2017-11-28 15:32 | カテゴリ:未分類

 常磐線双葉町架橋工事中jpeg
       双葉町で地震にやられた常磐線の新路線架橋工事中


      去る2011年3月11日の東日本大震災の時の事である。その翌日の3月12日には常磐線大みか駅下車の「茨城キリスト教大学」で「生物の鉄栄養」に関する市民講座をやることになっていた。東大で研究室ゼミに参加しているときに午後246分に震度5のかつてない激震を経験した。その後、タクシーが全くつかまらないので、重い荷物を引きずりながら東京大学から30分かけて上野駅まで歩いて行った。ところが上野駅に着くと、すべての電車がストップしていて、常磐線もいつ再開するかわからない状態。1時間以上待ったのだが、上野駅にいったん集まった人たちが四方八方に駅から逆流して歩いて家路に向かうらしいのを見て、これはけっこう大地震だったのだとだんだんわかってきた。常磐線がストップすれば茨城キリスト教大学での受講者も参加できないので、小生の講演も中止になるだろうと確信した。そこで意を決して、またとぼとぼとラゲージを引きずりながら歩いて自宅に帰った。それにしても、主催者自身から小生に電話が来ないのも、へんだなと思った。こちらからも携帯電話がつながらない。後で聞いたら、水戸の自宅が被災して電話も不通で、大学にも車でいけなかったので、講演開催中止の情報を全く市民講座参加予定者にも拡散できなかったとのこと。そんなにも北関東で事態が深刻だったとは、その時はあまり考えられなかったのだ。長い時間かけてパワーポイントで作った市民講座への講演内容だったので、天災とはいえ、いきなりそれが遮断されたので、なぜだか以後すっかり講演をするのが嫌になった。翌年同じく市民講座を頼まれたのだが固辞した。常磐線にまつわる苦い思い出です。

    

ところが小生は最近、これまでの福島現地への放射能汚染調査に東北新幹線の郡山駅や福島駅からレンタカーでのアクセスを、常磐線側からに変更しつつある。常磐線特急で終点のいわき駅までいき、そこから車で双葉町や浪江町や飯舘村に入るルートに切り替えつつある。以下はそれにまつわるつまらない話の一端です。

      

1.

つい最近まで、常磐線はJR上野駅から始発するものと頭から思い込んでいたので、切符を買うときは無意識に「上野駅-いわき駅 往復」で発注していた。今回水道橋駅でそういう注文をしたら駅員が

「お客さん、東京駅からご出発されませんか? 上野発と東京駅発は同じ料金ですが」と質問された。

「えー? 常磐線に乗るのに東京駅からわざわざ上野駅に行くのは時間がかかるでしょう? 京浜東北とか山手線とかを使っても、上野駅で乗り換えないといけないので面倒でしょう?」

「いえ、東京駅から上野までは5分です、乗りかえなくてもそのまま常磐線に入ります。料金は同じです。」

「えー? 常磐線は上野駅発ではないんですか?」

「今は品川発東京駅経由もございます」

ということで、東京駅発にしてもらった。知らなかったなー。

     

福島の放射能調査のときは東北新幹線で、行きも帰りも、押し葉用に大量に新聞紙を入れた大きな重いラゲッジを持ち込むので、いつも早めに予約して特急のグリーン車の一番後ろの席を確保していた。だから、今回も腰痛を抱えている小生には、タクシーなどは使わずに、わが家からは各所で、エレベーターが使える本郷三丁目ー東京駅経路が一番便利である。

         

今回東京駅の8番線で朝653分時発の「特急日立1号」を待っていたら、常磐線からの通勤客が7番線に次々と到着する車両からどっ、どっと降りてきたのにはびっくりした。どうりで最近の東京駅の中央改札コンコースは朝から晩までむちゃくちゃなラッシュアワーが続くわけだ。(その分上野駅での乗降客がかなり減少したことだろう)。特急日立一号に乗ったら、「20171015日から常磐線が品川―東京―上野までつながった」ことが車内に掲示されていた。

