2017-01-15 14:09 | カテゴリ:未分類

男の子がなりたい職業、「学者」2位に急上昇 連続ノーベル賞効果か 第一生命調査

 第一生命保険が6日発表した「大人になったらなりたいもの」のアンケート結果によると、男の子で「学者、博士」が2位となり、前回の8位から大幅に上昇した。第一生命は「日本人のノーベル賞連続受賞の影響があるのではないか」と分析している。

 男の子の1位は7年連続で「サッカー選手」、3位は「警察官、刑事」だった。前回18位の「水泳選手」が8位に浮上した。2016年夏に開かれたリオデジャネイロ五輪で日本人選手が活躍した影響とみられる。

 女の子は「食べ物屋さん」が20年連続の1位となり、人気を維持した。2位は「保育園・幼稚園の先生」、3位は「学校・習い事の先生」と続いた。また「ダンスの先生、ダンサー、バレリーナ」が10位と、09年以来のトップ10入りとなった。

 アンケートは第一生命が1989年から毎年実施しており、今回は16年7~9月に実施。全国の幼児や   小学生ら1100人の回答を集計、分析した。
 
 
 
      このニュースはすべての全国紙に掲載されているようだ。実にノーベル賞の効果は大きいと思う。子供は将来の生活のことなんか考える必要がないから、純粋に「理想の人物像」を具体的にノーベル賞受賞者 やサッカー選手に自らを同化して考えることができるのだろう。
 
  
    自分のことを顧みても、なんと言っても1949年の日本人初の湯川秀樹博士によるノーベル物理学賞受賞の影響は強烈だった。当時小生は満8才で、高知市旭第一小学校から芦屋市宮川小学校に転校したころであった。研究内容などはなんにもわからなかったのだが、世界で賞賛される栄誉みたいなものがまぶしくて仕方がなかった。5年生の時の国語の教科書には湯川スミ夫人によるノーベル賞受賞記念式典のときの印象記が載っていたと強く記憶している。
 

                

その後大学に至るまでや大学に入ってからも湯川の随筆や対談など多くの出版物では、彼の物理の専門書は歯が立たなくても、それ以外はほとんど全部読んだ。特に「創造性」や「独創性」や「直感」に関する彼の哲学的発言には、他の内外のどの科学技術論者よりも最も強く影響を受けたと思う。
    

おかげで、将来何になりたいかなど特に考えることもなく「研究者」以外になりたいと思ったことはない。もちろん「自分が研究者に向いているだろうか」とか「研究者になるためにはどういう生活をしなければならないか」などの点については、在学中や助手になりたての時は真剣に悩んだ。
      

先日から強烈な風邪を引いているのでぼんやりとテレビを見ていたら、昨日の 超絶 凄ワザ! というNHKの番組で、「油が水ですぐ取れるまな板がほしい」という命題を出した小学生が、番組の最後に司会者から「君は将来何になりたいですか?」と問われて「研究者になりたいです」と明言していたのにはいささか感動した。子ども達にも一昔前のロマンチックな科学者像が再現してきはじめたのかもしれない。これは第一生命の調査通りにノーベル賞効果だと思ったことである。
   

  科学への投資は、将来の人材育成への投資でもあることは明らかである。過去20年間にわたって1%シーリングで国立大学の研究予算を減らし続けてどん底に落とし込み、逆に防衛予算を飛躍的に増やし、フィリピン、インドネシァ、ベトナムなどに桁違いの海外援助資金で国家予算をじゃぶじゃぶ散財し続けている安倍政権のやり方は、人材育成の面から国を内部崩壊させつつある。

    
   
      
 
(森敏)
2016-12-28 10:03 | カテゴリ:未分類

 

(年末の朗報です)
 

http://www.bunka.go.jp/seisaku/geijutsubunka/jutenshien/geijutsusai/h28/pdf/h28_geijutsusai_kettei.pdf

 

平成28年度(第71回)文化庁芸術祭

テレビドキュメンタリー部門優秀賞受賞

 

日本放送協会 NHKスペシャル
 

「被曝 の森 ~原発事故5年目の記録」

  

