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2023-07-05 15:38 | カテゴリ:未分類
    東大工学部出身であるが、女性であるがゆえに実に経歴が多彩で苦労人である、大倉典子芝浦工業大学工学部名誉教授が、雑誌AERAでの編集者との対談で、以下のように述べている記事が目に留まった。
  
 :::::私が「かわいい」の研究を始める前は、そもそも「かわいい形」とか「かわいい色」といったものが存在するのか疑問視する人もいたんですが、形や色を見せて「最もかわいいと思うものを選ぶ」という実験をしてみると、確かに「かわいい形」や「かわいい色」が存在するとわかった。
形では「直線系より曲線系のほうがかわいい」し、色では「明度と彩度がある程度高く、色相は黄赤(橙)や黄緑がかわいい」。
かわいくないのは、「明度と彩度の低い色(くすんだ色)」です。
興味深いことに、他国における「かわいい色」の結果は日本人とは必ずしも一致しません。
その理由を突き止めるのは、今後の課題です。 
また、かわいいには「わくわく系」と「癒やし系」があって、「わくわく系」では心拍が上がりますが、「癒やし系」では心拍が下がることもある。
こうした研究結果は、さまざまな工業製品やウェブサイトなどを「よりかわいく」するための指針を与えてくれることになります。
実際、かわいくするとよく売れる。
それはさまざまな商品で観察されています。:::::


   
    これは実に納得のいく、目が覚めるような話だと思った。
   
    大倉典子氏による長年の研究課題であった「かわいい」という概念が学問の対象になり、その解明されて来た理論が、社会実装されて、多角的な商品として売れていく過程が実によく理解できた。
  
    だが小生は最近の若者がなんでも「かわいい」としか表現できない語彙の貧困さが、気になって仕方がない。テレビでの成熟した芸能人も若者に合わせて「かわいい」の連発である。ちょっといやらしいぐらいの頻度であると思う。
   
風景を見て「かわいい」といい
料理の盛り付けを見て「かわいい」といい
それを食べて「かわいい」といい
花の香りが「かわいい」という。
  
    それは違うだろう? そういう若者や芸能人の立ち居振る舞いには、言っちゃ悪いが「教養の無さ」を感じて、頑迷固陋な「新老人」にはいつもちょっと寂しい感じがしている。

    そこで、ちなみに電子辞書の「大辞泉」に掲載されているこの言葉の定義を調べてみた。「かわいい」の定義として、
   
1. 小さいもの、弱いものに心引かれるきもちをいだくさま。
2. 物が小さくできていて、愛らしく見えるさま。
3. 無邪気で、憎めない。すれてなく、子供っぽい。
4. かわいそうだ。ふびんである。
   
とある。
  
    この辞書には、それ以外に「カワイイ」の公募作品として、以下の引用があった。
 
▲顔の目鼻立ちが整っていて愛嬌があり、こちらまで心がほぐされそうになる容姿。また仕草において言う場合もある。
 
▲男性の場合は、愛おしく見える物・存在をさす表現。女性の場合は、前述の意味とは別に、自分よりも美的格付けが下だと認識した場合に発する暗喩。
 
▲カタカナの可愛いは、表面上の虚偽の愛らしさのこと。本質的な愛らしさは可愛いという。
 
▲特筆すべき長所のない人、物、動物、仕草に対して、肯定的である旨を伝える際に使用する言葉。
 
①語彙に乏しい者が、様々な愛らしさを表現する言葉。②もっとも平凡で無難なお世辞。
 
▲本人の演出に寄らぬ、自然な愛くるしさ。
 
▲女性の中に永遠に存在するもの。
 
▲女の子の中での潤滑油の言葉。
 
▲自分の感性に共鳴する対象物。
 
▲子犬、子猫を見たときに、胸がキュンとなる心の変化のこと。
 
▲子供の寝顔。一番かわいいと思える瞬間。
 
▲英語に翻訳するのが最も難しいことば。
 
▲「好き」の表現違い。
   
  ことほどさように「かわいい」は多義的に使われているようだ。つまりなんでもありなんである。

      
(森敏)
付記:もう20年以上前になるが、おもちゃメーカーに勤めていた親類の娘が、東大の獣医学科の先生を紹介してくれというので、紹介したことがあったのだが、あとで聞くと、「一番幼児に人気がありそうな動物は何でしょう?」とお伺いを立てたんだそうだ。「アザラシの子供だろう」という返事をいただいたそうだ。確かにアザラシッ子のおもちゃは実に多様で、今でも人気がありそうである。京都の岡崎水族館の土産物コーナーにはアザラシやオットセイの子供の大中小のぬいぐるみが山積みであった記憶がある。かわいいおもちゃの典型だろう。上野ではパンダがダントツの人気かもしれないが、その目ん玉はよくみるとけっしてしてかわいくはないと思いますよ。

  
追記1:このブログを読んだ読者が旭川動物園のホッキョクグマの水中遊泳像を添付で送ってきてくれた。大柄な大人の白熊なのに、とても「かわいい」と思ったそうである。

ホッキョクグマ

追記2。 2023年7月22日朝7時のニュース番組で、男性と女性のアナウンサーが、現地取材で、
川崎大師の風鈴市での風鈴の音を「かわいらしい音色
文京区伝通院のほおずき市での奇形のほおずきを「ほおずきがかわいらしい」
横浜でのタイの乗り物の観光用に改造した3輪車のタイのスクスクを「かわいいタイののりもの」
と呼んでいた。
聴いていて表現力の乏しさに違和感だらけでしたね。