WINEPブログ
また、昨日の早朝には、ヨウ素(I)、セシウム(Cs)、ストロンチウム(Sr)以外の成分も、注目すべきことを報告しておきました。
と思っていたら、なんと昨日午後になって、文科省が以下のホームページで
http://radioactivity.mext.go.jp/ja/distribution_map_around_FukushimaNPP/0002/5600_103120.pdf
文部科学省による放射線量等分布マップ
(テルル129m、銀110mの土壌濃度マップ)の
作成について
というタイトルで、いきなり情報開示を行いました。放射性テルル(Te129m)と放射性銀(Ag110m)の東電福島原発からの拡散汚染に関して大変参考になる詳細な考察が行われています。ぜひ参考にしてください。
この文科省の報告の中でのAg110m に関する結論は以下のとおりです。
「本調査におけるセシウム137に対する銀110mの沈着量の比率を見ると、大きくばらついていることから、放射性セシウムとは異なる挙動で沈着していることがわかる。この理由としては、銀の沸点は2,164℃であり、放射性セシウムやテルル129mと比べて高いことから、銀110mは、今回の事故では気体ではなく、粒子状物質として環境に放出されたことから、銀110mが放射性セシウムとは異なる挙動となった可能性が考えられる。」
この報告書の中で、放射性銀による50年間の積算被ばく線量は放射性セシウムと比べると3ケタ以下の違いがあり、気にすることはない、と述べられています。
残念ながら文科省では「生物濃縮」による生態系汚染には、まだまだ考えが及んでいないようです。
実は、今回我々が明らかにした放射性銀(Ag-110m)の生物濃縮ばかりでなく、この文科省の報告書で述べられているテルル(Te-129m, 105.5keV)も、生物濃縮して、自然生態系の中では重要な影響を及ぼしている可能性があります。
なぜならテルルは(Te)は周期律表の中では、生物の必須元素である酸素(O)、硫黄(S), セレン(Se)などの「5B」の系列に属し、硫黄(S)のトランスポーターを通して生物体内で細胞内外で膜輸送される可能性があるからです。
(森敏)
生物濃縮について調べていたら
こちらサイト様に行き着きました。銀についての見解はとても興味深く読ませて頂きました。
ところで、
テルル129mと崩壊後のヨウ素129についてお考えを聞かせていただけると助かります。
銀と共に先日文科省で公表されていた
Te129mの沈着量MAPを見ますと、20kBq/m2(平方メートル)以上の部分が多いような気がします。
いずれ、ヨウ素になるのかと思います故に、
ヨウ素と生物濃縮について気になっていた次第です。
最近ではSrが東京近辺でも見つかるというニュースもありますので
「たぶんTeも結構飛んできてるのでは?」
そんなことも考えます。
そのためヨウ素129と生物濃縮が気になった次第です
もしよろしければその辺りもご検討いただけると助かります。
勝手なお願いをしてしまい
申し訳ありません
ただ、放射性ヨウ素I-131の場合は短い半減期(8時間)ゆえに原発が爆発した当時ガスで呼気から吸入したかどうかだけが問われています。
いっぽう、Te-129m(半減期33.6日)のベータ線崩壊由来の放射性ヨウ素(I-129)は、Te-129が呼気で吸われたものが、体内残留期間中に徐々にI-129になって、甲状腺に集積しているはずです。I-129がどれだけ甲状腺に行くのかはTe-129mの半減期と体内残留半減期との兼ね合いで決まるはずです。
また、生物濃縮に関してですが、I-131の海産物による生物濃縮の研究は、放医研の過去の論文に詳しいです。ただし陸上の生物によるヨウ素の濃縮に関する研究論文は少ないです。昔、東大の植物栄養肥料学研究室で稲葉次郎さんが植物での吸収移行の研究をやっていました。ヨウ素は非常に地上部に移行しにくい元素であるという記憶があります。(今回貴兄から指摘されて、あらためてIの植物代謝に関する研究の重要性に気づかされました)。
ヨウ素の植物による吸収移行がどんなトランスポーターによって制御されているのかは、まったく未知だと思います(小生が不勉強なのかもしれませんが)。自然界には特殊環境下で進化的に獲得した能力を備えた「種」がありますから、ヨウ素を特異的に濃縮した陸上の植物や昆虫や動物がいないとも限りません。
現在原発由来のTe-129mは半減期から計算すると、すでに自然界では事故発生時の500分の1ぐらいになって、大部分がI-129になっているはずです。このI-129化合物が今後どれかの自然界の「種」から高濃度に生物濃縮されて検出されるかもしれません。
(森敏)