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2022-09-02 11:37 | カテゴリ:未分類
イルカ

テレASA ニュース
 ロシアによるウクライナ侵攻の開始以降、黒海ではイルカが大量死していて、生態系の破壊も指摘されています。

 オデーサの環境科学者、イワン・ルセフ氏:「ロシア軍は民間人や軍人だけでなく、野生動物やイルカも殺している。生命の根源である生物多様性も殺している」

 ロシアによる侵攻の開始以降、ウクライナやトルコなどに囲まれる黒海では少なくとも2500頭のイルカの死骸が打ち上がっています。

 ウクライナ南部・オデーサの専門家は「見つかったのは一部で、黒海では3万頭から4万頭のイルカが死んでいる」と見積もっています。

 イルカは水中で超音波を出して餌(えさ)を探したり、仲間とコミュニケーションを取ります。

 しかし、黒海を航行する軍艦に備えられた音波で物体を探す装置「ソナー」がイルカの聴力に影響を与え、大量死につながっている可能性があるということです。

 また、海中の機雷に巻き込まれたとみられる焼けたイルカも見つかっています。

 専門家は「イルカが頂点に立つ黒海の生態系が破壊されている」と警鐘を鳴らしています。

     
      
戦争は最大の生態系破壊者である
  
このニュースではイルカが推定数千頭死んでいるはずであるということで、主な原因が、潜水艦が発する「音波」や機雷によるものとの推定が述べられているが、小生はそれ以外に「毒物汚染」の可能性を否定できないと思っている。
  
ロシア軍の「旗艦モスクワ」がウクライナ軍によって撃沈されたり、これまでロシアとウクライナを含めていくつかの軍艦が沈没している。今後も数多く撃沈されるだろう。
  
これらの軍艦は燃料の重油ばかりでなく多くの砲弾の爆薬や化学兵器も搭載しているかもしれない。
  
軍艦の沈没時に大爆発や長時間の燃焼を示しているので、これらの化学物質が流出していることは想像に難くない。(戦時だから軍艦が「撃沈された」そのことが最重大事で、それ以外の海域汚染などそういう細かいことは全く報道されていないだけのことであろう)
  
一方で、報道がされていないが、ロシアの原子力潜水艦も常時黒海を潜航遊弋して、ソナーによる音波以外に、原子炉排水の「放射能をまき散らしている」可能性も否定できない。
  
クリミヤ半島の先端の「ヤルタ」や「セバストポリ」、ウクライナ側の「オデーサ」などでは海水浴客などにいずれ被害が出てくるものと思われる。
  
60年前のベトナム戦争の時代に、米軍の兵站基地であった沖縄から流出したPCP, 2,4,5-T,などのベトナム戦争で使わる枯葉剤などで、その中に含まれるダイオキシン汚染が起こり、川や海の生態系に異変が起こり、軍労働者や住民に被害が続出したことを忘れてはいけない。
  
以前にどこかで述べたことがあるが、小生は昔沖縄のPCP汚染調査に関わったことがある。

  
  
(森敏)
2022-06-10 04:09 | カテゴリ:未分類
以下は 『communications biology』 で発表されたアポロ11,12,17号が持ち帰った月の表面の鉱石(レゴリスと呼んでいる)各1グラムでシロイヌナズナを育てた結果(ここでは原著論文から 図2 だけを引用した)に対する、電子大衆誌 『NEWSPLANTS』による解説です。
   




月の土とアラビドの生育

図2 月面レゴリスでの発芽・生育の様子。(ぜひダブルクリックして全貌を詳細に比較してください。森敏記)
a アポロ月面のレゴリスのすべてのソースで発芽率は100%に近く、JSC-1A模擬物質での発芽率と区別がつかない。JSC-1Aおよび各アポロ地点の代表的な2つの栽培プレートが示されている。
b 6日目または8日目に各ウェルから間引かれた苗は、月のレゴリスでの根の成長がJSC-1Aほど強固でないことを示した。
c 発芽は対照区と月面の間で均一であったが、月面のレゴリスで育った苗はJSC-1Aの対照区と比較して生長していない。
培養プレートのウェルの直径は12.5mm(スケールバー)。





