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2022-09-10 14:02 | カテゴリ:未分類
下水汚泥資源「利用拡大を」 首相指示、化学肥料高騰で「国産化」
2022年9月10日 9時00分(朝日新聞)
 
岸田文雄首相は9日、化学肥料の高騰に対応するため、「下水汚泥」など国内資源の利用を拡大するよう農林水産省に指示した。同省は、秋にも見込まれる補正予算案に盛り込むことを視野に具体策をまとめる。
 食料安全保障などについて議論する「食料安定供給・農林水産業基盤強化本部」の初会合が首相官邸で開かれ、岸田氏は「下水汚泥など未利用資源の利用拡大により、肥料の安定供給を図ること」と述べた。
 人のし尿など、下水にはリン…


    
  ウクライナ戦争でロシアが化学肥料の輸出に制限をかけ、石油や天然ガスなどの流通の不安定さから、輸送費用が高騰し、日本への輸入化学肥料の値段が高騰しているようだ。
 
  これでは日本の稲作や畑作農業、園芸、畜産業はやっていけない、ということで、政府が活性汚泥の活用に本腰を入れ始めるようだ。
 
  活性汚泥は平たく言えば我々人間の糞尿が主体である。1960-70年代に公害問題が活発な頃、企業や自治体や個人が無処理の下水を河川に放流していたので赤潮などが発生して、日本の河川と沿岸は臭気ふんぷんたるものがあった。その後環境庁が出来て、河川の富栄養化を阻止するために活性汚泥処理場からのリンや窒素などの排水基準値が厳格化され、活性汚泥の菌体が毎日大量に回収されている。
 
  この活性汚泥が家畜糞尿未熟堆肥と一緒に混合されて好熱菌などの投入で発酵されて、衛生的で有用な堆肥として自治体では他の民間肥料と競合しない値段で販売し活用されているところもある。
 
  下水汚泥の用途は多岐にわたる。このことは以下の下水道事業団のホームページに詳しい。
 
  https://www.jswa.jp/recycle/data/
 
  今回の岸田首相の方針は活性汚泥を肥料用の利用資源として従来よりも加速化しようというものである。
 
  しかし農水省のホームページに詳しいが、活性汚泥堆肥の最大の問題は、その中に含まれる重金属の濃度である。とりわけカドミウム(Cd)が最も問題になる重金属である
 
  活性汚泥堆肥を土壌に連用すると、微量の重金属などが植物に吸収されて我々の口に入るのだが、同時に作物によって吸収されなかったものは間違いなく土壌に徐々に蓄積していくのである。そこで農水省は汚泥中のCd含有量の上限を 5ppm と定めている。

  最近は上水道の鉄管や下水道の排水管をプラスチック管に変えたりしているので、昔のように重金属が溶けだしてくることがなくなっているかもしれないが、日本全域がそうなっているのではなく、まだまだ自治体においては配管改修過程と思われるので、この活性汚泥の重金属汚染問題は自治体によっては現在も続いているはずである。

  また、このWINEPブログでも、かつて東電福島第一原発爆発問題の時に、しつこく統計をあつかったことがあるが、全国の活性汚泥の中には、バセドー病などの医療用に使われた放射性ヨード(I-131)が病院の排水に含まれている場合が多いので、使用には注意を要する。このような病院の排水系の末端にある下水処理場の汚泥は、いまでも病院によっては厚生省の排水基準を守らずに排出されて活性汚泥の中に放射性ヨードが汚染されていると考えられる。だから、この汚泥を使った堆肥の場合は、I-131の半減期(8.04日)の少なくとも10倍以上の時間をかけたの減衰後に使用すべきと思う。

  以下の福島の下水処理場での活性汚泥中の131-I含量の推移グラフを参照してください。

    放射能は降り続けているのだろうか?連載(6ー1):2014-2015年の県中浄化センターの脱水汚泥中の 131I、137Cs、降雨量の推移について再検討する
  
  
(森敏)
2022-08-22 11:47 | カテゴリ:未分類
以下は来る9月13日から14日まで東京農業大学で開催される日本土壌肥料学会での約400の講演題目から、放射性セシウムや放射性ヨウ素に関する19の研究課題を抜き出し紹介したものです。(発表者名は筆頭と最後尾のみ記載しています)
  
