- 2016/01/12 : ジョロウグモ は放射能除染効果の有力な指標生物である
- 2015/04/08 : ある飯館村民から、東京及び全国の人々へのメッセージ (転載)
- 2014/12/18 : つかれることばかり
- 2014/10/14 : 浪江町の「帰還困難区域」で調査した
- 2014/01/22 : 放射性銀(Ag-110m)の土壌断面分布
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図1.ジョロウグモの体内放射能の年次変遷
放射能値(ベクレル/キログラム乾物重)を測定したのは図1に示すように、110mAg(赤色)、134Cs(空色)、 137Cs(青色)である。当初(2011年から2014年まで)は主として飯舘村で採取していたが、2014年夏ごろからから除染業者による水田や牧場の表土剥離という手荒い手法の放射能除染活動が猛烈なスピードで始まって、生態系が無茶苦茶にかく乱されることになったので、それ以降は主として浪江町のほうで採取してきた。浪江町は除染活動が今でもまだ本格化していない。
第1図では横軸に採取順に番号が振ってある。採取順位の1番~10番,13番は飯舘村のジョロウグモで、11番,12番,14番,15番,16番は浪江町のジョロウグモである。大体採取時期は各年次の晩夏から晩秋にかけてである。煩雑になるので細かい採取地区はここには記載していない(付記の論文には記してある)。
結果は半減期が30年の137Csの値を見ると、ジョロウクモたちの採取時点での空間線量(煩雑になるので表には書き込んでいない)とジョロウグモの137Csの値とがごく大まかにではあるが、比例相関にあった。110mAgは半減期が250日であり、134Csは半減期が2年なので、まずジョロウグモの110mAgの値が急速に低下し、次に134Csの値も徐々に低下していることがわかる。しかし浪江町で採取したジョロウグモは微量だが2015年秋の段階でもまだ110mAgが検出される場合がある。
浪江町でのジョロウグモでの134Cs 137Csは依然として高い値を示している。飯舘村でのジョロウグモの放射能値がかなり減少しているにも拘わらず、いまだに浪江町のジョロウグモが高く推移しているのはなぜだろうか? (最初から浪江町のジョロウグモを採取していれば、ジョロウグモのすべての放射能値が飯舘村のジョロウグモよりもはるかに高い値として検出されたであろうが、この避難区域には容易に調査に入れなかったのが悔やまれる)
浪江町では本格除染が始まっていないので、今日に至るまで道路端の樹木や民家の庭や田畑で棲息している ≪ジョロウグモが食する食物連鎖の下位の小動物≫ がいまだに高い放射能を含んだまま棲息していると思われる。われわれは無断で森林に入ったり民家の庭に奥深く入ったりできないので(自警団や警察に警告される!)、やむなく道路端の主としてサクラの木などからジョロウグモを採取している。
だから、民家とその周辺や道路と周辺森林を優先的に土壌剥離除染する現行方式によっていちばん明快に放射能含量の低下が認められる小動物は、食物連鎖の比較的上位にいるジョロウグモではないだろうか。飯舘村がそのよい例なのだろう。言い換えれば、ジョロウグモの放射能値の増減の傾向はそこの生態系の中で循環して生物が使いうる放射能の増減の傾向を示していると思われる。ジョロウグモは有力な「除染効果の指標生物」になりうると思う。
たかがジョロウグモ、されどジョロウグモ、である。
(森敏)
付記:2011年から2014年までのジョロウグモとその他の全35種類の小動物の放射能測定データはこれまでも何度か紹介しているわれわれの以下の論文に収録しています(無料でダウンロードできます)。本日の紹介はその後の考察を兼ねた追加報告です。
Hiromi Nakanishi et al. Discovery of radioactive silver (110mAg) in spiders and other fauna in the terrestrial environment after the meltdown of Fukushima Dai-ichi nuclear power plant. Proc. Jpn. Acad., Ser. B 91 (2015)160-174.