     

実は常磐線で特急の終点である「いわき駅」まで行くのには東京駅から2時間25分もかかる。これは東海道新幹線なら京都駅に到着しているし、北陸新幹線なら金沢駅に到着している時間である。実は、行きの「日立1号」も帰りの「日立28号」も上野駅―水戸駅間は小さな駅をすっ飛ばして、気分的にはすいすいと約1時間でいく感じなのだが、水戸駅―いわき駅間は、小生には名前がなじみのないいくつかの駅に各駅停車に近い頻度で停まった。乗降客はほとんどいない。なぜ水戸駅からいわき駅まで無停車で直行しないのか不思議である。ほとんど特急の意味がない。結局いわき駅には一番早くても午前9時18分に着くことになった。各駅をすっ飛ばせばこの間は30分で行けるだろうに。

 

いわき駅からは車で6号線と高速道路を使って北上し、途中でコンビニに寄って昼飯を調達して、防護服に着替えて、双葉町の帰還困難区域入口のゲートまで約1時間半はかかるので、午前中の調査時間が1時間もない。その上、最近は午後4時になるともう大陽が山の端にかたむいてくるので、全部で5時間も調査時間がない。だから常磐線の東京駅発時間があと1時間でも早い列車を調達してくれれば非常に助かるのだがと、勝手に思ったことである。

 

2.
 
干し芋農家のミルクアイスjpeg 
    茨城 ほしいも農家のみるくアイス (評判とか)
        

今回は双葉町での2日間の調査にかなりの積算放射線量を浴びた後なので、東京への帰路の「特急日立28号」で、甘いものでちんたらと疲れをいやそうと、車内販売で、アイスクリームの「干しいもアイス」を頼んだら、売り子が「お客様、それは残念ながら品切れです。バニラアイスかストロベリーアイスならありますが。。。。。」

「品切れって? 今いわき駅を出発したばかりじゃないの? そんなに早くさばけちゃったの? 先日干しいもアイスがおいしかったのでまた頼んだのですが」

「いえ、本日は早朝最初から在庫がないのです。茨城県の干し芋や金沢の金時芋が最近どこかのテレビで放映されたらしく、お芋自体が売り切れて、在庫が払底して、生産が追い付かず、その上「干しいもアイス」や北陸新幹線での「金時いもアイス」も爆発的な人気を呼んでいて、いもアイスの製造ができないのだそうです。私も今朝直接問屋さんに問い合わせたのですが、そういうお返事でした」

仕方がないので「バニラアイス」で我慢した。(上掲の写真は前回の調査のときに撮影したものです。)

                                                                     

3.

水戸を過ぎてからうとうとして寝ていたら、「あと5分で上野駅に到着です」という車内放送で起こされた。そろそろ降りる準備をしなくちゃ、と思って、リクライニングシートを起こして、立ち上がろうとしたら、両股の内側の筋肉(大腿直筋か?)に激痛が走った。筋肉が痙攣してどうにも片足でも両足でも立ち上がることができない! これは大変だ、このままだと出口のドアに歩いても這っても行けなくて、終点の品川駅まで行って担架で運ばれなければならないことになるかもしれない、と久しぶりに真剣に焦った。若いころ、錦糸町駅で尿管結石の激痛で、途中下車して、激しくおう吐し、担架で病院に運ばれた悪夢がよみがえった。しかしここは頭を冷やして、「冷静に対処しなければ」と、足をゆっくりと左右に動かしながら、痙攣が拡大しないような姿勢を23分真剣にまさぐった。血液を圧迫しているのがいけないのかと思ってそろりそろりと靴下を脱いで、腰のジーパンのベルトも取っ払った。そうすると、ある角度の姿勢で、座席シートのアームや窓辺に手を付きながら腕に力を入れて実にゆっくりゆっくりと立ち上がることができた。そのままの姿勢でじっとしていると、痙攣が少しずつ収まってきた。立ったままでラゲッジの取っ手に寄りかかってじっとしていた。立ったままボー、としている小生の姿を見ながら不信顔で何人かがドアを開け閉めして通過していった。上野駅に到着前に少し歩けるようにり、東京駅では無事列車を降りることができた。

