2016-10-09 06:18 | カテゴリ:未分類

      現在、日本中の水田では、銀色に稲穂が頭を垂れて、収穫が始まっている。この、イネは下葉(したば)もきれいに銀色に枯れあがっている。これはどいうことかといえば、下葉に蓄積されていたミネラル分やタンパク質やデンプンが葉の細胞内で低分子に分解されて、葉の細胞から出て師管に入り、穂に転流して、種子にミネラルやデンプンやタンパクとして蓄積しているのである。このようにして最終的には穂以外は細胞壁成分のみによる「稲わら」になってしまうのである。

 

     この、作物の栄養成長から生殖成長への体制の質的転換のために、農家はいったん水を切ったり(中干し)するショックを与える。そうすると、葉の細胞の「オートファジー(自己消化、自食、貪食とか日本語に訳されている)」が起こるのである。葉の細胞の中では葉緑体やミトコンドリアや最後には核までが、ごっそりと液胞の中に取り込まれて構造が消失される。消失するということは分解酵素によって低分子になり顕微鏡下や電子顕微鏡下でも見えなくなるということである。

    

     低分子にまで分解された化合物は師管を通って、イネの種子に運ばれる。これが転流ということである。1950年代にすでにこの栄養成長から生殖成長へのイネの体制の質的変化の指標として、アスパラギン・テストというのが当時東大農芸化学科植物栄養・肥料学教室で開発されていた(尾崎清ら)。イネの茎の搾汁液をペーパークロマトグラフィーで1次元展開してアミノ酸の発色試薬であるニンヒドリンで定性的にアスパラギンを同定して、それが増えていればイネが登熟期に入ったという生化学的な栄養診断法であった。このアスパラギン(やグルタミン)は一分子中に抱える窒素(N)の数が多いので、N源の運び屋としてほかのアミノ酸より有利なのである。このときのN源は主として、葉の葉緑体の中の光合成機能を担う「Rubisco」というたんぱく質である。

    

     このようにして、根から吸収された窒素(N)、リン酸(P)、カリ(K)などの必須元素は、いったん葉に移行し、葉での光合成に寄与する。葉で炭酸同化した空気中の炭酸ガス由来の炭素(C)とともに、葉の中での機能を終えると、葉が自己消化を起こして、これらの諸元素は、再び新しい次世代組織(種子)に転流されることにより、植物は脈々と次世代に栄養を受け渡ししているのである。
      
  今回大隅良典氏による食用酵母の観察によるノーベル賞受賞が、「オートファジー」の意味を大衆に知らしめた意義は非常に大きいと思う。しかしすでに各所で解説されているように「オートファジー」は単なる「細胞の不要物質の掃除屋」なのではない。「オートファジー」はすべての生物にとって必須の栄養素の輪廻転生のための機能であることを、小生は植物栄養学の立場から強調しておきたい。

   
  実るほど 頭をたれる 稲穂かな 
  
とは、人は年を取るほど謙虚であれ ということらしいが、この現象の背景に潜むイネの栄養生理は、実は「オートファジー」なのである。
                  
  酵母ばかりでなく、高等植物にも学ぶことは非常に多いのである。
          
(森敏)

 

 

 


2016-08-21 12:05 | カテゴリ:未分類

          男子陸上400メートルリレーでは山本亮太・飯塚翔太・桐生祥秀・ケンブリッジ飛鳥が絶妙な連係プレーで「銀」を獲った。

 

        それぞれの構成員は選手としても超一流であるが、まだ100メートル走では9秒台の記録を持たぬ、世界のトップ一、二の記録を持つ選手ではない。

 

        スポーツは人間がやるものだから、リレー競技では個人ではなく複数の人間が行うことに伴う必要な技術(この場合はアンダーハンドのバトンタッチなど)の創造が絶対的に必要なことであろう。だから、この「銀」の成果は個々人の能力に加うるに選手たちの相互の努力による相乗効果が加わったものである。その技術の絶対的な成就のためにはお互いの選手間の尖った「個」を押さえた「和」の信頼関係が絶対的に必要だったものと思われる。

 

        まさにこの日本のリレー競技は現段階でのスポーツ技術水準の粋を極めた戦いであったというべきだろう。全国民が酔いしれた。

 

        しかし、今回の「銀」の結果は一方では、「和」の精神だけでは、リレー競技では決してトップにはなり得ないのでないのではないか?という疑問も投げかけるものであった。

 

        最終走者のジャマイカのボルト選手はケンブリッジ飛鳥選手とほとんど同時に左手でバトンを受け取り、それをわざわざ余裕で右手に持ち替えて、当初飛鳥と接触しながらも、最終的には、悠々と飛鳥を抜き去ってトップでゴールしている。