マリア・テンミング 記
2022年5月23日 9:00 am
植物にとっては小さな実生だが、植物科学にとっては大きな飛躍となる。
 
研究室で作られた小さな庭(直径12.5ミリ)で、月の土に蒔かれた最初の種が芽を出した。
アポロ計画で持ち帰られたサンプルに植えられたこの小さな作物は、いつの日か宇宙飛行士が月で自分たちの食べ物を育てることができるかもしれないという希望を与えてくれる。
しかし、月の土に植えられた植物は、地球の火山性物質で育てられた他の植物よりも成長が遅く、痩せ細っていることが、5月12日付けの『Communications Biology』誌で報告された。
ウィスコンシン大学マディソン校の宇宙飛行士リチャード・バーカーは、この実験について、「ああ!とてもクールだ!」と言う。
「このサンプルが戻って来て以来、この中で植物を育てたらどうなるかを知りたがる植物学者がいました」と、この研究に参加していないバーカーは言う。
「しかし、誰もがこの貴重なサンプルが貴重であることを知っているので、なぜNASAが公開を渋ったのか理解できます。
今、NASAがArtemisプログラムの一環として月に宇宙飛行士を送り込もうとしている計画は、その貴重な土を調べ、月の資源がどのように長期ミッションをサポートできるかを探る新しいインセンティブを提供しています。
月を覆う土、つまりレゴリスは、基本的に園芸家にとって最悪の悪夢である。
このカミソリのように尖った細かい粉は、植物が好む酸化したものではなく、金属鉄でいっぱいだ。
また、月に降り注ぐ宇宙石によって作られた小さなガラスの破片もたくさん含まれている。
しかし、窒素やリンなど、植物が成長するのに必要なものはほとんど含まれていない。
そのため、科学者たちは、地球上の物質でできた偽の月の砂の中で植物を成長させるのは得意だが、生まれたばかりの植物が本物の月の砂に繊細な根を下ろすことができるかどうかは、誰も知らないのだ。
フロリダ大学ゲインズビル校の3人の研究者は、それを確かめるために、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を使った実験を行った。
この植物はよく研究されている植物で、マスタードと同じ科に属し、ほんの小さな塊のようなものでも成長することができる。
研究者たちは、月がほんの少ししかなかったので、それがカギとなった。
研究チームは、1つにつき約1グラムの土が入った小さなポットに種を植えた。
4つのポットにはアポロ11号のサンプル、別の4つのポットにはアポロ12号のサンプル、そして最後の4つのポットにはアポロ17号の土が入れられた。さらに16個のポットには、月の土を模して過去の実験で使用された火山性の土が入れられた。
これらはすべて、研究室のLED照明の下で栽培され、栄養分を含んだスープで給水された。
植物分子生物学者のアンナ・リサ・ポールは、「月のレゴリスの中で芽を出した苗を初めて見たときと比べものにならない」と言う。
「地球外の物質で育つ地球上の生物を初めて見たという感動的な体験でした。
そして、それは驚くべきことでした。まさに驚きです」。
植物はどの月の土の鉢でも育ちましたが、地球上の物質で栽培されたものと同じように育つものはありませんでした。
「最も健康なものは小さかったのです」とポールは言う。
月で育った最も病弱な植物は小さく、紫色の色素を帯びており、植物がストレスを受けていることを示す赤信号だった。
アポロ11号のサンプルで育った植物は、月面に最も長くさらされたため、最も発育が悪かった。
ポールたちは、このミニ・エイリアン・エデンの遺伝子も調べた。「ストレスに反応してどのような遺伝子がオンになり、オフになるかを見ることで、植物がそのストレスに対処するために代謝ツールボックスからどのようなツールを取り出しているかを知ることができます」と彼女は言う。
月の土で育ったすべての植物は、塩分、金属、活性酸素などのストレスに苦しむ植物によく見られる遺伝子ツールを引き出していた。
アポロ11号の苗は、最も深刻なストレスを受けた遺伝子プロファイルを持っており、月面に長くさらされたレゴリス(したがって、より多くの衝撃ガラスや金属鉄が散らばっている)は、植物にとってより有毒であるという証拠を提供している。
将来、宇宙探査を行う人は、それに応じて月面の居住地を選ぶことができるだろう。
また、月の土を植物にとってより快適なものにするために、何らかの改良ができるかもしれない。
あるいは、地球外の土壌に馴染むように、植物を遺伝子操作することもできるだろう。
「また、より優れた植物を選ぶこともできる」
「耐塩性の高いホウレンソウなら、月のレゴリスでも問題なく育つかもしれませんね」。
バーカー氏は、この月面園芸の最初の試みで約束された課題に臆することはない。
「人類が月面で農業を行うには、多くのステップや技術を開発する必要があるのです」と彼は言う。
「しかし、この特別なデータセットを持つことは、それが可能であり重要であると信じている私たちにとって本当に重要です。