 

あとから考うるに、常磐線のリクライニングシートはほかの新幹線よりも傾きが大きくできて、寝心地が良かった。その間両足先を前席の足掛け(フットレスト)に乗せたままであったのだが、そのぶん脚が宙ぶらりんになっていたので、この大腿直筋をずーっと1時間にわたって緊張させ続けていたので、立ち上がろうとしたときについに痙攣したのかもしれない。これまでもこのか所の筋肉が脱水症のために痙攣したことは自宅で一度だけあった。その時は痙攣が一時間以上続いたのでほとんど気を失うところだった。今回もどうなることかと不安で緊張したが、なんとか命拾いした。

 

最近とみに各所の筋肉の劣化が著しい。これでは外国への長期の飛行機旅行はほとんど絶望的だ。生前の父が、年老いて外国観光ツアーについていけなくなったので、夫婦での海外旅行をあきらめたといっていたことを思い出した。実は機上で醜態をさらさないために、小生はもう5年ばかり外国での学会に参加していない。

           
(森敏)
2017-10-30 14:00 | カテゴリ:未分類
  浪江町を車を降りてぶらぶら放射線を測りながら道路沿いに歩いていたら、珍しくもハクサイ(白)らしき幼植物が地際に生えていた(図1)。
   
  研究室に持ち帰って、思い切り葉を広げて、押し葉にしてオートラジオグラフを撮像したら、図2、図3のようになった。葉脈の放射線が実にくっきり写っている。これは内部被ばくである。同時に小さな放射能汚染土壌粒子で葉の基部付近が外部被ばくしていることがわかる。これらは風雨などにより、表層の汚染土壌埃が舞い上がり付着したものと思われる。
   
  新葉と旧葉の放射能値の差はあまり見られなかった(表1)。葉に付着した放射能汚染土壌などが、全体的にハクサイの放射能の値を底上げしているのかもしれない。

 

食用栽培野菜のオートラジオグラフを撮像したのはこれが世界でも最初ではないだろうか。野菜でも葉物は水分が95%以上なので、「押し葉」にして脱水乾燥するときに、2日に一回ぐらいの頻度で新聞紙を取り替えないと、すぐに新聞紙にくっついてしまう。いったんこびりつくとはがれにくくなるので、頻回に取り替えなければこのようなきれいな像が取れないのである。



 

 
スライド1 
図1.道端の白菜 
 


 
スライド2 
 
図2.図1のハクサイのオートラジオグラフ
 


 
スライド3 

図3 図2のネガテイブ画像。土塵(ほこり)による汚染が鮮明です。
 
   
  
   
  
表1.白菜の放射能 

 
スライド1  

 
 
 

  
(森敏)

2017-02-17 08:06 | カテゴリ:未分類

民家の庭先にショウブとハスを混食しているプラスチックバットがおいてあった。きっと避難している家主は水生植物の愛好家だったのだろう。これまでも溜め池などでは、岸から離れているハスなどの水生植物を採取するのが少しややこしかったので、このプラスチック箱の中から紫色の2本を茎の部分から上を失敬した。葉は全面的に水につかっていた(図1

       

新聞紙で乾燥するとさらに紫色が強くなった(図2)。研究室に持ち帰ってガイガーカウンターを当てると1600 cpmと、とてつもなく高い値を示した。以下の動画を見てください。
 https://vimeo.com/190422228 

