように福島県農試と共同研究に踏み切っている組織もある。
 
  しかし、個々の研究者がセシウム除染研究に、現在の研究からシフトするためには、何をおいても、研究費が必要である。放射能を公然と扱える施設への出入りが必要である。放射能を分析できる高価な機器が必要である。何よりも、現地で行動するためには、文部・農水・環境・厚労省などによる公的研究費にもとづいた研究であるという、お墨付きが必要である。
   
  汚染現地での資料採取や調査研究ができる研究者を官庁との手ずるがある特権的研究者のみに任せてはならない。除染研究を一部の研究者に囲い込ませてはならない。そういう研究はかならず堕落するだろう。国家予算の浪費に通ずるだろう。
 

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現状では警戒区域に立ち入りができないので大学人や民間人はこういう研究ができない! 
       

  だから、政府には菅首相が退陣して、復興予算の確保ができたら、直ちに土壌の放射能除染のための研究費の投入を行い、あらゆる大学や民間の研究機関にも公募するように考えてほしい。
 
  私見では放射能土壌除染の問題ばかりは、まだまだ手法の開発が手さぐりなので、多くの研究者の参入が絶対に必要である。農耕地除染を加速するためには、現在のように少数の国研の研究者だけのアイデアに任せておくわけにはいかないと断言できる。
    
  今後の原子炉の廃炉に群がる原子力マフィアのゼネコン(*)

わけのわからない土壌除染を始める前に、森林・畑・水田・河川の農地生態系の物質循環がきちんとわかった研究者による総合的なプロジェクト研究が、直ちに立ち上げられる必要がある。

(*)福島第一原発の処理で焼け太る「原子力マフィア」 原発の深い闇 別冊宝島p144-149 所収

 
       

(森敏)
    

秘密

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