- 2011/07/13 : 提言 原発ゼロ社会
- 2011/06/19 : 原子力エネルギー政策はペンデイング:総合科学技術会議
- 2011/06/18 : 自然エネルギー観を一層強力に科学技術政策に反映してもらいたい
- 2011/05/17 : その意気やよし:玄葉大臣の発言に思う
- 2011/05/04 : 東北大震災の日本経済への影響は総額何兆円か?
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提言 原発ゼロ社会
これは本日の朝日新聞の2面にわたる大社説のタイトルである。
① 一面に朝日新聞の論説主幹 天軒由敬(おおのきよしのり) の 「今こそ政策の大転換を」掲げ、16面と17面には
② 脱原発への道筋 高リスク炉から順次廃炉へ
③ 廃棄物の処理 核燃料サイクルは撤退
④ 自然エネルギー政策 風・光・熱大きく育てよう
⑤ 新たな電力体制 分散型へ送電網の分離を
と社説を述べている。
これは朝日新聞社のなかでも大論争があったと想像されるが、新聞社としても思い切った政策転換である。
東電福島原発報道に関しては、金太郎あめのように、いまだにどの新聞も東電の言いなりの、無批判なスポークスマンをやっている。完全に東電ペースである。実に情けないことだ。
そろそろ、各政党やマスコミは、はおそるそるの
「原発撤退」
「卒原発」
「反原発」
「脱原発」
という言葉の遊びをやめようではないか。
本日の、朝日新聞の「原発ゼロ社会」に対しては、机上の空論で飯を食うマスコミやミニコミジャーナリズムが、けんけんがくがくの反論キャンペーンを張るだろうが、ここは朝日新聞は踏ん張りどころだ。
科学技術政策の大転換を本気でやろうではないか。
科学者は及び腰であってはならない。
機は熟している。
(喜憂)
追記:案の定、すさまじいばかりの原発推進派の大合唱が始まった。経団連、民主党の全閣僚(?)、朝日新聞以外の読売、毎日、産経、日経新聞。大多数の国民が支持する脱原発に対して反対の理屈が見いだせないので、「脱原発路線は菅直人の内閣延命策である」の一点張りである。恰も菅直人が首相でいるので、脱原発路線に踏み切れないかのごとくである。政治家とは奇妙なレトリックで生きている人種だとつくづく思う。以下のように、弁護士会だけはまともで、正論を行く。冷めている。(7月17日)
弁護士100人「脱原発」へ連絡会 各地訴訟の経験共有(朝日新聞2011.7.17)
東京電力福島第一原発の事故を受け、全国の弁護士約100人が16日、「脱原発弁護団全国連絡会」を結成した。原発の運転停止などを求める訴訟を各地で起こしてきた経験を共有し、今後の訴訟に生かす。国会議員や地方議員らに働きかけ、日本からすべての原発をなくすことを目指すという。
この日は50人が東京都内に集まり、各地の現状や方針を議論した。トラブルで停止が発表された大飯原発1号機(福井県)については近く行政訴訟を大阪地裁に起こすほか、秋に泊原発(北海道)の廃炉を求める訴訟を札幌地裁に起こす予定が報告された。
浜岡原発(静岡県)の差し止め訴訟で弁護団長を務め、連絡会代表の河合弘之弁護士は「これまでも危険性を訴えてきたが、国、電力会社、裁判所は無視し続けてきた。原発はもはや絶対に容認できない。あらゆる手段を尽くして闘い続ける」との声明を発表した。
原子力エネルギー政策はペンデイング:総合科学技術会議の案
内閣府の総合科学技術会議で現在
答申「科学技術に関する基本政策について」
に関してパブリックコメントを求めている。
http://www8.cao.go.jp/cstp/pubcomme/kihon4_shinsai/honbun1.pdf
この文中の「見え消し版」の赤文字の訂正箇所だけを読んでいくと、今回の東日本大震災を契機にして、政策が大きく変わろうとしていることが如術にわかる。是非読んでもらいたい。顕著な変化は、
1.東日本大震災からの復興再生のための総合技術の開発、と
2.今後の原子力エネルギー政策に対するペンデイングである。
後者は様子見である。国民の意見待ちである。
小生の言葉で言えば
1.は「修復」(remediation)の総合技術開発
2.は本格的な「自然エネルギー」(solar energy)社会の構築」