         
  それをオートグラフに取ったのが図3(ポジテイブ画像)と図4(ネガテイブ画像)である。ハスの葉脈が子細にくっきりと浮かび上がっているのがわかる。
    
  この植物体を葉と茎にわけて放射能測定したものが表1である。茎と葉は共に、Cs-134 と Cs-137の合量で数十万ベクレルとべらぼうな値であることがわかる。


スライド4 
 図1.民家の庭に放置されたハスを育てているプラスチックバット
 
 
 
スライド1 
 
 図2. ハスをサンプリングして押し葉にしたらこんな紫色になった。

 
 
 
 
スライド2 
 
 
 
 
 図3.図2のオートラジオグラフ
スライド3 
 

 図4.図3のネガテイブ画像



 
表1.ハスの放射能
スライド2 
 

なぜこんなに高いのだろうか? 以下に若干考察してみた。

       

第一にこの地域に降り注いだ総放射線量がべらぼうに高かったであろう。今でも空間線量は8マイクロシーベルト付近である。しかしそれ以外に、第二に、原発事故以来このプラスチックの箱に降り注いだ放射能は箱の外には逃げないで箱のなかに留まったままであるはずだ。土壌は箱の底に数センチである。いつも土壌表面は水で空気から遮断されているので還元状態にある。たぶんそういう環境下ではセシウムは土壌への吸着が進みにくく、いわば箱の中で放射性セシウムは水の中でリサイクルし続けていると思われる。冬になって葉が枯れて腐ると、微生物菌体のコロイド状になり、そのコロイド状の有機性セシウムは、また次の春になると無機セシウムイオンとして遊離されてハスの根からばかりでなく葉からも再吸収されるわけである。

     

フキノトウなどでは、淡水状態で出てくるフキノトウと陸生のフキノトウでは前者の方が遙かにセシウム汚染が強いことがすでに明らかにされている。これは淡水状態では水につかっている地上部分からも容易に放射性セシウムが吸収されるからである。

      

水稲の場合も、水を張った出穂期に森林で汚染した沢水がかかると、容易に茎からセシウムを吸収して、お米の放射性セシウム含量がたかまるので、要注意なのである。小生自身が実験したわけではないが、カリウムを農水省が定める基準値量(25mgK2O/100g土壌)以上施肥していてもこの経茎吸収は押さえられないと思われる。

      

たかがハス、されどハス。 原発事故後ほぼ6年になるが、放射能汚染地での自然観察で学ぶことはまだまだ多いのである。

  
   
(森敏・加賀谷雅道)

     
 
 
 
 

2016-12-08 14:14 | カテゴリ:未分類
  小生は年のせいで(:今年末から後期高齢者なかまに突入した)、放射能汚染現地調査の途中では、結構頻繁に水分を補給している。そうしないと、足の筋肉への血流が悪くなるためか、時々足がしびれるからである。だから、必然的に頻繁に尿意をもようすので、自動車を降りて道ばたから少し林内に入って、尾籠(びろう)な話で恐縮だが、立ちションベンをする羽目になる。そのときは、必然的にあたりの植生をじっと眺めることになる。もちろんかなりの放射能を浴びながら。そういうときにも結構あたらしい発見がある。
  
     
       飯舘村の 「あいの沢」 は、本来はキャンプ場であったのだが、いまは人っ子一人いない。昨年夏にここでやっと除染作業が行われた。除染といっても道路と道の両側の20メートル幅の山林の下草や土を深さ15センチばかりをとりのぞくのだから、どうしても地下茎で連なっている一部のシダ類などは、のぞき切れていない所がある。そこまで徹底的にやると作業に時間がかかって、だから除染作業員の労賃がかかるので、しかたがないからだろう。一応地表面が毎時0.23マイクロシーベルトにまで低下することを目指しているようではあるが。
  
  昨年の春、例によって小便をすべく林内に入った。数メートル入った林の中の空間線量は毎時4.5マイクロシーベルトであった。そこでは芽を出し始めたばかりの丈の低いワラビが群生していた。
      
