2016-10-04 17:25 | カテゴリ:未分類

【大隅良典さんノーベル医学・生理学賞受賞】快挙に中韓ビックリ 韓国「オタク文化」例に「日本に学ばねば」 中国「どんな秘密があるのか…」大隅良典・東京工業大栄誉教授(71)がノーベル医学・生理学賞を受賞したニュースは、APやロイターなど海外の通信社も速報した。
   

 韓国の聯合ニュースは、自然科学分野で日本人のノーベル賞受賞が相次ぐ背景として、「日本特有の匠(たくみ)の精神」や一つの分野に没頭する「オタク文化」の存在を挙げ、「政策や文化といったさまざまな側面の結晶だといえる」と分析した。韓国ではこの分野で受賞がないことから、「日本の政策に学ばねばならない」という韓国の研究者の意見も伝えた。

 中国では北京紙、新京報(電子版)が大隅氏の受賞を報じた上で、「ここ数年、日本の科学者によるノーベル賞受賞が続出している。どんな秘密があるのだろうか」とした。

 英BBCテレビ(同)は「大隅氏の業績はがんからパーキンソン病にいたるまで、何が病気を悪化させるかを説明する助けになった」と重要性を強調。米CNNテレビ(同)は、「オートファジーの存在は1960年代から認識されていたが、大隅氏が酵母を用いた先駆的な実験を行うまで、仕組みがほとんど解明されていなかった」と伝えた。

    

 
  きわめて専門的になりますが、以下に学士院賞受賞時と京都賞受賞時の大隅良典先生の研究内容と、国際賞受賞時の挨拶、をホームページから転記しておきました。
   

     

日本学士院賞審査要旨(2006)
  

理学博士大隅良典氏の「オートファジーの分子機構と生理機能の研究」に対する賞審査要旨
 

分子生物学では、セントラルドグマ確立以来、遺伝子発現すなわちタンパク質の「合成」のしくみの解明に多くの努力が割かれ、タンパク質の「分解」の問題は、受動的でそれほど大きな生物学的な意味を持たないのではないかと長らく考えられてきた。しかし近年、生命が持つ遺伝子の相当な部分がタンパク質やその複合体の分解に関わっており、分解も、合成に匹敵するほど大切であることが認識されつつある。生命が絶えざる合成と分解のバランスの上に成り立っていることから考えればむしろ当然のことであろう。五〇数年前に細胞内小器官「リソソーム」が発見されて以来、タンパク質の分解はこのコンパートメントの中で行われていると一般的に考えられてきた。しかし現在では、細胞内タンパク質分解は、ユビキチン/プロテアソーム系とリソソーム系の二つに大別することができ、両者が機能分担を行っていることが明確になっている。前者が厳密な識別に基づく選択性の高い分解であるのに対し、後者はむしろ非選択的でバルクな(大量な)分解を担っている。

リソソーム内に分解基質を送る過程は、自己を食すると言う意味の「オートファジー」とよばれる膜現象からなることが示されてきた。しかし様々な困難からその分子機構は全くの謎であった。大隅氏は、酵母細胞が栄養飢餓条件にさらされると、リソソームと相同な分解コンパートメントである「液胞」で大規模なタンパク質分解が誘導されることを顕微鏡観察によって発見した。そして、その後の電子顕微鏡による解析から、これが高等生物で知られていたオートファジーと同一の膜現象であることを証明した。次に、酵母の系の優位性を生かして遺伝学的な解析に取り組み、オートファジーに欠損を持つ多くの変異株を分離し、一四個の関連遺伝子(ATG遺伝子群)を同定することに成功した。その後に発見されたオートファ

ジーに必須の遺伝子が三個のみであることから、大隅氏らの当初の戦略が極めて優れていたことが窺える。大隅氏は、引き続き、ATG遺伝子群のクローニングに着手し、それらがコードするタンパク質(Atgタンパク質群)を同定したが、ほぼ全てが新しい分子で、それらの機能の推定は困難であった。しかし数年の間に大隅研究室ではこれらAtgタンパク質に関する重要な発見がなされた。(1)Atg12がユビキチン様タンパク質で、二つの酵素Atg7Atg10を介してAtg5と共有結合体を形成する。(2)Atg8もユビキチン様タンパク質で、Atg7により活性化された後、Atg3に転移し、膜リン脂質の一つホスファチジルエタノールアミンと結合する。(3)Atg1はタンパク質キナーゼ活性を有し、この活性がオートファジーに必須であること、(4)Atg14は、オートファジーに必要な特異的PI3キナーゼと複合体を形成すること、などである。また、栄養飢餓の関知にTorと呼ばれるキナーゼが関わることも明らかにした(mTORは動物栄養センシングに関連して注目されている)。オートファジーの最大の謎は細胞質の一部やオルガネラ