ということになろうか。
心ある人たちの声が、少しずつ科学技術政策として、採択されていくすがたが見えている。
なのに、玄葉科学技術担当大臣は、
「菅がヤメなければ、オレが大臣をやめる」、等といって菅直人首相を恫喝して引導を渡したがっている。何故やめるのだろう?彼の選挙地盤である苦渋の中にいる福島県民は、彼にとってそんなにも軽いのだろうか? やめずなぜこのままガンガン担当大臣としての放射能汚染「修復」政策を進めていかないのだろうか。
(森敏)
自然エネルギー観を一層強力に科学技術政策に反映してもらいたい
東電福島暴発原発の原子炉冷却システムが未だに恒常運転までにはほど遠い状態だが、いずれ空気中への放出は少なくなっていくので、土壌汚染はこれ以上極端な増加はなく落ち着くかも知れない。そして広大な土壌が非可逆的な放射能汚染地として残されたままになってしまうだろう。このまま無策では避難民は復帰が困難だろう。
一方、原発原子炉からの超高濃度汚染水の海洋への放射能放出は、いつ何時人目をかすめて東電が垂れ流すか、全く油断ができない。厳しい監視の目が必要である。しかし、海洋の放射能汚染に関しては一般人が、いちいち魚を捕ってきてガイガーカウンターではかれるわけではないないので、現地漁民は生殺しの死ぬ思いを味わっていても、国民は少しずつ熱が冷めていくだろう。
そうするとどうなるかというと、<原発叩き>の熱が冷めていって、エネルギー問題に対する国民の意識が少しずつ遠のいていくだろう。何しろ我が輩も含めて自戒の念を込めて云うのだが日本国民はなんでもあきらめと忘却が早い。
オバマ政権が登場したときは、自然エネルギー発電を強力に推進するのかと思ったらCO2削減のためになんと原発を選択してしまった。民主党の「25%CO2削減宣言」(鳩山元首相の国連演説)は良かったのだが、実行のためには原発増設を民主党政権も選択してしまった。つまり民主党政権もオバマ政権とおなじ拙速な同じ道を歩み始めていた。
国民にとって民主党政権の魅力がどんどん低下していったのは、結局民主党も自民党もおなじ穴の狢(むじな)で、「民主党は本気じゃない」「エネルギー政策は変わらない」というあきらめもあったのだと思う。とくに我々科学者にとっては、この点がどんどんグレーゾーンになりかけていたのだ。
そこへ来て今回の地震・津波・東電福島原発暴発である。
暴発メルトダウンした原子炉の今後の冷却・廃炉までのプロセスを考えると、なんとお金がかかることかと、国民の誰もが気が遠くなってため息をついているだろう。超国家的予算規模である。放射能汚染土壌の徐染対策も本気でやるつもりならこれまた超国家的予算が必要だろう。原発1基がメルトダウンしたら、国家が解体しかねないことがはっきりしたのである。いやほんとうに日本国家は財政的にメルトダウンするかも知れないのだ。
それにもかかわらず、「いや原子力は必要悪だ」という論理を述べている国民や政治家がいる。
現在、菅直人首相は、太陽光や風力などの自然エネルギー普及促進のための「再生可能エネルギー電気調達特別措置法案」の成立に強い意欲を示している、ということである。そしてこの法案には自民党と公明党が抵抗している。そこで首相周辺からは「法案否決なら即日解散すればいい。自然エネルギー派と自然エネルギー撲滅派で分かれれば、(小泉純一郎元首相当時の)「郵政解散」の再現で250議席ぐらい取れる」との声も聞かれる。(2011.6.18.10:45)
と、報じられている。これは、なかなかの卓見である。いつになるか予測がつかないが、震災復興予算のめどがついたら、同じ解散総選挙をやるならば、エネルギーに対する価値観の違い(つまり、「原発の可否」)を選挙の中心テーマとして、政界再編をしてもらいたい。
実際にドイツではそれがどの国よりも現実に先行しているではないか。6月13日イタリアでは、脱原発の国民投票で 投票率56.99%の中でなんと94.53%が脱原発に賛成だった。エネルギー革命へのパラダイム変換が起こっている。
(管窺)
追記:ドイツの先行例は以下の記事である。
ドイツ緑の党、初の州首相 福島原発事故後、支持を拡大
