- 2021/03/21 : 避難住民うぬまさんと、希望の牧場での牛キクハナとの再会
- 2020/12/24 : イヌツゲの放射能汚染
- 2020/09/04 : オナモミの放射能汚染
- 2020/08/16 : 放射性セシウム関連の演題: 2020年日本土壌肥料学会岡山大会講演要旨からの抜粋
- 2020/05/12 : 羽山神社のセンブリの放射能汚染
WINEPブログ
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浪江町「希望の牧場」にて再会。 彼女の靴は放射能防護カバーしている。
同上
福島県双葉町は、東電福島第一原発から10キロ圏内にかかっており、いまだに放射能除染が進行せず、住民は全村避難のままで、いまだ誰も帰還できていない。
そんななか『全村避難の双葉町は今』という報道特集をやっていた。
畜産農家の、うぬまさんは、避難生活中に夫に死なれたが、久しぶりに放送局のレポーターとともに茫々たる崩壊寸前の双葉町の自宅を訪れた。そのあと浪江町の希望の牧場で引き取られて飼育されて生き残っていた牛「キクハナ」に出会った。それがこのシーンである。
キクハナは彼女を覚えていたのである。
いつものように植生を物色していると、幼木のほとんどがイヌツゲである。結構根がしっかりと硬い土に生えているからか、とても根から植物全体を採取するのがむつかしかった。図1に見るように根元から切れてサンプリングせざるを得なかった。すべて原発事故以降に木の実が散布して生えてきた実生であると思われる。
形態をよく見ると、3本とも、何となく、根元からいじけて枝が分かれているし、上部の枝の分岐の具合も、素直ではない。発芽時から土壌や空間から浴び続けた放射能で成長点の細胞が障害を受けたせいではないだろうか?
以下の3本のイヌツゲは10メートル間隔のものをサンプリングしたものであるが、葉の放射能(表1)で見ると一番右のものが最も高く、中央のものが一番低い。オートラジオグラフ(図2、図3)も、そのことを反映して撮像されている。いずれも土壌が付着して洗いきれなかった根基部が非常に濃いことがわかる。

図1.イヌツゲ。2019年10月採取。


図3.図2のネガテイブ画像。
表1.イヌツゲの部位別放射能。 左、中央、右の植物は図2、図3のオートラジオグラフ像に対応している。

(森敏)
付記:以下に、「放射線像」の u-tube 継続しております。ご笑覧ください。
・ https://www.youtube.com/channel/UCoxOKSbRGkZSNR7no2-7U9g
この植物はとげとげの実がつかないと、オナモミと直ちには判別できないのであるが、幸い実が熟していたので、根ごと引き抜いて(軽く引き抜けた!)、研究室に持ち帰って、実と各部位の放射能を測定した。
根には土がこびり着いているので、放射能が高いのだが、地上部全体もいまだにかなり高いことがわかる(表1)。
植物全体が強く放射能汚染している(図2と、図3図4の実などを照合してください)。
この植物はたぶん一年生草本なので、2018年に種子が飛び散って2019年春から発芽して秋に実をつけるまで育ったものと思われるものなので、そこの場所の土壌の可溶性放射性セシウムを吸収してきたはずである。
この結果からみても、まだ除染していない林内土壌からの野生の植物は放射能が高く続いているわけである。多くは土の最上層の腐葉土に含まれている高い放射能が、徐々に微生物分解されながら、根が浅いオナモミの根から直接吸収されているものと思われる。
生きのよいオナモミの写真を持っていないのでWikipedeia から、無断転載した(図1)。

図1 オナモミ(WIKIPEDIAより転載)

