2016-02-09 15:28 | カテゴリ:未分類

  小生らは2012年,2013年,2014年、2015年とタケノコを福島の避難区域のあちこちの竹藪で採取してきた。それらの一部は放射性セシウムを詳細に分析し、オートラジオグラフ像もすでに論文にしている (付記1 ご参照)。

スライド2   
 図1.冷蔵庫で保存中に腐ったタケノコ
 
  
 
スライド3 
 図2、タケノコの皮に発生したカビの様相
   
IMG_0038.jpg    

図3.掻きとったカビ

 
     
  
  
  採ってきたタケノコの残りはいずれ調査分析に供するためにと、それらを、冷蔵庫に入れて保管しておいたところ、冷蔵庫保存でもタケノコは呼吸をしており、外側の皮の部分が肉質部(可食部)から浮いた状態になり、1か月もすると、外皮の周りに真っ白な菌糸がはびこるようになった(図1、図2)。肉質もジュクジュクになって来た。そうなると、実験にならないので捨ててしまおうかと思ったのだが、せっかくだからこの旺盛な菌糸の放射能を測ってみようと思い立った。菌糸はピンセットで丁寧にとるときれいにはがれた(図3)。
           

  これらをゲルマニウム半導体で2日かけて放射能分析した(表2)。同時にタケノコの皮も放射能分析した(表1)。
    
                  

1.タケノコの皮の放射能

Cs-134

(ベクレル/kg)

Cs-137

(ベクレル/kg)

114.1

295.7

                    

    

2.タケノコの皮のカビの放射能
                 

 

Cs-134

(ベクレル/kg)

Cs-137

(ベクレル/kg)

927.3

2400


            
   

 2. の「タケノコの皮」の Cs-137と、 表1. の皮に付着する「タケノコのカビ」の Cs-137を比較すると 2400/295.7=8.1 である。つまりタケノコのカビはタケノコの皮の放射性セシウムを約8倍にまで濃縮していることがわかった(つまり移行係数が 8.1)。これは小生の知るところでは、寄生カビが宿主の放射能を高濃度に濃縮したという直接の測定例だと思う。
               
  これまでも寄生菌であるキノコの場合は、寄生している樹の放射能濃度(ベクレル/Kg)と同等かそれよりも高い放射能濃度(ベクレル/Kg)を有するということが常識のようにいわれてきた(つまり、宿主からの移行係数が1以上)。 
             
  キノコはカビの仲間であるが、その中でもとびぬけて姿かたちが大きいので採取して測定するのが容易である。しかし小生らの研究では、野外で採取したキノコ(パラサイト)の宿主(ホスト)が樹皮や落ち葉だと、樹皮や落ち葉は強く外部被爆しているので、この両者を同時にオートラジオグラフを撮ると樹皮や落ち葉が強く放射能汚染されていて、どちらかといえばキノコの方が低く内部被爆しているようにみえていた(『放射線像 放射能を可視化する』(皓星社)2829ページ ご参照)。宿主のほうが強く外部被爆汚染されているので、純粋な内部被爆量を測定できず、実際の両者の放射能比較(移行係数の算出)ができなかった。だからキノコやほかのカビ類が本当に放射性セシウムをどの程度濃縮するのかが小生の長い間の疑問だったのである。

     

今回偶然だがタケノコで確かにカビがタケノコの放射能を濃縮することが確認された。めでたしめでたしである。
           
  原発事故直後の初動調査ができなくて、今となっては直接の証明が難しくなってしまったのだが、小生は現在では
放射性降下物を一番最初に直ちに体内に取り込んだのは大地表面や、植物体表面のカビやバクテリアや酵母などの微生物であった野ではないか
という仮説を抱いている

      
       
(森敏)
      
付記1:われわれのタケノコの論文は以下のとおりです。
   

Hiromi Nakanishia*, Houdo Tanakaa, Kouki Takedaa, Keitaro Tanoia, Atsushi Hirosea, Seiji Nagasakab, Takashi Yamakawaa & Satoshi Moria  Radioactive cesium distribution in bamboo [Phyllostachys reticulata (Rupr) K. Koch] shoots after the TEPCO Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant disaster. Soil Science and Plant Nutrition Volume 60, Issue 6, pages 801-8082014


