2008-05-09 08:44 | カテゴリ:未分類

ichibannutsukushiku

一番美しく

 

「一番美しく」(昭和19年作)(脚本監督黒澤明 主演矢口陽子)をテレビのBS2局ではじめてみた。全国から学徒動員された女工の集団寮生活の女性心理模様を描いたものである。見ていて第2時世界大戦の真っ最中に身を置いた実に重苦しい気持ちに引き込まれた。しかし戦闘場面が矢口陽子がのぞく顕微鏡のなかでの幻影として以外は一度も出てこない。のちの「禁じられた遊び」(ルネ・クレマン監督)の手法もまったく戦闘場面を写さないいわば反戦映画であるが、ルネク・レマンは黒沢の手法を模倣したものではなかろうか、と思った。

 

この「一番美しく」が当時文部省推薦の大政翼賛映画として上映されたことに驚いた。よく鑑れば訴えてくるのは反戦や厭戦の気分である。戦時体制下でも映画を作りたいという黒沢明のしたたかさを強く感じた。

 

50年ほど前であるが、我が家の押入から「滅私奉公」という1メートルぐらいの縦長に楷書で書かれた書道の巻紙が押入から出てきたことがある。これはなんだ?と聞くと、長女の戦時中の書だということであった。当時の小生には文字の意味が分からなかったので聞くと、長女は「戦争中はお国のために、己を殺してお仕えすることを美徳として教育されたのよ」とこの4文字を説明してくれた。その書は長女が何かの書道大会で金賞を取ったので、戦後も高知から芦屋に引っ越しするときにも、大事にもってきたのだということであった。今はどこに行ったのだろうか。。。

 

その時、長女が女子挺身隊とか学徒動員とか呼ばれる資格で戦争の後方支援部隊として工場生産に強制的に従事させられたことを聞かされた。戦後長女は結婚して2児をもうけたが夫に癌で若くして死なれた時であったためか「戦争中はろくろく勉強もできず、私の人生は国家に振り廻されてむりなことばかりやらされたわねえ」とその書を見ながら感慨深げであった。

 

この映画の終盤は、眠気を払拭しながら繰り返し繰り返し徹夜で顕微鏡をのぞき込んでレンズを点検している矢口陽子のアップの姿や、ほかに人っ子がいない広い作業場の暗い静謐な孤独な雰囲気が淡々と映し出される。これ以外にのちの黒澤明の凝ったカメラアングルの映像の試行が随所に感じられて、思わずうなってしまった。

 

映画は重苦しかったが、一方で、若い黒沢明の能力が開花してゆく過程を自分なりに確認できたことは本当に気持ちが良かった。

 

 

(森敏)

秘密

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