 
 
付記: 原報は下記です。無料でアクセスできます。
COMMUNICATIONS BIOLOGY | (2022) 5:382 | https://doi.org/10.1038/s42003-022-03334-8 | www.nature.com/commsbio

この論文の一部を下記winepホームページ

http://www.winep.jp/news/440.html

でも訳しておきました。
2022-05-21 16:55 | カテゴリ:未分類
「NHKスペシャル 被爆の森 2021 変わりゆく大地」が JST優秀賞を受賞した。

http://ppd.jsf.or.jp/filmfest/63/pdf/63chirashi.pdf
http://ppd.jsf.or.jp/filmfest/63/pdf/63sakuhin.pdf

第63回 科学技術映像祭審査委員会
副委員長 高橋真理子 氏による講評は以下のとおりです。

 「NHKスペシャル 被曝の森 2021 変わりゆく大地」は、福島原発事故により無人となり、野生動物が闊歩する地域の現状、そして研究者たちの地道な研究をリポートした。シリーズ3作目で、東日本大震災から10年の貴重な記録になっている。これからも取材を続けてほしい。



日本放送協会 チーフ・ディレクター 苅田章氏による受賞解説と感想は以下のとおりです。

製作意図
 史上最悪レベルの福島第一原発事故によって大量の放射性物質が拡散した大地。住民は避難を余儀なくされ、里山や森からは人の営みが消えた。あれから10年、動物や植物の生態系はどのように変化するのか?長期にわたる放射線の被曝は、どんな影響を与えるのか?「被曝の森」は、世界でも類を見ない場所である。住民と研究者が協力して行われる研究、そして、大地を定点観測的に記録していくことで見えてくるものを番組化、後世に残したいと考え、番組制作に至った。今回がNHKスペシャルのシリーズ3作目である。
 
シノプシス
 無人となった「被曝の森」では、水田や畑が荒れ果て草原や林となり、イノシシやアライグマ、キツネなどの野生動物が闊歩。森の奥ではこれまでいなかったツキノワグマが進出するなど、大きく変貌した。科学者と住民たちによる地道な調査・研究から、マツの形態異常が放射線によって起きるメカニズムの一端が初めて解明。被曝によって、イノシシやネズミ、そしてサルの体内で何が起きているのか、細胞・遺伝子レベルで、徐々に見えつつある。未曾有の災いがもたらしたものの実像に迫っていく。
  
受賞に際して

 今回の受賞は、住民や研究者の皆様のご協力のたまものであり、スタッフ一同あらためて厚く御礼申し上げます。取材開始以来、ほぼ同じメンバーで現地に通い続けてきました。人々のふるさとへの愛着や、事実を追究する科学者たちの執念に、いつも突き動かされてきました。10年が経ち、かつて人と自然が共存していた里山の崩壊は止めようもなく、帰還を待ちわびる人々の老いも感じざるを得なくなっています。放射能汚染からの再生はいまだ困難ですが、わずかながら希望の芽も見えてきました。最新の科学的知見や長期にわたる客観的な記録は、後世に伝えなければならないと信じています。今回の受賞は、今後も継続取材すべきという叱咤激励だと受け止め、引き続きこの仕事に取り組んでいく決意です。     (日本放送協会 チーフ・ディレクター 苅田章)