2016-01-29 22:58 | カテゴリ:未分類

2015年春から秋にかけて浪江町と飯舘村で各種のトンボを採取した。そのうちのシオカラトンボのオートラジオグラフを撮像したものが第1図である。そのトンボの体の放射性セシウム含量を棒グラフで示したのが第2図である。また、第2図に示したシオカラトンボの一部とアキアカネについて、体内の放射能含量とその糞の放射線含量を数値で示したものが第1表である。以下これら図と、表の数値の持つ意味について、考察したい。

  
   
 

第1図。 シオカラトンボのオートラジオグラフ  

スライド1---  

      第1図では、下がオートラジオグラフで上の写真がその時用いたトンボの写真である。両者を照合するとトンボの翅の付け根の筋肉に強く放射能が集積している。またトンボの頭(双眼)にも集積している。これらは1秒間に数百回の羽ばたきをするための背筋や、獲物を捕まえるために眼球をくりくりさせるための毛様筋などに、「カリウム」と間違って「放射性セシウム」が取り込まれているものと考えられる。これらの筋肉の収縮伸長の活発な活動にカリウムが必要だからである。とくに左のトンボが体内や肛門にわずかに放射能が集積しているように見えるのは、トンボが食べた消化管の内容物がまだ残留して強く放射能汚染されているからであると思われる。実はこれらのトンボは、エサを与えずに放置して内容物を十分に排泄させてオートラジオグラフを撮像したのだが、まだ残渣が残っていたのであろう。


 


 
第2図

スライド2----

     
 

      第2図には4種類のトンボのさまざまな場所での放射能値を示している。例えば同じキトンボ種でも左から3番目のキトンボと5番目のキトンボとの間には約20倍のCs-137の値の差があることがわかる。同じトンボの仲間でも分布の場所によってこのようにけた違いの数値を示している。トンボの生息域によって土壌や樹木に降り注いだ放射能が現在も局所的に大きくばらついているためと思われる。




 
第1表

 スライド3-- 
         

      第1表には、トンボの放射能とそれらが排泄した糞に関しての放射能値を示している。

Cs-137に注目してもらうと、トンボ本体/その糞(:比)がシオカラトンボで3.2倍、アキアカネで 11.8倍となっている。トンボは自らが食する食物連鎖の下位の生き物(ハエやカやカゲロウなど)のセシウムを完全に吸収するわけではなく、濃縮して排泄しているように見える。
     
     以上のように、東電福島第一原発爆発後約4年半経過した時点でも、飯舘村や浪江町のトンボは依然として高い放射性セシウムを含有している。自然生態系の中で放射性セシウムが食物連鎖を通じて循環しているということである。
 
 (森敏)
付記1:ゲルマニウム半導体で測定したという証拠のために、 Cs-137の値ばかりでなく Cs-134の値 も同時に示しています。
付記2: 現地での多数のトンボの採取にあたっては桑原隆明茨城キリスト教大学准教授のご協力を得ました。

 


2016-01-12 21:33 | カテゴリ:未分類

   小生らは2011年秋にジョロウグモに東電福島原発事故由来の110mAgを発見して以来、執念深くジョロウグモを採取して放射能の変遷を追跡している。その結果の一部が図1である。
      


ジョロウグモの110mAg,134Cs,137Cs jpeg--


   図1.ジョロウグモの体内放射能の年次変遷
 
   
        

  放射能値(ベクレル/キログラム乾物重)を測定したのは図1に示すように、110mAg(赤色)、134Cs(空色)、 137Cs(青色)である。当初(2011年から2014年まで)は主として飯舘村で採取していたが、2014年夏ごろからから除染業者による水田や牧場の表土剥離という手荒い手法の放射能除染活動が猛烈なスピードで始まって、生態系が無茶苦茶にかく乱されることになったので、それ以降は主として浪江町のほうで採取してきた。浪江町は除染活動が今でもまだ本格化していない。
      
  第1図では横軸に採取順に番号が振ってある。採取順位の1番~10番,13番は飯舘村のジョロウグモで、11番,12番,14番,15番,16番は浪江町のジョロウグモである。大体採取時期は各年次の晩夏から晩秋にかけてである。煩雑になるので細かい採取地区はここには記載していない(付記の論文には記してある)。
      
