WINEPブログ
放射性セシウムの白米への移行係数(TF)について
福島県では、水田の耕作開始作業を遅らせる指導をしていましたが、このほど一部にゴーサインを出した模様です。その根拠として現在の福島県内汚染の土壌の放射性セシウム(137Cs)値を測定して、それに対して移行係数(TF:Transfer factor)を掛けあわせて、その値が食品の摂取基準値(500ベクレル/kg?)を下回る可能性がある土壌に対しては耕作開始のゴーサインをだしているのかもしれません(個々の地域の正確な情報は不明ですが)。ことし生産されるお米の白米部分が500以下の数値を示すことを予測しての対策でしょうか。
ここでいう「セシウムの白米への移行係数(TF)」の意味は、このブログで過去に何回も取り上げていますが、土壌の放射性セシウム値(ベクレル/kg)に対する白米の放射性セシウム値(ベクレル/kg)のことです。
これまでの研究成果でこの白米への移行係数が数値として論文に出ているのは、小生が知っているのは駒村・津村の論文で、昨日知人から紹介された。それをここに転記しておきたい。農家や農業技術指導者には必須の値でしょう。
TF値
火山灰土壌(サンプル5検体〉 2.8 (1.9)x10-3
非火山灰土壌(サンプル10検体) 2.5(3.2)x10-3
すべての土壌〈サンプル15検体〉 2.5(2.8)x10-3
ここで、すべての土壌というのは、火山灰土壌と、非火山灰土壌の値を一緒にして統計処理したという意味です。かっこ内の数字は標準偏差です。火山灰土壌・沖積土壌・などなどの土壌の違いによる極端な違いはないようです。
このTF値は耕作方法によっても一桁ぐらい変動しますので、水管理や肥料の選択が重要です。
1.水田の湛水を続けて土壌還元が進むと、アンモニアイオンが出てきて、これがせっかく強く土壌吸着していた放射性セシウムを土壌から分離するので、セシウムイオンのイネの根からの吸収が高まります。ですから水田でのアンモニア系肥料の多用は控えたほうがいいです。尿素系かできれば被覆肥料などの土壌を媒介しないで根と接触して直接吸収できる施肥効率の高い肥料がお勧めです。
2.またカリウム系の肥料を多用すると、イネの根からのセシウム吸収が抑制されるうえに、地上部への移行が低下します。したがって種子(白米)への移行が低下する、というメカニズムが考えられます。カリウム施肥が重要です。
(森敏)
付記:(参考文献)
駒村美佐子・津村昭人: 誘導結合プラズマ分析法による土壌から白米への放射性核種の移行係数算定. Radioisotopes 1-8(1994)