授賞理由:
福島第一原発事故により大量の放射性物質が放出され,周辺地域は立入りが制限されている。無人の町で今,何が起きているのか,原発事故を忘れかけている5年目の貴重な現場からの報告。イノシシが町を占拠し,野生動物が住宅街で大繁殖している。目を覆うばかりの現実から目をそらさず,国内外の研究者たちの調査に密着し,最新の技術を駆使して丹念に描かれた労作。時間をかけて現実を直視し続ける貴重な記録だ。


ーーーーーーー
これには小生たちも含めて多くの現場研究者が協力しているので、良かったと思います。
NHKには来年からも引き続き原発事故の影響の追跡調査に気合を入れていただきたいと思います。

(森敏)

2016-10-25 10:47 | カテゴリ:未分類

        ボブ・デランにノーベル文学賞授与を決定したノーベル委員会が、ボブ・デラン本人に連絡がつかなくて、受賞を受諾してくれるのかどうか判断に苦しんでいたが、ついに連絡を取ることを諦めたということである。しかしこれまでのノーベル文学賞では、いったんノーベル文学賞授与を決定した歴史的事実は本人の受諾の如何に関わらず残るということらしい。

 

ボブ・デランは実に芸術家としてのカリスマ性を維持する戦略に長けていると思う。彼の作品(作詞や作曲)が受け取る側からの主観で、あれこれと如何様にも解釈できることや、あれこれ解釈できる奇矯な「振る舞い」こそが彼の真骨頂なのであろうと思う。これまでの各種の受賞に関しては、生の声での「本心」はブラックボックスにして黙して決して語らない。まるで「芸術家はカリスマ性を高めるためにはこうあらねばならない」という見本みたいな振る舞いである。芸術家が自己の本心を生の声で語ると、えてしてこれまでの作品そのものが「浅薄」に見えてしまう。ボブ・デランは「沈黙は金なり」ということをよくわきまえている。

 

今は取り巻きに箝口令を敷いているが、彼が死んだらこれまでの側近はこぞって、ノーベル賞受賞に関して「あのときボブ・デランはこう言っていた」とか「ああ言っていた」とか「彼の本心はこうだった」とかの喧々諤々の議論ででひとしきりにぎわい、「虚像」がますます形成されていくのだろう。いまは本人も虚像の形成過程を外から楽しみたいのだろう。

 

最近では、黙して語らぬむっつり屋の俳優「高倉健」の場合もそうだった。彼は世間の「高倉健」という虚像に自分自身を逆に合わせていったというのが、小生にとって最も理解しやすい解釈である。

        

(森敏)

付記:ボブ・デランは小生と同じ年だが、実は小生には彼の影響を受けた自覚は全くない。ビートルズなんかも、どこがいいのかわからなかった。だから以上は、実に感性の鈍い研究者のたわごとです。でも一言書いておきたかった感想です。さきにピカソについても述べたことがあります。
   

2010/07/18 : ピカソの秘密

追記1:映画監督でタレントの北野武さんがフランス政府からレジオンドヌール勲章オフィシエを授与され、パリで叙勲式に出席している。
「受賞で力をもらった。今後新しいジャンルに挑戦したい」(東京新聞)
「恥ずかしいくらい。基本はコメデイアン。いい賞をいただければ、それだけ落差で笑いが生まれる」(朝日新聞)

との発言が紹介されている。
これは、小生にとってはすごく納得のいくコメントだと思う。つまりこれまでの「タケシ」の作品つくりのキーワードは「落差」、小生流にいわせれば 『ズッコケ』 なのである。 テレビでの彼のコメントも今のところこの観点から理解できる。 いつもどこかで斜に構えて、世の中と異なるズッコケる見方をしてみせる、のが彼の真骨頂なのであろう。賞をもらったからと言って、世の中の模範生になったら終わりである。 ボブ・デランはノーベル賞をもらったからと言ってそういうふうに模範生的に今後世界に向けていろいろな生真面目な発信を要求される雰囲気がとてもいやなのではないだろうか?

