2011-05-07 09:10 | カテゴリ:未分類

水稲は陸稲(おかぼ)の20倍の放射性セシウム(Cs)吸収率を示すことの化学的意味について

 
 

わが先輩の研究論文

    

「天正清・葉可霖・三井進午:水稲及び陸稲による土壌よりの134Cs及びKの吸収と作物体内の分布 日本土壌肥料学雑誌 30,253-258(1959) 」

     

には、水稲は陸稲(おかぼ)の20倍のセシウム(Cs)吸収率を示す というポット試験のデータが示されています。下の表の吸収率(%)の欄を見てください。

     
    

作物

134Cs施用法

134Cs全吸収量

全吸収量/施用量

地上部乾燥重量

cpm/pot 

吸収率(%)

g/pot

水稲

全層基肥**

59000

1.01

81.7

表層基肥***

32800

0.56

76.8

陸稲

全層基肥

2850

0.049

41.8

表層基肥

1950

0.033

40.9

134Csの施用量は5.86x106 cpm/pot。 吸収率はこれを100とした値である。

**全層施肥というのは、ポットの土に均一に134Csを肥料施用と同時に混ぜたということである。

***表層施肥というのは肥料施用後の表土に134Csをほどこしたものである。

     

      

この実験結果は、今回の東電福島原発由来の放射性セシウム(137Cs+134Cs)による汚染水田土壌を、植物によって浄化する方法(ファイトレメデイエーション)に大きな示唆を与えてくれています。

       

同じイネ科で遺伝子がおそらく99.9%以上相同と思われる水稲と陸稲でなぜこのように、20倍ものセシウム(Cs)吸収率の差が出てくるのでしょうか。図の右端欄に示すように地上部乾燥重量は水稲が陸稲の2倍にすぎないのですが。

    

    

1.湛水嫌気条件下でのアンモニアイオン(NH4+)生成の寄与が大きい。

    

この著者たちは、その原因を究明すべく、その後5年間にわたって一連の実験を行っています。その結果を小生なりに現在の知識を交えて考察すると以下のようになると思われます。

        

土壌コロイドは、放射性Cs(極微量のセシウム)を強固に吸収保持する特異的吸着座(Specific site)を持っており、その吸収容量は極めて小さい。かつそのSpecific siteは、Csのイオン半径1.69Åのように、比較的大きい半径の陽イオンのみを吸収保持できる性質を持っている。とくに、NH4(イオン半径1.43 Å)Csに近い大きなイオン半径を持っているので、このオンは、Specific siteへのCsの侵入に対して、競合的に働く。つまり高い濃度のアンモニアで水稲を育てれば放射性セシウムの土壌コロイドへの固着化の速度が抑えられます。つまり水稲に吸収されやすいフリーの放射性セシウムイオンが土壌溶液に存在しやすい状態になっています。また、水稲は硝酸や尿素よりもアンモニアを好む作物ですから、湛水条件で硫安であたえるのが水稲の生育にとって一番好ましい条件でもあるのです。

   

    

2.土壌浄化のシミュレーション ― 何年かかるか?

    

先にWINEPブログで紹介した天正・葉・三井らの研究(「水稲による特異的セシウム吸収の機構」日本土壌肥料学雑誌32,139-144,1961)のポット試験の結果から考えると、放射能降下後1か月以内では、土壌コロイドに固着している放射性セシウムイオン(137Cs)は、

    

田無土壌(もとは畑)で    畑状態で 48.5%、水田状態で 49.7%

都農試土壌(もとは水田)で  畑状態で 54.8%、水田状態で 64.2%

長野農試土壌(もとは水田)で 畑状態で 75.5%、水田状態で 91.1%

     

です。
   

現在わかっている、「セシウムと土壌の粘土鉱物との関係」に関する中尾淳氏らの研究成果から考えると、この固着率の違いはおそらく、土壌の雲母の含量の違いによるものと推察されます。

     

