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2024-03-12 14:31 | カテゴリ:未分類
スライド2
上がブラックホールを表す絵。下が AI を表す絵。


  文京区の図書館の新着雑誌の棚に kotoba (集英社 2024No.55) という月刊雑誌があったので、手に取って書架の前でペラペラとめくってみた。この雑誌を手に取ったのは生まれて初めてである。

  そのなかに 「学習物理学」って何? という題の随筆を見つけた。著者は物理学者橋本幸士(こうじ)京都大学教授である。

  わかりやすい軽妙な文体文章を読んでいくと、なかなか中身が躍動して面白いので、近くのソファーに座って一気読みしてしまった。

  面白いと思った理由の中身は、この随筆には、橋本教授が「学習物理学」という分野を新しく創生するに至った、経過が紹介されていたからである。以下に「新学問の誕生と、長い時間」というサブタイトルの部分の一部を少し長くなりますが無断で引用させていただきます。読みやすくするために行間をところどころ勝手に開けています。

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僕にとって学習物理学の始まりは、唐突だった。2017年、僕はAIを学びたくて、勝手に研究会を企画した。そこに、AIの心臓部の機能を提案した甘利俊一先生などを招いて、詳しくAIの動作機構を学んだ。

その研究会で、ある講演者が見せた図。それに、ピント来てしまった。AIが僕が研究しているブラックホールにそっくりだな、と見えてしまったのだ。

その図(上図)には、オートエンコーダと呼ばれるある種の機械学習モデルが描かれていたのだが、その図が、重力の量子論を取り扱う時によく用いられるブラックホールの図にそっくりだ、と感じたのだ。もう一旦見えてしまったら、そうにしか見えなくなってしまう。

脳の機能を模したニューラルネットワークによるAIが、ブラックホールとそっくり? そんなはずはない、と思いながらも、周辺の研究をいろいろと調べ、学んでみた。確かに、似ている。これなら、宇宙とAIが繋がるかもしれない。

僕はふと思い出した。18歳の僕が大学一回生で学んだことを。それは今は無き素粒子物理学者である田中正(しょう)先生のゼミでのことであった。田中先生は言った。

「僕たちがアインシュタインの重力理論を美しいと思うのは、その原理である『一般座標変換不変性』が、人間が外界を認識する方法そのものだから、だよね」

大学に入ったばかりの僕は、田中先生が何を言っているのか、全くわからなかった。その「わからなさ」がずっと心に残っていた。

『一般座標変換不変性』とは、現象が座標の取り方によらないという性質のことを言う。あらゆる物理学の現象は空間と時間の中で発生するが、例えば、空間のx、y、zの軸の選び方を変えても、現象自体は変わらないはずだ。とても自然な考えである。アインシュタインは、この原理だけから、重力の基礎方程式を算出することに成功したのだ。

僕が重力理論を使って研究し始めた20代半ば、ようやく、田中正先生の言っていた意味が分かるようになった。そして、確かにそうだ、と徐々に同意するようになった。けれども、物理学をきちんと使って、田中先生の言ったことを納得のいく形で証明することはできないまま、年月が過ぎて云った。人間の認知の方法と重力の基礎原理が、果たして関係するのか?

そして、ついに、である。2017年の研究会で、人間の認知を模したプログラムであるAIと、重力理論を繋げる橋渡しの「鍵」を、見つけた気がしたのだ!

僕は、研究会に来ていた若手の研究者にアイデアを話し、皆でそのアイデアを具体化した。そしてその後数か月かけて、重力理論とAIを橋渡しする論文を完成させたのだ。田中先生が僕にあの言葉を伝えてから、25年の歳月がたっていた。

振り返ってみると、こういった若いころの「もやもや」を抱えたまま僕は研究者になって、そしてその「もやもや」はずっとアタマのどこか深いところの引き出しにしまってあって、時々開けてみるのだが、また閉める、それを繰り返しているのだ。

25年経って、ついにその引き出しからそれを取り出す時が来た。これから、共同研究者たちとそれを磨いて、膨らませて、世界に広げていくのだ。:::::::::
 
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  かって市川亀久彌氏が人間の発明や発見の契機になる瞬間の「ひらめき」を「等価変換理論」で詳しく説明しています。

  この橋本教授の躍動する文章の中には、彼が無意識にあたためていた「重力理論」が「AI理論」と結びついて「学習物理学」という物理学の新しい分野を切り開くことができた心的過程がのべられています。

  その発見の核となったのは上図に示す二つの図の類似性ということです。いいかえれば二つの図のパターンが類似しているという一瞬の衝撃的な認知です。(頭の中に火花が散ったのですね。小生には2つの図のそれぞれの意味が何が何だかわかりませんが、とにかく橋本教授は両者が似ている!と感じたんですね。潜在意識が意識化されたのです)。

  これは「等価変換理論」の典型的な例と思われるので紹介しました。


   
(森敏)


付記1:
そこで、現在進行形の「学習物理学」の目指すところを生成AIに聞いてみました。
 
小生:物理学の新しい分野と言われている「学習物理学」について、素人でも分かるように1000字ぐらいで説明してください。
 
Copilot(生成AI):
「学習物理学」は、物理学と機械学習を結びつけた新しい分野です。素人でも理解しやすく説明します。

・学習物理学とは何か?
目的: 学習物理学は、基礎物理学の根本的な課題に機械学習の手法を応用し、新法則の発見や新物質の開拓を目指します。

 o融合のアプローチ: 物理学と機械学習の理論的手法を統合し、物理学全体を進展させるプラットフォームを構築します。
 o具体的な課題:
  新法則の発見: 学習物理学は、物理法則の新たな側面を探求します。例えば、素粒子物理学や重力物理学において、新しい法則を見つけることが目指されています。
  新物質の開拓: 物性物理学の分野で、新しい材料や物質を発見するために機械学習を活用します。

•なぜ学習物理学が重要か?
 o融合の可能性: 機械学習は物理学の多様な分野で有用です。学習物理学は、理論的な融合が可能である分野に焦点を当てています。
 o新基盤領域の創成: 学習物理学は、量子、重力、時空、量子ゆらぎ量子縺れなどの理論的手法と機械学習を組み合わせて、新たな基盤領域を創り出すことを目指しています。
 
 このように、学習物理学は物理学者と機械学習の専門家が協力して、未知の領域を探求する新しい舞台となっています。
 
  
付記2:
橋本幸士さんは『物理学者のすごい思考法』(インターナショナル新書 2021年刊)という非常に面白い随筆集を出版されている。図書館でこの本を借りて読んでいるのだが、小生が大好きな寺田寅彦、中谷宇吉郎、湯川秀樹、朝永振一郎などの物理学者の頭の柔軟な随筆家の系譜を曳いているように思う。