東電福島第一原発事故以降10年以上経過した今も基礎から応用に至るまで放射能による農地汚染の研究が続いています。
  
  奇しくも現在ウクライナのザポロジエ原発がロシア軍の占領で大惨事を起こすの危機に陥っています。事故後の農地汚染の後始末はいつも農民や農学者に放り投げられてきました。絶対にそんな事態が起こらないように切に祈りたい。
  
  
放射性セシウム補足ポテンシャルの溶液条件は移行リスクの推定に最適か?
宇野浩一郎・・・矢内純太
  
ダイズのCs体内分配に関わるミネラルネットワークの経時的変動
村島和樹・・・信濃卓郎
  
ポジトロンイメージング技術によるリンゴ樹体内セシウム動態の可視化
野田祐作・・・・・河地有木
  
シロバナルーピンのセシウム吸収・分配における元素間相互作用
菅あやね・・・・・信濃卓郎
  
ミミズが土壌表層の放射性セシウムの垂直分布に及ぼす影響
田中草太・・・佐藤 孝
  
原位置モデル水田実験による灌漑水田由来137Csの影響評価
Anastasiia Klevtsov・・・・・・・原田直樹
   
多地点の農家圃場で生産した玄米と大豆子実の放射性セシウム濃度の比較
藤村恵人・・・・・・・鈴木政崇
   
福島県内の農地における放射性物質に関する研究(第57報)
ラッカセイの放射性セシウム吸収特性  
平山孝・斎藤正明
   
福島県内の農地における放射性物質に関する研究(第58報)
低カリ条件下での水稲ポット栽培3作から評価した土壌改良資材の放射性セシウム吸収抑制効果の持続性
松岡宏明・井倉将人
   
草地更新時に施用した金雲母とゼオライトの放射性セシウム移行への影響
山田大吾・・栂村恭子
   
ヘアリーベッチおよびクリムゾンクローバーへの放射性セシウムの移行性
久保堅司・・・・佐藤 孝
   
農耕地土壌および作物における129I 濃度について
塚田祥文
   
福島県東部を対象とした灌漑水による水田へのカリウム供給量マップ
錦織達啓・久保田富次郎
   
福島第一原発事故除染後農地における緑肥作物の春季播種が緑肥の開花期・窒素集積量に及ぼす影響
佐藤 孝・・・・・・・高階史章
   
福島県内の農地における放射性物質に関する研究(第56報)
玄ソバへの放射性セシウム移行特性への解析
斎藤正明・・平山 孝
   
福島県内の農地における放射性物質に関する研究(第59報)
籾殻くん炭を活用した塩化カリ代替効果の検証
浅枝諭史・・・・・三本菅猛
   
ポジトロンイメージング技術を用いたダイズ根系内のセシウム輸送における共存元素の影響解析
井倉将人・・・・・河地有木
   
A study on potassium application’s effect on cesium and strontium uptake in soybean
Muhamad Syaifudin・・・・・・・Takuro Shinano
   
機械学習を用いた福島県内農地土壌中非交換性カリ含量の空間分布推定―教師データ拡充の効果と除染後農地に対する適用可能性
矢ケ崎泰海・・・・・矢内純太
    




(森敏)

2022-08-05 12:16 | カテゴリ:未分類
世界が危惧してきたように、無知で非常識極まりないロシア軍によって占拠されているウクライナのサポリッジャ原発が、制御不能の暴発の危機にさらされている。
 
これはウクライナとロシアだけでない人類存亡の危機だ。
 
国連やIAEAだけではなく、ウクライナとロシアがテーブルについて、危機の打開を図る必要に迫られている。
食料危機でウクライナからの小麦の輸出以上に、人類に与える影響は計り知れない。
 