ある飯館村民から、東京及び全国の人々へのメッセージ
2015年4月5日
東電福島原発事故周辺地への「帰還」なるものが政府によって進められようと
事故直後の安全宣言で2ヵ月半も高濃度被曝をさせられてしまった飯舘村は、その最たる被害地である。
その飯舘村にも「来年春帰村」という方針が出された。
ご存知のように村内は未だに毎時2〜10マイクロシーベルトであり、計測器の針が振り切れるホットスポットが随所にある。仮に低い数値をとっても毎時2マイクロなら、年間被曝量は11ミリシーベルト(10時間屋外、14時間屋内として)に達する。しかもこれは外部被曝だけであり、吸入等による内部被曝は含まれていない。
加えて村民は当初最大毎時120マイクロシーベルト(3月15日)の高線量下に避難しないままに曝されており、これを2ヵ月半で試算すれば約151ミリシーベルトの外部被曝となり、これに著しい内部被曝が加わることになる。
なぜ著しいかと言えば、当時の文科省調査で飯舘村の雑草からセシウム合計265万ベクレル/kg、ヨウ素256万ベクレル/kgが検出されており、水道水からもヨウ素約1,120ベクレル/kgが計測され、にも拘らず「庭の野菜も水もどんどん飲食して大丈夫」という「学者」による公式宣伝がされていたからである。そしてその後、飯館村民には「希望者にはホールボディーカウンター検査」が云われても、未だに血液や尿検査はまったく行われていないのだ。
とにかく原発を再び動かしたい、輸出もしたい、そのために事故の被害はなかったことにしたい。その意図は実に鮮明であり、住民のいのち、生物のいのち、子々孫々への影響などはまったく忖度しようとしていないのだ。この構図の中では、明らかな加害者である東電の責任は問われない、いや問うてはならないのである。
被害を消し去る。その動きはますます顕著となっていく。その一つが、年20ミリ〜100ミリシーベルトなら安全という公的宣伝活動だ。だから20ミリで帰還となる。だがこれは政府による放射線防護法(年1ミリシーベルト以下に規制)への公然たる違反であることを忘れてはならない。政府自らが国法を破り、自らアウトローとなったという事態であることも忘れてはならない。このクニはそこまで来ている、これが偽らざる現実なのだ。
以下、或る飯館村民からのメッセージである。
何故、そうしたいのか。(註:早期帰村や線量規制違反などのこと)
多くの人々が「金だけ」「今だけ」「自分だけ」で生きているうちに、早くこのことを終わりにしたいのですね。
何故私たちは2011年4月「危険で住めない地域」と国から指定されたのですか?何故こんなふうに故郷を追い出され、家族や地域の方々とも離され、自由に話すことも、知人の住所もわからないままで暮らしているのですか?
真実と平和とそして安心・安全な暮らしを返せ!健康を返せ!村に生きてきた動植物の命を返せ!
何故東京電力と政府はこのことの責任を取らないのか!
《嘘》、《隠す》、《ごまかし》をやめて下さい。
あなた方と私たちは同じ人間です。
私たちが何か悪いことをしましたか?