  ワラビのいくつかを根から切り取って研究室に持ち帰って、ガイガーカウンターで測定してみると、意外に葉のベータ放射線量が高いので、それをオートラジオグラフに取ってみた(図2)。また、組織を各部位にわけて放射能を測定した(表1)。
 

 
スライド4 
 
 図1.春先の若いワラビの写真

 
スライド5 
図2.図1の若いワラビのオートラジオグラフ
   
 
 


  表1 ワラビの各部位の放射能(ベクレル/Kg乾物重)
 ワラビjpeg  



       図2で定性的に,表1で定量的に明らかなように、シダも未展開葉では若干放射性セシウム含量が高い。しかし、次の図3のように葉が全面展開したものでは、図4、図5で見るように、枝の最先端の葉は少し他より放射能が高いようだが(図5のネガテイブ画像で特に理解されると思う)、比較的放射能は全葉に均一に分布しているように見える。また、一見、左側の茎のみの部分が強く感光しているように見えるが、これは茎が葉に比べて数倍の厚みがあるので、放射能が重なって感光しているためである。


  
 
スライド1 
 図3.浪江町で採取したシダ
 
スライド2 
 
 図4.図3のシダのオートラジオグラフ ポジ画像
 
 
スライド3 
 図5.図3のートラジオグラフ。ネガ画像
 
 
  
地下茎の多年生のシダ類(ワラビはシダ類の一種)はタケノコと同じように地下系が土壌の表層直下数センチあたりを縦横にうねっていて、根がそのあたりまでに大部分が集積している「土壌の可給態の放射能」を吸収して地下系を通じてあちこちの新芽に直ちに分配輸送されるので、いつまでも地上部の放射能が高く推移する可能性が高いのである。


  

 
(森敏)
 
付記1:タケノコについては以下のブログを参照ください。
 
 2016/05/20 :
まだタケノコは要警戒: 給食のタケノコご飯から基準超のセシウム

 
付記2:シダ類の同定には 「フィールド版 写真でわかるシダ図鑑  池田怜伸 著」 トンボ出版 を参考にした。


 
 
 
  
2016-10-04 17:25 | カテゴリ:未分類

【大隅良典さんノーベル医学・生理学賞受賞】快挙に中韓ビックリ 韓国「オタク文化」例に「日本に学ばねば」 中国「どんな秘密があるのか…」大隅良典・東京工業大栄誉教授(71)がノーベル医学・生理学賞を受賞したニュースは、APやロイターなど海外の通信社も速報した。
   

 韓国の聯合ニュースは、自然科学分野で日本人のノーベル賞受賞が相次ぐ背景として、「日本特有の匠(たくみ)の精神」や一つの分野に没頭する「オタク文化」の存在を挙げ、「政策や文化といったさまざまな側面の結晶だといえる」と分析した。韓国ではこの分野で受賞がないことから、「日本の政策に学ばねばならない」という韓国の研究者の意見も伝えた。

 中国では北京紙、新京報(電子版)が大隅氏の受賞を報じた上で、「ここ数年、日本の科学者によるノーベル賞受賞が続出している。どんな秘密があるのだろうか」とした。

 英BBCテレビ(同)は「大隅氏の業績はがんからパーキンソン病にいたるまで、何が病気を悪化させるかを説明する助けになった」と重要性を強調。米CNNテレビ(同)は、「オートファジーの存在は1960年代から認識されていたが、大隅氏が酵母を用いた先駆的な実験を行うまで、仕組みがほとんど解明されていなかった」と伝えた。

    

 
  きわめて専門的になりますが、以下に学士院賞受賞時と京都賞受賞時の大隅良典先生の研究内容と、国際賞受賞時の挨拶、をホームページから転記しておきました。
   

     

日本学士院賞審査要旨(2006)
  