をまず膜が取り囲んで隔離する膜現象にある。上記の反応系は全てこの過程(オートファゴソーム形成)に関わっている。オートファジーは真核細胞の基本的な機能の一つであり、発見されたATG遺伝子群は酵

母からヒト、高等植物にまで広く保存されていることが明らかとなった。これらの機能解明は、オートファジーの機構解明に留まらず、細胞内の膜動態の分子機構を理解する上でも重要な知見を与えると

期待されている。オートファジーには未だ多くの謎が隠されているが、大隅氏らによるATG遺伝子群の同定を契機として、多くの生物種でオートファジーが確認され、また、タンパク質分解の破綻が様々な病気や老化などにも関わっていることが明らかになってきた。現代の人間社会には資源のリサイクルシステムの構築が求められているが、細胞は自らのタンパク質を分解して必要なタンパク質を合成するという見事

なリサイクルシステムを獲得したものと考えられる。オートファジーの重要性は、今後も、細胞内有害物質の除去機構、細菌感染、抗原提示、老化など様々な形で明らかにされるであろう。このように本研究分野の活性がいっそう高まる中、大隅氏は一貫してオートファジーの分子機構の解明に正面から取り組んでおり、他の追随を全く許さない研究を続けている。また、大隅氏は、Gordon Research Conferenceなど主要な国際会議から基調講演に招かれ、本分野における国際的なリーダーシップを発揮しており、平成一七年には藤原賞を受賞している。

   

  
 

 

京都賞の受賞理由
     

細胞の環境適応システム、オートファジーの分子機構と生理的意義の解明への多大な貢献
     

大隅良典博士は、細胞が栄養環境などに適応して自らタンパク質分解を行うオートファジー(自食作用)に関して、酵母を用いた細胞遺伝学的な研究を進め、世界をリードする成果をあげた。オートファジーは、1960年初頭に、動物細胞内の食胞として知られているリソソーム中に細胞質成分であるミトコンドリアや小胞体が一重膜で囲まれて存在していることから提唱された概念で、細胞内成分や細胞内小器官がリソソームに取り込まれて分解を受ける過程を意味する。その後、多種類の細胞やいくつかの臓器でこの現象が報告されてきたが、オートファジーの分子メカニズムや生理的意義は不明なままであった。大隅博士は、出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeで空胞の機能を研究していたが、1992年、タンパク質分解酵素B欠損株を低栄養培地に曝すことにより空胞中に一重膜で囲まれた細胞内小器官成分が出現すること、即ち、酵母でオートファジーが誘導できることを発見した。同博士は、ついで上記現象を利用して、タンパク質分解抑制と栄養飢餓によってもオートファジーが誘導されない多数の変異株を同定した。博士の酵母におけるオートファジーと変異株の発見は、オートファジーの分子機構解析に道を拓いたものである。これが基盤となり、これまでオートファジーに関係する数十の分子が同定され、これらの機能解析により、飢餓などの刺激に応じて、どのようにして細胞内成分や細胞内小器官を囲む新規の膜構造が形成され、これがリソソームに融合するかの道筋が明らかになりつつある。

酵母におけるオートファジー関連分子の発見は、哺乳類を含む動物細胞でのオートファジー関連分子の同定につながり、これらを利用して、動物におけるオートファジーの多様な生理的意義が多くの研究者により明らかにされた。すなわち、オートファジーが出生に伴う飢餓状態への適応に不可欠であること、オートファジーが神経での異常タンパク質の蓄積を防ぎ神経細胞死を防止するために必要であること、心臓の収縮力を維持するためにオートファジーを伴う代謝回転が不可欠であることなどがある。

大隅博士の貢献は、生体の重要な素過程の細胞自食作用であるオートファジーに関してその分子メカニズムと生理的意義の解明に道を拓いたものとして高く評価されるものである。

以上の理由によって、大隅良典博士に基礎科学部門における第28(2012)京都賞を贈呈する。

    
 
 