反骨の喜劇俳優チャップリンは、素直にいろいろな賞をもらっているようだ。
 
追記2:以下の顛末です。

ボブ・ディラン氏、ノーベル賞受け入れる意向

20161029 0806

ノーベル財団は28日、今年のノーベル文学賞の受賞者に選ばれたものの、沈黙を続けてきた米国の歌手ボブ・ディラン氏(75)が受賞を受け入れる意向を示した、と発表した。

 財団のホームぺージによると、ディラン氏は今週、文学賞を選考するスウェーデン・アカデミーに電話し「栄誉にとても感謝する」と伝えた。

 12月に開かれる授賞式にディラン氏が出席するかどうかは決まっていないという。
  
追記3:村上春樹さんが「アンデルセン賞」を授与され現地での受賞講演が新聞に載っている。
今回はアンデルセン童話にかこつけた「影」がテーマである。
前回のイスラエルでのエルサレム賞の授賞式では「壁」がテーマで受賞のスピーチをしている。
彼の小説ではいつも「穴」が出てくる。

「影」「壁」「穴」など、受取手によって多様に解釈される語句を操るのは、ボブ・デランの「風」などに類似している。結局人生は「これだ」と言い切れない曖昧なものなんだ、というのが、あらゆる作家の到達点なのかもしれない。
 
追記4:ボブ・ディラン氏は「先約があり」ノーベル賞授賞式は「欠席する」とのことである。(11月17日)
 
追記5:どうでもいいことだが、村上春樹のデビュー作「風の歌を聴け」には18章にボブ・ディランの曲「ナッシュビル・スカイライン』が記述されている。この本のタイトル「風の歌を聴け」からしても、春樹は『風に吹かれて』というボブ・ディランの「詩」の影響を少なからず受けていると思われる。
 
追記6.朝日新聞に全面広告で「風に吹かれて」の訳詩が載った(12月11日)。そこでこれを一字一句以下に書き留めてみた。改めて、良い歌詞だと思った。


『風に吹かれて』
 

どれだけたくさんの道を歩き回れば
人は一人前だと呼ばれるようになるのだろう?
どれだけ多くの海を越えていけば
白い鳩は砂浜で羽を休めることができるのだろう?
どれだけ大砲の弾が撃たれれば
もう二度と撃たれないよう禁止されるようになるのだろう?
その答は、友よ、風に吹かれている
その答は風の中に舞っている

どれだけ長い歳月が経てば
山は海に削り取られてしまうのだろう?
どれだけ長く生き続ければ
虐げられた人たちは晴れて自由の身になれるのだろう?
どれだけ人は顔をそむけ続けられるのだろう?
何も見なかったふりをして
その答は、友よ、風に吹かれている
その答は風の中に舞っている

何度見上げたら
人はほんとうの空を見られるようになるのだろう?
人々が泣き叫ぶ声を聞くには
2つの耳だけでは足りないのだろうか?
どれだけ人が死んだら
あまりにも多くの人たちが死んでしまっていることに気づくのだろう?
その答は、友よ、風に吹かれている
その答は風の中に舞っている
(訳詞:中川五郎/『ザ・ベリー・ベスト・オブ・ボブ・デイラン』より)

 



2016-10-04 17:25 | カテゴリ:未分類

【大隅良典さんノーベル医学・生理学賞受賞】快挙に中韓ビックリ 韓国「オタク文化」例に「日本に学ばねば」 中国「どんな秘密があるのか…」大隅良典・東京工業大栄誉教授(71)がノーベル医学・生理学賞を受賞したニュースは、APやロイターなど海外の通信社も速報した。
   

 韓国の聯合ニュースは、自然科学分野で日本人のノーベル賞受賞が相次ぐ背景として、「日本特有の匠(たくみ)の精神」や一つの分野に没頭する「オタク文化」の存在を挙げ、「政策や文化といったさまざまな側面の結晶だといえる」と分析した。韓国ではこの分野で受賞がないことから、「日本の政策に学ばねばならない」という韓国の研究者の意見も伝えた。

 中国では北京紙、新京報(電子版)が大隅氏の受賞を報じた上で、「ここ数年、日本の科学者によるノーベル賞受賞が続出している。どんな秘密があるのだろうか」とした。

 英BBCテレビ(同)は「大隅氏の業績はがんからパーキンソン病にいたるまで、何が病気を悪化させるかを説明する助けになった」と重要性を強調。米CNNテレビ(同)は、「オートファジーの存在は1960年代から認識されていたが、大隅氏が酵母を用いた先駆的な実験を行うまで、仕組みがほとんど解明されていなかった」と伝えた。

    