 

        小生は、この場面を見ながら、太平洋戦争で日本軍が当時の新鋭機種と称された「零式戦闘機」で真珠湾奇襲攻撃をし、緒戦で勝利を治めたかのごとくであったが、その4年後(昭和20年)にはアメリカは大型遠距離用爆撃機B29を開発し、日本全国土を絨毯(ジュータン)爆撃し焦土化した末に、原爆を落とし日本を敗戦に追い込んだパターンを思い浮かべていた。

 

        秀才の「和」による小細工は時として勝利するのであるが、勝利し続けることは至難の業である。天才の「個」による独創には所詮歯が立たないのである。

 

        あたりまえのことであるが、東京オリンピックまで、あくまでダントツの「オンリーワン」の選手を育てるべきなのである。

 

(森敏)
追記1:余談だが、昭和20年夏、我が郷里高知市はB29の焼夷弾で焼け野原になった。旭駅前町の我が家の防空壕から見た東の空は真っ赤だった。兄たちはその焼け跡にまだ煙にくすぶる焼夷弾の鉄筒を拾いに行って、それを鉄くずとして売ったのだった。戦争を知らない安倍総理には、4年後の東京オリンピックを「一億総何とか::!!」というスローガンでの国威高揚の材料にしてもらいたくないとつくづく思う。
 
追記2:以下は蛇足です。
ボルトによれば彼らのリレーグループは「バトンタッチの練習を1回しかやらなかった」と報じられている。「バトンタッチ」の創意工夫による時間短縮はもともとリレーの本質ではない、あくまで本質は構成メンバーである個々の選手の「走力」なんだ、という認識なんですね。

2016-08-16 12:32 | カテゴリ:未分類

日本土壌肥料学会2016年度佐賀大会 公開シンポジウム

「事故から5年―農業環境・農作物・農業経済の変遷と課題―」

 

日 時:2016(平成28)年922日(木)13301640

会 場:佐賀大学本庄キャンパスX会場(教養教育大講義室)

主 催:一般社団法人日本土壌肥料学会、日本学術会議 農学委員会土壌科学分科会、農学委員会・食料科学委員会合同IUSS分科会

趣 旨:

  東京電力福島第一原子力発電所の事故によって福島県を中心とする農業は大きな打撃を受けた。事故から5年が経過し、農業環境において様々な放射性物質の低減化対策が検討され、農産物中濃度は基準値を充分に下回るようになった。本シンポジウムでは、5年間にわたり研究が進められてきた農業環境における低減化対策とその効果、農業環境における放射性物質の現状と将来予測、作物摂取による被ばく線量評価、更には原発事故がもたらした農業経済への波及と回復等についてこれまでに取り組んできた専門家に紹介頂き、土壌肥料学会員に広く周知するとともに、一般市民にも公開・普及する。また、今後の課題や営農再開に向けた取り組みなどについて議論する。

 

次 第:

・座長:中尾 淳(京都府立大学大学院生命環境科学研究科助教)

        塚田祥文(福島大学環境放射能研究所副所長、教授)

13:30 開会あいさつ:

         間藤 徹(日本学術会議連携会員、日本土壌肥料学会会長、京都大学大学院農学研究科教授)

13:35 5年間における放射能汚染対策の概要と成果-農地の復興をめざして-」

信濃卓郎(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 農業放射線研究センター長)

14:05 「果樹における放射性セシウムの動態-果樹園の回復をめざして-」

佐藤守(福島県農業総合センター果樹研究所栽培科専門員)

14:25 「水田における放射性セシウムの動態とモデル化-安全な稲をつくるために-」

江口定夫(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構物質循環研究領域水質影響評価ユニット長)

14:45 「農耕地土壌における放射性セシウムの動態にかかわる有機物の役割-有機物の意外な効果-」

山口紀子(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構有害化学物質研究領域無機化学物質ユニット上級研究員)

14:55 「森林環境における放射性セシウムの分布と挙動-森林・林業の復興にむけての課題-」

金子真司(国立研究開発法人森林総合研究所立地環境研究領域長)

15:15 「福島県における農作物中放射性セシウムとストロンチウム-90濃度および作物摂取による被ばく線量評価-福島県農作物の現状-」

塚田祥文(福島大学環境放射能研究所副所長、教授)

15:35 「原発事故がもたらした農村農業への影響と5 年間の総括-現地の取り組みと復興のいま-」

小山良太(福島大学経済経営学類国際地域経済専攻教授)

16:05 総合討論:

コメンテーター:万福裕造(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生産体系研究領域バイオマス利用グループ主任研究員)、齋藤雅典(東北大学大学院農学研究科教授)、齋藤 隆(福島県農業総合センター浜地域農業再生研究センター技術研究科主任研究員)、南條正巳*(日本学術会議会員、東北大学大学院農学研究科教授)、木村 武(全国農業協同組合連合会肥料農薬部技術対策課技術主管)

16:40 閉会

 

入場無料

問い合わせ先:佐賀大学農学部 日本土壌肥料学会2016年度佐賀大会運営委員会事務局

                E-mail: jssspn2016@ml.cc.saga-u.ac.jp




  

スライド1
2016-07-04 18:55 | カテゴリ:未分類

聖路加病院の日野原重明理事長は95-6才のときだったか「病院の階段を2段飛びに駆け上がる」とかいう、まことしやかな話が長いこと流布していた。しかし、最近の朝日新聞の日野原先生のコラムでは「車いすに乗って息子のお嫁さんに押されて近くのコンビニに買い物にいって楽しかった」由が述べられている。さすがに104才のご高齢で足腰が弱られたのだ。

 

先日2日間にわたって浪江町で帰還困難区域の調査を行った。今回は2日間の積算で37マイクロシーベルトという十分すぎるほど危険な放射線を浴びてしまったし、様々な放射能汚染サンプルの採取も順調に進んだので、二日目は午後3時半頃に浪江町の検問所を脱出した。案の定、今回の調査では1日目は調査の最中に4回も防護服の下のTシャツを着替えねばならぬほどの高温多湿であった。2日目は炎天下の時は太陽光線と放射線でまぶされるので、一度に20分間以上続けて車の外で調査することは不可能であった。

 

東京への帰りの新幹線の予定キップは午後9時半福島駅発にしていたのだが、駅に早めに着いたので、キップの変更を行った。のだが、心理的にも体力的にも疲れていたためか、いつもの番線に漫然とエレベーターで上がったところ誰もプラットホームに人がいない。変だなーと思って、はたと、今回はキップを時間を繰り上げ変更したので出発番線が線路をまたいで向こう側の番線に変わっているのだと気が付いた。出発までの残り時間が4分ぐらいしかない。急いで先ほどのエレベーターで下って、歩いて水平移動して当該番線に上ろうとしたが、エレベーターもエスカレーターも瞬時には見あたらなかった。なので、目の前の約100段もある階段を駆け上がることにした。

 

最近は自宅のマンションで早朝の新聞取りはエレベーターを使わずに階段を下りて新聞を郵便箱からとってふたたび階段を上がることで足腰を鍛えることにしているのだが、たった4階分をあがるのが結構きつい。ゆっくりあがっても途中で休んで膝の屈伸運動をしないときつい。あがりきっても腰ががたがたで、おまけに息が絶え絶えである。低血圧なので、苦しい。

 

今回、急いでいたので、思わず駅の階段を2段飛びに駆け上がり始めたのだが、20段目で早くも膝に来てよろめいた。10kgぐらいのリュックサックを背負っている上に、右手には某氏が開発した1.2メートルぐらいの放射線測定器を大事に持っていた。左手があいていたので左手で思わず倒れ込んで制動した。一呼吸置いて、冷静にならねばと思いながらも、すぐまた少し速度をゆるめて2段飛びに残りの80段を登り切ってプラットホームに出た。完全に息があがって、膝に来て、しばらくはもう一歩も動けなかった。

 

見渡すと乗客たちがまだ出発待ちで、車両のドアが開いていなかった。幸いなことに、ここ福島駅で山形新幹線と東北新幹線の車両がドッキングする直前であった。階段をあがった目の前に冷房入りの休憩室があったので、そこにゆっくりと座って、両新幹線車両のドッキングの光景を見ながら、あえぐ息をゆっくりと整えた。2-3分はかっかったと思う。こんなに急激な動悸の経験は数年ぶりだったので、「うーんひょっとしたらここで心臓麻痺で死ぬのかな」とまじめに思いながら心臓の鼓動を冷静に数えた(普段は50である)。

 

一見、普段から健康な人が、あるとき突然「あっという間」に死んだという報告を最近はよく聞くようになった。たぶん今回のように我を忘れて緊急事態に追い込まれたときに、動転して若いときの気分で体力を消耗して荷重がかかりすぎて本人も失神して急死するのだろうと、我が身に引きつけてシミュレーションしてみた。

 

時間的にせよ空間的にせよ突然予期せぬ余裕ができたときでも、最初に立てた予定を勝手に変更したりするような器用なことはあまりしない方がよい。というのが今回の教訓である。
 
 
(森敏)

追記:

後日、自宅の台所でドリップ式でコーヒーを入れていた。時間がかかるのでじっと待っていたのだが、台所の流しに10個ばかりの食べ終わった食器が置かれているのに目が留まった。そこで殊勝にも、コーヒーの抽出にまだ時間がかかりそうなので、これらの食器を洗いはじめた。ところが最初の一枚の皿を食洗機にいれる動作の途中で、皿をドリップ中のサーバーに真横からぶつけてしまって、コーヒーカップごと倒してしまった。せっかくほとんど抽出し終わったコーヒーの約100mLが全部台所に散布してしまった。老人が途中で時間があるからと突然合間に新しい計画を入れると、ろくなことが無いという事例である。

 

2016-04-02 07:15 | カテゴリ:未分類

原発が標的だった?察知され変更か 自爆テロ容疑者

ベルギーのテロ事件で、容疑者が原発を狙っていた可能性が出てきました。地元メディアは、テロで自爆した容疑者のバクラウィ兄弟が、事件前にベルギーの原子力開発の責任者が自宅に出入りする様子をビデオカメラで隠し撮りしていたと伝えました。パリの同時テロに関連した当局の家宅捜索でこのビデオが押収され、先月、140人の兵士が原発周辺に配置されたということです。地元メディアは「容疑者は計画が事前に察知されたため、空港や地下鉄の爆破テロに変えた可能性がある」と伝えています。(2016・03・24)ANNNEWS

 

   

  小生の知人で航空機事故の専門家である某氏は、リスク管理の専門家でもあるのだが、従来事故原因として呼称されてきた「ヒューマンエラー」という言葉だけでは最近の航空機事故はくくれないと年賀状で書いてきた。彼は「ヒューマンファクター」という言葉を提唱している。

      

機器の誤作動以外に、いくら厳格なマニュアル通りのトレーニングを受けても無意識のうちに操作を間違って事故が起きる場合の「ヒューマンエラー」と概念を区別して、意図的に事故を起こそうとしている人物に事故が起因する場合は「ヒューマンファクター」と呼ぶべきである、と提唱している。

      

  上記のANNNEWSの <<原発テロ>> は、まさにその範疇の事故に属する。原発労働者の中に全くそんな人物が紛れ込んでいないとだれが断言できるだろうか? 原発労働者の心まで立ち入って管理するのは至難の業であろう。世界に頻発しているように、人生に絶望的な、あるいはストレスで神経が衰弱した、知的レベルの高い若者が、自爆テロを決意して、「原発テロ」に矛先を向けてくることも十分にありうることだと思われる。

      

世界のどこかで、今度は「ヒューマンエラー」ではなく「ヒューマンファクター」による原発メルトダウンが起こされる予感がしてきた。
 
  日本の原子力規制委員会はそんな「人の深層心理」に踏み込んだ規制基準をどこにも設けていないだろう。また規制委員会に属する工学的発想しかできないメンバーにそんな基準を草案できるはずもない。だから現在の原発規制基準をクリアしたからと言って、今後の再稼働原発はぜんぜん安全安心ではないのである。事故はいつも新しいタイプの要因(それこそ「想定外」)に起因して起こるからである。無責任な言い方かもしれないが、次に世界のどこかでおこる原発事故は地震や津波や火山爆発によるものではなく、「ヒューマンファクター」によるものではないか? と小生は予測する。そうならないことを祈る。
         
(森敏)

付記:この記事を書いたあと、4月9日付けの朝日新聞では、「私の視点」という投稿欄(実際は依頼原稿が多そうだが)で、

 

原発どう守る 「フクシマ」テロの可能性

 

というタイトルで NEW YORK TINMES の記事を抄訳で紹介している。

著者はハーバードケネデイ行政大学院ベルファーセンター所長(グレアム・アリソン)、もと米エネルギー省国家核安全保障局副局長(ウイリアム・トビー)。

 

それによると

::(略):: 先月のブリュッセルの攻撃後やっと、ベルギー当局は核施設の従業員の個人情報を調べ、10人ほどの従業員の作業員資格は無効にすべきだと結論づけた。

最低限の対策として、兵器転用できる核物質もしくは、大規模な放射能漏れを引き起こすおそれがある低濃縮核燃料を保有するすべての施設は、武装した警備員が守るべきだ。そして、原発の全従業員の経歴は、雇用前に徹底的に調査すべきだ。

テロリストたちは原発に目を向けている。だからこそわれわれも目を向けなければならない。

 

とある。この記事の趣旨は小生の文章とあまり変わらない。

 

朝日新聞はこの原発部門のテロのリスク管理に関する専門家が日本にはいないと思っているのだろう。原子力規制庁にはぜひ専門官を設置すべきと考える。政府にテロで原発が爆発したときに「想定外」といわせないためにも。

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