 国際生物学会賞での挨拶(2015)
 

(一部略)

私はこれまで機会あるごとに述べて参りましたが、私自身、様々な偶然と出会いに助けられて、研究者としての細い細い道を今日まで歩んで参りました。東京大学教養学部の今堀和友先生の下で学び、京都大学、東京大学農学部、ロックフェラー大学留学を経て、東京大学理学部安楽泰宏教授のもとで研究をする機会を得ました。その後、東京大学教養学部、基礎生物学研究所にお世話になり、現在も、東京工業大学で大変恵まれた環境を頂いて研究を続けています。今日科学研究は激烈な競争があるというのも事実ですが、私は元来競争が苦手で、人のやらないことをやりたいという思いで研究を進めて参りました。

   
私は細胞内のタンパク質の分解の機構に興味を持ち、1988年以来28年間に亘ってオートファジーと呼ばれる細胞内の分解機構の研究を進めて参りました。生命体は絶えまない合成と分解の平衡によって維持されています。合成に比べて分解の研究は興味を持たれず、なかなか進みませんでした。

   
私は一貫して小さな酵母という細胞を用いて、オートファジーの謎の解明を目指し、関わる遺伝子群とその機能を解析して参りました。オートファジーに関わる遺伝子の同定を契機として、今日オートファジーの研究は劇的な広がりを見せ、高等動植物の様々な高次機能に関わっていること、そして、様々な病態にも関係していることが次々と明らかになって参りました。すなわち、分解は合成に劣らず生命活動には重要であるということが次第に認識されて参りました。しかし、まだオートファジーの研究には沢山の基本的な課題が残されています。私は残された研究時間で今一度原点にたちかえって、「オートファジーは何か」ということに向かいたいと思っています。また、近い将来オートファジーのさらなる機構の解明が進み、細胞の一層の理解のもとに、病気の克服や健康の増進などの研究がさらに進むことを心から願っています。

   
いうまでもなく現代生物学は一人で進められるものではありません。私のこれまでの仕事も、30年近くに亘る沢山の素晴らしい研究仲間のたゆまぬ努力の賜物でもあります。また素晴らしい共同研究者にも恵まれました。心から彼らに感謝の意を表するとともに、彼らとともにこの栄誉を分かち合いたいと思っております。
   
これまで私を支えてくれた今は亡き両親、妻萬里子と家族にも心から感謝をしたいと思います。

最後にこれから生物学を志す若い世代に向けて、
   
私達の周りには、まだ沢山の未知の課題が隠されています。素直に自分の眼で現象をみつめ、自分の抱いた疑問を大切にして、流行や様々な外圧に押し流されることなく、自分を信じて生命の論理を明らかにする道を進んで欲しいと申しあげたいと思います。
   
私も微力ながら残された時間を、効率や性急に成果が求められる今日の研究者を巡る状況が少しでも改善し、生き物や自然を愛し、人を愛し、豊かな気持ちで研究ができる環境というものの実現に助力したいと思います。
本日はどうも有り難うございました。

       
      


       
  大隅先生ご自身が選んでいる主要な業績は以下のとおりです。
  

01. Takeshige, K., Baba, M., Tsuboi, S., Noda, T., and Ohsumi, Y. (1992)

Autophagy in yeast demonstrated with proteinase-deficient mutant and its

conditions for induction. J. Cell Biol., 119, 301-311.

02. Tsukada, M., and Ohsumi, Y. (1993) Isolation and characterization of

autophagy-deficient mutants in Saccharomyces cerevisiae. FEBS Lett.,

333, 169-174.

03. Baba, M., Takeshige, K., Baba, N., and Ohsumi, Y. (1994) Ultrastructural

analysis of the autophagic process in yeast: Detection of autophagosomes

and their characterization. J. Cell Biol., 124, 903-913.

04. Matsuura, A., Tsukada, M., Wada, Y., and Ohsumi, Y. (1997) Apg1p, a

novel protein kinase required for the autophagic process in Saccharomyces

cerevisiae. Gene, 192, 245-250.

05. Baba, M., Ohsumi, M., Scott, S. V., Klionsky, D. J., and Ohsumi, Y. (1997)

Two distinct pathways for targeting proteins from the cytoplasm to the

vacuole/lysosome. J. Cell Biol., 139, 1687-1695.