 
  きわめて専門的になりますが、以下に学士院賞受賞時と京都賞受賞時の大隅良典先生の研究内容と、国際賞受賞時の挨拶、をホームページから転記しておきました。
   

     

日本学士院賞審査要旨(2006)
  

理学博士大隅良典氏の「オートファジーの分子機構と生理機能の研究」に対する賞審査要旨
 

分子生物学では、セントラルドグマ確立以来、遺伝子発現すなわちタンパク質の「合成」のしくみの解明に多くの努力が割かれ、タンパク質の「分解」の問題は、受動的でそれほど大きな生物学的な意味を持たないのではないかと長らく考えられてきた。しかし近年、生命が持つ遺伝子の相当な部分がタンパク質やその複合体の分解に関わっており、分解も、合成に匹敵するほど大切であることが認識されつつある。生命が絶えざる合成と分解のバランスの上に成り立っていることから考えればむしろ当然のことであろう。五〇数年前に細胞内小器官「リソソーム」が発見されて以来、タンパク質の分解はこのコンパートメントの中で行われていると一般的に考えられてきた。しかし現在では、細胞内タンパク質分解は、ユビキチン/プロテアソーム系とリソソーム系の二つに大別することができ、両者が機能分担を行っていることが明確になっている。前者が厳密な識別に基づく選択性の高い分解であるのに対し、後者はむしろ非選択的でバルクな(大量な)分解を担っている。

リソソーム内に分解基質を送る過程は、自己を食すると言う意味の「オートファジー」とよばれる膜現象からなることが示されてきた。しかし様々な困難からその分子機構は全くの謎であった。大隅氏は、酵母細胞が栄養飢餓条件にさらされると、リソソームと相同な分解コンパートメントである「液胞」で大規模なタンパク質分解が誘導されることを顕微鏡観察によって発見した。そして、その後の電子顕微鏡による解析から、これが高等生物で知られていたオートファジーと同一の膜現象であることを証明した。次に、酵母の系の優位性を生かして遺伝学的な解析に取り組み、オートファジーに欠損を持つ多くの変異株を分離し、一四個の関連遺伝子(ATG遺伝子群)を同定することに成功した。その後に発見されたオートファ

ジーに必須の遺伝子が三個のみであることから、大隅氏らの当初の戦略が極めて優れていたことが窺える。大隅氏は、引き続き、ATG遺伝子群のクローニングに着手し、それらがコードするタンパク質(Atgタンパク質群)を同定したが、ほぼ全てが新しい分子で、それらの機能の推定は困難であった。しかし数年の間に大隅研究室ではこれらAtgタンパク質に関する重要な発見がなされた。(1)Atg12がユビキチン様タンパク質で、二つの酵素Atg7Atg10を介してAtg5と共有結合体を形成する。(2)Atg8もユビキチン様タンパク質で、Atg7により活性化された後、Atg3に転移し、膜リン脂質の一つホスファチジルエタノールアミンと結合する。(3)Atg1はタンパク質キナーゼ活性を有し、この活性がオートファジーに必須であること、(4)Atg14は、オートファジーに必要な特異的PI3キナーゼと複合体を形成すること、などである。また、栄養飢餓の関知にTorと呼ばれるキナーゼが関わることも明らかにした(mTORは動物栄養センシングに関連して注目されている)。オートファジーの最大の謎は細胞質の一部やオルガネラ

をまず膜が取り囲んで隔離する膜現象にある。上記の反応系は全てこの過程(オートファゴソーム形成)に関わっている。オートファジーは真核細胞の基本的な機能の一つであり、発見されたATG遺伝子群は酵

母からヒト、高等植物にまで広く保存されていることが明らかとなった。これらの機能解明は、オートファジーの機構解明に留まらず、細胞内の膜動態の分子機構を理解する上でも重要な知見を与えると

期待されている。オートファジーには未だ多くの謎が隠されているが、大隅氏らによるATG遺伝子群の同定を契機として、多くの生物種でオートファジーが確認され、また、タンパク質分解の破綻が様々な病気や老化などにも関わっていることが明らかになってきた。現代の人間社会には資源のリサイクルシステムの構築が求められているが、細胞は自らのタンパク質を分解して必要なタンパク質を合成するという見事

