WINEPブログ
先日、本WINEPブログで、飯館村のジョロウグモに東電福島原発の原子炉制御棒にコーテイングしている銀(Ag)由来の放射性Ag-110mを検出したことを報告しました。
ジョロウグモは当然トンボやチョウやカナブンを網で捕まえて食べていると思われます。しかし小生たちが、ジョロウグモを採取した8月や9月の時点ではこれらの生き物は見当たらなかったのです。
しかしその後も根気よく調査を続けて、ついに同じ飯館村で10月中旬にアキアカネ(トンボ)が舞っている場面に遭遇しました。それを7匹採取して分析した結果が以下のデータです。
図1.アキアカネ(Sympetrum frequens)
ゲルマニウム半導体測定器による分析チャートの部分拡大図。
Cs-134や Cs-137以外に、Ag-110mに特有の4本のピークが検出されている。
表1.アキアカネの放射能(飯樋地区) | ||
アキアカネ | Bq/7匹 | Bq/kg |
Cs-134 | 1.58±0.02 | 2,755 |
Cs-137 | 2±0.02 | 3,487 |
Ag-110m | 0.35±0.02 | 610 |
K-40 | 0.79±0.26 | 1,377 |
図2から読み取ったデータ。
狙い通りアキアカネ(図1)に放射性銀(Ag-110m)が610Bq/kg検出されました(図2、表1)。表2から計算すると放射性銀(Ag-110m)と放射性セシウム(Cs-134 + Cs-137)の濃度の比は1:10.23でした(表1)。
先のジョロウグモでの放射性銀と放射性セシュムの濃度比が1:2.61であったので、今回のアキアカネの比率はジョロウグモよりも低いです。
ジョロウグモを採取した土壌とアキアカネを採取した土壌での放射性銀と放射性セシウムの濃度比はほぼ同等でした。
したがって、この結果はジョロウグモはトンボを食べて銀を濃縮している、食物連鎖の上位にあることを示唆しています。
ところで、トンボはいったい何を食べているのでしょうか? 東電福島原発由来の銀が土壌や植物に降り注いでからトンボまでの食物連鎖を埋める生き物は何と何と何なんでしょうか? ほかのいろいろな生き物も分析する必要がありそうです。
ざんねんながら冬になりましたので、今は生き物は皆冬籠りです。
(森敏)
付記:Ge半導体による分析は東京大学農学生命科学研究科同位元素研究施設の田野井慶太郎助教によるものです。
追記1:本日上記の記事を入稿したあと、以下の記事がネットに載った。やっと生態学者が動き始めたようである。
この農工大の測定したコオロギのセシウムのデータは、小生らの測定した上記のアキアカネのセシウムのデータ(Cs-134 + Cs-137の合計量)である6242 Bq/kgよりも低い値である。
コオロギ500匹からセシウム4千ベクレル検出
東京電力福島第一原発事故で、原発から40キロ離れた計画的避難区域内に生息するコオロギから1キロ・グラム(約500匹)あたり4000ベクレル以上の放射性セシウムが検出されたことが、東京農工大の普後一副学長(昆虫生理学)の調査でわかった。
別の場所のイナゴからも最大200ベクレルを検出した。
調査は、昨年10月、原発から約40キロほど離れた計画的避難区域の福島県飯舘村北部でコオロギ500匹、60~80キロ離れた本宮市役所付近や須賀川市北部、桑折町役場付近、猪苗代町の猪苗代湖付近の水田でイナゴ計2000匹を採集した。
飯舘村のコオロギからは1キロ・グラムあたり平均4170ベクレルを検出。須賀川市のイナゴは同196ベクレル、桑折町と本宮市は、それぞれ同82ベクレルと75ベクレルだった。
(2012年1月12日08時11分 読売新聞)