06. Mizushima, N., Noda, T., Yoshimori, T., Tanaka, T., Ishii, T., George, M.

D., Klionsky, D. J., Ohsumi, M., and Ohsumi, Y. (1998) A protein

conjugation system essential for autophagy. Nature, 395, 395-398.

07. Mizushima, N., Noda, T., and Ohsumi, Y. (1999) Apg16p is required for

the function of the Apg12p-Apg5p conjugate in the yeast autophagic

pathway. EMBO J., 18, 3888-3896.

08. Kirisako, T., Baba, M., Ishihara, N., Miyazawa, K., Ohsumi, M., Noda, T.,

and Ohsumi, Y. (1999) Formation process of autophagosome is traced

with Apg8/Aut7p in yeast. J. Cell Biol., 147, 435-446.

09. Kirisako, T., Ichimura, Y., Okada, H., Kabeya, Y., Mizushima, N.,

Yoshimori, T., Ohsumi, M., Noda, T., and Ohsumi, Y. (2000) The

reversible modification regulates the membrane-binding state of

Apg8/Aut7 essential for autophagy and the cytoplasm to vacuole targeting

pathway. J. Cell Biol., 151, 263-275,

10. Kabeya, Y., Mizushima, N., Ueno, T., Yamamoto, A., Kirisako, T., Noda,

T., Kominami, E., Ohsumi, Y., and Yoshimori, T. (2000) LC3, a

mammalian homologue of yeast Apg8p is processed and localized in

autophagosome membranes. EMBO. J., 19, 5720-5728.

11. Ichimura, Y., Kirisako, T., Takao, T., Satomi, Y., Shimonishi, Y., Ishihara,

N., Mizushima, N., Tanida, I., Kominami, E., Ohsumi, M., Noda, T.,

Ohsumi, Y. (2000) A ubiquitin-like system mediates protein lipidation.

Nature, 408, 488-492

12. Mizushima, N., Yamamoto, A., Hatano, M., Kobayashi, Y., Kabeya, Y.,

Suzuki, K., Tokuhisa, T., Ohsumi, Y., and Yoshimori, T. (2001) Dissection

of autophagosome formation using Apg5-deficient mouse embryonic stem

cells. J. Cell Biol., 152, 657-668.

13. Suzuki, K., Kirisako, T., Kamada, Y., Mizushima, N., Noda, T., and

Ohsumi, Y. (2001) The pre-autophagosomal structure organized by

concerted functions of APG genes is essential for autophagosome

formation. EMBO J., 20, 5971-5981.

14. Suzuki, K., Kamada, Y., and Ohsumi, Y. (2002) Studies of cargo delivery

to the vacuole mediated by autophagosomes in Saccharomyces cerevisiae.

Develop. Cell, 3, 815-824.

15. Mizushima, N., Yamamoto, A., Matsui, M., Yoshimori, T., and Ohsumi, Y.

(2004) In vivo analysis of autophagy in response to nutrient starvation

using transgenic mice expressing a fluorescent autophagosome marker.

Mol. Biol. Cell., 15, 1101-1111.

16. Ichimura, Y., Imamura, Y., Emoto, K., Umeda, M., Noda, T., and Ohsumi,

Y. (2004) In vivo and in vitro reconstitution of Atg8 conjugation essential

for autophagy. J. Biol. Chem., 279, 40584-40592.

17. Yoshimoto, K., Hanaoka, H., Sato. S., Kato, T., Tabata, S., Noda, T., and

Ohsumi, Y. (2004) Processing of ATG8s, ubiquitin-like proteins, and their

deconjugation by ATG4s are essential for plant autophagy. Plant Cell, 16,

2967-2983.

18. Kuma, A., Hatano, M., Matsui, M., Yamamoto, A., Nakaya, H., Yoshimori,

T., Ohsumi, Y., Tokuhisa, T., and Mizushima, N. (2004) The role of

autophagy during the early neonatal starvation period. Nature, 432, 1032-

1036.

