- 2019/06/27 : イヌガンソクの放射能
- 2019/03/04 : 高い空間放射線量下でのトダシバの放射能汚染
- 2019/02/24 : アセビ(馬酔木) の放射能
- 2018/07/12 : カヤ(榧)の木の放射能
- 2018/06/22 : ススキの穂の放射能汚染
WINEPブログ
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以前にも記したが、避難困難区域では、調査中に、尿意をもよおしても、トイレがないので、男性は林内に分け入って、放尿することになる。
尾籠(びろう)な話だが、ある時林内放射線量毎時数マイクロシーベルト下で、ゆっくりと放尿していると、目線の先に70センチぐらいの高さの紫黒色のシダがきれいに左右の葉がきれいに折りたたまれて、1本だけ立っているのを見つけた。葉先が尖って硬くて痛く、同定できなくて、3年ばかり、放置していたのを最近、若林さん(株ASCOT)によって、イヌガンソクと同定してもらった。押し葉にしていると、葉が真っ黒になった(図1)。
図1.イヌガンソクの葉と茎 。両方の葉がきれいに重なって閉じている。
図1.図1のオートラジオグラフ。外部被ばくはほとんどないので、シダの根からのセシウム移行であることがわかる。 横に薄く見えているのはサンプルが動かないように支持したセロテープ。(セロテープは薄いが、このセロテープによる放射能の自己吸収が起こっていることがわかる。)
図3.図2のネガテイブ画像。
ラジオオートグラフ像は鮮明で、まるで鳥の翅のように撮像された(図2、図3)。
放射能はべらぼうに高かった(表1)。
この植物の別名は:おおかぐま、へびがんそく、いぬくさそてつ、おおくさそてつ、いつまでぐさ、 と多彩である(牧野植物図鑑による)
表1.イヌガンソクの放射能
(森敏)
現在、空間線量が毎時17マイクロシーベルト、という双葉町の線量下で、コンクリートの割れ目に貧弱に成長していた高さ30センチ弱のイネ科植物を採取して来ました。名前が同定できなかったのですが、トダシバの仲間だろうというのが、若林芳樹氏(株式会社アスコット)の見立てです。読者のどなたか同定していただければありがたいです。
実験室で測ると、トダシバの穂の部分が、ガイガーカウンターで1050cpmというとてつもなく高い線量で、NaIスペクトロメーターでの放射性セシウム含量も 葉>茎>穂 の順でしたが、1kg乾物重当たり28万ベクレルから55万ベクレルというとてつもない放射能の高さでした(表1)。
暴発原発から風に流れて降下してきた放射能が周辺のコンクリートに付着して、それが当時あるいはその後の降雨により、コンクリートの割れ目に流れ込み、土壌に吸着されて、その可溶性成分をこのトダシバが吸収しているものと思われます。
図1。 トダシバの仲間

図2。 上の図1の穂の部分の拡大図

図4.図1のオートラジオグラフ。

図4.図3のネガテイブ画像

表1 トダシバの部位別放射能

(森敏)
以下のアセビの木は、2017年の春の空間放射線量が、毎時2.5マイクロキューリーという、浪江町の森林としてはさほど高くなかった、さるゴルフ場内の小さな20メートル四方の広さの池の傾斜地に生えていたものである。背丈は3メートル余りあった。気まぐれにサンプリングした新芽が付いた枝は1.5メートルの高さの部位のものである。
図1とよく照合してもらいたいのだが、新芽(図2、図3、表1)が非常に鮮明に放射線で感光していることがわかる(図2、図3)。
この放射線像(図2、図3)からは、枝の部分は葉の映像に隠れて鮮明ではないのだが、意外にも枝の部分が放射能がもっとも高かった(表1)。
木本植物でこんなに放射能が高いのは、雨のときにゴルフ場の周辺からこの池に流れ込む、あるいは流れ込んで表土に濃縮集積している放射性セシウムを根から、いまだにアセビの木が吸収しているのではないかと思われた。図2、図3の葉の放射線像を見れば明らかであるが全く外部から飛来して付着した放射能汚染スポットはないことがわかる。全部経根吸収由来の放射能だと思われる。