なリサイクルシステムを獲得したものと考えられる。オートファジーの重要性は、今後も、細胞内有害物質の除去機構、細菌感染、抗原提示、老化など様々な形で明らかにされるであろう。このように本研究分野の活性がいっそう高まる中、大隅氏は一貫してオートファジーの分子機構の解明に正面から取り組んでおり、他の追随を全く許さない研究を続けている。また、大隅氏は、Gordon Research Conferenceなど主要な国際会議から基調講演に招かれ、本分野における国際的なリーダーシップを発揮しており、平成一七年には藤原賞を受賞している。

   

  
 

 

京都賞の受賞理由
     

細胞の環境適応システム、オートファジーの分子機構と生理的意義の解明への多大な貢献
     

大隅良典博士は、細胞が栄養環境などに適応して自らタンパク質分解を行うオートファジー(自食作用)に関して、酵母を用いた細胞遺伝学的な研究を進め、世界をリードする成果をあげた。オートファジーは、1960年初頭に、動物細胞内の食胞として知られているリソソーム中に細胞質成分であるミトコンドリアや小胞体が一重膜で囲まれて存在していることから提唱された概念で、細胞内成分や細胞内小器官がリソソームに取り込まれて分解を受ける過程を意味する。その後、多種類の細胞やいくつかの臓器でこの現象が報告されてきたが、オートファジーの分子メカニズムや生理的意義は不明なままであった。大隅博士は、出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeで空胞の機能を研究していたが、1992年、タンパク質分解酵素B欠損株を低栄養培地に曝すことにより空胞中に一重膜で囲まれた細胞内小器官成分が出現すること、即ち、酵母でオートファジーが誘導できることを発見した。同博士は、ついで上記現象を利用して、タンパク質分解抑制と栄養飢餓によってもオートファジーが誘導されない多数の変異株を同定した。博士の酵母におけるオートファジーと変異株の発見は、オートファジーの分子機構解析に道を拓いたものである。これが基盤となり、これまでオートファジーに関係する数十の分子が同定され、これらの機能解析により、飢餓などの刺激に応じて、どのようにして細胞内成分や細胞内小器官を囲む新規の膜構造が形成され、これがリソソームに融合するかの道筋が明らかになりつつある。

酵母におけるオートファジー関連分子の発見は、哺乳類を含む動物細胞でのオートファジー関連分子の同定につながり、これらを利用して、動物におけるオートファジーの多様な生理的意義が多くの研究者により明らかにされた。すなわち、オートファジーが出生に伴う飢餓状態への適応に不可欠であること、オートファジーが神経での異常タンパク質の蓄積を防ぎ神経細胞死を防止するために必要であること、心臓の収縮力を維持するためにオートファジーを伴う代謝回転が不可欠であることなどがある。

大隅博士の貢献は、生体の重要な素過程の細胞自食作用であるオートファジーに関してその分子メカニズムと生理的意義の解明に道を拓いたものとして高く評価されるものである。

以上の理由によって、大隅良典博士に基礎科学部門における第28(2012)京都賞を贈呈する。

    
 
 

 国際生物学会賞での挨拶(2015)
 

(一部略)

私はこれまで機会あるごとに述べて参りましたが、私自身、様々な偶然と出会いに助けられて、研究者としての細い細い道を今日まで歩んで参りました。東京大学教養学部の今堀和友先生の下で学び、京都大学、東京大学農学部、ロックフェラー大学留学を経て、東京大学理学部安楽泰宏教授のもとで研究をする機会を得ました。その後、東京大学教養学部、基礎生物学研究所にお世話になり、現在も、東京工業大学で大変恵まれた環境を頂いて研究を続けています。今日科学研究は激烈な競争があるというのも事実ですが、私は元来競争が苦手で、人のやらないことをやりたいという思いで研究を進めて参りました。

   
私は細胞内のタンパク質の分解の機構に興味を持ち、1988年以来28年間に亘ってオートファジーと呼ばれる細胞内の分解機構の研究を進めて参りました。生命体は絶えまない合成と分解の平衡によって維持されています。合成に比べて分解の研究は興味を持たれず、なかなか進みませんでした。