19. Atg8, a Ubiquitin-like Protein Required for Autophagosome Formation, Mediates Membrane Tethering and Hemifusion (Nakatogawa, H., Ichimura, Y. and Ohsumi, Y.), Cell 130: 165-178, 2007

 

   

     
    
(森敏)

2016-08-10 22:17 | カテゴリ:未分類

         村上春樹「職業としての小説家」が昨年6月頃出版されたときに、気になる本の題名だったので店頭ですぐ買おうと思ったのだが、紀伊国屋が80%買い上げて通常の本の流通経路の独占を排したいということだった。なので、早期の店頭買いは不可能とあきらめ、読む時期が遅れてもいいからと近所の図書館に閲覧を注文した。ところがこの本はすでに30人待ちだとかいうことで、仰天した。その後はそのママ忘れていた。なんと一年以上経って先日やっと「順番が回ってきた」と図書館から連絡があった。

 

        この本は小生にはとてもおもしろかった。丸5時間かけて文章を味わいながら集中して読了した。

 

        日本の作家の場合、自分が小説家として生長していく人生航路や、自分の小説の創作過程を、赤裸々に開陳した、という話はあまり知らない(小生が知らないだけなのかもしれないが)。

 

        思うに、村上春樹は正確な「自伝」を残しておきたいという年齢に達したのかもしれない。現世や後世の評論家などによって書かれた「外伝」が村上春樹の死後、世の中にまかり通って「正伝」となるのでは、とてもかなわないと思ってのことかもしれない。他人が書いたものは事実関係も含めてほとんどが作家本人の意志と異なることは必定だからである。「いいかげん、評論家の村上春樹論は現在でもずれてるんだから」と村上春樹自身がきっと思っていることだろう。

 

        村上春樹はこれまでもいくつかの随筆の随所で、自伝的なことを述べているので、いわゆる心底からの「村上教」信者(ファン)にとってはこの自伝はあまり新規な内容ではないのかもしれない。しかし、小生には非常に新鮮で、ぐいぐい一気に引っ張られて読めた。彼の小説と異なり、レトリックに凝ることなく首尾一貫してだれにでもわかりやすい言葉で書かれているのである。

  

        全部で12章あるうちの一章を「オリジナリテイー」について開陳している。小生でなくても読者が科学者なら、小説家が正面から語る「オリジナリテイー」には興味津々だと思う。ということで小生はこの章から読み始めた。

   

        正面から構えて音楽、絵画、小説などの順にオリジナリテイーとは、と展開しているが、結論的には「新鮮で、エネルギーに満ちて、そして間違いなくその人自身のものであること」(105ページ)と総括されている。しかしこれは、実は作品を見る外側からの観点であって、創作者自身の内面からの心的過程を語るものではない。一点「作家にとってそれを書いているときが楽しくなくてならない」と言うことがかかれていて、これは大いに納得した。しかし「なぜ楽しいのか?」という自分の内面を分析して誰にでもわかるように表現することは至難の業で、それどころか、それは事実上不可能というべきであろう。創作の動機は内面に材料がたまってきて沸々と「書きたい」という気持ちがわいてくるのだそうである。実はこれは自然科学の研究者である現今の我が身に引き比べてもきわめて納得できることでもある。

 

        小生が現役の時は、国から研究費をもらっているので毎年一定数のレベルの高い論文を書かねばならないというストレスに追いまくられていた。(いまでも世界中の研究者が戦々恐々で先駆性や独創性を競ってそのほとんどが、こう言ってはなんだが、「研究費獲得のための研究」を行っている。) そのために、アイデアがわくたびに学部生・大学院生・ポスドクの尻をせっかちにたたきまくった。幸いアイデアには事欠かなかったが、なぜそのアイデアが自然にわいてくるのか、に関しては、自分でもよく把握できなかったところがあった。発想の源泉みたいなものはたぶん小生のような鈍才にはあれこれの努力(通常科学をくりかえし地道にやること)の過程で、状況が煮詰まって、ある日突然自然現象の「法則性」が漠然と見えてくることだったと思う。

  

        現在現役を退いているので、論文を書かねばならない必然性はない。しかし福島原発事故による放射能汚染調査に関わっていると、試料やデータの蓄積や見聞の蓄積から、「論文を書きたい」という気持ちが沸いてくることも事実である。これは何ら義務ではない。だからこの欲求は研究者としての初期の素朴な気持ちである「未知の自然現象を解明したい」という興味から出発した本来に立ち返っているのかもしれない。

 