理学博士大隅良典氏の「オートファジーの分子機構と生理機能の研究」に対する賞審査要旨
 

分子生物学では、セントラルドグマ確立以来、遺伝子発現すなわちタンパク質の「合成」のしくみの解明に多くの努力が割かれ、タンパク質の「分解」の問題は、受動的でそれほど大きな生物学的な意味を持たないのではないかと長らく考えられてきた。しかし近年、生命が持つ遺伝子の相当な部分がタンパク質やその複合体の分解に関わっており、分解も、合成に匹敵するほど大切であることが認識されつつある。生命が絶えざる合成と分解のバランスの上に成り立っていることから考えればむしろ当然のことであろう。五〇数年前に細胞内小器官「リソソーム」が発見されて以来、タンパク質の分解はこのコンパートメントの中で行われていると一般的に考えられてきた。しかし現在では、細胞内タンパク質分解は、ユビキチン/プロテアソーム系とリソソーム系の二つに大別することができ、両者が機能分担を行っていることが明確になっている。前者が厳密な識別に基づく選択性の高い分解であるのに対し、後者はむしろ非選択的でバルクな(大量な)分解を担っている。

リソソーム内に分解基質を送る過程は、自己を食すると言う意味の「オートファジー」とよばれる膜現象からなることが示されてきた。しかし様々な困難からその分子機構は全くの謎であった。大隅氏は、酵母細胞が栄養飢餓条件にさらされると、リソソームと相同な分解コンパートメントである「液胞」で大規模なタンパク質分解が誘導されることを顕微鏡観察によって発見した。そして、その後の電子顕微鏡による解析から、これが高等生物で知られていたオートファジーと同一の膜現象であることを証明した。次に、酵母の系の優位性を生かして遺伝学的な解析に取り組み、オートファジーに欠損を持つ多くの変異株を分離し、一四個の関連遺伝子(ATG遺伝子群)を同定することに成功した。その後に発見されたオートファ

ジーに必須の遺伝子が三個のみであることから、大隅氏らの当初の戦略が極めて優れていたことが窺える。大隅氏は、引き続き、ATG遺伝子群のクローニングに着手し、それらがコードするタンパク質(Atgタンパク質群)を同定したが、ほぼ全てが新しい分子で、それらの機能の推定は困難であった。しかし数年の間に大隅研究室ではこれらAtgタンパク質に関する重要な発見がなされた。(1)Atg12がユビキチン様タンパク質で、二つの酵素Atg7Atg10を介してAtg5と共有結合体を形成する。(2)Atg8もユビキチン様タンパク質で、Atg7により活性化された後、Atg3に転移し、膜リン脂質の一つホスファチジルエタノールアミンと結合する。(3)Atg1はタンパク質キナーゼ活性を有し、この活性がオートファジーに必須であること、(4)Atg14は、オートファジーに必要な特異的PI3キナーゼと複合体を形成すること、などである。また、栄養飢餓の関知にTorと呼ばれるキナーゼが関わることも明らかにした(mTORは動物栄養センシングに関連して注目されている)。オートファジーの最大の謎は細胞質の一部やオルガネラ

をまず膜が取り囲んで隔離する膜現象にある。上記の反応系は全てこの過程(オートファゴソーム形成)に関わっている。オートファジーは真核細胞の基本的な機能の一つであり、発見されたATG遺伝子群は酵

母からヒト、高等植物にまで広く保存されていることが明らかとなった。これらの機能解明は、オートファジーの機構解明に留まらず、細胞内の膜動態の分子機構を理解する上でも重要な知見を与えると

期待されている。オートファジーには未だ多くの謎が隠されているが、大隅氏らによるATG遺伝子群の同定を契機として、多くの生物種でオートファジーが確認され、また、タンパク質分解の破綻が様々な病気や老化などにも関わっていることが明らかになってきた。現代の人間社会には資源のリサイクルシステムの構築が求められているが、細胞は自らのタンパク質を分解して必要なタンパク質を合成するという見事