   
私は一貫して小さな酵母という細胞を用いて、オートファジーの謎の解明を目指し、関わる遺伝子群とその機能を解析して参りました。オートファジーに関わる遺伝子の同定を契機として、今日オートファジーの研究は劇的な広がりを見せ、高等動植物の様々な高次機能に関わっていること、そして、様々な病態にも関係していることが次々と明らかになって参りました。すなわち、分解は合成に劣らず生命活動には重要であるということが次第に認識されて参りました。しかし、まだオートファジーの研究には沢山の基本的な課題が残されています。私は残された研究時間で今一度原点にたちかえって、「オートファジーは何か」ということに向かいたいと思っています。また、近い将来オートファジーのさらなる機構の解明が進み、細胞の一層の理解のもとに、病気の克服や健康の増進などの研究がさらに進むことを心から願っています。

   
いうまでもなく現代生物学は一人で進められるものではありません。私のこれまでの仕事も、30年近くに亘る沢山の素晴らしい研究仲間のたゆまぬ努力の賜物でもあります。また素晴らしい共同研究者にも恵まれました。心から彼らに感謝の意を表するとともに、彼らとともにこの栄誉を分かち合いたいと思っております。
   
これまで私を支えてくれた今は亡き両親、妻萬里子と家族にも心から感謝をしたいと思います。

最後にこれから生物学を志す若い世代に向けて、
   
私達の周りには、まだ沢山の未知の課題が隠されています。素直に自分の眼で現象をみつめ、自分の抱いた疑問を大切にして、流行や様々な外圧に押し流されることなく、自分を信じて生命の論理を明らかにする道を進んで欲しいと申しあげたいと思います。
   
私も微力ながら残された時間を、効率や性急に成果が求められる今日の研究者を巡る状況が少しでも改善し、生き物や自然を愛し、人を愛し、豊かな気持ちで研究ができる環境というものの実現に助力したいと思います。
本日はどうも有り難うございました。

       
      


       
  大隅先生ご自身が選んでいる主要な業績は以下のとおりです。
  

01. Takeshige, K., Baba, M., Tsuboi, S., Noda, T., and Ohsumi, Y. (1992)

Autophagy in yeast demonstrated with proteinase-deficient mutant and its

conditions for induction. J. Cell Biol., 119, 301-311.

02. Tsukada, M., and Ohsumi, Y. (1993) Isolation and characterization of

autophagy-deficient mutants in Saccharomyces cerevisiae. FEBS Lett.,

333, 169-174.

03. Baba, M., Takeshige, K., Baba, N., and Ohsumi, Y. (1994) Ultrastructural

analysis of the autophagic process in yeast: Detection of autophagosomes

and their characterization. J. Cell Biol., 124, 903-913.

04. Matsuura, A., Tsukada, M., Wada, Y., and Ohsumi, Y. (1997) Apg1p, a

novel protein kinase required for the autophagic process in Saccharomyces

cerevisiae. Gene, 192, 245-250.

05. Baba, M., Ohsumi, M., Scott, S. V., Klionsky, D. J., and Ohsumi, Y. (1997)

Two distinct pathways for targeting proteins from the cytoplasm to the

vacuole/lysosome. J. Cell Biol., 139, 1687-1695.

06. Mizushima, N., Noda, T., Yoshimori, T., Tanaka, T., Ishii, T., George, M.

D., Klionsky, D. J., Ohsumi, M., and Ohsumi, Y. (1998) A protein

conjugation system essential for autophagy. Nature, 395, 395-398.

07. Mizushima, N., Noda, T., and Ohsumi, Y. (1999) Apg16p is required for

the function of the Apg12p-Apg5p conjugate in the yeast autophagic

pathway. EMBO J., 18, 3888-3896.

08. Kirisako, T., Baba, M., Ishihara, N., Miyazawa, K., Ohsumi, M., Noda, T.,

and Ohsumi, Y. (1999) Formation process of autophagosome is traced

with Apg8/Aut7p in yeast. J. Cell Biol., 147, 435-446.

09. Kirisako, T., Ichimura, Y., Okada, H., Kabeya, Y., Mizushima, N.,

Yoshimori, T., Ohsumi, M., Noda, T., and Ohsumi, Y. (2000) The

reversible modification regulates the membrane-binding state of

Apg8/Aut7 essential for autophagy and the cytoplasm to vacuole targeting

pathway. J. Cell Biol., 151, 263-275,

10. Kabeya, Y., Mizushima, N., Ueno, T., Yamamoto, A., Kirisako, T., Noda,

T., Kominami, E., Ohsumi, Y., and Yoshimori, T. (2000) LC3, a

mammalian homologue of yeast Apg8p is processed and localized in

autophagosome membranes. EMBO. J., 19, 5720-5728.

