WINEPブログ
放射能汚染土壌からの除染対策は速ければ早いほどよい-農水省に期待する
以下のニュースが流れている。これに対して解説したい。一部はこれまでにも何度も繰り返していることであるので、専門家はつまみ食いして頂いて結構です。農水大臣や農水副大臣は読んでください。理解できるように書いたつもりです。
農地の浄化、5月にも開始 植物で放射性物質吸収を実証(2011.5.7.10:8 朝日新聞)
農林水産省は6日、放射性物質に汚染された農地や牧草地の土壌改良に、早ければ月内に着手することを明らかにした。計画的避難区域に指定された福島県飯舘村などが候補地だ。表土の除去や土壌中の放射性物質を吸収するとされるヒマワリやナタネの栽培の実証実験を通じ、土を浄化する技術の確立をめざす。
地元自治体や文部科学省などとも連携し、政府の研究開発費の緊急枠などで予算を確保する方向で調整している。水田や畑、牧草地で土壌の性質が異なるため、どんな技術が最適かをまず確かめる。
重視するのは、放射性セシウムが蓄積した表土を取り除く「即効性のある技術」(担当者)を見いだすこと。放射性セシウムはまだ地中深くまでは浸透していないとみており、除去する土の減量になるからだ。
今後の本格的な土壌改良に向け、ヒマワリやナタネの栽培の有効性も確認。早ければ5月にヒマワリ、秋にはナタネを植える。チェルノブイリ周辺でも汚染土壌で栽培されているが、土の質が違う日本での有効性を科学的に詰める。
除去した汚染土壌の処理方法や、ヒマワリやナタネの油脂などを原料にバイオ燃料をつくる際、放射性物質が混入する可能性がないかも研究する。ヒマワリやナタネの作付けを提案してきた飯舘村の菅野典雄村長は6日、農水省を訪ね、鹿野道彦農水相に対して国家プロジェクトとして土壌浄化を進めるよう重ねて要請した。(大津智義)
土壌中での反応が雲母との「固着」まで進むと、これは非可逆反応に近いので、もう反応が後戻りできにくくなります。セシウムイオンとイオン半径の似た過剰のアンモニアイオンの投入や、徹底的なカリウム欠乏処理や(この処理の意味は詳しくなるので省きますが)、セシウム吸収能力の高い植物によるファイトレメデイエーション、などの手法を用いても、放射性セシウム汚染雲母からの放射性セシウムの可溶化・収奪が困難になっていくと考えられます。
下図は、その様子を示したものです。放射性セシウムの土壌への降下初期の頃は、水に溶けるセシウム(○)や、酢酸アンモニウムに溶出されるイオン交換性のセシウム(△)が雲母との間でまだ未反応で残っているのですが、しだいに、雲母と反応して固化が進むと、これらの溶液での抽出率が低下することを示しています。縦軸は対数目盛です。横軸は経過時間です。
下図(下)はこの土壌中のセシウムの存在状態によって、牧草(◆オーチャードグラスや☐赤クローバー)において、土壌からこれらの牧草の葉へのセシウムの移行係数(縦軸に対数目盛で示しています:TF値)も急激に低下していくことを示しています。縦軸は対数目盛です。横軸は経過時間です。
論文にはこの実験で用いられている土壌の特性の記載がないのですが、青森の土壌ですので有機物に富む火山灰土壌と思われます。雲母の含量が比較的少ないので、初期の固定反応が、100日まで指数関数的です。しかしそれ以降はがっちりと固着してもう一定量以上は決して溶けてきません。
福島県の土壌もこの土壌に似ているのではないかと思われます。ですから、放射性セシウムと雲母の固着が起こる前までに手を打たないと、ファイトレメデイエーションはかなり難しくなる可能性が高いです。
(森敏)
付記:以下がこの研究の参考文献です。
武田晃・塚田祥文・高久雄一・久松俊一:土壌に添加されたCsおよびIの形態変化と植物吸収 平成20年度 環境科学技術研究所年報
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