WINEPブログ
今日はトカゲの話をいたします。
飯舘村の飯樋地区で、日当たりの良い田んぼ脇の、山土の急斜面で、ちょろちょろとあちこちに動いているすばしこいトカゲを、やっと3匹捕まえました。これを透明なポリビンに入れて持ち帰り、2週間絶食状態で室温放置しておきました。そうするとトカゲの体から糞が排泄され、トカゲは干からび(図1)、糞も干からびました(図2)。
図1. 飯樋地区で捕まえたトカゲの乾燥死体(種名は不明)
図2.トカゲの乾燥糞
そこでこのトカゲ本体と糞を、別々にゲルマニウム半導体検出器で各220000秒にわたって測定して、Cs-134、Cs-137、Ag-110m、K-40等の放射能がどれくらい検出されるかを調べました。
その結果、トカゲ本体からは放射性銀は検出されませんでした(表1)(検出限界0.066ベクレル(: Bq))。どうやらトカゲは積極的には銀を濃縮しないようです。
表1.トカゲの本体の分析 | |
放射性核種名 | 放射能(Bq /kg乾物重) |
Cs-134 | 10,872 |
Cs-137 | 14,673 |
Ag-110m | ND |
K-40 | 862 |
ND:検出限界以下の意味です。
表2. トカゲの糞の分析 | |
放射性核種名 | 放射能(Bq /kg乾物重) |
Cs-134 | 55,075 |
Cs-137 | 77,090 |
Ag-110m | 14,925 |
K-40 | 51,269 |
トカゲが食べるさらに小さな生き物がいて、それが土壌や土壌菌などから銀を特異的に濃縮していると考えられました。そこで、トカゲの糞を実体顕微鏡で観察しました。昆虫の突起や、体毛のようなものが観察されましたが(図3,図4)、それがどんな生物に由来するものであるかを同定するのは、小生には至難の業に思えます。どなたか、トカゲの食性に詳しい方はおられませんでしょうか?
図3.トカゲの乾燥糞の拡大図。多くの針状の組織が見える。
図4.トカゲの乾燥糞の先端部の拡大図。小昆虫の足のようなものが束になっているように見える。
なお、ここの土壌の「放射性銀」対「放射性セシウム」の比は Ag-110m:(Cs-134 + Cs-137)=1:1568 であり、
トカゲの糞の「放射性銀」対「放射性セシウム」の比は Ag-110m:(Cs-134 + Cs-137)=1:8.86 でした。
ですので、
土壌と比較するとトカゲの糞は177倍の放射性銀の濃縮率ということになります。(濃縮率にはいろんな基準のとり方がありますが、あくまで放射性セシウムを基準とした場合です)
(森敏)
付記1:Ag-110mに関するこれまでの記事は、以下のWINEPブログに掲載しております。クリックしてご覧ください。
- 2012/01/12 : アキアカネ(トンボ)にも放射性銀(Ag-110m)を検出した!
- 2011/12/26 : 驚異の1540ベクレル!!!
- 2011/12/03 : 学術会議の「土壌科学分科会」での議論を踏まえて
- 2011/11/23 : とどまるところを知らないイノシシへの放射能濃縮
- 2011/11/12 : Ag-110m再論:野生化した牛の肝臓から放射性銀(Ag-110m)が検出された:
- 2011/11/01 : 文科省が 放射性銀(Ag-110m) の汚染分布図を発表しました
- 2011/10/30 : 新発見:飯舘村のジョロウグモは放射性銀を1000倍に濃縮していた!
追記2:少し拡大して詳しく調べると、何かの昆虫の脚(左下)やたぶん胴体(右上)の部分が確認されました。(2012.2.4.)

(森淳 撮影)
追記:かわいい若いトカゲの2012.8月の像です。