11. Ichimura, Y., Kirisako, T., Takao, T., Satomi, Y., Shimonishi, Y., Ishihara,

N., Mizushima, N., Tanida, I., Kominami, E., Ohsumi, M., Noda, T.,

Ohsumi, Y. (2000) A ubiquitin-like system mediates protein lipidation.

Nature, 408, 488-492

12. Mizushima, N., Yamamoto, A., Hatano, M., Kobayashi, Y., Kabeya, Y.,

Suzuki, K., Tokuhisa, T., Ohsumi, Y., and Yoshimori, T. (2001) Dissection

of autophagosome formation using Apg5-deficient mouse embryonic stem

cells. J. Cell Biol., 152, 657-668.

13. Suzuki, K., Kirisako, T., Kamada, Y., Mizushima, N., Noda, T., and

Ohsumi, Y. (2001) The pre-autophagosomal structure organized by

concerted functions of APG genes is essential for autophagosome

formation. EMBO J., 20, 5971-5981.

14. Suzuki, K., Kamada, Y., and Ohsumi, Y. (2002) Studies of cargo delivery

to the vacuole mediated by autophagosomes in Saccharomyces cerevisiae.

Develop. Cell, 3, 815-824.

15. Mizushima, N., Yamamoto, A., Matsui, M., Yoshimori, T., and Ohsumi, Y.

(2004) In vivo analysis of autophagy in response to nutrient starvation

using transgenic mice expressing a fluorescent autophagosome marker.

Mol. Biol. Cell., 15, 1101-1111.

16. Ichimura, Y., Imamura, Y., Emoto, K., Umeda, M., Noda, T., and Ohsumi,

Y. (2004) In vivo and in vitro reconstitution of Atg8 conjugation essential

for autophagy. J. Biol. Chem., 279, 40584-40592.

17. Yoshimoto, K., Hanaoka, H., Sato. S., Kato, T., Tabata, S., Noda, T., and

Ohsumi, Y. (2004) Processing of ATG8s, ubiquitin-like proteins, and their

deconjugation by ATG4s are essential for plant autophagy. Plant Cell, 16,

2967-2983.

18. Kuma, A., Hatano, M., Matsui, M., Yamamoto, A., Nakaya, H., Yoshimori,

T., Ohsumi, Y., Tokuhisa, T., and Mizushima, N. (2004) The role of

autophagy during the early neonatal starvation period. Nature, 432, 1032-

1036.

19. Atg8, a Ubiquitin-like Protein Required for Autophagosome Formation, Mediates Membrane Tethering and Hemifusion (Nakatogawa, H., Ichimura, Y. and Ohsumi, Y.), Cell 130: 165-178, 2007

 

   

     
    
(森敏)

2016-08-10 22:17 | カテゴリ:未分類

         村上春樹「職業としての小説家」が昨年6月頃出版されたときに、気になる本の題名だったので店頭ですぐ買おうと思ったのだが、紀伊国屋が80%買い上げて通常の本の流通経路の独占を排したいということだった。なので、早期の店頭買いは不可能とあきらめ、読む時期が遅れてもいいからと近所の図書館に閲覧を注文した。ところがこの本はすでに30人待ちだとかいうことで、仰天した。その後はそのママ忘れていた。なんと一年以上経って先日やっと「順番が回ってきた」と図書館から連絡があった。

 

        この本は小生にはとてもおもしろかった。丸5時間かけて文章を味わいながら集中して読了した。

 

        日本の作家の場合、自分が小説家として生長していく人生航路や、自分の小説の創作過程を、赤裸々に開陳した、という話はあまり知らない(小生が知らないだけなのかもしれないが)。

 

        思うに、村上春樹は正確な「自伝」を残しておきたいという年齢に達したのかもしれない。現世や後世の評論家などによって書かれた「外伝」が村上春樹の死後、世の中にまかり通って「正伝」となるのでは、とてもかなわないと思ってのことかもしれない。他人が書いたものは事実関係も含めてほとんどが作家本人の意志と異なることは必定だからである。「いいかげん、評論家の村上春樹論は現在でもずれてるんだから」と村上春樹自身がきっと思っていることだろう。