ドイツ南西部バーデン・ビュルテンベルク州で12日、緑の党と社会民主党(SPD)の連立政権が成立し、緑の党のウィンフリート・クレッチュマン氏(62)が州首相に就任した。同党からの州首相選出は1980年の党創設以来初めて。
福島第一原発事故を受け、原発政策が最大のテーマとなった3月の州議会選挙で、緑の党は得票を前回選挙から倍増させ、第2党へ躍進。第3党のSPDと連立を組んだ。同州ではこれまで半世紀以上にわたり、メルケル首相の政権与党・キリスト教民主同盟が政権を担ってきた。
両党は連立合意文書で「バーデン・ビュルテンベルクを今後のエネルギー供給のモデル州にする」として、州内の古い原発2基の廃炉や2020年までの再生可能エネルギー中心の電力供給をうたった。また、「州民は新しい政治と新しい政治スタイルを選んだ」として、住民投票の積極的な導入などを盛り込んだ。
公共放送ZDFの全国世論調査(6日)では、緑の党の州首相誕生に56%が賛成し、63%が新政権に期待していると答えた。(2011.5.12.朝日新聞:ベルリン=松井健)
その意気やよし:玄葉大臣の発言に思う
玄葉光一郎科学技術政策担当大臣は科学新聞で以下のように述べている。
「チェリノイブイリやスリーマイルで、旧ソ連やアメリカは後処理をして土地を放置したが、日本は土地を放置しないための科学技術を進めていくことが極めて大切だ。被災者の皆さんの気持ちに応えることになり、また克服して見せたら、世界から改めて一目も二目もおかれる日本になるはずだ」
実にその意気やよし、である。
何よりも、すべては溶融炉心が核爆発に至らないように封じ込められるかどうかにかかっている。素人目には事態は悪化の一途をたどっているように見える。
核爆発に至らなくても原発三基の炉心溶融した原発は安定冷却まで数十年はかかるだろうから、すでに排ガスと冷却水との両面からの確実な環境(大気圏、土壌圏、水圏)放射能汚染が、ずっと続くことを覚悟しなければならないだろう。
放射能と共存する生活というものはありえない。
それでも、玄葉大臣が言うように<土地を放置しないための科学技術を進めていく>つもりならば、膨大な資金的な負担が必要になるだろう。
玄葉大臣は、普通の科学者なら思考停止してしまう<奇想天外な大命題>を提示している。これを、自然科学に無知な大臣の大見得だと一蹴するのは簡単だ。せせら笑うのは簡単だ。
しかし、研究者や技術者たちは、環境の隅々にまで浸透してしまった放射能を取り除くどのような技術があるのだろうか、今回は本気で真剣に考えてみる必要があるのではないだろうか。ウルトラCの技術があるのだろうか? なにを開発すべきだろうか? それぞれの専門分野の人たちがよく考えれば、いろいろな課題がきっと見えてくるはずである。
それが、直接大命題の解決に役に立たなくても、将来の科学技術の発見や開発に、必ずつながるのである。
すでに課題は出てきている。放射能が薄く降りそそぐ中で本当に住環境を確保しようとするならば、小生の乏しい構想力の中でも以下の課題があり、そのいくつかはすでに喫緊の課題として走っている。
1.超高濃度放射能原子炉汚染水を沈殿(凝集剤?)吸着濃縮 (膜の開発)する技術
(とくに健康影響の大きいSr90を強力にトラップして海水に漏出させない技術)
2.すでに漏出させた原発周辺の濃厚放射能汚染水を、原発周辺海域にとどめて拡散させない技術(吸着撒布剤の開発)
3.人が往来する道路の除染、道路の拡幅や防護壁の作成、居住区域の完全除染など、汚染のない隔離住環境区域の制度設計。
4.土壌汚染放射能を軽減する土木技術
5.土壌の放射能を有効に収奪する(ファイトレメデイエーション)植物の開発
6.土壌の放射能を可食部に吸収しない作物の開発
7.汚染建築資材や汚染植物を焼却するための放射能を拡散しない低温焼却炉の開発
8.高濃度放射能濃縮活性汚泥やその焼却灰を保管する方法や保管場所の確保
9.生物濃縮した放射能汚染野生動物の拡散を防止する方策
10.放射能汚染海底の汚染マップの作成。
11.放射能汚染海底を掃海除染する技術
12.。。。。。。
と、人に笑われるような課題を考えてきたが、どれも解決困難な課題ばかりだ。
賢明な強制避難させられている被害地域の住民は、もっともっと切実な課題を提示するだろう。
(森敏)
東北大震災の日本経済への影響は総額何兆円か?
