fc2ブログ
2012-06-04 07:38 | カテゴリ:未分類

  福島県が民間にセシウム吸収抑制用の資材を公募して、そのうちの3つが、無施肥区やカリ施肥区よりも有望であったと、マスコミに大々的に報じている。

http://www.pref.fukushima.jp/keieishien/kenkyuukaihatu/gijyutsufukyuu/minkan/240517zenntai2data.pdf


  だがこの福島県による判定は全くの間違いである。
 

  

50年前の東大肥料学研究室の研究や、最近のアラビドプシス(しろいぬなずな)の分子生物学的研究や、福島県農試自身の昨年の水田の放射性セシウム汚染の調査結果から、カリウムイオンが植物のセシウム吸収抑制に一定程度効果的であることがすでにわかっている。

 

現在の植物栄養学ではセシウムイオンが根の細胞膜のカリウムイオンの吸収のトランスポーターを通るときにカリウムイオンと拮抗するばあいがあると考えられている。

 

だから、土壌から作物への放射性セシウム吸収に対する抑制効果を、さまざまな農業資材で調べるときには、資材量はカリウムの施肥量をそろえて、比較試験する区も設けて行う必要があるのは今や常識である。

  そうしないと、施肥資材のうちカリウムが効いたのか、それ以外の因子が聞いたのかが正確には判定できない。

 

ところが今回の福島県農試の施肥設計では各資材の投与量を窒素成分で揃えようとしている。

  

そこで、この福島県農試で行われた施肥実験の結果を、各資材のカリウム施肥量だけ抜き出して、このカリウムの施肥量(慣行によりK2Oで表している)に対する、コマツナによって吸収された放射性セシウム濃度(Bq/kg)をプロットしてみた。

  

結果は図1に見るように、両者にはきれいな対数関係の逆相関があることがわかる。(相関係数は出していないが)

 

これは、水田稲作で昨年福島県農試自身が調査して発表した結果と見事に一致する結果である。

 

結論から言えば、与えられた農業資材の有効成分はカリであったということにすぎない。

 

対照区としてもっと無機カリ肥料を投与した区を設けておけば、完璧にコマツナへの放射性セシウム移行を抑えた結果が出たであろう。

    

  要するにここで用いたどの農業資材もカリ以外の固有の効果はなかったということなのである。

    

結果として福島県はメーカーの宣伝に載せられたのである。福島県の農業技術者またはこの試験結果を判定した研究者たちは間違った判定をしたのである。

  

植物栄養学をよく理解できないと、こういうことになる。だから、小生は東大の肥料学研究室の三井進午先生たちの50年前の過去の論文をよく読むようにこのブログで何度も警告し続けているのである。
 
 
ゆうきしざいてすと

図1.施肥資材のカリウム投入成分量と、コマツナの放射性セシウム吸収量との相関。 
1.BMオーガ
2.微粉ハイポ
3.ナラ囲炉裏灰
4.対照カリウム
5.無処理

ナラの灰などにセシウムの吸収抑制効果

 県は2日までに、民間の提案を受けて実施した農地の放射性物質除去・低減技術実証試験の最終結果をまとめた。試験を行った資材10点のうち、植物への放射性セシウムの吸収抑制効果を調べた試験では、ナラの木の灰を混ぜた土壌で栽培した場合にセシウムの吸収が約12分の1に抑えられるなど、実験した3点全て吸収抑制効果が確認された。
 実証試験は、セシウムを含む土にナラの木の灰を混ぜ合わせた状態でコマツナを55日間栽培し、生育した葉の部分がどの程度セシウムを吸収したかを測定した。この結果、土壌中のセシウム濃度を、植物の食べられる部分のセシウム濃度で割った移行係数では、灰などを混ぜていない土壌で育てた場合には0.006だったのに対し、ナラの木の灰を混ぜた土では0.0005と12分の1に低くなった。ナラの木の灰の吸収抑制効果は、3点の中で最大だった。
 試験ではこのほか、EM(有用微生物群)の堆肥、水で溶かして使う微粉肥料も同様の手法で調べた。EMの堆肥は0.0007で約9分の1、微粉肥料が0.0014で約4分の1となり、塩化カリウムを混ぜた場合の0.0023よりも吸収抑制効果があった。
(2012年6月3日 福島民友ニュース)
 
    
(森敏)



追記1: 天然の植物由来の資材には、もともとカリウムが植物の必須元素の多量要素として含まれている。だから、「ナラの灰」のカリウム含量が高いのは当たり前である。EMオーガ・・堆肥もこんなに大量に与えれば総カリウム投与量が増えるのも当たり前である。が、これらの3つの施肥資材に製造業者が無機のカリウムを意図的に加えていたかどうかは、小生にはわからない。(2012.6.3.)
 

追記2: 図1の生データは以下の表です。
施肥試験--- 
 

追記3: 三井進午先生たちの論文集は、このWINEPブログの
右にあります、キーワード検索で
「鉱滓類による農作物の」を入れていただければ、出てまいります。

 

秘密

トラックバックURL
→http://moribin.blog114.fc2.com/tb.php/1484-e9d7c6b3