なリサイクルシステムを獲得したものと考えられる。オートファジーの重要性は、今後も、細胞内有害物質の除去機構、細菌感染、抗原提示、老化など様々な形で明らかにされるであろう。このように本研究分野の活性がいっそう高まる中、大隅氏は一貫してオートファジーの分子機構の解明に正面から取り組んでおり、他の追随を全く許さない研究を続けている。また、大隅氏は、Gordon Research Conferenceなど主要な国際会議から基調講演に招かれ、本分野における国際的なリーダーシップを発揮しており、平成一七年には藤原賞を受賞している。

   

  
 

 

京都賞の受賞理由
     

細胞の環境適応システム、オートファジーの分子機構と生理的意義の解明への多大な貢献
     

大隅良典博士は、細胞が栄養環境などに適応して自らタンパク質分解を行うオートファジー(自食作用)に関して、酵母を用いた細胞遺伝学的な研究を進め、世界をリードする成果をあげた。オートファジーは、1960年初頭に、動物細胞内の食胞として知られているリソソーム中に細胞質成分であるミトコンドリアや小胞体が一重膜で囲まれて存在していることから提唱された概念で、細胞内成分や細胞内小器官がリソソームに取り込まれて分解を受ける過程を意味する。その後、多種類の細胞やいくつかの臓器でこの現象が報告されてきたが、オートファジーの分子メカニズムや生理的意義は不明なままであった。大隅博士は、出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeで空胞の機能を研究していたが、1992年、タンパク質分解酵素B欠損株を低栄養培地に曝すことにより空胞中に一重膜で囲まれた細胞内小器官成分が出現すること、即ち、酵母でオートファジーが誘導できることを発見した。同博士は、ついで上記現象を利用して、タンパク質分解抑制と栄養飢餓によってもオートファジーが誘導されない多数の変異株を同定した。博士の酵母におけるオートファジーと変異株の発見は、オートファジーの分子機構解析に道を拓いたものである。これが基盤となり、これまでオートファジーに関係する数十の分子が同定され、これらの機能解析により、飢餓などの刺激に応じて、どのようにして細胞内成分や細胞内小器官を囲む新規の膜構造が形成され、これがリソソームに融合するかの道筋が明らかになりつつある。

酵母におけるオートファジー関連分子の発見は、哺乳類を含む動物細胞でのオートファジー関連分子の同定につながり、これらを利用して、動物におけるオートファジーの多様な生理的意義が多くの研究者により明らかにされた。すなわち、オートファジーが出生に伴う飢餓状態への適応に不可欠であること、オートファジーが神経での異常タンパク質の蓄積を防ぎ神経細胞死を防止するために必要であること、心臓の収縮力を維持するためにオートファジーを伴う代謝回転が不可欠であることなどがある。

大隅博士の貢献は、生体の重要な素過程の細胞自食作用であるオートファジーに関してその分子メカニズムと生理的意義の解明に道を拓いたものとして高く評価されるものである。

以上の理由によって、大隅良典博士に基礎科学部門における第28(2012)京都賞を贈呈する。

    
 
 

 国際生物学会賞での挨拶(2015)
 

(一部略)

私はこれまで機会あるごとに述べて参りましたが、私自身、様々な偶然と出会いに助けられて、研究者としての細い細い道を今日まで歩んで参りました。東京大学教養学部の今堀和友先生の下で学び、京都大学、東京大学農学部、ロックフェラー大学留学を経て、東京大学理学部安楽泰宏教授のもとで研究をする機会を得ました。その後、東京大学教養学部、基礎生物学研究所にお世話になり、現在も、東京工業大学で大変恵まれた環境を頂いて研究を続けています。今日科学研究は激烈な競争があるというのも事実ですが、私は元来競争が苦手で、人のやらないことをやりたいという思いで研究を進めて参りました。

