- 2019/09/03 : 根付きの菊の放射能分析
- 2019/08/18 : 福島原発による放射性セシウム汚染関連の31発表演題の紹介: 2019年9月 日本土壌肥料学会
- 2019/08/08 : アシカの目に目薬
- 2019/07/17 : 東京新聞より転載:モミの木のセシウムの動きを可視化
- 2019/07/04 : ワレモコウの幼植物の放射能
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今回は一見釈然としないオートラジオグラフをお見せします。
2018年10月秋に、空間線量毎時2.9マイクロシーベルトの浪江町の民家の道路脇で、がっしりと根付いている菊を根ごとスコップで引き抜いてきた(図1には葉の陰に隠れて見えないが、数個の花がある)。なぜか背丈が低い。根に付着した土壌をできるだけふるって、新聞紙に挟んで圧着して、1週間毎日新聞紙を取り替えて、その都度また土壌をふるうのだが、完全には土壌は取り切れない。仕方がないのでそのままオートラジオグラフを撮像した。そのあといつもよりも細かく組織を解体して、各部位の放射能を測定した。
葉の放射能濃度は<細根+付着土壌>の放射能濃度のわずかに1.2%である。2018年秋の時点で、この地点では、キクの放射性セシウムのほとんどが根と土壌にとどまっており、地上部には移行されていないように見える。

図1.細根が切れるので、これ以上土壌をふるい落としできない。右下の根際に小さな分蕨の新芽がある。図2のオートラジオグラフによると、頂点に花が4つあることがわかる。ガイガーカウンターで大まかに植物体表面をなぞると、葉が94cpm、根が1500cpmであった。

図2.地上部のあちこちの斑点は放射能汚染土ほこりなどによる外部汚染。細根は土壌付着で強烈な放射能汚染。ハレーションを起こしている。

図3.細根に付着した土壌からの放射能が根よりもはるかに強すぎて、太根がX線写真で見るように、骨のように陰になって写っている。
表1.キクの部位別放射能

(森敏)
福島原発による放射性セシウム汚染対策関連の発表題目
(氏名は長くなるのでfirst,second・・・・ last authorのみを示している)の紹介
日本土壌肥料学会 於:静岡大学にて開催予定 (2019年9月3~5日).
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土壌―水稲系での放射性セシウムの移行を規定する物理化学的および時間的要因
吉川省子・井倉将人・江口定夫
放射性セシウム対策実施水田におけるカリウム収支
錦織達啓・久保田富次郎・宮津進
森林生態系における安定セシウムの分布と循環
伊藤優子・小林政広・今矢明宏
福島県内農耕地土壌におけるセシウム133固定ポテンシャルと粘土鉱物組成
加藤 拓・今野裕也・・・・・前田良之
有機物除去に伴う放射性セシウム吸着能の変化
中尾淳・田代有希・・・・矢内純太
白花ルーピンのカリウム欠乏下における不可給態カリウムおよびセシウムの可給化機構
藤本久恵・高雄惇英・・・・・渡部敏裕
ラジオアイソトープを用いた植物体内の元素動態のイメージング
鈴井伸郎・河地有木・・・・松本幹雄
塩化ナトリウム施用下でのキノアによるセシウム吸収について
磯部勝孝・肥後昌男
水稲におけるセシウム体内輸送へのOsHAK5の関与の可能性
頼泰樹・古川純・・・・・服部浩之
Contribution of SKOR gene to Cs and K absorption and translocation in plants
菅野里美・Ludovic Martin・・・・Nathalie LEONHARDT
K減肥水田土壌での放射性Csの玄米への移行抑制に必要な非交換態K量の検討
黒川耕平・中尾淳‥‥‥矢内純太
牧草中放射性セシウム濃度の経時変化と土壌の放射性セシウム存在画分からの移行推定
山田大吾・塚田祥文・・・栂村恭子
土壌から牧草とイネへの放射性セシウムの移行実験と移行モデルの評価
植松慎一郎・・・・・・Erik Smolders
イネ玄米中の放射性セシウム含量品種間差をもたらす原因遺伝子
大津(大鎌)直子・福原いずみ・・・横山正
ダイズの放射性セシウム吸収に関与する異伝因子の探索 その1:QTL-seq解析による大豆の放射性セシウム吸収に関与する遺伝子領域の解明
宇田真悟・山田哲也・・・・横山正
福島県内の水田におけるカリ収支とカリ集積量
藤村恵人・若林正吉・・・・・遠藤わか菜
福島県内の農地における放射性物質に関する研究(第46報) 中山間地域における除染後水田での均平対策後の牛糞堆肥による地力回復効果
松岡宏明・斎藤正明・・・信濃卓郎
試験水田における灌漑水・間隙水中137Cs濃度と変動要因
塚田祥文・斎藤隆
除染後圃場での堆肥施用がダイズ生育と放射性セシウムの移行に及ぼす影響
久保堅司・木田義信・・・・・信濃卓郎
放射能による樹皮汚染の立体可視化の手法について
森敏・加賀谷雅道・・・・中西啓仁
福島県内の農地における放射性物質に関する研究(第47報)
低カリウム条件下における飼料用米・品種系統のCs-137移行リスク評価手法の開発
斎藤隆・菅野拓郎・・・・横山正
土壌還元が水稲の放射性セシウム移行に及ぼす影響
若林正吉・藤村恵人・・・・太田健
セシウム吸着シートを用いた畑地土壌における溶存態放射性セシウム量の変動把握
井倉正人・吉川省子・杉山恵
溶存有機物による風化花崗岩土壌中のセシウムの移動促進効果
辰野宇大・濱本昌一郎・・西村拓
天水田における作土中137Csの滞留半減時間の推定
原田直樹・鈴木一輝・・・吉川夏樹
ダイズ子実の放射性セシウム濃度を効果的に低減させるために必要な時間の検討(1)
関口哲生・木方展治・井倉将人
土壌表層へ附加された底泥からイネへの放射性Cs移行
安瀬大和・松原達也・・・・・鈴木一樹
灌漑水田由来放射性Csの水田土壌表層への蓄積
星野大空・荒井俊紀・・・・原田直樹
異なる耕起法による更新を行った除染後採草地の土壌中放射性セシウムの濃度分布について
渋谷岳・伊吹俊彦・新藤和政
ドローン空撮を用いた除染後水田における土壌炭素・窒素濃度の面的予測の試み
戸上和樹・永田修
蛍光版を利用したオートラジオグラフィー技術で植物体内の元素動態を見る
栗田圭輔・鈴井信郎・・・・・・酒井卓郎
(森敏)
付記:
以上のように、今年は31課題の放射能汚染関連の研究発表がある。大学の研究者や現場の農業技術者は、福島農業の復興のために、2011年に発生した福島原発事故のしりぬぐいを8年間にわたって延々とさせられているわけである。実に地道な研究活動というべきであろう。
しかし、原発事故という人類にとって未曽有の負の遺産を逆手にとって、これを契機にして、新しい自然現象の発見や新規技術開発をおこない、次世代人類生存のための学問も新しく発展していくべきなのである。そうでなければいつまで経っても被災者心理は救われないだろう。
過去に遡れば、古河鉱業(足尾銅山)による渡良瀬川流域の銅による鉱毒汚染、神岡鉱山による神通川流域カドミウム汚染(イタイイタイ病)、窒素水俣工場による水俣湾の水銀汚染(水俣病)などなど、鉱毒、公害、による人体・環境汚染は、皮肉なことに、それを修復回復させるための医学・生物学・環境科学などを遅々とではあるが発展させてきたのである。
偶然だが、アシカの挙動を見ているときに,飼育員がサークル内に入ってきて、何をするのか見ていると、餌をやりながら、目薬をアシカに注ぐという珍しい光景にでくわした。アシカは実におとなしくしていて、左目を開けて、目薬を注入してもらい、餌をもらってからつぎに体を少しひねって、今度は右目を差し出して、目薬を注入されて、餌をもらっていた。その従順ふるまいには何だか心底感心した。ここまでしつけた若い飼育員の力量に敬意を表した。彼にしたらあたりまえのしつけなんだろうが。
このアシカの池は側面がガラス張りで、水中のアシカの常動運動の様子がよく見える。しかし、水の上が開放系なので、太陽がさんさんと降り注いでおり、水中の光合成植物プランクトンや、動物プランクトンやアシカに対する病原菌なども集積培養されて生息しているであろうことに、改めて気付かされた。
狭い生態系なので、アシカが眼の病気にかかったら、自然治癒はあり得ないだろう。柵から出てきた飼育員に聞くとアシカの白内障や失明は多いのだそうである。そういえばいつぞやどこかの水族館で白眼のアシカに出会った記憶がある。
先日眼医者に行ったら、「少しずつ確実に白内障が進んでおりますので年に2度は定期的に検診きてくださいね」といわれた。いつか手術することになるだろう。周りの知人でも手術をしている方が結構います。目薬をたくさん処方してもらった。