作品情報 
https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/blog/
bl/pneAjJR3gn/bp/paX1p0ynQP/
2022-02-12 13:52 | カテゴリ:未分類

          スケートのフィギュアの羽生結弦選手(4位)やスノボー・ハフパイプの平野歩夢選手(金)などは、自分の限界以上の高尚かつ難解な技を目標に設定して、4年間努力してきた。その結果が本番のオリンピックで「金」になろうがなかろうが、究極の集中力で挑んでいた。それが皆の感動を打つ。

 

オリンピックに向けて新しい技を開発し、それに本番で成功した場合は、その技に個人名を付して、「特別賞」を付与したらいかがだろうか? 

 

「金」「銀」「銅」メダルはオリンピック標準に向けての達成度評価だが、「特別賞」は独創性に対する絶対評価である。「白金(プラチナ)賞」とでもなづけたらいいだろう。

 

超一流選手が勝負の順位を度外視した「独創性」や「先駆性」を極めようとする姿は科学者と重なる。

 

  

(森敏)
付記:跳び箱の「山下跳び」 
鉄棒の「塚原・・・」
床運動の「白井・・・」
等など体操競技では歴史に残る開発者の名前がついている。





2022-01-05 13:08 | カテゴリ:未分類

  現在オミクロン株に関して感染症研究所によりホームページで第5報まで発信されています。
 

SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第5報) (niid.go.jp)
  
  オミクロン株に関してはまだまだ論文になるような確定情報が得られていない、まさに現在進行形で、世界的な「全人類史的な壮大な人体実験」が行われている所です。ですが、遺伝子解析が得意な部門だけはデータが集積して何とか大まかではありますが、議論ができる段階にきているようです。

  

  最近、キーワードを「オミクロン(omicron)」で文献検索していたら、まだ論文が受理されていないようですが、インドの研究グループによる論文が、昨年末に「試し読み」として開示されていました。
  その図の中の変異部位が分かりやすいので、論文の「要旨」と「まえがき」と「考察」を無断で訳しました。この論文はオミクロン株に発生している、従来株よりも異常に多い変異に関して、変異アミノ酸の疎水性と親水性からみた感染性や免疫逃避に関する多角的な考察が行われています。
  この論文が上梓されてからも急速に世界でオミクロン株は主流になってきていますが、残念ながら、なぜこの変異数の異常なまで多い株が突然出てきたかに関する理由や、真の発生源に関する考察は、まったくされていません。ウイルスの進化生物学はまだまだだということですね。

  読者の参考にしてください。
  論文を読むにあたって全く基本的なことですが N501Y などという表示は 501番目のグルタミン(略号N)がチロシン(略号Y)に遺伝子変異によって置き換わる という意味です。△は欠失しているという意味です。

  図1、図2はクリックして拡大して見てください。

  

  

オミクロン変異株のS糖タンパク質の多様性

S glycoprotein diversity of the Omicron variant

 

Rakesh Sarkar, Mahadeb Lo, Ritubrita Saha, Shanta Dutta, Mamta Chawla-Sarkar

ICMR-National Institute of Cholera and Enteric Diseases, Kolkata, West Bengal, India

  

(要約)

現在進行中のデルタ変異株感染とワクチンによる免疫を背景に、新たな懸念変異株「オミクロン」の出現は、再び世界中のCOVID-19への恐怖を煽っている。現在、Omicron変異株のS糖タンパク質変異、感染性、重症度、免疫逃避行動についてはほとんど情報がない。本研究では、オミクロン変異体の309株のS糖タンパク質変異を包括的に解析し、さらにS糖タンパク質の構造、機能、免疫逃避特性に対する変異の影響に関する、既知の知見に基づいて観察された変異が、ウイルス生物学のいくつかの側面に及ぼすであろう影響について考察を行った。