サポリッジャ原発が制御不能であるので、いずれ暴発すれば狂犬プーチンのいるモスクワも、風向きや降雨によって放射能雲プルームに襲われる可能性大である。
  
ウクライナとロシアの小麦や肥沃なチェリノーゼム土壌も放射能汚染で全滅となるだろう。


以下全文転載です。


ウクライナ南東部の原発は「完全に制御不能」=IAEA
BBC News 2022/08/04 16:00
AP通信によると、グロッシ事務局長はサポリッジャ原発で点検と修繕を行う必要があると述べた。
「いかなる原子力施設でも決して起きてはならない事が存在する」と、グロッシ氏は述べた。
ウクライナ南東部にある欧州最大のザポリッジャ原発は、ロシアとウクライナの戦闘が起きている場所から近く、危険な状態にある。
アントニー・ブリンケン米国務長官は今週初め、ロシアが同原発を、ウクライナ軍への攻撃拠点として利用していると非難した。
ウクライナ当局は、ロシアがウクライナ南部のドニプロ川沿いにある原発の敷地内に軍隊を駐留させ、軍用機器を保管しているとしている。
しかし、ロシアに任命された同地域の当局者はロイター通信に対し、ウクライナ軍が西側諸国から供給された武器を使って原発を攻撃していると語った。
ザポリッジャ州のロシア占領地を統括するエフゲニー・バリツキー氏は、ウクライナ軍の攻撃からロシア軍がいかに原子力施設を守っているかをIAEAに示す用意があると述べた。
「非常に脆弱な状況」
サポリッジャ原発では3月、ロシア軍の砲撃を受けて火災が発生し、国際的な批判が沸き起こった。鎮火後にロシア軍は原発を制圧した。
現在もロシアの支配下でウクライナ人スタッフが原発の稼働を続けている。
米ニューヨークの国連本部で開かれた記者会見で、グロッシ氏は、「非常に脆弱(ぜいじゃく)な状況にある。原子力の安全に関するあらゆる原則が何らかの方法で破られ、それが続くことを我々は許すことはできない」と述べた。
グロッシ氏は、原発に送る視察団をできるだけ早急に結成しようとしているが、戦闘地域を訪問するリスクを考慮すると、国連の承認だけでなくウクライナ側とロシア側の同意も必要だとした。
ウクライナの原子力発電公社は6月、IAEA視察団が訪問すれば原発におけるロシアの存在を正当化することになるとして、IAEAを招かないとした。
調査必要な核物質
グロッシ氏はAP通信に対し、IAEAとサポリッジャ原発のスタッフとの連絡は「途切れ途切れ」の状態で、機器などのサプライチェーンは寸断されていると説明。調査が必要な核物質が大量にあることも明かした。
「この戦争が激化する中、何もせずにいるというのは容認できない」とグロッシ氏は述べた。「ザポリッジャ原子力発電所で事故が起きたら、天災のせいにはできない。対応するのは我々のみだ。みんなのサポートが必要だ」
ロシアが原発を「核の盾」として利用していると非難するブリンケン米国務長官は、「当然、原発が絡む恐ろしい事故が起きないよう、ウクライナ側は反撃できずにいる」と述べた。
ウクライナでは1986年、北部チョルノービリ原子力発電所の原子炉が爆発し、世界最悪の原発事故が発生した。
ロシア軍は2月24日の侵攻開始から間もなくチョルノービリ原発も占拠したものの、5週間後に撤退した。敷地内のコンピューターは略奪されたり、破損されたりしたが、廃炉作業が進む原発の設備自体に被害はなかった。



付記:
朝日新聞が半ページを使って「ロシア原発を軍事基地化」という報道をしている。その中で米紙ウオールストリートジャーナル紙を引用し、「ザポリージャ原発には500人以上のロシア兵と重砲が展開し、原子炉の冷却に使う貯水池のそばに地雷も仕掛けている。ブリンケン米国務長官は今日1日、ロシアが同原発の一帯からウクライナ軍を攻撃していると指摘。ウクライナが反撃できないことを利用し、同原発を『核の盾』に使っていると非難した。」