        話は振り出しに戻るが、「職業としての小説家」を google でキーワード検索すると、amazonで読者感想文が100点ばかり掲載されている。掲載のだぶりをのぞくと実質的には50点ばかりの感想文だ。全部読むのに1時間以上時間がかかった。それらを読むと、あまり村上文学に親しくない人から,なかなかの深淵な村上文学論を有するプロの評論家まで、様々な意見が開陳されていて非常におもしろかった。村上春樹の小説や随筆は好き嫌いはあれ、とにかく老若男女の誰にでも「ちょっと気になる」作品であり続けていることがよくわかる。(実際、村上春樹の芦屋市精道中学校時代の国語の先生であった広井大 先生は、村上春樹の本は、「気になるので、必ず買って読んでいる」とのことである。しかしほとんどが先生の気分には合わないので、結局積読(つんどく)になっているんだそうである)。「職業としての小説家」である村上春樹は、その外野席からのいろいろなうわさ話をきっと「ピントがくるっているなー」と余裕をもって楽しんでいるのではないかと小生には思われる。

 

      諸般の 材料がたまって 「書きたい」という気持ちが煮詰まってきたら数年後にまた刺激的な村上春樹の大作が世に出ることを大いに期待している。それまで楽しみに生きていよう。
      
(森敏)

 

     

2016-06-24 10:01 | カテゴリ:未分類
  


10 dojyougazou 

図1。弁当箱に回収された放射能汚染の森林土壌の断面図。一番上の黒い部分が落ち葉などの有機物層。
  
 
 
dojyou BAS10 

図2.図1のオートラジオグラフ。
 
 
 

先日のNHKスペシャルBS1「被曝の森」では小生も多少取材に協力した。当日放映はされなかったのだが、いくつか協力をした中でも、放射能濃厚汚染現地での土壌断面の放射能分布の映像化はわれわれとしてもとくべつに力を注いだものであった。すでに論文では発表していたのだが。
   
  これまでも土壌断面の放射能分布は数値としてはあちこちで発表されていたのだが、オートラジオグラフとして可視化したものは、我々の論文(付記1)と書物(付記2)が世界でも最初であった。これをもう一度現場で作業する姿を撮りたいというので、我々はいろいろ準備をした。一日前に浪江町で適当な山林内を物色して、穴を掘る場所を定めて、試験的に穴掘りをした。最終的に土壌断面が平面として、切り出されなければきれいなオートラジオグラフにはならないので、実はそのための各種資材の調達や作業手順の苦労が大変であった。
  
  NHKのクルーが試作品の「γ(ガンマ)ーカメラ」を携えて、浪江町ゲート入り口で合流した。現場に到着すると、早速われわれは穴掘りに取りかかった。その作業の様相をテレビカメラが撮影した。平滑な土壌断面(soil profile)が現れたところを γーカメラ で撮影し、それをテレビカメラが撮影していた。オートラジオグラフにするには片側断面が平滑な土塊を弁当箱にきっちりと回収する必要があったので、我々は再度付近の別の土壌を慎重に掘り土壌サンプルを回収した。しかしこの場所ではγーカメラではあまりシャープな映像が得られなかったようで、NHKクのルーはご不満のようで、今度は全く場所を変えて、少し明るい林床の傾斜地を鉛直に切りくずして、その断面を γーカメラで撮影すると、土壌表層数センチ付近が強く染まり、NHKのクルーもご満足の様子であった。
 
  一方、弁当箱に回収した土壌サンプル(図1)は、大学に持ち帰って、次の操作に移る必要があった。「弁当箱の上にIPプレートを乗せて感光させる」というと原理は簡単だが、作業は意外と複雑だ。土壌が少し水を含んでいるので、この水がIPプレートにふれると水の妨害により感光映像が台無しになる。そこで土壌表面とIPプレートの間に厚めのサランラップを敷き、その上にIPープレートをぴったりと乗せる必要がある。ぴったりとするためには、IPープレートの側を下にして、弁当箱を上にして土壌の重みでぴったりさせる必要がある。そのように弁当箱とIPプレートをセットでよいしょと周辺を汚染させないように天地を逆転させる。そのあと全体を暗幕で遮光した特製の容器の中に、滑り込ませ、装置全体をきっちりと水平に静置する。この一連の操作は運動神経の俊敏な加賀谷雅道カメラマンが行った。暗幕の遮光装置自身も彼の作成したモノである。その一連の操作をテレビカメラが納めた。そのまま1週間ばかり放置した後BASで現像する。その結果の映像が上記の図2である。
 
  一見して一番上の有機物層とその下の腐植層に放射性セシウムが局在していることがわかる。
    
土壌断面放射能分布jpeg60 
図3。森林土壌の地表面から土壌深部への放射性セシウム(Cs-134 + Cs-137)含量の分布
  
       