  

  

(はじめに)

COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2の感染性の上昇と高い変異率により、複数の懸念すべき変異体(VOCsが出現している。これらは感染性、疾患の重症度、免疫逃避、診断・治療回避などのウイルス特性に影響を与える遺伝子変化によることが知られている。

202111月中旬まで、アルファ(B.1.1.7)、ベータ(B.1.351)、ガンマ(P.1)、デルタ(B.1.617.2)という4つのVOCsが存在した。20211126日、WHOSARS-CoV-2亜種B.1.1.529を新しいVOCsとして指定し、Omicronと命名した。この決定は、WHOのウイルス進化に関する技術諮問グループ(TAG-VE)の勧告に基づいて行われたものである。オミクロンは多数の変異を有し、その一部は他のVOCsと共通しており、直接的な証拠は存在しないが、感染性、疾患の重症化、免疫回避、診断・治療回避を高める可能性があるとしている。WHOは、20211124日に南アフリカから変異型B.1.1.529の出現について報告を受けた。南アフリカは現在COVID-19の第3波に対処しており、主にデルタ変異株が優勢である。南アフリカでは、B.1.1.529株の発見と時を同じくして、ここ数週間で感染者が劇的に増加した。しかし、このCOVID-19の増加例がオミクロンによるものか、その他の要因によるものかは、ゲノム解読や疫学調査によって検証する必要がある。なお、2021119日に採取された検体からB.1.1.529の感染が初めて確認された。

SARS-CoV-2ゲノムは、ウイルス外膜から突出したスパイク(S)糖タンパク質を含む複数のタンパク質をコードしている。S糖タンパク質は、宿主細胞表面へのウイルス付着、膜融合、宿主細胞への侵入を含むウイルス・ライフサイクルのごく初期段階において重要な役割を担っている。S糖タンパク質は、表面タンパク質として、宿主の適応免疫反応によって引き起こされる中和抗体の主要な標的である。宿主とウイルスとの間の絶え間ない綱引きの中で、ウイルス侵入を容易にする、あるいは中和抗体から逃れるためのS糖タンパク質の変異を持つウイルス株が頻繁に選択され、最終的には優勢になる。S糖タンパク質がウイルス感染と宿主の免疫回避に重要な役割を果たすという観点から、科学者は循環拡散するSARS-CoV-2株のS糖タンパク質内に出現した変異を優先的に取り上げ、それらの変異の生物学的意義を調査した。本研究では、Omicron変異体のS糖タンパク質変異を包括的に解析し、共存するS糖タンパク質変異の組み合わせの違いにより、異なるグループに分類した。

    

(実験方法) 省略

(結果) 省略
     

(考察 )

オミクロン変異体のS糖タンパク質、特にS1サブユニットのNTDRDB35個以上の変異が存在することは、再び世界中のCOVID-19への恐怖を煽ることになった。ウイルスの人などの宿主ACE2受容体への付着と細胞への侵入を媒介するS糖タンパク質は、S1S2という2つの機能的サブユニットに細分化されており、合成時にfurinタンパクによって切断された後、非共有結合の相互作用を形成する。S1サブユニットのRBDNTDは、それぞれ宿主細胞受容体(ACE2との相互作用と様々な付着因子の認識を担う重要なドメインである。融合の機作はS2サブユニットにあり、大規模な構造変化を起こしてウイルスと宿主膜を融合させ、ゲノムの運搬と感染開始を可能にする。

RBD領域のどんな突然変異でも、ACE2レセプターとSグリコプロテインの結合親和性ばかりでなく、回復期で予防接種をされた個人に発生する抗体の無効化や有効性に影響を及ぼすことができる。

  