追記1:
実にきわどい事態が進行している!
原発攻撃で原子炉停止 ロシアとウクライナ、互いを非難
AFPBB News 2022/08/06 04:48
【AFP=時事】ウクライナ南東部でロシア軍に占拠されている欧州最大のザポリージャ原子力発電所が5日、攻撃を受け、原子炉1基が停止した。ウクライナとロシアはいずれも、相手側による攻撃だと非難している。
 ザポリージャ原発は、ロシア軍がウクライナ侵攻の初期に占拠していた。ウクライナ政府は、ロシア軍が原発内に重火器を保管していると非難。一方のロシア政府は、ウクライナ軍が原発を攻撃していると批判してきた。
 ウクライナの国営原子力企業エネルゴアトムは、原子炉がある建物の近くで3回の攻撃があったと説明。「水素漏れや、放射性物質飛散の恐れがあり、火災の危険性が高い」とした。死傷者への言及はなかった。
 同社によると、ロシア国営原子力企業ロスアトムの職員は攻撃前に原発から避難。攻撃により電力ケーブルが破損し、原子炉1基が停止した。ウクライナ外務省は、稼働中の原子炉への攻撃は「原子力爆弾の使用と同等の結果」をもたらす恐れがあると批判した。
 一方、ロシア国防省は、ウクライナ側の主張を否定。ウクライナ部隊がザポリージャ原発と同原発のあるエネルゴダル市に対し3回の砲撃を行ったとし、ウォロディミル・ゼレンスキー政権の「核テロ行為」を非難するよう国際機関に要請した。


追記2:以下、報道がかなり錯綜している。危険な情報戦が続いている。
欧州最大級・ザポリージャ原発に新たな砲撃…核の大惨事回避「奇跡は永遠には続かない」
読売新聞2022/08/08 00:51
 ウクライナの国営原子力企業「エネルゴアトム」は7日、ロシア軍が占拠する南部ザポリージャ原子力発電所に6日夜、露軍が砲撃し、使用済み核燃料の貯蔵施設付近に着弾したと発表した。ロシア通信によると、地元の親露派勢力は7日、ウクライナ軍がロケット弾で原発を攻撃したと主張した。原発には5日も2度にわたり砲撃があったばかりで、欧州最大規模の原発を巡る緊張が高まっている。
 エネルゴアトムによると、6日夜の砲撃で、放射性物質を監視するセンサー3基が損傷した。貯蔵施設には使用済み核燃料を収容する174の容器が置かれていた。エネルゴアトムは、センサーの損傷で「異常の迅速な発見と対応は不可能になった」と説明し、「核の大惨事は奇跡的に回避できたが、奇跡は永遠には続かない」とも強調した。砲撃の影響は約800平方メートルに及び、作業員1人が負傷したという。
 原発を占拠している約500人の露軍兵士や露側の原子力企業関係者は事前にシェルターに退避していたとしている。
 一方、地元の親露派勢力は、ウクライナの部隊が多連装ロケットシステムで使用済み核燃料施の貯蔵エリアを攻撃したと主張している。
 5日の砲撃でも、ウクライナとロシアが互いに相手の攻撃だと非難していた。
 露軍は原発に重火器を持ち込むなどして軍事拠点化を進めている。

2022-06-14 14:12 | カテゴリ:未分類
 らっきょう  


  大学の先輩が、ラッキョウの話をブログで書いていたので、今日は小生もそれに便乗してラッキョウの話をしたい。
 
  行きつけの問屋では、ビニール袋詰めの中国製の甘酢漬けラッキョウが、年から年中棚においてある。それがやたらに値段が安いのである。
 
  小生はネギ類なら何でも大好きで、ラッキョウもその一つで、つい手が出そうになる。
 
  ところがこの中国産ラッキョウは必ず防腐剤が入っているので、手が出ない。
 
  いまが日本ではラッキョウの季節である。
 
  先日、スーパーに買い物に出かけて、3kgばかり買ってきた。生協の宅配ビンでも2キログラム購入した。
 
  いずれも鳥取産を謳っているのだが、意外に球根の大きさが違うのには驚いた。
 
  ラッキョウの皮剥きをやったのだが、これがなかなか厄介で、
 
  砂がついている一番外側の皮を剥がしながらやるものだから指がにちゃにちゃになった。
 
  慣れない単純作業だが、肩が凝った。 かみさんとの時間を合計すると、のべ3時間はかかったのではないだろうか。
 
  甘酢砂糖に漬けて1週間毎日菜箸でかき回したり、ビンをでんぐり返して糖度を均一にしたりして、
 
  時々一粒ばかり、つまみ食いしていたのだが、1週間ぐらいで、いい味になった。
 
  と、思ったのだが、かみさんが「まだまだですよ」、というので、我慢の最中である。
    
    
 