表1。 アセビの放射能

(森敏)
福島県双葉町の道沿いには、なぜか榧(カヤ)の木の幼木が多い所がある(図1)。カヤノキの実生が発芽して以来、土壌の腐葉土からくる高放射線量(毎時10-30
オートラジオグラフでも、明らかなように、枝の先の新陳代謝の激しい、Kの要求量が大きい新芽の部分と、3つ叉にわかれている枝の節目(師管と導管が入り組んだ部位)が放射能が高いことがわかる。これまで幾たびとなく述べてきたように、カリウムの代わりに周期律表上の同じ系列の放射性セシウムも積極的に植物体内を移行分布しているからである。

図1.榧木(カヤノキノ)の枝葉

図2.図1のオートラジオグラフ

図3.図2のネガテイブ画像
表1.カヤの木の部位別放射能

(森敏)
付記:台東区の蔵前というバス停の前には「榧木寺」という、珍しい名前のお寺がある。由来は以下のとおりである。寺の中には現在も4本ばかりの大きな、青々とした新鮮な榧の木がある。
:::::「榧木寺」の現存する4点の縁起によれば、「かつて境内に樹齢千年の榧の大木が立っていましたが、当地が火災に見舞われた際には、榧の木から水を発し、たくさんの町民・本尊ほか多くの寺宝を火災から守ったとあり、現在、本尊の右に安置する秋葉権現像は300年程前この榧木で造像したもので、江戸の大火事から人々を守り、火防せの信仰をうけていたと記されています。:::::::」ということです。
ススキは、原発爆発当初から注目して、福島県の各地でサンプリングし、放射能を測定してきたが、2011年秋に開花したススキは、あまり放射能が高くなかった。その後もあまり高くなかった。福島第一原発が暴発した時にはススキはまだ芽が地中にあり直接被曝したわけではなかったので、その後に穂が出ていてもこれはほとんどオートラジオグラフに感光しなかったのである。だから毎年ススキは穂が出るのだが、あまり関心がなかった。しかし小生がサンプリングしてきたススキはことごとく道端の畑状態に群生しているものであった。大体福島の農家の人々は結構潔癖好きで、この雑草を疎ましく思うのか、毎年根際から刈り倒しているので道端のススキの地上部には、あまり経年変化立ち枯れした古いものはないのである。
しかし今回(2017年晩秋)、久しぶりに試しに双葉町の水田のあちこちに生えているススキの穂を、サンプリングしてきた。これらのススキはすでに穂の種子の「もみ殻」に汚くカビが生えていた(図1、図2)。
研究室に持ち帰ってガイガーカウンターを充てると150cpmばかりあった。この放射線量は、これまでの経験と異なり明らかに有意であった。
オートラジオグラフを取ると黒カビで汚染している種皮が顕著に放射能汚染していた(図3、図4)。すべての種皮が比較的均等に汚染しているので、これは外部に放射能が付着しているのではなく、種子の栄養をカビが摂取して種皮が放射能で表面汚染しているように見えるのではないかと思われた。
穂軸と種子に分けて測定するとほぼ同等の汚染度であった(表1)。今回のように野生のイネ科植物といえども原発事故以来一度も耕作したことがない放棄水田の中に定着したものは、この原発事故以降直近までの数年の内に、何度も乾湿を繰り返す土壌条件の中では、湛水還元状態のときに溶解してくる放射性セシウムイオンを吸収する機会が多くなる。だから、野山の陸地(畑:酸化)状態の、大部分が土壌に固着しているセシウムを吸うのとは訳が違うのかもしれない。
このWINEPブログの過去のどこかで紹介したことがあるが、春先のフキノトウでこのことはすでに証明されている。今回の多年生のススキの種皮の放射能汚染は外部飛来付着ではなく、全部根から吸収して茎を転流してきて種子に蓄積した放射性セシウムを種皮に付着したカビがカリウムの代わりに栄養源として濃縮したことよる内部被ばくと思われる。
イネとおなじくススキも生息地が湿地か陸地かによって、セシウムの吸収量が異なるわけである。

図1 水田に生えていたススキの穂

図2. 図1のオートラジオグラフ

図3.図2のネガテイブ画像

図4.図3の拡大図

図5.図4のオートラジオグラフ
表1. ススキの穂の放射能

(森敏)