  結果は半減期が30年の137Csの値を見ると、ジョロウクモたちの採取時点での空間線量(煩雑になるので表には書き込んでいない)とジョロウグモの137Csの値とがごく大まかにではあるが、比例相関にあった。110mAgは半減期が250日であり、134Csは半減期が2年なので、まずジョロウグモの110mAgの値が急速に低下し、次に134Csの値も徐々に低下していることがわかる。しかし浪江町で採取したジョロウグモは微量だが2015年秋の段階でもまだ110mAgが検出される場合がある。
      
  浪江町でのジョロウグモでの134Cs 137Csは依然として高い値を示している。飯舘村でのジョロウグモの放射能値がかなり減少しているにも拘わらず、いまだに浪江町のジョロウグモが高く推移しているのはなぜだろうか? (最初から浪江町のジョロウグモを採取していれば、ジョロウグモのすべての放射能値が飯舘村のジョロウグモよりもはるかに高い値として検出されたであろうが、この避難区域には容易に調査に入れなかったのが悔やまれる)
       
  浪江町では本格除染が始まっていないので、今日に至るまで道路端の樹木や民家の庭や田畑で棲息している ≪ジョロウグモが食する食物連鎖の下位の小動物≫ がいまだに高い放射能を含んだまま棲息していると思われる。われわれは無断で森林に入ったり民家の庭に奥深く入ったりできないので(自警団や警察に警告される!)、やむなく道路端の主としてサクラの木などからジョロウグモを採取している。
      
  だから、民家とその周辺や道路と周辺森林を優先的に土壌剥離除染する現行方式によっていちばん明快に放射能含量の低下が認められる小動物は、食物連鎖の比較的上位にいるジョロウグモではないだろうか。飯舘村がそのよい例なのだろう。言い換えれば、ジョロウグモの放射能値の増減の傾向はそこの生態系の中で循環して生物が使いうる放射能の増減の傾向を示していると思われる。ジョロウグモは有力な「除染効果の指標生物」になりうると思う。
      
  たかがジョロウグモ、されどジョロウグモ、である。
         
(森敏)
付記:2011年から2014年までのジョロウグモとその他の全35種類の小動物の放射能測定データはこれまでも何度か紹介しているわれわれの以下の論文に収録しています(無料でダウンロードできます)。本日の紹介はその後の考察を兼ねた追加報告です。
Hiromi Nakanishi et al.  Discovery of radioactive silver (110mAg) in spiders and other fauna in the terrestrial environment after the meltdown of Fukushima Dai-ichi nuclear power plant. Proc. Jpn. Acad., Ser. B 91 (2015)160-174.

2016-01-09 11:32 | カテゴリ:未分類
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                      脱気白菜
       
 
   暖冬で野菜が取れすぎて、栽培費、収穫作業費、輸送費などを考えると店頭で売れても、差し引き赤字になるので、農家は圃場現場で野菜を廃棄処分せざるを得ない事態に追い込まれているところが、年末にテレビで報道されていた。実にもったいないことだと思っていた。
  

   店頭を物色していたら、確かに野菜は全般的に安かった。そのなかで、茨城県産の白菜が4分の一にカットして、脱気してビニール包装されているのが目にとまった。これは見た目にも衛生的で店頭での日持ちがとても良さそうである。
  

   廃棄せずにこういう状態で共同組合施設の倉庫で保存して2-3週間も耐え凌げば、いずれ白菜不足の時期が来るので、元が取れるのではないか、と思っていたら、当時は税込みで98円であったが、年を越した本日は129円になっている。
  

   農家の営業努力に脱帽して前回も今回も買った。白菜スープにして食べている。
  
 
   小生が知らないだけかも知れないが、漬け物は別として「新鮮野菜」ではこういう脱気貯蔵の手法はまだ一般化していないと思う。全国的に広まりそうだ。何よりも輸送中や、店頭での腐れの進行が観察されないので、調理する場合に外側の一枚をめくって台所で廃棄する無駄がなくていいと思う。ビニール袋が廃棄されなければならないのが難点だが。
  
  
 