図2 枯れたオナモミを根から掘り上げた。 6個の実をつけいている。

図3. 図2のオートラジオグラフ

図4.図3のネガテイブ画像
表1.オナモミの放射能

(森敏)
左端のナンバーは講演要旨のなかの、講演部門ナンバーである。発表の共著者名は、全部書くと長くなるので筆頭著者と最後尾著者名だけを示しています。
放射能汚染現場に立脚した研究テーマが、生態系レベルから遺伝子レベルまで、多面的な展開の様相を呈していることが見て取れます。
これまでにない、新しい発明や発見が生まれることを期待したいと思います。
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4-3-2 イオンビーム照射によるダイズのCs低吸収突然変異体の作出 川端美玖…頼泰樹
8-1-1 アマランサス(Amaranthus species)の導管液に焦点を当てたCs吸収(第2報) 村上敏文・・・小林浩幸
8-1-2 圃場内における交換性カリ含量のばらつきの補正によるコムギの放射性セシウム蓄積性の品種間差異の解析 久保田堅司・・・・信濃卓郎
8-1-3 放射性セシウム対策水田における灌漑水量調節によるカリウム流亡抑制効果の検証 錦織達啓・・宮津進
8-1-4 QTL-seq解析およびHRM解析によるダイズの放射性セシウム吸収に関与した遺伝マーカーの探索 宇多真梧・・・・福原いずみ
8-1-5 福島県相馬郡飯館村の農耕地土壌におけるNH4+濃度変化とCs脱着率の関係解析 浅野育美・・・・矢内純太
8-1-6 機械学習による土壌特性値空間分布の推定―放射性セシウム移行モデルの広域適用に向けて 矢ケ崎泰海・・・・山口紀子
8-1-7 土壌の放射性Cs移行性を評価するための非交換性カリ定量法の検討-水稲、ダイズ作における3手法間の比較― 若林正吉・・・・・矢内純太
8-1-8 東北地方の牧草地黒ボク土の放射性Cs吸着・K放出能に対する風成塵の影響解明 北川結理・・・・矢内純太
8-1-9 除染更新後に再更新した採草地における利用2年目までの牧草中放射性セシウムの移行について 渋谷岳・・・・吉田由里江
8-1-10 福島県内の農地における放射性物質に関する研究(第48報)福島県内不耕起未栽培農地における放射性セシウム鉛直分布の経時変化 中山秀貴・・片桐優亮
8-1-11 福島県内の農地における放射性物質に関する研究(第50報) 水稲の無カリポット栽培における非交換性カリ含量が玄米の放射性セシウム吸収に及ぼす影響 永井華澄・・・鈴木芳成
8-1-12 除染後営農再開農地における形態別放射性セシウム分布と作物移行係数の関係 井倉将人・栗島克明
8-1-13 玄米への137Cs移行に関する中干期の土壌中交換性カリ含量の寄与 津村恵人・・・松波麻耶
8-1-14 異なるカリ資材などの施用における交換性カリ含量と牧草中放射性セシウム濃度の推移 山田大吾・・・・吉田由里江
8-1-15 大柿ダム低質から溶出する137Csの灌漑水への寄与について 塚田祥文
8-1-16 福島県内の農地における放射性物質に関する研究(第49報)除染と保全管理後に作付け再開した水田における水稲生育ムラの解消技術の検討 松岡宏明・・・永田修
8-1-17 安定セシウム吸着試験による新鮮落ち葉などの有機物のセシウム保持能の評価 眞中卓也・・・・古沢仁美
8-1-18 灌漑水を介した粗大有機物流入による水田土壌への137Cs付加の可能性 高橋篤広・・・・原田直樹
8-1-19 黒ボク土草地土壌に添加した放射性セシウム及びヨウ素の牧草への移行性に及ぼす有機物施用の影響 武田晃・・・・久松俊一
8-1-20 福島県内の農地における放射性物質に関する研究(第51報-低カリウム条件下における各種飼料用米品種・系統の玄米中Cs-137濃度の比較 斎藤隆・・後藤昭俊
8-1-21 福島県内の農地における放射性物質に関する研究(第52報)-除染後農地における農地群内の土壌中のCs-37濃度の分布について― 根本知明・・・志村浩雄
(森敏)
以前にも述べたが、羽山神社は原発から650m地点で山頂にあり、小さな神社周辺は住民が表土を除染しているが、それは山頂のごく一部に過ぎない。
その露出した地面に集団でセンブリが生えていた(図1)。(センブリは漢方でも有名な胃腸薬である)。ここのは栄養失調で背丈が15センチもない。
しかし見事に異常なくらい多くの花をつけていた(図2)。多分この花の生え方や背丈の短さや、分枝の仕方はいじけていて異常だと思う。放射線障害だろう。それを根から掘り起こして採取してきた。
オートラジオグラフに取ると花器の種子になる部分が濃く撮像されている(図3、図4)。この現象は他の植物と同様である。
8本の植物の撮像のされ方が少しずつ強弱が異なっている。それは同じ集団でも土壌に降下した放射能が均質ではなく、したがって土壌への収着の度合いも異なっていたためと思われる。
これまで、我々が調べた長靴や箒や洗剤の箱やTシャツなどの非生物の表面に付着した固形物は、不溶性の濃い大きな粒子と、その10分の一以下と思われる細かな粒子と、可溶性のイオン状のセシウムが見分けられる。
植物が吸収しているのは、可溶性(雨水に溶ける)セシウムイオンだけである。
表1に部位別放射能を示している。根は土壌が取り切れなく付着汚染しているので最も高い値である。しかし地上部は図3、図4から見ると、完全に内部汚染のみで外部汚染は全くない。これらのオートラジオグラフ画像からは、花器が非常に高く撮像されているが、この表1の放射能の乾物重あたりの実測値からすると、植物の地上部全体がほぼ均一に内部汚染していることがわかる。
こんなものは到底まだ漢方薬には使えない。
図1 センブリ
図2 図1の左下の植物の部分拡大 異常な数の花の付き方
表1 センブリの部位別放射能

注:図1の8本の植物を全部部位ごとに一緒にして測定した。
(森敏)