図2をさらに定量化したものが上の図3である。図3は図1の弁当箱の中の土壌をを上からスパーテルで水平に3.5ミリ間隔でていねいに削り取ったものを、プラスチックの NaIスペクトロメーター用容器に入れて、放射能を測定したものである。土壌表層から30ミリ(つまり3センチ)以内に土壌に降り積もった放射能の95%以上が含まれていることがわかる。このように降りそそいだセシウムは事故発生時以来5年たっても土壌の縦方向にはあまり動いていない。このような表はすでに内外の数報の学術雑誌で報告されていることである。
         
   このように我々がいささか苦労して協力した映像化のための努力は、NHKスペシャルでも、その後の再放送のBS1スペシャルでも放映されなかった。紹介したい役者(研究者)達が多くて、1時間という放映時間内では盛り込めなかったのだろうと好意的に解釈している。しかし、得られたデータを世の中に発信しておかないと、我々は何もしなかったことになるので、今でもこれは有用な国民が共有すべき情報であると考え、ここに報告しておく次第です。
      
 
(森敏)
付記1:Hiromi Nakanishi et al. Proc. Jpn. Acad. SerB  (2015) 91:160-174
付記2:「放射線像 放射能を可視化する』(皓星社) 森敏/加賀谷雅道著
付記3:図3の土壌の放射能測定は 東大農学部RI施設の広瀬農助教によるものです。
 

2016-06-05 06:12 | カテゴリ:未分類

兵庫県芦屋市の西を流れる芦屋川の海岸沿いの右岸には、宮川小学校と精道中学校の校区でなかったためなのか、小生には友達がいなかった。だから、小生の遊ぶ範囲ではなかった。遊ぶ範囲は芦屋川左岸(東側)から夙川(しゅくがわ)右岸(西)までの東西の2キロと、北は阪急電車の線路から南は海岸までの南北の3キロであった。

 

今回、友人から、芦屋川右岸の平田町に虚子記念文学館なるものがあるという知らせをもらったので、実に遅まきながら出かけてみた。高浜虚子の長男年尾の娘稲畑汀子の自宅隣に「虚子記念文学館」を開設しているということであった。

   

高浜虚子のことは常識的なことは知ってはいたのだが、今回この文学館のなかの展示物では彼の感性の変遷の系統的な解説がわかりやすくなされており、少し賢くなった。

  

虚子は正岡子規と並んで論じられることが多いので、どうしても子規と比べると、子規の強烈な天才的インパクトの背景に消え入りがちな人物としてしか存在を感じてこなかった。しかし、今回の展示は無知な小生のその先入観を変えるものがあった。
新しい画像

 

 

なぜか特に以下の掛け軸に書かれていた晩年(昭和31年)の俳句には感動した。

笑い話かもしれないが小生は放射能汚染されたジョロウグモの採取と分析に凝って来たので、このクモが愛くるしくて仕方がない。それで一見さりげないこの掛け軸に感動したのかもしれない。

新しい画像 (1)   

  

            蜘蛛に生まれ
 

           網を張らねば
 

           ならぬかな 
 

                虚子

            

『人生なるようにしかならないんだ。あなたも研究者としての本能に従って精一杯生きなさい』とクモが網を張る不可避の本能にかこつけて、虚子が小生にも呼び掛けているように思えたのである。実に遅まきながら。。。。

      

    

(森敏)

付記1: ガラスケースの展示物の最後に虚子が昭和29年にもらった文化勲章が、さりげなく置かれていた。当時はまだ戦後の食糧難で朝鮮事変動乱の直後である。年金がつく文化勲章は定時収入のない文人虚子にとってはありがたい生活費だっただろう、と俗物的なことを考えた。
 

 新しい画像 (2)

付記2:芦屋川ぞいの月若公園には、芦屋川の春を読んだホトトギスの親子三代句碑がある。以前は貧相な木製の立て看板であったらしいがいつからか六甲山から切り出したと思われるりっぱな花崗岩に筆文字が刷り込まれていた。
 

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 咲きみちてこぼるる花も無かりけり 虚子
    
 六甲の端山(はやま)に遊び春隣 年尾
   
 目に慣れし花の明るさつづきをり 汀子
     

    