オミクロンのS糖タンパク質には37の優性変異があり、他の4種のVOCsに比べて感染力や病原性が高いのか、自然免疫やワクチンによる免疫を回避できるのかが懸念される。決定的な免疫学的・臨床的データがないにもかかわらず、これまでに同定された変異の影響に関する既知の知見に基づき、Omicron変異株の病原性、感染性、免疫逃避能力について予備的な示唆を与えることはできる。

オミクロン変異体の12個の変異(△H69△V70T95IG142D△Y144△Y145K417NT478KN501YD614GH655YP681H)はαβγΔの変異と重なっている。これらの変異はすべて、高い感染性、ウイルス結合親和性の増加、免疫逃避と以前から関連があった。もしこれらの重複するVOCs変異が既知の効果を維持するならば、オミクロン変異体のより高い細胞内透過性と免疫逃避の増強が懸念される。

  

残りの25の変異(A67V, ∆V143, ∆N211, L212I, ins214EPE, G339D, S371L, S373P, S375F, N440K, G446S, S477N, E484A, Q493R, G496S, Q498R, Y505H, T547K, N679K, N764K, D796Y, N856KQ954HN969KL981F)の意味は不明であり、一連の変異がウイルスの体力や自然免疫およびワクチン媒介免疫に対する脆弱性にどのように影響するかについて、多くの疑問が残っている。

  

エピトープマッピング抗体は抗原タンパク質と結合する際、、抗原全体を認識し結合する訳ではなく、その一部を認識し結合する。エピトープマッピングとは、抗原タンパク質のどの領域・配列に実際に抗体が結合(反応)しているのかを確認し、エピトープ部位を調べる事を意味する)や抗体フットプリントに関するいくつかの研究により、感染者およびワクチン接種者の血清中和抗体は主にS糖タンパクのRBDドメインを標的としていることが示されている。Omicron変異体のRBD15個の変異のうち、5個の変異(K417N, K477N, T478K, E484A, N501Y)だけが、免疫逃避との関連でこれまでに報告されている。ベータとデルタプラスで以前検出されたK417Nは、いくつかのモノクローナルの中和効力を低下させることが示されている。

  

E484 残基と T478 残基は RBD の免疫優位部位の一部である。ベータやガンマに見られるE484Kは、抗体中和を回避することが示されており、またモノクローナル抗体や回復期の血漿にさらされると、エスケープ変異感染拡大やワクチン接種で免疫を持つ人が増えたのを受け、ウイルスが性質を変えること)として出現することが分かっている。また、E484AE484DE484GE484K4つの変異ウイルスは、試験した4つの回復期血清のそれぞれによる中和に対して耐性であることが判明している。E484Qは、血清中和抗体価を低下させることが示されている。

  

しかし、以前Delta株で検出されたT478Kは、モノクローナル抗体による中和に影響を与えない。K477Nは、モノクローナル抗体に対して耐性を与えるが、回復期血漿に対しては耐性を与えないことが示されている。N501Y変異を持つ偽型ウイルスも、以前にαβγで観察され、モノクローナル抗体による中和に抵抗性を示した。

    

したがって、RBD4つの免疫逃避変異K417NK477NE484AN501Yが存在することは、オミクロン変異株の免疫逃避能力を向上させると思われる。RBDの残りの10個の新規変異(G339D, S371L, S373P, S375F, N440K, G446S, Q493R, G496S, Q498R, Y505H)の免疫逃避における機能的意義は、今後評価する必要がある。

   

重要なことは、これらすべての置換において、アミノ酸の疎水性に大きな変化があり、RBDのエピトープ構造(エピトープは通常、抗原の表面にある1~6個の単糖または5~8個のアミノ酸残基で構成されている。 抗原分子は三次元の立体構造を持つため、抗体によって認識されるエピトープは、抗原の特定の立体構造に依存している場合がある。)を変化させることにより、モノクローナル抗体やワクチン誘導血清抗体に対するウイルスの中和感受性を変化させている可能性があることである。

     