   
私は細胞内のタンパク質の分解の機構に興味を持ち、1988年以来28年間に亘ってオートファジーと呼ばれる細胞内の分解機構の研究を進めて参りました。生命体は絶えまない合成と分解の平衡によって維持されています。合成に比べて分解の研究は興味を持たれず、なかなか進みませんでした。

   
私は一貫して小さな酵母という細胞を用いて、オートファジーの謎の解明を目指し、関わる遺伝子群とその機能を解析して参りました。オートファジーに関わる遺伝子の同定を契機として、今日オートファジーの研究は劇的な広がりを見せ、高等動植物の様々な高次機能に関わっていること、そして、様々な病態にも関係していることが次々と明らかになって参りました。すなわち、分解は合成に劣らず生命活動には重要であるということが次第に認識されて参りました。しかし、まだオートファジーの研究には沢山の基本的な課題が残されています。私は残された研究時間で今一度原点にたちかえって、「オートファジーは何か」ということに向かいたいと思っています。また、近い将来オートファジーのさらなる機構の解明が進み、細胞の一層の理解のもとに、病気の克服や健康の増進などの研究がさらに進むことを心から願っています。

   
いうまでもなく現代生物学は一人で進められるものではありません。私のこれまでの仕事も、30年近くに亘る沢山の素晴らしい研究仲間のたゆまぬ努力の賜物でもあります。また素晴らしい共同研究者にも恵まれました。心から彼らに感謝の意を表するとともに、彼らとともにこの栄誉を分かち合いたいと思っております。
   
これまで私を支えてくれた今は亡き両親、妻萬里子と家族にも心から感謝をしたいと思います。

最後にこれから生物学を志す若い世代に向けて、
   
私達の周りには、まだ沢山の未知の課題が隠されています。素直に自分の眼で現象をみつめ、自分の抱いた疑問を大切にして、流行や様々な外圧に押し流されることなく、自分を信じて生命の論理を明らかにする道を進んで欲しいと申しあげたいと思います。
   
私も微力ながら残された時間を、効率や性急に成果が求められる今日の研究者を巡る状況が少しでも改善し、生き物や自然を愛し、人を愛し、豊かな気持ちで研究ができる環境というものの実現に助力したいと思います。
本日はどうも有り難うございました。

       
      


       
  大隅先生ご自身が選んでいる主要な業績は以下のとおりです。
  

01. Takeshige, K., Baba, M., Tsuboi, S., Noda, T., and Ohsumi, Y. (1992)

Autophagy in yeast demonstrated with proteinase-deficient mutant and its

conditions for induction. J. Cell Biol., 119, 301-311.

02. Tsukada, M., and Ohsumi, Y. (1993) Isolation and characterization of

autophagy-deficient mutants in Saccharomyces cerevisiae. FEBS Lett.,

333, 169-174.

03. Baba, M., Takeshige, K., Baba, N., and Ohsumi, Y. (1994) Ultrastructural

analysis of the autophagic process in yeast: Detection of autophagosomes

and their characterization. J. Cell Biol., 124, 903-913.

04. Matsuura, A., Tsukada, M., Wada, Y., and Ohsumi, Y. (1997) Apg1p, a

novel protein kinase required for the autophagic process in Saccharomyces

cerevisiae. Gene, 192, 245-250.

05. Baba, M., Ohsumi, M., Scott, S. V., Klionsky, D. J., and Ohsumi, Y. (1997)

Two distinct pathways for targeting proteins from the cytoplasm to the

vacuole/lysosome. J. Cell Biol., 139, 1687-1695.

06. Mizushima, N., Noda, T., Yoshimori, T., Tanaka, T., Ishii, T., George, M.

D., Klionsky, D. J., Ohsumi, M., and Ohsumi, Y. (1998) A protein

conjugation system essential for autophagy. Nature, 395, 395-398.

07. Mizushima, N., Noda, T., and Ohsumi, Y. (1999) Apg16p is required for

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(森敏)

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