私たちはただ、東京に電気を送り、あなた方が金儲けできるよう土地を売っただけではありませんか。
東京都民の皆さん、全国の皆さん、これまで私たちはそちらに電気を送り続けてきました。
でも、こんな危ないこと、取り返しのつかないことは、もう終わりにしましょう。
原発はもうやめましょう。
そして私たちがこれから人として生きていけるために、ぜひ私たちを支援して頂きたいのです。どなたでも、できることで結構です。飯舘村から、心からお願い申し上げます。
(以上は飯舘村/福島再生支援東海ネットワーク 事務局中部支援ネットワークから転送されてきた飯館村佐藤八郎議員からのメッセージです)
いま流行の「インプラント」は、健康保険が効かずにかなりの高額で、あちこちの経験者にきくと、まだ完全な技術でないようなので、ありにも外科手術的でサイボーグ人間そのものになるような気がしたので、採用しなかった。「あちこちの歯が痛んで、次々と、気が付くとベンツが買えるぐらいインプラントに総投資したが、いまは後悔している」という知人がいるのだ。
女医さんは丁寧に出来る限りのことをしてくれたのだが、いかんせん、金属のブリッジを両端の歯に架けているので舌先の違和感が抜けない。いずれはこういう運命になるかもしれないとは以前から思いながら、今現実にそうなると、口の中が疎ましいこと甚だしい。小生より年齢が高い老人たちは、あきらめているのか、普段から歯の手入れがいいのか、我慢強いのか、あまり入れ歯の話をしない。気高い節操があるからなのだろうか、小生のようにまわりの人に「世も末だ!」と嘆かないようだ。
先日久しぶりに学部2年生にわずか15分のコンパクトな「農芸化学概論」の講義とその後の30分ぐらいの学生とのデイスカッションに参加したのだが、慣れない入れ歯のために、発音が口元から漏れて、締まりの悪いことこの上なかった。ざらざら声で口から言葉が抜けて発音が聞き取りにくい老人は入れ歯のせいだとやっと理解出来るようになった。
今回の衆議院選挙では2年前と同じ結果で、「原発どこ吹く風」の与党の圧勝の結果には心底落胆した。現今はマスメデイアやネットを通じた巧妙な若者への世論操作が、恐ろしく功を奏していると思う。深層心理学の悪用も極まれりだ、と思う。原子力の平和利用(すなわち原子力発電)に向かった過去50年間の世論操作の時代よりも、人文科学や社会科学もそれなりに応用面が発達し、大衆に対する <下意識操作> がはるかに巧妙になっていると思う。テレビを見ながらいつもそういう思いがしている。
「憲法の一字もかえられなかった」と改憲派の急先鋒である石原慎太郎氏は敗北感で政界引退を表明したが、「どれ一つ原発再稼働を止められなかった」、と敗北感を表明して再来年の総選挙で政界引退する野党の高齢者議員が出てくることになるかも知れない。
東電福島原発事故から3年半かかって測定してきたデータを使って放射能関連の論文の3報めをやっと書き上げた。なので、あまりブログを描く時間がありませんでした。
(森敏)
付記1: ここに記していないあれやこれやで最近どっと疲れがでてきた。孫から風邪やインフルエンザや緑膿菌をもらわないように、四六時中マスクをしている。5年前に注射した高齢者用の「肺炎球菌ワクチン」が期限切れになるので、またそろそろ射ちにいかなくては。これは確かに効いたような気がするので。。。
付記2.なぜか思い出したのだが
これまで立ち入り禁止で入れなかった浪江の「帰還困難区域」に調査に入ってみた。
東電福島原発爆発当時、原発から20㎞圏外であるにもかかわらず浪江町の赤宇木(あこうぎ)地区は毎時150マイクロシーベルトの空間線量であったと、文科省から報告されている高線量地域として有名である。その後、I-131などの短半減期の核種が急速に消滅して現在では、Cs-134 と Cs-137が空間線量の主成分である。
今回その地点で道路脇に面して設置されている金属フレームの片面が葛(くず)の葉に覆われた線量計は毎時6.120マイクロシーベルトを示していた。
毎時6.12マイクロシーベルト!