RBDドメインは免疫優位であるが、S糖タンパクのNTDも感染やワクチン接種により抗体反応を引き起こすことがある。NTDドメインには、N末端(残基14-20)、βヘアピン(残基140-158)、ループ(残基245-264)からなる「抗原性スーパーサイト」が存在する。Omicron 変異体の NTD 11 の変異のうち、4 つの変異 (G142D, ∆V143, ∆Y144, ∆Y145) は、抗原スーパーサイトの β-ヘアピン領域に存在し、免疫逃避に大きく貢献していると思われる。他の7つの変異(A67V, ∆H69, ∆V70, T95I, ∆N211, L212I, ins214EPE)の役割はまだ不明で、早急に研究を行う必要がある。最近の研究では、SARSCoV-2のすべてのRBD変異がACE2との結合に機能的に重要であることが示されている。Omicron変異体のRBDドメイン内で見つかった15個の変異のうち、4個の変異(G339D, N440K, T478K and N501Y)はACE2に対するRBDの親和性を高めることが実証された。一方、残りの11の変異(S371L, S373P, S375F, K417N, G446S, S477N, T478K, E484A, Q493R, G496S, Q498R, Y505H)はACE2に対するRBDの親和性を減少させることが実証された。注目すべきは、RBDQ493Q498N501残基が、ACE2相互作用のホットスポットであるK31K353残基を含む極性接触ネットワークに参加しているため、Q493Q498N501の変異はRBDACE2相互作用に非常に重要であるということである。これらの部位で非極性アミノ酸に置換すると、RBDACE2への親和性が向上する。しかし、Omicron変異体では、493位と498位のグルタミン(Q)をより極性の高いアミノ酸であるアルギニン(R)に置換すると、ACE2へのRBDの親和性が低下することが疑われている。一方、501位のアスパラギンをより極性の低いアミノ酸であるチロシンに置換すると、RDBACE2に対する親和性が向上することが予想される。

  

オミクロン変異体のRBDACE2に対する全体的な親和性は、4つの親和性増強変異と11の親和性低下変異の大きさによって決定されることになるS1サブユニットのRBDNTDの外側に、機能的に既知の2つの変異D614GP681Hを含む5つの変異が観察された。オミクロン変異体は、以前からウイルスの透過性・感染性を高める重要な変異として報告されていたD614GP681Hの存在により、高い透過性を維持していると考えられる。オミクロン変異体のS2サブユニットには6つの変異があり、そのうち3つ(Q954HN969KL981F)はHR1内に存在する。RBDが宿主細胞上のACE2受容体に結合すると、S2サブユニットのHR1HR2ドメインが相互作用して6-HBを形成し、ウイルス膜と宿主膜が接近して膜融合が起こり、感染が開始される。Q954HN969KL981Fの変異は、HR1HR2の相互作用の親和性を高め、膜融合と感染力を増大させる可能性がある。現在のところ、オミクロンはデルタよりも感染力が高いかどうかは明らかではない。しかし、予備的なデータでは、Omicron変異体はDelta変異体の感染と自然免疫およびワクチン誘発免疫を背景に急速に拡大しており、高い感染性と飛躍的な感染力の可能性が示唆されている。このままでは、南アフリカやその他の地域で、オミクロンは急速にデルタに取って代わられ、COVID-19の再流行が起こる可能性がある。

          

 

      

Fig1の説明: 5種類のVOCS糖タンパク質変異(アルファ、ベータ, ガンマ、デルタ、オミクロン)のマッピング。

オミクロンの変異型S糖タンパク質には37のドミナント(支配的)な変異があり、このうち12個は他の4つのVOCと重複しており、25個は新規の変異である
   

スライド1 
 
 


     


      

Fig2の説明: UShERによる新規変異株の分子系統解析。

図中の SARS-CoV-2の総株数2160株から放射状系統樹を構築し、その中にオミクロン変異体(赤色)155株と19の異なるクレードの2005株。それぞれのツリー内の色は、異なるクレード/系統を表している。

   
スライド2  

   

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