(森敏)
 
付記1:40年ほど前に、小生が大学で助手のころ日本土壌肥料学会のエキスカーションで、兵庫・鳥取・島根・山口と裏日本を現地見学で回ったことを思い出した。
 
みはるかす鳥取砂丘は、素足では熱くて歩けなかった。砂丘の後背には、広いラッキョウ栽培地があった。
 
如何にも栄養分がない痩せた砂地で、しかも透水性が良すぎて、肥料をやっても雨で流れてしまうので、施肥法がむつかしそうであった。
 
最近は現地に行っていないので、イスラエルのように点滴灌漑しているのかどうか承知していない。それとも今は緩効性(ゆっくりじわじわ養分が溶出する)の被覆肥料で栽培しているのだろうか? 当時はまだ被覆肥料が開発されていなかった。
 
今回、2か所から入手したラッキョウの球の太り型がかなり異なったのは、同じ鳥取産でも農家の腕の見せ所だったのかもしれない。
 
付記2:一昨日のウクライナのゼレンスキー大統領の話では、すでにウクライナ戦争では1万人のウクライナ兵士が死に、4万人ロシア兵士が死んでいるとのことである。
 
一方小生はラッキョウの皮むきで平和に「悪戦苦闘」している。
 
この違いは何なんだろうね。



2022-06-10 04:09 | カテゴリ:未分類
以下は 『communications biology』 で発表されたアポロ11,12,17号が持ち帰った月の表面の鉱石(レゴリスと呼んでいる)各1グラムでシロイヌナズナを育てた結果(ここでは原著論文から 図2 だけを引用した)に対する、電子大衆誌 『NEWSPLANTS』による解説です。
   




月の土とアラビドの生育

図2 月面レゴリスでの発芽・生育の様子。(ぜひダブルクリックして全貌を詳細に比較してください。森敏記)
a アポロ月面のレゴリスのすべてのソースで発芽率は100%に近く、JSC-1A模擬物質での発芽率と区別がつかない。JSC-1Aおよび各アポロ地点の代表的な2つの栽培プレートが示されている。
b 6日目または8日目に各ウェルから間引かれた苗は、月のレゴリスでの根の成長がJSC-1Aほど強固でないことを示した。
c 発芽は対照区と月面の間で均一であったが、月面のレゴリスで育った苗はJSC-1Aの対照区と比較して生長していない。
培養プレートのウェルの直径は12.5mm(スケールバー)。