よく見ると左目をつぶって、右目を開けて、目薬を注いでもらっているアシカ。
(森敏)
モミの木のセシウムの動きを可視化
東京電力福島第一原発事故による放射能汚染地域に育つ植物の内部で、土から吸い上げた放射性セシウムはどう動くのか。福島県飯舘村で、住民の伊藤延由(のぶよし)さん(75)と、1本のモミの木から枝を継続的に採取して調べた。
森敏東大名誉教授(植物栄養学、土壌学)の協力で、葉などにたまったセシウムが発する放射線を画像化(オートラジオグラフ)した。各年ごとに、部位別のセシウム濃度も測定した。
晩秋、その年の春に出た部分の先端に新芽が出現し、そこにセシウムが集積。翌年春に芽吹く様子が確認できた。
森名誉教授は「細胞分裂、細胞伸長が盛んな新生組織には、カリウムが必要。土中から吸い上げる際、一部はカリウムと間違ってセシウムを取り込んだ結果だ」と話した。 (山川剛史)
画面が見えない場合は、
以下のホームページをクリックし、出てきた画面をまたクリックすると、大きな画面になります。
https://genpatsu.tokyo-np.co.jp/page/detail/1083
2017年春に浪江町のほとんど人が通っていないと思われる林道で、落ち葉層の中に、約15センチの高さのワレモコウの幼物群落があった。空間線量は毎時20マイクロシーベルトであった。
主根が途中でちぎれたが、根ごと容易に引き抜けた (図1)。根にはいくらふるっても腐葉土がついているので桁違いの放射能値であるが (表1)、地上部では中央の新葉の部分が強く感光していることがわかる(図2、図3)。
この場所は今年(2019年)の6月初旬に訪れたのだが、同じくワレモコウの幼植物群落がみられた。空間線量は毎時17マイクロシーベルトであった。

図1 根つきのワレモコウの幼殖物

図2.ワレモコウ幼植物のオートラジオグラフ。地上部中央の新葉が濃い。

図3.図2のネガテイブ画像
表1.ワレモコウの放射能。葉を新芽、新葉、旧葉などと分別すべきであったが、今回は一括して葉(地上部)と根(地下部)とした。根には腐葉土がついている。

*放射能は2017年10月の測定値