(森敏)
付記:脱気状態での長期保存実験をどの程度しているのか、植物生理学的に興味をそそるところがある。エチレン生成、酸素分圧の変化、ビタミンCの含量変化、などとてもおもしろい研究課題だと思う。すでに研究していると思うが。
 
追記: なんと2016年1月18日の時点では、前掲と異なるスーパーで地方の白菜がセロファン簡易包装で半切が80円で売られていた。まだまだ暖冬の影響は続いているようだ。

 

2016-01-01 00:02 | カテゴリ:未分類

さあ、新しい年が始まりました。
  今年はなにか楽しいことがありますように。
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  イラクサ(棘草:Urtica thunbergianaは道路端に生えている日常茶飯事の草である。トゲがあるので素手で触るとちくちくする。油断するとトゲの傷口から刺激物質(ヒスタミン? サルチル酸?)が皮膚に食い込むので、そのあと、痒みが取れなくてイライラする。雑草として駆除しようとして素手でつかんで「しまった!」と思っても手遅れであったことが幾度かある。けっこうイライラが長引くのでつらい。だから俗名イラクサと呼ぶらしい。浪江町で道路わきの地面からの土ぼこりによる被曝がないと思われる部位をサンプリングしてきた。実験室に持ち帰ってガイガーカウンターで調べると、この草はシソのように葉が薄いにも拘わらず他の野草に比べて、確実に葉の放射能が高いように思われた。そこでオートラジオグラフを取ってみた。
 

  irakusa_1024px----.jpg 

図1.イラクサのオートラジオグラフ
  
 

 
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 図1。の原画
  
  
  図1に示すように、茎の最先端の新芽や茎からの脇芽が強く内部被曝していることがわかる。根から吸収された放射性セシウムが道管や師管を通って全身に移行しているわけである。カリウムの膜輸送体を使って放射性セシウムは移行しているのだろう。放射能は危険だけれどもこの放射線像は、妖しくも美しい。
 
    
(森敏)
付記:
  実は、30年ほど前にベルリンの壁が崩壊するまえに、小生は西ドイツのHohenheim大学に短期滞在していた。ある日曜日の朝に屋根裏部屋のドアをノックする者がいた。Prof.Horst Marschnerが「いまから散歩に行かないか?」とわざわざ小生を誘いに来てくれたのだった。車で高速道路アウトバーンを時速120kmで30分ばかり飛ばして古城に行って、車をとめて、用意しておいた彼の息子の登山靴を貸してくれて、そこからの4時間の山歩き(ワンダーフォーゲル)をMarschnerと一緒に満喫した。
     
  その時に、付近の草花をいろいろ説明してくれたのだが、このイラクサだけは良く覚えている。日本ではそこら中に生えているのだが、「ドイツではこれが最近森林に侵入してきており、この植物が森林が富栄養化している事の一つの『指標植物』になっているのだ」と言うことであった。「森林にふりそそぐ雨にふくまれる極微量の窒素酸化物(NOx)のために、土壌が徐々に富栄養化してきて、貧栄養で育つ野生の雑草が駆逐されて、イラクサが繁茂している。そのNOxや硫黄酸化物(SOx)は排煙脱硫装置をもたない東ドイツや東欧諸国の工場からの大気汚染気流が西ドイツに流れてくるためである。また自動車による排気ガスに含まれるNOx、作物への施肥窒素の脱窒によるNOxの空気中へ揮散も無視できない」「ドイツでは自動車産業が主力なのでなかなか世界に先がけた自動車の排ガス規制が進まない」とのことであった。
     
  NOxの種々の排出源に関してはこれらの知見は今では常識であるが、当時はこの、大気から降りそそぐ窒素による土壌の富栄養化説 は小生には半信半疑であった。また森林の富栄養化が森林の植生の遷移を促しているという説も初耳であった。しかし、つい最近の nature誌で、「土壌が貧栄養の方が生物の多様性が維持される」という論文が出たので、やっと納得している。目に見えない森林土壌微生物レベルではさらに深刻な生態系異変を引き起こしているものと思われる。自然界のほとんどの土壌微生物は貧栄養でこそ健全に生育できて自然界の物質循環に貢献しているからである。この貧栄養微生物生態学のことは、前々回のブログで紹介した本『見えない巨人 微生物』(別府輝彦著)にも書かれている。