マリア・テンミング 記
2022年5月23日 9:00 am
植物にとっては小さな実生だが、植物科学にとっては大きな飛躍となる。
 
研究室で作られた小さな庭(直径12.5ミリ)で、月の土に蒔かれた最初の種が芽を出した。
アポロ計画で持ち帰られたサンプルに植えられたこの小さな作物は、いつの日か宇宙飛行士が月で自分たちの食べ物を育てることができるかもしれないという希望を与えてくれる。
しかし、月の土に植えられた植物は、地球の火山性物質で育てられた他の植物よりも成長が遅く、痩せ細っていることが、5月12日付けの『Communications Biology』誌で報告された。
ウィスコンシン大学マディソン校の宇宙飛行士リチャード・バーカーは、この実験について、「ああ!とてもクールだ!」と言う。
「このサンプルが戻って来て以来、この中で植物を育てたらどうなるかを知りたがる植物学者がいました」と、この研究に参加していないバーカーは言う。
「しかし、誰もがこの貴重なサンプルが貴重であることを知っているので、なぜNASAが公開を渋ったのか理解できます。
今、NASAがArtemisプログラムの一環として月に宇宙飛行士を送り込もうとしている計画は、その貴重な土を調べ、月の資源がどのように長期ミッションをサポートできるかを探る新しいインセンティブを提供しています。
月を覆う土、つまりレゴリスは、基本的に園芸家にとって最悪の悪夢である。
このカミソリのように尖った細かい粉は、植物が好む酸化したものではなく、金属鉄でいっぱいだ。
また、月に降り注ぐ宇宙石によって作られた小さなガラスの破片もたくさん含まれている。
しかし、窒素やリンなど、植物が成長するのに必要なものはほとんど含まれていない。
そのため、科学者たちは、地球上の物質でできた偽の月の砂の中で植物を成長させるのは得意だが、生まれたばかりの植物が本物の月の砂に繊細な根を下ろすことができるかどうかは、誰も知らないのだ。
フロリダ大学ゲインズビル校の3人の研究者は、それを確かめるために、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を使った実験を行った。
この植物はよく研究されている植物で、マスタードと同じ科に属し、ほんの小さな塊のようなものでも成長することができる。
研究者たちは、月がほんの少ししかなかったので、それがカギとなった。
研究チームは、1つにつき約1グラムの土が入った小さなポットに種を植えた。
4つのポットにはアポロ11号のサンプル、別の4つのポットにはアポロ12号のサンプル、そして最後の4つのポットにはアポロ17号の土が入れられた。さらに16個のポットには、月の土を模して過去の実験で使用された火山性の土が入れられた。
これらはすべて、研究室のLED照明の下で栽培され、栄養分を含んだスープで給水された。
植物分子生物学者のアンナ・リサ・ポールは、「月のレゴリスの中で芽を出した苗を初めて見たときと比べものにならない」と言う。
「地球外の物質で育つ地球上の生物を初めて見たという感動的な体験でした。
そして、それは驚くべきことでした。まさに驚きです」。
植物はどの月の土の鉢でも育ちましたが、地球上の物質で栽培されたものと同じように育つものはありませんでした。
「最も健康なものは小さかったのです」とポールは言う。
月で育った最も病弱な植物は小さく、紫色の色素を帯びており、植物がストレスを受けていることを示す赤信号だった。
アポロ11号のサンプルで育った植物は、月面に最も長くさらされたため、最も発育が悪かった。
ポールたちは、このミニ・エイリアン・エデンの遺伝子も調べた。「ストレスに反応してどのような遺伝子がオンになり、オフになるかを見ることで、植物がそのストレスに対処するために代謝ツールボックスからどのようなツールを取り出しているかを知ることができます」と彼女は言う。
月の土で育ったすべての植物は、塩分、金属、活性酸素などのストレスに苦しむ植物によく見られる遺伝子ツールを引き出していた。
アポロ11号の苗は、最も深刻なストレスを受けた遺伝子プロファイルを持っており、月面に長くさらされたレゴリス(したがって、より多くの衝撃ガラスや金属鉄が散らばっている)は、植物にとってより有毒であるという証拠を提供している。
将来、宇宙探査を行う人は、それに応じて月面の居住地を選ぶことができるだろう。
また、月の土を植物にとってより快適なものにするために、何らかの改良ができるかもしれない。
あるいは、地球外の土壌に馴染むように、植物を遺伝子操作することもできるだろう。
「また、より優れた植物を選ぶこともできる」
「耐塩性の高いホウレンソウなら、月のレゴリスでも問題なく育つかもしれませんね」。
バーカー氏は、この月面園芸の最初の試みで約束された課題に臆することはない。
「人類が月面で農業を行うには、多くのステップや技術を開発する必要があるのです」と彼は言う。
「しかし、この特別なデータセットを持つことは、それが可能であり重要であると信じている私たちにとって本当に重要です。

 
 
付記: 原報は下記です。無料でアクセスできます。
COMMUNICATIONS BIOLOGY | (2022) 5:382 | https://doi.org/10.1038/s42003-022-03334-8 | www.nature.com/commsbio

この論文の一部を下記winepホームページ

http://www.winep.jp/news/440.html

でも訳しておきました。
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