以下のように、ウサマ・ビンラデインがアメリカ経済に与えた損失は約200兆円という試算がなされている。
米国の経済的影響200兆円=ビンラディン容疑者-CNN【ワシントン時事】CNNテレビは3日、国際テロ組織アルカイダの指導者、ウサマ・ビンラディン容疑者が米国にもたらした経済的影響は2.5兆ドル(約200兆円)に上ると報じた。
この中には、同容疑者が首謀した2001年9月の同時テロの損失やアフガニスタン戦争の戦費のほか、テロ防止に向けた国土安全保障省を含む省庁の新設費、空港での警備強化費などが含まれている。(2011/05/04-12:10)
さて、今回の東北大震災の日本経済への影響は何兆円になるのだろうか?
現在いろいろな機関がまず被害総額を検討していると思われる。しかし最も信頼できる被害総額は、各省庁が集約したデータだと思う。まだまだ原発による避難や農業被害などは現在進行形であるが、そろそろ、大枠のシミュレーションの結果が各省庁から出てもよい頃ではないだろうか。ぜひ詳細な開示をしてもらいたい。項目毎の被害額がいくらか? 再建にはいくらかかるのか?
報道を見ていると管政権は何でもかんでも「最後まで政府が面倒を見ます」と、災害住民に対して口約束をしているが、それでは国家財政が破綻するだろう。美濃部都政で東京都が破綻したことを繰り返してはならない。今は誰も、そのことを言い出せないかも知れないが、経済学者ぐらいは、積極的に冷静な発言すべきではないだろうか。
今後数年間はまごうかたなく多大な税金を東北地域に投入せざるを得ないのだから、それが日本経済の再建と連動した、大胆な政策を、「復興会議」などは打ち出してもらいたいと思う。昔の生活の原風景を取り戻せばよいという、消極的な政策ではなく、まずは地方自治体からの切実な企画をボトムアップで汲み上げて、あとはどうか大胆な構想をしてもらいたいと思う。
東北災害地の復興と再建にはいくらかかるのか? という命題は日本国の将来のエネルギー・環境・食料・科学技術政策と強く連動されたものでなければならない。そのためには災害現場からのボトムアップばかりではなく、全国から、様々な階層からの意見を汲み上げる必要がある。
日本学術会議も近くビジョンを「提言」として準備しているようである。ぜひ政策に取り入れてもらいたいものだ。
(喜憂)
追記1:以下に、農水省による水産被害白書が出たようである。(5月27日 森敏記)
漁船は、津波で2万隻余りが陸に乗り上げたり海に流されたりして、約1300億円の被害。水産加工施設も、宮城県で429工場のうち半数以上が全半壊するなど、生産基盤の多くが失われた。漁港被害は、復旧・修復すると仮定し、それにかかる金額をはじいた。
青森県から千葉県にかけての太平洋側の漁業・養殖業は、全国の生産量の24%(127万トン)を占めており、農水省は早期の復興が重要だと指摘している。