そこから東に進んで交差点の川房字大柿(大柿簡易郵便局前)では毎時9.089マイクロシーベルト(写真に示す小生の線量計では毎時10.51マイクロシーベルト)を示していた。
この後ろのコンクリートの路面は毎時13.07マイクロシーベルトを示していた。
途中で見た道端のスギや民家のスギが激しく枯れはじめていた。
田畑は荒れ放題で原発爆発後3年半の人の手が入っていない現在では種々の草木が繁茂して原野と化しておりとても耕作地であったとは判別できない。
小生はジョロウグモなどの採取をしたのだが、空間線量が毎時数マイクロシーベルト以上の高度放射能汚染地区では、このジョロウグモの生息数が非常に少ないように感じられた。彼らが好んで網を張るサクラの木の枯死が進行していると思われた。
さらに東の通行禁止の北沢橋ゲートでは空間線量毎時7.23マイクロシーベルトを示していた。これから先はもっと空間線量が高いために通行禁止になっているのだろう。
浪江町は東西に長いので、時間の関係で広範囲に汚染している全行程をとても走破できなかった。再度訪れるつもりである。用心したつもりであるが、丸一日の調査で小生は23マイクロシーベルトも被曝した。
前述したように、現時点では多くの短半減期のγ-線放出核種はすでに消滅しており、単純に計算すると、原子炉暴発後約1300日経過した2014年10月13日現在で、陸域にはγ-線放出核種としてはCs-134が爆発当初の30%が残っており、Cs-137が爆発当初の93%残っていることになる。爆発時にはCs-134とCs-137が原子炉から等量放出されたと考えられているので、現在残存している陸域の総放射性セシウム量は当初の(30%+93%)/2=61.5%となっているはずである。
(森敏)
付記。
今後はこれまでの一見急激な減衰をしてきた短半減期のCs-134の総放射線量への減衰への寄与率が急激に少なくなり、半減期が30年と長いCs-137の減衰への寄与率が主になるので、遅々として総放射線量の減衰が進行しないことになる。単純な半減期計算で、これから10年経っても総放射線量は主としてCs-137として現在の60.3% がまだ残ることになることを忘れるべきでない。いわゆる風雨による風化(土壌からの縦横への流亡、土壌固着、生物濃縮によるリサイクル)などによる因子を考慮に入れても、これが現在の50%以下になることは難しいだろう。
これまで福島の土壌に関しては東電福島原発由来のCs-137やCs-134に関しては土壌断面の縦方向の分布(soil profile)が、多数報告されている。しかし、Ag-110mの分布に関しては未報告であった。今回福島の土壌について論文発表された。Ag-110mは表層2センチ以内にとどまっている。
( Hugo Lepage et al. J. Environmental Radioactivity 130, 44-55 (2014) )
これによると、銀はセシウムと同じ分布パターン示し、また煩雑になるのでここでは紹介しないが、粘土粒子への収着も顕著である。Ag-110mの土壌動態に関しては 今後も経年変化を調べる必要があるが、これは非常に素晴らしい研究であると思う。
この成果から、これまでの小生らの測定でAg-110mが Cs-137やCs-134と同様に ジグモでの減衰が急速である理由が非常によく説明できる。
( 2013/08/26 : ジグモ体内の各種放射性核種の減少は意外に速い )
セシウムのように粘土の層状構造への固着という現象が銀にもあるのかどうかわからないが、銀も急速に粘土粒子への収着が進んで行くので、生物に取り込まれにくくなっているのがジグモでのAg-110mの減衰が顕著である理由の正解のようだ。
ところで今回紹介した論文は日本人では筑波大学の恩田先生が著者の一人になっているが、フランスのグループが主導した研究になっている。日本の土壌学者はなにをしてきたんでしょうね? 非常に残念です。
小生がジョロウグモでAg-110mを発見したことから当然土壌にも福島第一原発から大量のAg-110mが降ったことが明らかであるけれども、その直後に発表された文科省の「Ag-110mの土壌分布」のデータがあまりにも濃度が低い値であったので、日本の土壌学者にはあまり興味をひかなかったのかもしれない。しかしこれは研究の先駆性や独創性に関するサイエンテイストとしてのセンスの問題でもあります。
( 2011/11/01 : 文科省が 放射性銀(Ag-110m) の汚染分布図を発表しました
2011/10/30 : 新発見:飯舘村のジョロウグモは放射性銀を1000倍に濃縮していた! )
詳細は上記の論文をお読みください。

第一図。縦軸は土壌の深さ。横軸は土壌全体の各放射能核種に対する分布割合(%)
(森敏)