仮に、これまでの高い放射性セシウム汚染値である飯館村のCs: 227000ベクレル(Bq/kgを、今回農水省によって定められた耕作可能基準値である5000ベクレル/kgの土壌に浄化しようとするには、どうすればよいのだろうか? という命題を考えてみましょう。

    

この飯館村の土壌の性質が不明ですが、上記に取り上げた代表的な3種の土壌の種類の範囲に収まる性質だと考えられます。すでに東電福島原発事故はすでに2か月が経過しているので、上記の数値のうちの一番甘いセシウムの土壌への固着率(48.4%)と一番厳しい固着率(91.1%)を用いてみます。そうすると、すでに2か月後の現在は、この飯館村では、110095206797ベクレル/kgのセシウムが土壌に固着していると考えられます。そのまま、何もしないでほったらかしておくとどんどん土壌コロイドに放射性セシウムがさらに固着していくと考えられます。

    

実際、先にWINEPブログで示した塚田・武田・久松らの研究によれば、青森県の畑地土壌9点の平均値では、放射性セシウム降下後320日以降では土壌の放射性セシウムの11%しか酢酸アンモニウムで抽出されなくなったということです。これは植物が吸収しうるイオン交換性のセシウムが11%しかなくなった。逆に放射性セシウムが固着した土壌は汚染量の89%にもなっており。これは植物による吸収が困難であり、したがって植物による土壌修復(バイオレメデイエイション)が困難になっているであろうことを意味しています。

     

すなわち、放射能降下後(現在も降下し続けている!)何も土壌汚染対策を打たないと、飯館村では3月11日の東電福島原発爆発から320日後には土壌に固定して抜きがたくなった放射性セシウムは227000 x (10.11) = 202030ベクレル/kg以上の汚染土壌として安定化するだろうと想定されます。つまりこの値は、耕作可能基準値の5000ベクレル/kgをはるかに超えていることになります。このままではこの汚染土壌は永久に法律的には耕作不可ということになる。

     

したがって,実際には放射性セシウムが降り注ぐそばから、これを取り除かなければ、放射能降下で土壌が濃厚汚染して日にちが立ってから、その土壌から植物によって放射能を収奪するファイトレメデイエーションの方法では収奪がますます困難になる。すなわちますます年月を要することになるだろうということです。

     

3.どうすればよいだろうか?

    

福島原発からの放射性降下物は現在土壌に降り注いで急速に土壌粒子と反応して固着化しつつあると考えられます。この固着反応は非常に速い。したがって、

    

放射性セシウムの水稲によるファイトレメデイエーションのためには、水稲を湛水状態で高濃度のアンモニアで、無カリで栽培すると、水稲がまだ土壌コロイドと固化吸着していない、フリーの放射性セシウムを、強く吸収してくれることが期待できる。この対策は早ければ早いほど良い。

    

稲を植える余裕がない場合でも、硫安を田んぼに大量に(土壌溶液に対して0.01N規定)散布して、湛水条件にして維持し続ければ、放射能降下量の25%ぐらいのセシウムの土壌への吸着を阻止することができる可能性があります。田植えすることが無駄だと考えるならば、そのまま雑草をはやしておけばよい。多少とも雑草による土壌からのセシウム収奪が進むでしょう。大きくなった雑草は次々と抜き取るのです。可能ならばタチスベリヒユの種子を大量に散布することです。この雑草は、山上睦氏(財・環境研)の研究では最もセシウムを収奪する植物であるからです。水田の強害草であるが、いざというときは除草剤で簡単に駆除できるので、問題はない。

    

以上はあくまで、「ファイトレメデイエーション」のための技法です。

     

ほかの選択肢である、土壌の「天地返し」「表土の剥離」などの技法についてはすでに何回か述べてきました。

    

しかし忙しい読者は、まえの「WINEPブログ」や「WINEPホームページ」の文章をわざわざ丹念にさかのぼって読んでいただけるわけではないので、同じことをこれからも繰り返しversion up して述べていくつもりです。

      

これまでも同じことを述べてきているのですが、少しずつですが技法が進化しているつもりです。
    

秘密

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