 

        村上春樹はこれまでもいくつかの随筆の随所で、自伝的なことを述べているので、いわゆる心底からの「村上教」信者(ファン)にとってはこの自伝はあまり新規な内容ではないのかもしれない。しかし、小生には非常に新鮮で、ぐいぐい一気に引っ張られて読めた。彼の小説と異なり、レトリックに凝ることなく首尾一貫してだれにでもわかりやすい言葉で書かれているのである。

  

        全部で12章あるうちの一章を「オリジナリテイー」について開陳している。小生でなくても読者が科学者なら、小説家が正面から語る「オリジナリテイー」には興味津々だと思う。ということで小生はこの章から読み始めた。

   

        正面から構えて音楽、絵画、小説などの順にオリジナリテイーとは、と展開しているが、結論的には「新鮮で、エネルギーに満ちて、そして間違いなくその人自身のものであること」(105ページ)と総括されている。しかしこれは、実は作品を見る外側からの観点であって、創作者自身の内面からの心的過程を語るものではない。一点「作家にとってそれを書いているときが楽しくなくてならない」と言うことがかかれていて、これは大いに納得した。しかし「なぜ楽しいのか?」という自分の内面を分析して誰にでもわかるように表現することは至難の業で、それどころか、それは事実上不可能というべきであろう。創作の動機は内面に材料がたまってきて沸々と「書きたい」という気持ちがわいてくるのだそうである。実はこれは自然科学の研究者である現今の我が身に引き比べてもきわめて納得できることでもある。

 

        小生が現役の時は、国から研究費をもらっているので毎年一定数のレベルの高い論文を書かねばならないというストレスに追いまくられていた。(いまでも世界中の研究者が戦々恐々で先駆性や独創性を競ってそのほとんどが、こう言ってはなんだが、「研究費獲得のための研究」を行っている。) そのために、アイデアがわくたびに学部生・大学院生・ポスドクの尻をせっかちにたたきまくった。幸いアイデアには事欠かなかったが、なぜそのアイデアが自然にわいてくるのか、に関しては、自分でもよく把握できなかったところがあった。発想の源泉みたいなものはたぶん小生のような鈍才にはあれこれの努力(通常科学をくりかえし地道にやること)の過程で、状況が煮詰まって、ある日突然自然現象の「法則性」が漠然と見えてくることだったと思う。

  

        現在現役を退いているので、論文を書かねばならない必然性はない。しかし福島原発事故による放射能汚染調査に関わっていると、試料やデータの蓄積や見聞の蓄積から、「論文を書きたい」という気持ちが沸いてくることも事実である。これは何ら義務ではない。だからこの欲求は研究者としての初期の素朴な気持ちである「未知の自然現象を解明したい」という興味から出発した本来に立ち返っているのかもしれない。

 

        話は振り出しに戻るが、「職業としての小説家」を google でキーワード検索すると、amazonで読者感想文が100点ばかり掲載されている。掲載のだぶりをのぞくと実質的には50点ばかりの感想文だ。全部読むのに1時間以上時間がかかった。それらを読むと、あまり村上文学に親しくない人から,なかなかの深淵な村上文学論を有するプロの評論家まで、様々な意見が開陳されていて非常におもしろかった。村上春樹の小説や随筆は好き嫌いはあれ、とにかく老若男女の誰にでも「ちょっと気になる」作品であり続けていることがよくわかる。(実際、村上春樹の芦屋市精道中学校時代の国語の先生であった広井大 先生は、村上春樹の本は、「気になるので、必ず買って読んでいる」とのことである。しかしほとんどが先生の気分には合わないので、結局積読(つんどく)になっているんだそうである)。「職業としての小説家」である村上春樹は、その外野席からのいろいろなうわさ話をきっと「ピントがくるっているなー」と余裕をもって楽しんでいるのではないかと小生には思われる。

 

      諸般の 材料がたまって 「書きたい」という気持ちが煮詰まってきたら数年後にまた刺激的な村上春樹の大作が世に出ることを大いに期待している。それまで楽しみに生きていよう。
      
(森敏)

 

     

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