ネットで検索すると、この虚子の俳句は、虚子の気力が充実した時期のもので、その昂然たる気持ちを表している、とかの解説があった。なるほど。
         

付記3:朝日新聞では夏目漱石の 『吾輩は猫である』 を復刻して連載しているが、その中でこの本のタイトルに関して意外な解説文を石崎等元立教大教授が書いている。(2016年4月18日)

       

::::高浜虚子と夏目漱石は道後温泉に浸かり俳体詩を作って楽しんで以来親交を重ねてきた仲だった。

::::タイトルは、はじめ「猫伝」が考えられたが、虚子によって冒頭の一句「吾輩は猫である」が選ばれ、若干の修訂を加えた原稿が、根岸の子規庵で行われた文紹会「山会」の席上で朗読された。::::

 

       
(森敏)


2016-05-15 14:14 | カテゴリ:未分類

  先日のBS1「原発事故5年目の記録」前編「被曝の森」で 小生たちが「浪江町」で採取したスギの樹皮の「放射能汚染像」が放映された。そのとき放射能汚染していない対照区に使った杉の皮は映像では「福岡」と書かれていた。

  


スライド4 
図1.左3本は浪江町津島地区の杉の皮:左から1番目が皮の裏側、2,3番目が皮の表側。

右3本は九州大学農場の杉の皮:左から1番目と2番目が表側。3番目が裏側。放映では「福岡」と表示されたモノ。


  
スライド3  
図2.のオートラジオグラフ。九大の杉の皮は裏も表もまったく写っていないことがわかる。

 
スライド2 

図3.杉の葉。 左が浪江町津島地区の杉の葉(採取後時間がたっているので枯れている)。右が九州大学圃場の杉の葉(入手直後のモノ)。 
 
 
スライド1 
 
 図4. 図3のオートラジオグラフ。津島のモノは外部被曝と内部被曝(葉の先端の新芽に転流)。九大の杉の葉もなにも写っていないことがわかる。

       

この杉の皮(図1)は実際には九州大学の農場の防風林のスギである。この九州大学農場に勤務している安彦友美助教に提供をお願いしたところ、3カ所の別々の防風林からスギの樹皮とスギの葉を上司の許可を得て採取して大量に宅急便で送って頂いたモノである。

    

放射能汚染していない対照区の放射線像を撮るのはよほどのことがないかぎり、我々研究者にとっては時間と労力の無駄になるので、撮りたくなかったが、NHKのデイレクター氏が「視聴者を納得させるために必要です」というので、スギの樹皮とすぎの葉を九州大学のモノを対照区として浪江町のものと一緒にカセットにセットして感光させた。(小生にとっては以前に京都の南禅寺のスギを対照区として撮像していたので、何も像がでないことはわかっていた)

 

図2にみるように、案の定、何も対照区では放射線像は出なかった。疑い深い研究者は、スギには放射性カリ(K-40)が若干でも含まれているはずだから、感度を上げれば像が出るはずだ、と思っているだろう。しかし今回の浪江町の放射能汚染したスギの樹皮は総放射性セシウム量が131643ベクレル/kg であり、葉の方は180979ベクレル/kgもあるものなので、IP-プレートでの感光時間がわずか3日間のものである。だから対照区では全く感光しなかったのである。

   

  我々の放射線像の撮像に関して、日頃から多くのかたにお世話になっているのだが、その方たちへの謝辞がBS1放映の最後に流される一連の謝辞欄(エンドロール)には掲載されていなかった。以下のかたがたにお世話になった。ここでNHKに代わって御礼申しあげます。

加賀谷雅道(写真家)、安彦友美(九州大学農学部助教)、広瀬農、小林奈通子(東大農学部RI施設助教)、中西啓仁(東大農学部講師)、田野井慶太朗(東大農学部准教授)

 

 
(森敏)

付記1.よく言われているように、もともと福島第一原発由来の放射性セシウムによってこういう高濃度汚染しているものでは、元来生物にとって摂取が不可避の天然のK-40による内部被曝の影響を考えることにはあまり意味がない。

付記2.放映されなかった内容でも、NHKのために、我々にとってはすでに遙か昔に実験を終えた当たり前のことを、再現してみせるということもいくつかやっております。NHKはデータの偽造をおそれてか、自分でサンプリングしたり、自分で立ち会って得た実験映像しか放映には採用しないようです。これはきわめて正しい報道姿勢ですが、研究者にとっては無駄な繰り返しごとになるので少々疲れましたね。

 

 


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